【駐在員コラム】Vol.10 タイ人と健康

【目次】

はじめに

国を問わず、駐在員の重要な仕事の一つは健康管理と言える。そしてバンコクではガイジンである私だけにとどまらず、健康維持はタイ人にとっても簡単ではないようだ。実際バンコクに住む約25%が糖尿病を発病しており、15歳未満の子供の9%が糖尿病という調べもある。タイ人は年平均約30kgの糖分を摂取(1日ティースプーン20杯相当)と言われ、世界基準の3倍以上となっているそうだ。街中でも太り気味~太り過ぎのタイ人をよく見かける。バンコクでホームビジットをすると、糖尿病由来の症状を聞かされることは珍しくない上、その多くは治療の遅れによるものだ。
今回はタイ人と健康について考察してみたい。

減塩・低カロリー・低糖対策

タイ料理は比較的ヘルシーな食事であるという認識をされている方も多いのではないかと推察するが、現地のタイ料理はむしろその逆で、多糖、多塩、多油の料理が非常に多い。例えば、パッタイ(タイ風焼きそば)を例に挙げると一皿約1,000Kcalと言われる。基本的に甘い味付けのため糖分も多い上に、食べるときにテーブルに備え付けの砂糖を更にかける(と美味しい)。グリーンカレーやカオマンガイ(チキンライス)は約800Kcalというデータもある(ビッグマックは約530Kcal)。馴染みがあり食べやすいと思って多用すると知らない間にカロリー過多となる。

カロリーや添加物を完全に管理するのは難しい。それはタイ人には外食中食が基本だからだ。キッチンが見えない店がどのように調理しているかは分からないので、注文の時に味付けについて色々と要望を伝えることは当たり前。料理に限らず、コーヒー1杯にしても、飲みたいコーヒー名、冷温、甘さ加減を事細かに指示している。これはタイが“何でもかんでもカスタマイズ文化圏”であることともつながっている。ちゃんと好みを伝えないとタイでデフォルトのコーヒーの味に慣れてない日本人にとっては恐ろしく甘い物を飲まされることになる。もちろん一定数がその味を好んでいるからそのようなレシピになっているのだろうが、昨今ではブラックコーヒーを指定する人も増えてきている。なお、缶コーヒーについては残念ながら完全無糖コーヒーはコンビニには存在していない。砂糖ゼロの表示がされていても、甘味料は入っていて甘さを感じる。

タイ料理

一方、折からの健康ブームでエクササイズ、とりわけランニングに精を出すタイ人は多い。そこに乗っかる形で食事についてもオーガニック食材は流行っているし、青汁、納豆、その他健康や美容を訴求した食品もますます市場が熱を帯びてきている。低カロリーや無糖をうたった食品も増えた。商品自体のカロリー表示も進んでいる。ただ、タイ人の外食中食中心の生活、間食含め1日に5回程度は何かしらを口に運ぶちょこちょこ食い習慣、特に間食は自分が何か食べたい時には周りにもふるまう(のでふるまわれる)のがマナーという情況において、自分の摂取しているカロリーをコントロールするのは幾分難しいと思われる。

今後益々健康意識が(行動が伴うかは別にして)高まってゆくタイ。政府も人口ボリュームゾーンの40代の高齢化を黙って見守ることはなく、様々な形で国民の健康促進を行ってゆくであろう。例えば砂糖税。砂糖が多く使われる商品ほど税負担が重くなるので企業は砂糖の使用を抑えるなどの対策が必要だ。これは低糖商品を増やすトリガーであるだけでなく、簡単に税収を増やせる一挙両得の政策だ。今後ますます、様々な企業からタイ人の健康を真に考えた商品・サービスが多くの企業から提供されることを、タイに住む一人の消費者として心から願っている。

運動不足対策

運動不足は多くのタイ人に当てはまる。オフィスワーカーの例で言えば、車通勤が1日往復2~4時間、オフィスでも7時間程と1日の半分程は座っていることになる。電車通勤の場合でも、家から最寄り駅まで車かバイクタクシー等を利用するし、会社までもラストワンマイルはまたバイクタクシーなどを使うので、そこまで身体を動かさずして通勤が出来るほど実は便利な社会だ。徒歩10分問題と私が勝手に呼んでいるが、徒歩10分はタイ人にとってはもはや歩きたくない距離なので、料金が安いこともあってタクシーやバイクタクシーが多用される。

