既存研究レビュー 【ブランド・コミュニティにおける顧客間コンフリクトのマネジメントⅢ】

この記事では、2017年の関東学生マーケティング大会でリサーチ賞を受賞した論文を紹介します。

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1. ブランド・コミュニティ

ブランド・コミュニティの持つメリットに関して、様々な研究が蓄積されている。ブランド・コミュニティは「ブランドのファン同士で作られた社会的な関係をもとに特定化された、地理的な制限がなく作られたコミュニティである。そして特定のブランド化された商品やサービスを囲んだコミュニティ」である(Muniz, and O’Guinn [2001])。ブランド・コミュニティに参加することにより、消費者はブランドに関して獲得できる情報量が増加する。そのため、新製品の採用可能性が高まる効果があることが報告されている(Thompson and Sinha [2008])。

また、ブランド・コミュニティのメンバー同士がブランドの情報を共有して、製品やサービスに関するトラブルに対して相互に助言を与え合うなどの行動を確認している(McAlexander, Schouten, and Koenig [2002])。従来は販売員やカスタマーセンターが業務として担ってきた役割をユーザーが担うことにより、製品、サービスの購買後においてもブランド・コミュニティは顧客に対する影響力を持つのである。

ブランド・コミュニティに対して企業が介入することにより、企業そのものの活動を向上させる動きも活発である。Panasonicは自社ノートパソコンブランド「レッツノート」の製品改良に際し、ブランド・コミュニティでユーザー同士が自由に交わす意見を活用している。(森田 [2003])ネスレ社は自社のブランドの「ネスカフェ」を軸としたブランド・コミュニティの運営を行い、顧客自身に製品を市場に浸透させるよう促すことでプロモーションに利用している(山本 [2009])。ブランド・コミュニティの利用価値が明らかになるにつれ、ブランド・コミュニティを活用する企業側の成果だけではなく、参加する消費者の意識や行動の解明にも関心が向けられるようになってきている(宮澤 [2011])。

ブランド・コミュニティの維持、活性化について研究が蓄積される一方で、新たなブランド・コミュニティのメンバー獲得についての研究は極めて少ない。消費者が購買の意思決定に利用する情報を求めてブランド・コミュニティに参加することは明らかにされている(Hung and Li [2007], Bagozzi and Dholakia [2006])。しかし、どのようにしてブランド・コミュニティが新たなメンバーを受け入れるかに言及している論文は発見できなかった。

ブランド・コミュニティを規定する要素として「同類意識」、「儀式と伝統」(※1)、「道徳的責任」の3つが存在するのだが、これら3つの要素は個々のブランド・コミュニティによって現れ方が異なる(Muniz and O’Guinn [2001])。 そのため、汎用的な指標を用いてブランド・コミュニティの規模を把握することは困難である。このことは、ブランド・コミュニティへ参加するとき、単にブランドのユーザーであるだけでは、既存顧客からの承認が得られないことからも明らかである。

2. 正当性

正当性の研究は、目新しさを持つために社会に受容されにくい主体が、正当性を獲得することで社会に受容されやすくなることを説明したものが多い。正当性とは「主体の行動が、ある社会に構成された規範・価値・信念・定義のシステム内で、望ましい・真っ当である・適切であるとされる一般的な認知または想定である」と定義される(Suchman [1995])。

正当性は社会科学の研究で広く利用される概念の一つである。そのため、正当性は共有財の管理権をめぐる制度的基盤と認知的基盤の相互作用(野波・加藤 [2012])をはじめとした政治や法律の分野から、国際会計基準の検討(真田 [2009])のような会計分野まで、分野を選ばず用いられる。正当性は組織の適切性、受容性、および好ましさを社会的に審判する(Zimmerman and Zeitz [2002])。また、人間の振る舞いにも正当性は適用される。怒りには社会的に共有されたルールがあり、このルールに基づいて個々の怒りの正当性が評価される(Averill [1993])。さらに、表出された怒りに正当性がないと判断されると、新たな怒りが生じる(大渕 [1993])。

マーケティングの分野においてはイノベーションの普及に正当性を応用する研究が盛んである。鈴木 [2013] はイノベーションの普及者がフレーミング活動によって、イノベーションを正当化するプロセスについて検討している。例えば、1990年代以降に拡大した「自分へのご褒美」消費は当初は社会からは否定的に捉えられていた。しかし複数の業界の企業が「自分へのご褒美」消費にフレーミングを用いて正当性を与えることで消費拡大を促進した。新規ベンチャー企業が社会での地位を確立した企業と提携すること、あるいは社会で評判のいい人材を獲得することで、市場での正当性獲得が可能であることも明らかになっている(Raghunath, Rajesh and Jaideep [2008])。さらに正当性を獲得したベンチャーは、そうでないベンチャーに比べてより多くの利益を獲得できることも明らかになっている。

しかし、ブランド・コミュニティにおいて、ユーザーに正当性を適用した研究はない。新規ユーザーは、ブランドを利用しはじめて日が浅く、ブランド・コミュニティにおいて目新しさがある。そのため、ブランド・コミュニティを一つの社会として考えたとき、新規ユーザーがブランド・コミュニティ内で正当性を獲得すれば、コミュニティのメンバーとして受容されやすくなると考えられる。

本研究は、仲間意識の獲得には「コミュニティ内の規範の順守」が影響を及ぼしていると考える。そこで正当性を用いて、ライトユーザーの正当性の獲得が、ヘビーユーザーの反発感情に与える影響について検討する。


※1   「儀式と伝統」 とは、 コミュニティのメンバーがそのブランドの歴史やブランド・ストーリー, またコミュニティのしきたりなどを共有することである。同時に、コミュニティの内外にそれを伝達することである (Muniz and O'Guinn [2001])。

【続きへ】Ⅳ 仮説設定

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