【駐在員コラム】Vol.5 家にいながらなんでも買える?!中国のフードデリバリー事情

【目次】

上海の街をひた走るフードデリバリーバイク

19年の上海の街をあなたが歩いたならば、道々で青や黄色のバイクをよく見かけることになるだろう。これは実はすべてフードデリバリーのバイクである。

フードデリバリーバイク「饿了么」と「美团外卖」

青が「饿了么」 黄色が「美团外卖」というデリバリーサービスのバイク

このフードデリバリーシステム、実に便利なシステムで、注文からおおよそ30分以内に様々な料理を手元に届けてくれる。何を隠そう、筆者もヘビーユーザー(かつ有料会員)である。
今回は上海の生活の一端を担う、このアプリ・システムについてご紹介する。

そもそもフードデリバリーって何?

それって結局出前じゃないの?と思われるかもしれないが、フードデリバリーは、配送の仕組みが従来型出前とは異なる。
いわゆる「出前」の場合、料理を作っている店自体が、配送の人員を雇っているが、フードデリバリーの場合、配送システムだけが独立している。(これは中国のフードデリバリーに限らない。この仕組み自体は日本で展開している「UberEATS」も基本的に同様である。)店は作るだけ、バイクは運ぶだけ、という完全分業で行われているため、アプリが提供するのは「注文取りと配送」部分のみである。

注文の仕方はシンプルで、
 ①スマートフォンでアプリを開く
 ②店を選ぶ
 ③商品を注文する
 ④ケータイで支払う
 ⑤バイクのお兄さんから商品を受取る
基本的な動作はこれだけである。

最初に住所の登録やオンラインウォレットとの紐付けは必要なものの、私のような「外国人」でも迷うことはない。料理の写真や口コミ、月間販売件数などの情報もあるので、むしろ店で直接注文するより間違いがないぐらいである。(口コミは中国語だが、口コミの内容は日本と大差ないのですぐわかる)

幅広いメニューリスト

フードデリバリーの特筆すべき点としては、注文できる商品の幅が広いことがあげられよう。調理と配送が分離していて店への負担がないので、基本的にバイクで運べる限り、どの店のどの商品でも注文できる。注文の例としてはこんな形である。

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四川風まぜ麺。辛さを指定できるが、「辛め」を指定すると例外なく地獄を見る

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焼饅頭(生煎) だいたい外れなくおいしい。

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日系レストランも進出済み(写真は「はなまるうどん」)

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果物も注文できる(右奥のぶどうから時計まわりに、ブラッドオレンジ・ドラゴンフルーツ・マンゴスチン)

上海の場合、おばちゃんが切り盛りしている水ギョーザ屋でさえ、冒頭のアプリどちらかには加入していたりする。ピザやハンバーガー、各種中華料理はいうにおよばず、健康志向ならヘルシーなチキンサラダやおでん、野趣あふれるものがお好みであればザリガニやカエルやヤギ料理まで、だいたいのものは運んでくれる。このため、連続して食べていても店を変えればそれほど飽きない。さらに、各種割引をおこなっているため、配送費を含めても店で食べる場合はおろか、テイクアウトするよりも安い。

筆者が日本在住のころは、食事は昼の弁当と夕飯とをすべて自炊していたが、最近の夕食はほぼデリバリーに落ち着いてしまった。日々のルーチンとしては、電車の中で料理を選び、駅を出たタイミングで注文し、家に帰って着替え終わったころに料理が到着する、というパターンである。
1年以上このアプリを利用して注文しているが、これといったトラブルはない。

急成長したフードデリバリー市場

iiMedia Researchによれば、2018年にはオンライン外食市場の市場規模は、2,400億元(=約4兆円)に達する見込みと分析している。 ※http://iimedia.cn/60449.html 最終確認日19年1月8日
また、同データでは18年の利用者が3.5億人に達する見込みである。2011年の市場規模が217億元であったことを考えると、短期間に急成長した市場であることは間違いない。
※ちなみに、饿了么は2008年創業、UberEATSがアメリカでサービスを開始したのが2014年、日本でのサービス開始は2016年である。

人間が毎日欠かさず食事をする以上、食事の仕方の変化は、ライフスタイルの変化である。このような市場環境の中では、インスタント食品やレディメイド商品といった、会社帰りのサラリーマン・ママを狙うサービスや商品は、再考を強いられる。簡単に食事ができる、という従来のメリットだけでは、選択肢や品質の面で出前サービスには対抗できないからだ。
さらに言えば、そもそも中国では生鮮食料品のネット販売チャネルも数多い。たとえばネットECサイト京東で生鮮品を注文すれば、その日のうちに商品を届けてくれる。
簡単さ・便利さ、というものに関するハードルは、時代によってますます上がっているのである。

もちろん、これはフードデリバリーやEC配達が「無敵」であることを示すものではない。外食が健康によくないのではないか?という懸念は中国でも同様であるし、市場で野菜を手にとって、品質を確かめたいという欲求もいまだ一般的である。
しかしながら、「なぜ」その販売チャネルや商品を選ぶ必要があるか?に明確な回答を用意できなければ、中国企業であれ、海外企業であれ、消費者をつなぎとめておくことは難しい。

変わりゆく都市と生活

中国の生活に密着するサービスの一つとして、今回は「フードデリバリーサービス」を取り上げた。もちろん、市場環境が違えば、最適なソリューションも変わってくる。
たとえば、このデリバリーサービスは、日本では配送の人件費・人の確保の面で、全く同じスキームではおそらく真似できない。また、支払いの前提となるオンラインウォレットの普及状況も異なるし、道路事情や法律にも違いがある。

このように、フードデリバリーに限らず、サービスというものは、様々な社会環境の上に立脚している。そういった意味で、各国の生活の上澄みのみを比較して、その上下を比較するのはナンセンスである。しかしながら、中国市場においては、日本とは異なるチャネルが急速に形成されている点が伝わったなら幸いである。

ほぼ2年前、筆者の中国駐在が決まったときに、友人から道端にある中国式揚げパン(油条)や串焼きの屋台について、いろいろと話をしてくれた。もちろん衛生・法律・納税など様々な観点から、屋台には少なくない問題があったであろう(先の友人の胃腸も揚げパンで撃沈した)。しかし一方で、そこには確かに人の息づく面があったことも疑いない。
現在、そういった屋台は次々に撤去されており、市内中心部にはもはやその痕跡さえ見つけ出せない。

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中国の都市部はすでに日本と同等か、それ以上の高度なネット社会である。皆がスマホを持ち、普段の買い物から実店舗での支払いまで、やろうと思えばすべてスマホで済ませられる。GoogleやFacebookが使えないなど、様々な制限はあるが、そういった環境でも、様々なアプリやサービスが次々に生まれ、成長している。良くも悪くも、中国は急速にその姿を変えており、のんびりとした「古き良き中国」はもはや思い出の中の話となりつつある。

生活・社会・技術は日々否応もなく変化をしていく。独自の進化を遂げていく中国ビジネスに今後もご注目を。

著者プロフィール

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柏井 太郎(かしい たろう)
中国・上海在住のリサーチャー。2017年6月から上海駐在。主に消費財分野で業務を担当中。日々中国語の調査票・報告書とにらめっこしている。
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