この運動不足社会に対して、ランニングやマラソンが2017年にブームとなり、今やそれを通り越して定着したと言ってよいだろう。気軽に始められるのでマラソン人口は多く、それを裏付けるように2019年1年間だけで1,275のマラソンイベントが全国で開催される。オフィス近くのルンピニー公園では毎日夕方になると多くのランナーが夜9時の閉園まで汗を流しているが、およそ半数程度は「Finisher」と書かれたマラソン大会でもらったものと思われるTシャツを着ている。背中側にプリントされている数字は10km~100kmまで完走した距離が様々だが、各々が背中にプライドを背負っている。

マラソン風景

タイ人が走る時間は早朝か夕方以降で、日中の暑い時間は避けている。そのせいもあるためか、キャップをかぶって走る人は殆どいない。皆肌をテカテカさせて汗だくになり、人によっては短パンを絞って汗を切っているが、多くはタオルを持たずに走っている。たっぷり汗を吸ったランニングウェアを公園にあるロッカーで着替えるか、あるいは走ったままの格好で家路に向かうので、汗ケアをどう考えているのか気になるところだ。仕事着で走っている人、ロングスカートで走っている人、雨傘を持って走っている人など本気度がよく分からない人も中にはいるが、合理主義ということもあってか、どんな格好でも走っていることには変わらないと考えているようだ。ファションのような“カタチ”からは入らないのでその分受け皿が広いといえよう。

大会Tシャツは別だが、普段着のような人もそれなりに走っているのを見ると、思ったよりもマラソン関連グッズは売れていないように感じる。例えば、ウェアラブルの活動量計はもっと売れても良さそうだが、普通の時計をしているタイ人の方が多いようだ。むしろ何も腕につけていない人もそれなりにいる。だが、スマホだけは絶対に持って走っているのは、世界で最もスマホを見る時間が長いタイ人らしいところだ。

ところで、マラソン人口が増えたことによって新規需要の恩恵を確実に受けた商品カテゴリーが少なくとも3つあると思っている。ワイヤレスヘッドフォン、ミニポーチ、そしてスポーツブラだろう。ワイヤレスヘッドフォンは男女とも7割程度が使用。薄型ミニポーチは9割程度で、中にスマホを入れている。腰巻きと腕巻きの2タイプが使われているが、ツワモノはポーチ無しで手に持ったまま走っている。また、女性の9割程度かそれ以上はスポーツブラを着用している。いずれもマラソン以外のシーンではほぼ使われていなかったものばかりである。

ワイヤレスヘッドホンでランニング

自宅やオフィス周辺で走る場所が無いようなタイ人で所得が一定以上高い場合は、家も広いこともあってか、比較的立派なルームランナーが置かれているのをホームビジット時に見かける。確かデパートにルームランナー売り場があったと記憶する。スポーツジムも今を盛りに新規オープンが続いているが、いつガラス越しに中を見てもそこまで利用客がいないことが多い。利用方法によって料金は異なるものの、使い方次第では月額料金がおよそ約68000円程度とかなり高額なるためでは無いかと思っている。またタイの公園には簡単なトレーニングマシンがタダまたは格安で利用できるのも関係があるかもしれない。

ルンピニー公園で定点観測をずっと行った結果わかったことが、毎日走っている人は極めて少ない本当のコアな人に限られるということである。毎日見る顔ぶれはほぼ決まっているし、金曜日は人出が1/3程度まで減る。マラソン人口は確かに多いが、恐らくその殆どはしっかりと習慣化するまでには至っていない推測する。もしかしたらジムなどで走っているのかもしれないが、毎日ルンピニー公園を観察している限りにおいて、所謂ランナー体型の人の出現率はかなり低いことからも、運動量を縦軸として表現すれば、マラソン人口の分布は非常に巨大なロングテールだろう。その多くは何らかのサポートによってモチベーション維持と運動の継続が必要で、それによりタイ人社会の健康向上に資するものと考える。

健康管理グッズの普及とECサイトの提案力

最後に、健康管理グッズとECサイトについて述べてみたい。タイのコンビニの入り口横には、有料の体重計が忽然と置かれていることがある。体重管理は健康を考える上で1つの重要で手軽な数値指標であると考えるが、売り場の状況から体重計は一家に一台という感覚ではないのではと感じる。先日は大手ドラッグストアのWatsonsの店頭でも血圧計が展示されていたし、近所の小さなモールでも体重計を見かけるようになった。ECサイトでは血糖値計測キットも売っている。もしかすると多少は需要が変わってきたのかもしれないが、体重計が売り場である程度存在感を持つ日はまだ遠いように思う。
タイ語学校で同じ年代の先生と血圧計について話をしたところ、そもそも売っていることも知らなかったようで、オンラインで買えることを教えたらとても喜んでいた。家庭にそういった健康管理グッズが普及していくのは、まだ先のようにも思えるが、これも恐らく急速な普及が進んでいくと見ている。理由はタイ人の健康管理意識が食事や運動を通じて高まり続けており、ニーズが顕在化する40代以上の人口が増加するからだ。

