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With コロナ ~緊急事態宣言、ふたたび~

この記事は、インテージが生活者理解の拠点として立ち上げた、生活者研究センターのセンター長 田中宏昌による「Withコロナの新しい日常」に関するコラムの第5弾です

1. ふたたび「視なおす」ということ

先週末、映画を観ました。「どこかに美しい村はないか」という1時間ほどの作品でした※1。岩手県遠野を舞台としたドキュメンタリー映画で、遠野に暮らす人々の営みをゆっくりと丁寧に、やわらかい眼差しで見つめたものでした。パンフレットの中にある「ガラス絵と詩、そして働く人々と風景」ということばがそのままを表していました。映画には東京から遠野に移住し、ガラス絵を描きながら暮らす人や60歳を機にそれまでの仕事(建設業)を辞めて、自然栽培によるリンゴ栽培に取り組む人などが登場していました。また、自然栽培によるお米作りをしているコメ農家の夫婦も登場していました。夫婦はときに近所のおじいちゃん、おばあちゃんの知恵と技に学びながら、お米作りに取り組んでいました。
東京から遠野への移住やまったく異なる仕事からリンゴ栽培を始めるなど、そこにはなにかうかがい知ることのできない、大きな「転機」があったように思います。また、コメ農家の夫婦が自分たちの取り組みを「何百年、何千年あとにも残るよう」と表現したことに象徴されるように、とてもとても遠い彼方を見据える視点と覚悟を持っていることに胸をうたれました。

遠い彼方をしっかりと見据える視点と覚悟を持ち、暮らしや自分を丁寧に視なおす。
今だけでなく、遠くへつながるその先を見つめて。あらためて、そうしたことばを想いなおす映画でした。

映画「どこかに美しい村はないか」写真集とパンフレット(私蔵品)ihr-column5_01.jpg

筆者 撮影

2. 第3波拡大。不安はふたたび

10月下旬から新型コロナウイルスの再々拡大が始まり、年が明けてのすぐの1月7日、政府は関東1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)に2回目となる緊急事態宣言を発令しました。また、1月13日には、栃木、岐阜、愛知、京都府、大阪府、兵庫、福岡も追加しました。政府の発令以外にも沖縄県のように県独自の緊急事態宣言を発令するケースもでてきました。

最初の緊急事態宣言が解除された6月以降、10月までは回復傾向を刻んでいた内閣府が発表している景況感をあらわす景気ウォッチャーも11月には下降に転じており、直近の12月データでは景気の現状を示す「現状DI」は大きく落ち込む結果になっています。また、今後を示す「先行きDI」は11月に大きく悪化し、12月は底打ち、ともみられる動きになっています。(図表1)※
第2波が緩やかに収まる動きをみせ、「Go toイート」や「Go toトラベル」によって、少しずつ人の動きや経済の活気が戻ってきていましたが、第3波の足音とともに景気への不安がゆり戻された状況です。

図表1ihr-column5_02.png

20年3月から収集している弊社の「Withコロナアンケート」では、コロナ禍における生活者の不安をさまざまな視点から観測をしています。生活者の消費意識や行動の変容において重要な要因となる「感染拡大不安」からこれらの結果を確認してみます。
直近(1月11日週)では8割弱の方が不安を抱いていると回答しています。第3波拡大とともに8割付近に高止まりしている状態です。また、感染拡大不安に連動して、「飲食店での食事」に不安を感じる人は約7割。「テーマパークや繁華街・人が集まる場所への外出」に関する不安は8割となっています。(図表2)

テレビでは緊急事態宣言発令直後の1月9~11日の3連休中の人出が前回の緊急事態宣言時よりも減っていない、という報道を繰り返していました。そうしたニュースで必ず取り上げられる東京渋谷のスクランブル交差点では、前回の宣言時と比較して「3.1倍」もの人出だったと報じられていました。「不安」という心理が行動の変容にはすぐには表れてないようですが、新規感染者の動きをみながら、人の動きも変わっていくものと考えます。

図表2ihr-column5_03.png

わたしは、ロードバイクが趣味で、地元の神奈川県川崎市の等々力公園付近から多摩川サイクリングロードを遡上し、青梅を越えて奥多摩までひとりでゆっくりと走ることで、新型コロナ下の閉塞感をひととき忘れ、気分転換を図っていました。しかしながら、「医療崩壊の危機」という報道を繰り返し目にすることで、このような状況で「万が一、自分が交通事故や怪我をしたら、間接的とはいえ、医療への負担が増すばかり」、という考えに至り、ロードバイクはしばしの休息に入りました。
行動の抑制は「外出を控えて」といった直接のメッセージだけが効果のあるものでもなく、「だれかの負担になってはいけない」というメッセージが伝わることで、行動に変化をもたらすこともあるのだと思います。
お腹まわりの脂肪の変化とともに、感染者数の変化についても引き続きウォッチしていきたいと思います。

3. 不安とともに財布の紐も緩まないのか?

