アンケートで「それをお買いになったのはどうしてですか」と質問されて、もしその理由が他人にあまり聞かせたくないようなことだったとしたら? たぶんあなたは「品質で選びました」と模範的な回答をするとか、それ以外の作り話をするとかするだろう。あるいは自分でどう思って買ったのか、つまり自分の本心がはっきりしなくて答えようとしても答えられないこともあろう。
質問する側にしても、全員が正直に答えてくれるとか本心をきちんと説明してくれるとかは期待はしていない。そのようなおそれのある質問にマーケティングリサーチでは、心理学的手法の一つである「投影法」がしばしば適用されるのである。
心理学では、自分の態度や欲求などが抑圧されている場合に、それを自分以外の人や物に託して表すことを「投影」といっている。上の例でいえば、対象者に購入理由を直接質問しないで「それを買ったのはどんな人だと思いますか」と間接的に質問するのがこの手法である。聞かれたほうは社会的な抑圧(質問者による)を受けることなく、また自分で意識することなくその本心を回答に投影してしまう、という実証的研究に基づいているのである。
一口に投影法といってもいろいろの形でリサーチのなかに取り入れられている。主なものをいくつかあげよう。
- 推測法 … 上の手法。対象者本人のこととして答えさせないで、近所の人とか友人とかその他の人の意見として答えてもらう。ある商品を示して「それを使っている人はどのようなタイプか」と聞いてその人を想像させるのも一例である。第三者に投影することによって、回答者自身の動機を引き出すことや商品に抱くイメージや評価を明らかにすることが、本人に知られることなく可能となる。
- 語句連想法 … 商品、広告、企業などの印象やその強さを測るのに用いられる。面と向かって「この商品の印象はいかがですか」と聞かれると即座に言葉が出てこない。しかしある商品名を読み上げて、「心に浮かぶ言葉をいくつでもあげて下さい」と一連の反応語をたてつづけに答えさせると、それによって無意識レベルでの反応パターンをとらえることができる。
- 文章完成法 … 「私は高価な商品を見ると○○になる」の文章を与えて空いた部分を適当な言葉で埋めさせる。価格に関する複数の文章の○○にそれぞれすばやく回答させることで、本人の価格意識が明らかになる。
- 略画法 … 何人かの人物があいまいな状況にあることを絵で示し、対象者にその状況を記述させるかあるいはその中の人物の役割を演じてもらうのである。あるテレビコマーシャルを視聴している夫婦の絵(図参照)を見せて、二人がどんな会話を交わしているかを想像して答えてもらったことがあった。この実例では、実際のテストコマーシャルフィルム(CF)を用いており、その結果でCFにたいする対象者の評価を知ることがねらいとなっていた。