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<駐在員コラム>【タイ:地球の暮らし方】タイ(バンコク)の台所事情

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はじめに:タイにおけるCOVID-19のこれまで(2021年4月2日現在)

タイの保健省やタイ政府観光庁は、COVID-19新規感染者数を毎日1回だけ午前11時30分現在の状況として発表している。左側がタイ政府観光庁で外国人にも分かるように英語になっている。右側は保健省の発表で、いずれもTwitter等で確認することが出来る。

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(出典:左:タイ政府観光庁Twitter、右:タイ保健省Twitter)

穏やかに注意は喚起するが、国民の不安や混乱を煽るような発表や報道はCOVID-19発生当初から一貫してされていない。速やかに国境や県境をまたいだ移動が禁止されたこともあって、一定期間経過後は、今自分の生活圏にいる人々が互いに安心してもよいとある程度の確信が持てるようになれた。そのような中で各企業はマスク着用、アルコール消毒、ソーシャルディスタンシングなどのCOVID-19対策を淡々と訴え続けている。何にも増して、どこに行っても検温されるので、自分たちが置かれている状況は忘れようにも忘れることは出来ない。こういった事も奏功してか、New Normalの中におけるタイの日常は冷静さを保ち、実直に各人が行うべきCOVID-19対策を講じて生活を営んでいるのが現在の姿である。

2020年前半におけるロックダウン期間中は外食が出来ず、基本は在宅勤務ということで生まれた時間を利用した自宅での食事作りが一つの流行りだった。当時の私も流行りに乗った1人である。しかし、2020年半ばのロックダウン解除後は通勤が再開され、外食やテイクアウト・デリバリーなど、従前のように誰かが作った料理を活用しないとならない程、自宅で食事を作る時間的余裕は次第になくなってきた。その上最近では渋滞が更に人々の時間的余裕を奪うようになってきた。街中の屋台で晩御飯の惣菜を買って帰るお客の列が次第に長くなってきたのは、COVID-19の懸念が少なくなるにつれて失われてゆく時間をお金で買う人が増えてきているということの現れだ。

このように、元々は“食事を買う”のが習慣であったが、COVID-19による2020年初頭のロックダウン中に家で食事を作らざるを得なかったタイ。では、タイの家庭キッチンはどういったつくりになっているのか、これから3つの家庭を例にとって、写真を交えて見ていくことにする。なお、これから紹介する写真は、本コラムの取材を目的として訪問させていただいているものではないので、完全に普段の状態を再現しているかどうかは不明ではあることに留意されたい。

タイのキッチン その1

こちらのご家庭のL字型のキッチンは、右手の窓から採光および換気が出来るようになっている。キッチンカウンターにはずらりと家電製品やインスタント食品、サプリメント、バナナなどが並べられていて、これから調理を行うにはあまりにもモノにあふれている。

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(写真 出典:筆者撮影)

コップやマグ、ミネラルウォーターや浄水器、ヤカン、魔法瓶、インスタントコーヒーやコーヒーメーカーがまとまって置いてあり、ドリンクカウンターのような使われ方がされている。上図右端の黒いコーヒーメーカーは小型のトースターと一体となっているのだが、トースターの中にはオモチャのハンバーガーが入れられていて、トースター本来の使われ方はされていない。コンロに置かれたヤカンは、その左手前に山積みされたインスタントラーメン用に使われている。そのインスタントラーメン用に、ニワトリを模したタイマーがヤカンの右奥に、出来上がりをお知らせするためのベルがヤカン左側にある。炊飯器の前には米飯がついたしゃもじが置かれているので、ご飯は炊いているようだ。その横にある黒い家電はエアフライヤーなのだが、中を覗かせてもらったところ、ここにもオモチャが入っていた。エアフライヤーはCOVID-19のロックダウン時に流行った調理家電の一つだが、今はあまり使われていないように見える。この家庭のキッチンは総じて軽食コーナーといった建て付けであり、本格的な調理場所とはなっていないように筆者の目には映る。
では、もし本格的な調理を試みようとした場合どうなるか。まず、熱源が電気式コンロとなっていて、タイ料理に求められる十分な火力は期待できない。また、レンジフードが比較的高い場所に設置されているため、炒めものなどで生じた油を含む煙が効果的に吸引されず、キッチンに立ち込めてしまうだろう。

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(写真 出典:筆者撮影)

タイのキッチン その2

こちらのご家庭のキッチンは、先程のキッチンに比べるとかなり調理をしていることが見て取れる。ガスコンロの脇(下写真奥)には調味料セットが使いやすく並べられているのが、先程のキッチンと比べての大きな違いである。恐らく我々の訪問に際して、相当にお掃除をしていただいたようで、シンクには掃除用洗剤とスポンジや雑巾が置いてある。掃除用具はガスコンロの右下の収納が定位置となっているそうだ。

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(写真 出典:筆者撮影)