ところで、タイにおいてECサイトはここ1年で爆発的に売り上げを伸ばしている。タイのEC市場は2019年には前年比18%増の約4788億円市場に成長すると予測されている。スマートフォンを利用したオンラインショッピングの注文比率は71%と世界平均の55%を上回っている。

実は今年の6月に人気のECサイトLAZADAで体重計を購入した。理由はどうしても体脂肪率を測ってみたかったからである。Huaweiのスマホ(Nova lite 2)を使っていたので、活動量計も同じブランドのHuawei Honor Band4(約3300円)を既に手に入れてスマホと連携させ、アプリを使い日々の消費カロリーや歩いた歩数、ウォーキング運動量を把握はしていた。スマホに入っているアプリで体重や体脂肪率が記録できるのを知っていたので、私は次第にそれを活用しないのはもったいないと思い始め、LAZADAで体脂肪計を探し始めたところ、様々なブランドからスマホと連動させられる体脂肪計を見つけた。中国のXiaomiブランドは特に安く3000円を切る。日本ブランドの体重計は19000円とかなりの高級品で手が出ない。元々欲しかったHuaweiの体脂肪計も約7000円と予算オーバーであったが、体脂肪測定機能付きの製品が比較検討するに足る商品数があり、やはりECの方が格段に納得して買い物ができることが分かる。

活動量計

最終的にどうしても体脂肪を測りたくてHuaweiを注文した。LAZADAのアプリでは注文した商品が今どのプロセスにあるのかを詳細に把握することができる。それまでの経験だと4~5日で手元に商品が届くが、商品発送国が外国の場合はもう少しかかる。体脂肪計を注文後、2~3日経っても珍しく出品者から何も音沙汰がない。1日も早く体脂肪を測りたかった私は痺れを切らして午前中に一旦商品をキャンセルし、他の出品者を探すことにした。商品をキャンセルしたその日、私にとって願ってもいないチャンスが舞い込んできた。

当時私はスマホの買い替えもずっと検討していて、HuaweiのP10(最新モデルの2世代前)の価格をいつもチェックして値崩れのタイミングを伺っていたが、いつも予算よりちょっとだけ高い30000円弱のものしか見つけられなかった。体脂肪計を一旦キャンセルし、仕切り直しで体脂肪計を検索したところ、その日1日限りの特別セールとしてHuawei P10と体脂肪計セットで約27000円という、今まで見たことがない抱き合わせがされている。

通常、P10だけでもその金額より高いのに、スマホが安く買え、且つタダで体脂肪計が手に入ることになる。最早買わない理由はどこにもなくなった私は、その場で即買いをして無事に体脂肪計と新しいスマホを手に入れた。活動量計含め3つのガジェットを組み合わせて私の知りたかった運動量とその効果としての体組成のデータを知ることができるようになった。

LAZADAの提案力はこのように優れているだけでなくスピード感が格段に早い。後日シンガポールで駐在している研究者にこのエピソードを共有したところ、偶然ではなく意図的にこのようなオファーを合成することは可能だとのこと。一度意識が向いて消費性向の糸口が掴めれば、購買行動履歴だけで関連販売を拡大させていけるECの存在は、私ほどマニアックではないにしても、タイ人の健康意識の高まりをサポートする商品をより手軽に手に入れることができる重要なプラットフォームと言える。

オファー

因みに、LAZADAでは商品検索を文字ではなく商品の写真で行うことも可能だ。つまり画像認識AI技術は既に実装されている。正しい知識とともに、より良い商品が消費者に提供される社会を願っている。

著者プロフィール

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青葉 大助(あおば だいすけ)
タイ在住40代男性リサーチャー。過去に訪問した調査実施国数は30か国以上。当該国の消費者にとってのベストを求め、常に彼らの気持ちに寄り添うことを信条としている。
1日約1000回閲覧される自身の世界グルメ投稿もタイを中心に意欲的に継続している。
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