Study1 【ブランド・コミュニティにおける顧客間コンフリクトのマネジメントⅤ】

この記事では、2017年の関東学生マーケティング大会でリサーチ賞を受賞した論文を紹介します。

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ブランドは製品に付与されるものであるが、製品とは有形の提供物だけではない。マーケティングの考え方では、顧客の欲求やニーズに応えるものであれば、無形であっても製品とみなされる。例えば、コンテンツの他にも、人やサービス、イベント、場所、情報などの無形の製品が市場に投入されている(Kotler and Keller [2008])。

そこで本研究では、実証研究の題材として、コンテンツのブランド・コミュニティを用いる。そして、ヘビーユーザーの反発がライトユーザーに与える影響とその帰結について検討する。コンテンツはファンコミュニティとして強力なブランド・コミュニティを形成できる。そのため、ブランド・コミュニティで生じるユーザーのコンフリクトを研究するには最適な題材である。コンテンツを取り扱うことで、すべての製品に対する示唆を見出す。

Study1では仮説1、2、3を実証的に吟味する。

1. 実験計画

提唱した仮説の妥当性を吟味するために、Study1では「三代目J Soul Brothers」のファンを対象とした2度の実験を実施した。

本研究では「三代目J Soul Brothers」が研究の題材として適切であると判断した。「三代目J Soul Brothers」は2010年にメジャーデビューした。デビューから4年後にリリースしたアルバムがオリコンチャート4週連続1位という快挙を成し遂げ、さらに日本レコード大賞も受賞した。この年開催されたライブツアーでは約40万人を動員した。この経緯から、2014年以降ファンが急増していると推測され、ファンのコミュニティ内でヘビーユーザーからライトユーザーに対する反発が生まれているものと考えられる。

実験1と2はともに、被験者をランダムに4つのグループに分けた2×2の被験者間計画である。
Study1では反発に影響を与える独立変数を3つ用いた。1つ目の独立変数は正当性であり、ライトユーザーがコミュニティに入っていく際に「正当性を獲得している」/「正当性を獲得していない」、の2つのカテゴリーを含んでいる。2つ目の独立変数は親密性であり、ヘビーユーザーがライトユーザーと「親しい間柄である」/「親しい間柄ではない」、の2つに分けた。3つ目の独立変数は羨望であり、ヘビーユーザーがライトユーザーに対して「羨望を抱いている」/「羨望を抱いていない」、の2つである。

統計技法には二元配置分散分析を採用し、統計パッケージとしてStata SE/15.0を使用した。

2. 実験1

(1)被験者

実験1ではシナリオ実験を実施した。グループの振り分けは4種類の質問票をシャッフルした上で、ランダム割当(random assignment)になるよう、質問票を配布した。

実験は以下の通りである。事前に被験者の「三代目J Soul Brothers」のファンとしての特性を知るためにファン歴と熱中度を測定した。
次にシナリオとして、仮想の人物「タカハシさん」が最近「三代目J Soul Brothers」のファンになっており、ファン歴が浅いことを提示した。その際、被験者と「タカハシさん」が親しい間柄であるシナリオと、被験者と「タカハシさん」は見知らぬ間柄であるシナリオを用意した。さらに、ファン歴の浅い「タカハシさん」が「三代目J Soul Brothers」のファンコミュニティ内で浸透しているルールを守って正当性を獲得しているシナリオと、それを守らず正当性を獲得していないシナリオを用意した。これらを組み合わせて4つのグループに提示した。最後に「タカハシさん」へ「反発」を抱いたかを被験者全員に回答してもらった。実験1は2017年10月7日の「三代目J Soul Brothers LIVE TOUR 2017 “UNKOWN METROPOLIZM”」に訪れているファンを対象に、東京ドーム周辺で質問票を用いた実地調査による実験を実施した。被験者は83名で有効回答数は83であった。

実験1の流れは図5に示される通りである。

■図5 実験1の流れ

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(2)測定尺度

分析に用いられる構成概念に関する質問項目は、先行研究をもとに設定した。「熱中」の質問項目にはKarasawa [1991] の集団同一視尺度を代理の測定尺度として用いた(α=0.87)。また、「反発」の質問項目には高木 [2003] の否定的対人感情尺度の嫌悪感の項目を代理の測定尺度として用いた(α=0.96)。2つの尺度は7点リカート尺度で測定された。

■熱中度を測る質問

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■反発の質問項目

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■提示した4つのシナリオ

三代目J Soul Brothersのコンサート会場付近で、三代目J Soul Brothersのグッズを所有している人(既存顧客)をヘビーユーザーと定義し、誕生月ごとにランダムにA、B、C、Dの4つのグループへ分類し、それぞれのシナリオを提示して反発の質問項目について回答してもらった。

【シナリオA】

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【シナリオB】

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【シナリオC】

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【シナリオD】

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(3)マニピュレーション・チェック

実験を行うにあたり、被験者にマニピュレーションが利いているのかを確かめるために、マニピュレーション・チェックを実施した。

正当性に関するマニピュレーション・チェックはSuchman [1995] の正当性の定義より尺度を作成し、7点リカート尺度を用いた(α=0.93)。t検定を実施した結果、1%水準で有意だった(正当性なし:M=2.66, 正当性あり:M=4.63, t(81)=-5.39, p=0.00)。また親密性のマニピュレーション・チェックには下斗米 [2000] の尺度を用い、7点リカート尺度で測定した(α=0.91)。t検定を実施した結果、1%水準で有意だった(親密性なし:M=2.71, 親密性あり:M=3.67, t(81)=-2.74, p=0.01)。
t検定の結果、グループ間に平均値の差があることが確認されたので、マニピュレーションは成功したものと判断される。