ガスコンロの向かいには鍋、炊飯器、フライパン、クロック(ソムタムを作るときに使う鉢)等、様々な調理器具がむき出しになって並べられている。キッチンに限らないが、「なるべく見えないように収納する」という事に対してあまり積極的な印象を受けない。実際、このキッチンは比較的収納スペースが充実している方ではあるが、コンロの右下の掃除用具(下写真赤丸部分)を見ても分かるように、ぎっちりと詰め込んで使っている訳ではない。見えない収納が出来た方が良いのかどうか、日本人の価値観とは現時点では違いそうである。

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(写真 出典:筆者撮影)

タイのキッチン その3

この家庭のキッチンは更に生活感が無く無機質で殺風景であるが、よく見るケースではある。電子レンジよりも、浄水器が存在感を持っている。電子レンジの上に乗っているのは電気ケトルなのだが、電子レンジも電気ケトルもコンセントが抜かれているので、そもそもそれほど頻繁には使っていないことが伺われる。折角火力のあるガスコンロであっても、申し訳程度につけられているレンジフードがより一層使い勝手の悪さを想像させる。そもそも電子レンジがガスコンロにピッタリと設置されている時点で、このガスコンロが使用されていないのは明白だ。では一体、どこで調理をしているのだろうか。

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(写真 出典:筆者撮影)

タウンハウスや戸建の場合、屋内のキッチン以外に“本当のキッチン”が存在することは少なくない。これはもともとキッチンとして設計されている訳ではなく、ガレージやバックヤードを改造して半屋外のキッチンスペースを設けるのである。これであれば、強い火力を使ってニンニクや唐辛子を炒めたときの、あの目にシミる大量の煙を気にすることなく調理が可能である。
この時に使用される熱源は電気ではなくプロパンガスが多く、業務用のようなバーナーが無造作に設えられている。(左下写真の中央付近にある木を輪切りにしたまな板の真下にガスボンベがあり、その奥側に三脚型五徳に乗せられた鍋が見えるだろうか)

このように“本当のキッチン”をわざわざカスタマイズしている家をよく目にするが、最初からそのように住宅が設計されていない点は興味深い。カスタマイズ文化圏特有の「お好みに合わせられる余白」とでも言うものがある方が、かえって喜ばれるのではないかと推察している。

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(写真 出典:筆者撮影)

この角地にある住宅の左手前にある青いトタンの部分が、先程のキッチンの外側に相当する。

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(写真 出典:筆者撮影)

実は、今回紹介したそれぞれのキッチンには勝手口がそれぞれあり、そこを外に出ればこのようなリノベーションで誕生したキッチンがあるのだ。早くて安くて便利な上に美味しいこともあり、殆どの女性が働くタイでは食事は買って帰ってきた方がもちろん合理的な選択だが、こうやって調理スペースをわざわざ増設しているというのもまた事実なのである。屋内のキッチンが貧弱だから調理はしないということでは決してないのだ。

【補足】ガスコンロについて、別の家庭の写真にはなるが、ガスボンベとコンロの関係値が分かりやすい写真を紹介する。こちらはボンベの真上にバーナーと五徳が直付けされている。このサイズをぐっと小さくしていくと、キャンピンググッズとして日本でもよく売られているガスストーブ同じ考え方であることに気づく。元よりタイは熱源のモビリティ社会であり、移動式屋台、路面のローカルフード店など、場所を選ばずガスや炭火を使った料理がされている。そういった移動式の加熱調理器具が発達している社会的背景を踏まえると、家庭でもその延長でこれらが活用されていることは、実はあまり不思議なことではないように思う。

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(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
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Consumer Life Panoramaのご紹介

今回ご紹介したキッチン以外にも、外からは見えない家の中には多くの発見に満ちている。そのため、特に肌感がまだ持てていない地域においてはまず家庭訪問を実施することをこれまで推奨してきた。2020年6月以降インテージタイでは、COVID-19の感染状況に注意しながら、家庭訪問も含む全てのオフライン調査を問題なく実施している。日本やその他の国へ、インタビューの様子をストリーミング中継することももちろん可能である。
また、インテージが提供するConsumer Life Panoramaという生活者データベースでは、タイやその他10か国の生活者の家の中を360度画像で閲覧することができる。カスタマイズした調査によらず、手元で海外生活者の住環境を観察したいという場合においてご活用いただけるサービスなので、まだご覧いただいていない向きにはぜひ一度お試しいただきたい。

Consumer Life Panoramaのデモサイトはこちらからご覧いただけます。
Consumer Life Panoramaの概要はこちら


  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    青葉 大助(あおば だいすけ)

    タイ在住40代男性リサーチャー。過去に訪問した調査実施国数は30か国以上。当該国の消費者にとってのベストを求め、常に彼らの気持ちと自分を重ねることを旨としている。 1日約1000回閲覧される自身の世界グルメ投稿もタイを中心に意欲的に継続している。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    高浜 理沙(たかはま りさ)

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