はじめに 【ブランド・コミュニティにおける 顧客間コンフリクトのマネジメントI】

この記事では、2017年の関東学生マーケティング大会でリサーチ賞を受賞した論文を紹介します。

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ブランドを愛好する消費者のコミュニティは、ブランド・コミュニティとして企業のマーケティングに活用されてきた。ブランド・コミュニティとは「ブランドのファンの間でつくられた集合をもとに特定化された、地理的な制限がなくつくられたコミュニティである。そして特定のブランド化された商品やサービスを囲んだコミュニティ」である(Muniz and O’Guinn [2001])。ブランド・コミュニティは企業にとって様々なメリットを持つことが明らかになっている。それらのメリットの中で最も注目されていることは、ブランド・ロイヤルティの向上である(Thompson and Sinha [2008])。

近年のソーシャルネットワークサービス(以下SNS)の発展につれて、企業はブランド・コミュニティ形成のためにSNSを用いたマーケティングを活発化させてきた。我が国のSNS利用者の割合は、2016年時点で60代までの国民の71.2%に達した(総務省情報通信政策研究所 [2017])。趣味や娯楽に関する情報を得るためにインターネットを利用する人は全世代で55.2%存在し、最も多い20代では75.8%がそうした利用者層である(総務省情報通信政策研究所 [2016])。なかでもSNSユーザーは、同じ趣味嗜好を持つ人と交流するためにSNSを利用している(総務省 [2015])。こうした現状を活用しようと、多数の企業がマーケティングにSNSを利用しているのである。大塚製薬は自社の販売する清涼飲料水「ポカリスウェット」のキャンペーンにSNSを活用した。ポカリスウェットの公式アカウントをフォローして、特定のハッシュタグをつけて写真や動画を投稿すると、抽選でオリジナルグッズがプレゼントされるというキャンペーンであった。

ブランド・コミュニティはSNSという交流の場を得たことで、ブランドの価値向上の手段としての立場を確立した。地理的な制限を必要としないブランド・コミュニティの性質は、SNSと非常に相性が良い。例えば、資生堂は自社製品のユーザーに対して企業のSNSアカウントから、製品やキャンペーンに関する情報の発信している。また関心の高いユーザー向けに「SHISEIDO おめかし会議」というコミュニティを運営している。このコミュニティは自社の化粧品や美容について資生堂のファン同士で語り合う場として設けられている。

また、企業はブランド・コミュニティ形成のためにSNSの共通の話題を抽出する機能を活用している。SNSではユーザーが自発的に「#○○ファン」などを用いることで、ユーザー同士がフォローし合いコミュニティを広げていくことがある。こうした動きを企業がブランド・コミュニティを拡大に利用している。ディズニーは「スター・ウォーズ」続編映画の公開に際して、自らTwitterで「#スター・ウォーズ」や「#最後のジェダイ」などのハッシュタグを用いて発信した。「スター・ウォーズ」のファンはそれをリツイートしたり、同じハッシュタグを用いてツイートしたりすることで顧客同士が繋がる機会を得た。こうした取り組みは「スター・ウォーズ」に限った話ではない。企業はSNS上にユーザー同士が交流するきっかけを提供することで、ブランド・コミュニティ形成を促すことができる。

しかしSNSはコミュニティの形成に有用であるのと同時に、不特定多数の人間と接触することで、ユーザーに不快感を与えることもある。SNS上では利用者個人の信条や選好の違いを挙げて、他者への不快感をあらわにした発言が少なからず見て取れる。
ユーザーが不快感を抱くことはブランド・コミュニティでも発生している。特に多数の顧客が空間を共有する必要性のあるサービスや、ブランド力があるため高関与な顧客が多くいるブランドによくみられる。アイドルグループの嵐の古参ファンは、ファンの間でアラシックと呼ばれている。彼らはコンサートの心得といった、独自の規範を形成しており、その動きはネット上でも確認できる。また、急速にファン数が増加した際、彼らの一部は、新規顧客をにわかと揶揄して、排他的な行動をとっている。また、ラーメン二郎の愛好家の間には独特なルールが共有されている。新規顧客にもそのルールは強要されるため、友達が食べ終わるまで待つ行為や、ゆっくり食べるといった行為はヘビーユーザーに歓迎されない。このルールを守れない新規顧客に対してヘビーユーザーが直接怒りを露わにすることもある。ヘビーユーザーがライトユーザーに対して不快感を示されることで、ユーザー同士の対立関係が発生する。SNSはユーザーが不快感を言葉にすることが容易なため、様々な問題を生み出している。