このところ、新型コロナワクチンの日本国内における接種準備の報道もよく見聞きするようになってきました。菅政権では新型コロナワクチン接種推進担当に河野太郎大臣を任命し、ワクチン接種の制度や体制整備を推進することになりました。河野大臣は持ち前の発信力も武器にYouTubeやSNSを用いて、国民に向けて直接メッセージを送ることをはじめました。河野大臣はYouTube内で「2月から医療従事者を先行して接種をはじめられる」と語っていました。「感染不安」の払しょくに大きな期待が寄せられるワクチン接種が一般の人々に普及するのはもう少し先になりそうですが、確実にその時が近づいていることに期待したいです。

ではここで「感染不安」とともに生活者が抱く、経済の不安についてもアンケートの結果を眺めてみましょう。経済の不安を身近な言葉に置き換えるなら「暮らし向きの不安」や「家計の不安」です。
直近では2割の人が「暮らし向きが今より悪くなる」と回答しており、増加傾向にあります。そして、「節約意識(家計の節約を心がけている)」も6割を超えています。この2つの意識は9月頃から大きな変化はありませんが、21年1月に入って上昇トレンドに変化しています。(図表3)

図表3ihr-column5_04.png

第3波の襲来により、ふたたび緊急事態宣言が発令され、さまざまな業種・業界が厳しい局面を迎えています。
新型コロナワクチン接種はそのような世界に射す光です。ワクチンの普及により、「暮らし向きの不安」や「家計の不安」が和らぎ、人や経済が動き、経済の回復を実感できるまで今しばらくはお財布の紐が緩むことはなさそうですが、先の河野大臣のお話にあるように光も差し込んできました。希望を持って待ちたいと思います。

4. 「安心」をとどけるために

新型コロナワクチンの接種に関する見通しがみえてきましたが、ここにきて新しい不安も顕在化してきました。
「新型コロナワクチンの接種開始にあたり十分な臨床実験が行われたか」という項目については、3割の人が「不安」を感じていると回答しています。男女別にみると、女性の方が1割ほど不安視する声が高くなっています。また、国内においても変異株の感染が確認されていますが、変異株の発生や拡大に対する不安もここにきて5割近くまで急増しています。(図表4)
こうした新しい不安も相まって、「収束時期の見通しが立っていない」ことを不安に思うという声も増加傾向にあります。ワクチンという希望が登場しつつも、実際の接種開始までまだ時間もあるようなのですので、臨床工程や安全性に関する十二分な説明を行うとともに、一般の人々の接種が開始するまでのロードマップを提示するなど、政府や自治体からに対しては、より丁寧な説明がなされることを期待したいですね。

図表4ihr-column5_05.png

わかりやすい説明という点では、菅内閣の支持率のデータとともに、最近はリーダーの言葉の力について言及する記事や報道を目にすることが多くなりました。新型コロナの感染拡大初期の頃には、ニュージーランド首相のジャシンダ・アーダーンさんの発言や発信が注目されていました。
ロックダウン直後にアーダーン首相自身のFacebookを通じて、自宅からトレーナーという極めてカジュアルな姿で、「今後私たちが皆さんに送る指示は、完璧ではないものもあると思いますが、基本的には正しいものです。また仕事を休むことになるかもしれませんが、それは失業ということではありません。むしろ皆さんが仕事を休むことで、人の命を救うことになるのです。ですから皆さん、他人に優しく、できるだけ家にいましょう。そしてウイルス感染の連鎖を断ち切りましょう。」とまっすぐに国民に語り掛けていました※2。また、アーダーン首相が繰り返し唱えていたシンプルかつ力強い「Stay home. Be strong and be kind.(家にいましょう。強く、やさしく。)」という言葉を目にした方も多いと思います。
最近では、ドイツのメルケル首相の国民に向けたスピーチが、テュービンゲン大学(独)の修辞学者たちによって2020年の「今年のスピーチ」に選ばれました※3。選出されたスピーチは新型コロナウイルス感染拡大初期の2020年3月18日にメルケル首相が国民に向けて行ったテレビ演説でした。メルケル首相のスピーチは「国民に届くスピーチ」として取り上げられることも多く、先月の連邦議会のスピーチも注目を集めていました。コロナ禍におけるこうしたリーダーの発信はYouTubeや日本語訳もあるので、これを機にさまざまな国のリーダーが「国民」に向けて、どのようなメッセージを発信しているのか、届けているのか、をチェックしてみてはいかがでしょうか。