対立関係が生じたブランド・コミュニティは、コミュニティ自体の価値が低下する。ブランド・コミュニティのように、メンバーが能動的に関わるコミュニティでは、居心地の良さが求められる(石川 [2015])。しかしユーザーにとって、自分に敵対的な人間の属するコミュニティは居心地が悪い。そのため対立関係に置かれたユーザーは、ブランド・コミュニティから離れていく可能性がある。ブランド・コミュニティはユーザーのロイヤルティを向上する手段であり、企業はユーザーの離反を避けたい。ブランド・コミュニティ内の対立関係は、ユーザーと企業の双方にとって好ましくない。

ブランド・コミュニティにおいて代表的な対立関係は、ヘビーユーザーと新規顧客の対立である。ブランド・コミュニティ内では一部のヘビーユーザー同士で独特の規範意識を形成し、これにそぐわない新規顧顧客を批判の槍玉にあげる行為がたびたび生じている。
ブランド・コミュニティに顧客間の対立が発生したとき、企業は、新規顧客を大切にすると既存顧客が離れていき、既存顧客を大切にすると新規顧客が寄り付きにくいというジレンマに陥っていると考えられる(図1)。

■図1 ジレンマの概念図

既存顧客の維持は新規顧客の獲得に比べて容易であるものの、既存顧客を優遇すれば新規顧客の獲得がより難しくなるだろう。単なる既存顧客の囲い込みのみを行っていてはいずれ成長が止まってしまう。一方で、新規顧客の獲得のみに注力すれば既存顧客の効用は低下するだろう。日本の3大携帯キャリアを見ても、そのことは自明である。3社とも他社の乗り換え顧客にばかり割引などのキャンペーンを行ったために、長期契約の顧客からは不満の声が続出していた。ブランド・コミュニティ内では、このような既存顧客への不満が、企業に対してだけではなく新規顧客に対しても沸きおこる。「新規顧客の獲得」と「既存顧客の維持」は双方とも企業が注目する戦略である。しかし、この2つの戦略が同時に行われている場は考慮されていない(Fornell [1992])。

企業はどのようにすれば新規顧客と既存顧客のジレンマを解決できるのだろうか。第1の方法として、ヘビーユーザーの新規顧客に対する不快感を軽減することが考えられる。コミュニティ内にネガティブな感情が生じなければ、ブランド・コミュニティの価値を落とさずに済む。第2の方法として、不快感を示されることで新規顧客が不快感を抱かないようにすることが考えられる。ヘビーユーザーが不快感を抱いたとき、何らかの手段で発散させなければヘビーユーザーはブランド・コミュニティに対する不満を募らせるだろう。そうであるならば、新規顧客側が不快感をあらわにされてもブランド・コミュニティのメンバー同士で強い対立は発生しないはずである。

本研究ではヘビーユーザーがライトユーザーに反発することで、ブランドにもたらされる影響について実証的に検討する。第1に、ブランド・コミュニティにおいてヘビーユーザーがライトユーザーに反発するメカニズムを、正当性を用いてモデル化する。第2に、ブランド・コミュニティに対する潜在顧客の態度を用いて、ヘビーユーザーのライトユーザーに対する反発が、ブランドに与える影響をモデル化する。

【続きへ】Ⅱ 顧客間の反発

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