ここで日本に目を向けてみることにします。
日本においては国や自治体の施策に関して不安の声が高まっています。定点調査ではさまざまな「不安」を聴取し続けていますが、「国や自治体の施策が経済優先か国民の健康優先か明確でないこと」への不安は3割と前回11月の調査より増えています。また、「政府や自治体が第1波の時のように外出自粛や休業要請などをしっかり行わないこと」も同様に3割弱となっています。さらには「政府や自治体の施策が十分ではないこと」は11月以降大きく増加していることがわかります。(図表5)

図表5ihr-column5_06.png

そういえば、昨日(1/25)、Yahoo!のトップページでは、菅首相の今回の緊急事態宣言に関する行動抑制などのお話が動画広告として流れていました。今朝(1/26)は新型コロナウイルス担当大臣の西村康稔氏と新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂氏がマスクの着用や会食や飲み会の延期など、具体的な取り組みをPRしていました。月間225億PV(2020/4データ)を集めるYahoo!という強力なメディアを通じて、若者も含めた広い世代への浸透を期待しての露出と思われます。

「不安」は説明の不足、情報の不足からも生じます。
ぜひ、日本においてもリーダーによる「届くメッセージ、届くスピーチ」を期待したいですね。

5. おわりに。どこかに美しい村はないか

映画「どこかに美しい村はないか」のこの美しい響きを持つタイトルは映画のパンフレットによると、詩人茨木のり子さんの詩から名づけられたとのことです。

「六月」 茨木のり子 「茨木のり子詩集(岩波文庫)」※4ihr-column5_07.jpg

「どこかに美しい」という問いかけが連の冒頭で3回繰り返され、読むものの目や耳をひきつけます。

「一日の仕事の終わりには 一杯の黒麦酒」
「男も女も大きなジョッキをかたむける」
「すみれいろした夕暮れは 若者のやさしいさざめきで満ち満ちる」
これらの風景のどれもが、今では懐かしくさえ想えます。

「したしさと おかしさと そうして怒りが鋭い力となって たちあらわれる」

「怒り」ということばの鋭さにしばし立ち止まる。

茨木のり子さんなら、「今」をどのようなことばで切り取るのだろうか。

おわり


映画「どこかに美しい村はないか」の余韻とともに、今回は世の空気についてお話をしました。
次回はもう少し、生活者の暮らしに触れていきたい、そう思います。

特に最近はお客様とお話をしていて、コロナ禍において生活者の「サステナブル」「エシカル」、「SDGs」といった意識はどのように変化しているのか、という質問をされることが多いです。
そうしたテーマでも掘り下げてみたい、と思います。
また、気分が変わってしまうかもしれませんが・・・


※1 「映画 どこかに美しい村はないか」公式サイト
https://dokokani.info/
撮影 監修 監督 能勢広./撮影 篠田雪夫/音楽 演奏 Rakira
製作補 土田有紀恵/プロデューサー 田下啓子

※2  vogue「高い決断力と優しさで国を率いるニュージーランド首相ジャシンダ・アーダーンは、新時代のロールモデルだ!【社会変化を率いるセレブたち】」(2021/1/5)
https://www.vogue.co.jp/change/article/celebrities-driving-social-change-jacinda-ardern

※3 Newsweek 日本版「独メルケル首相演説が2020年スピーチ・オブ・ザ・イヤーに」 (2020/12/21)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/12/2020-27.php

※4 「茨木のり子詩集 谷川俊太郎選」 岩波文庫
https://www.amazon.co.jp/dp/4003119517/ref=cm_sw_r_li_api_i_.13dGb5SKD3PY

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生活者研究センター概要

インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。


著者プロフィール

生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)プロフィール画像
生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)
1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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