■マニピュレーション・チェックに用いた質問

仮想のシナリオを踏まえて、以下の質問に答えてください。

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(4)分析結果

仮説1は、正当性の主効果が有意であることが示されれば仮説が支持されたとみなされる。仮説2はライトユーザーが正当性を獲得していない時における親密性の単純主効果が有意であること、また、ライトユーザーが正当性を獲得していない時において親密性がある時に親密性がない時よりもヘビーユーザーの反発が低くなることが示されれば、仮説が支持されたとみなされる。

分析の結果、正当性に関する主効果は1%水準で有意であった(F(1,79)=21.22, p=0.00)。一方で、交互効果は非有意であった(F(1,79)=0.19, p=0.66)。さらに、ライトユーザーの正当性がない時における親密性の単純主効果も非有意であった(親密性なし:M=3.83, 親密性あり:M=3.43, t(79)=-0.86, p=0.39)。グラフは図6に示される通りである。
実験1の結果から、ライトユーザーが正当性を獲得した場合、正当性を獲得していない場合に比べて反発されないことが分かった。また、ヘビーユーザーがライトユーザーと親しい間柄だったとしても、ライトユーザーが正当性を獲得していなければ反発されるということが分かった。

■図6 実験1の分析結果

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3. 実験2

(1)被験者

実験2は実験1と同様、「三代目J Soul Brothers」のファンを対象とした。

実験2は実験1で実施した実地調査に加えて、サンプルサイズを大きくするためにGoogle Formを用いたウェブ実験を実施した。
実験を行うにあたり、実地調査による実験とウェブ実験は同等に扱ってもよいかを確かめるため、t検定を行った。実験で用いられた質問項目の回答に実地調査の被験者とウェブの被験者で差がないことが示されれば同等のデータとして扱ってもよいこととなる。その結果、正当性(ウェブ:M=4.18, 実地:M=3.38, t(128)=-2.34, p=0.02)、羨望(ウェブ:M=3.2, 実地:M=2.78, t(128)=-1.53, p=0.13)、反発(ウェブ:M=2.55, 実地:M=2.61, t(128)=0.19, p=0.85)のいずれも有意ではなかった。

これらの結果により、平均値に差はないという帰無仮説は棄却されなかった。したがって、実地調査によるデータとウェブによるデータを同等に扱うものとする。
グループの割当については実地調査では実験1と同様の方法を用いた。ウェブ実験では誕生月を用いた。誕生月は性別や年齢などに影響を受けないため、被験者のランダム割当のために適切な変数である。

実験の流れは以下の通りである。事前に、実験1と同様にファン歴と熱中度を回答してもらった。次にシナリオとして仮想の人物「タカハシさん」が最近「三代目J Soul Brothers」のファンになっておりファン歴が浅いことを提示した。その際、「タカハシさん」が次の「三代目J Soul Brothers」のコンサートに当選している中で、被験者が同じコンサートに当選したシナリオと落選シナリオを用意した。さらに、ファン歴の浅い「タカハシさん」が「三代目J Soul Brothers」のファンコミュニティ内で浸透しているルールを守って正当性を獲得しているシナリオとそれを守らず正当性を獲得していないシナリオを用意した。これらを組み合わせて4つのグループに提示した。最後に「タカハシさん」へ「反発」を抱いたかを被験者全員に回答してもらった。

実験2は2017年10月18日の「三代目J Soul Brothers LIVE TOUR 2017 “UNKOWN METROPOLIZM”」に訪れているファンを対象に東京ドーム周辺で質問票を用いた実地調査による実験と、10代から20代の「三代目J Soul Brothers」ファンを対象にウェブ実験を実施した。被験者は実地調査80名、ウェブ50名の計130名であるが、有効回答数は127であった。

実験2の流れは図7に示される通りである。

■図7 実験2の流れ

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(2)測定尺度

実験2でも実験1と同様に、集団同一視尺度(α=0.81)と否定的対人感情尺度の嫌悪感の項目(α=0.95)を測定尺度として用い、それらを7点リカート尺度で測定した。

■反発の質問項目

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■提示した4つのシナリオ

※スクリーニングによって抽出したヘビーユーザーを誕生月ごとにランダムにA、B、C、Dの4つのグループに分類し、それぞれのシナリオを提示して反発の質問項目について回答してもらった。

【シナリオA】

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【シナリオB】

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【シナリオC】

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【シナリオD】

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(3)マニピュレーション・チェック

正当性に関するマニピュレーション・チェックは実験1と同様の尺度を用い、t検定を実施した(α=0.95)。その結果、1%水準で有意だった(正当性なし:M=2.60, 正当性あり:M=4.87, t(125)=-8.26, p=0.00)。また羨望のマニピュレーション・チェックにはSmith, Parrott, Diener, Hoyle, and Kim [1999] のDES(Dispositional Envy Scale)項目を用いて測定した(α=0.79)。t検定の結果、5%水準で有意だった(羨望なし:M=2.65, 羨望あり:M=3.25, t(125)=-2.21, p=0.03)。

したがって、グループ間の平均値の差を確認したため、マニピュレーションは成功したものと判断される。

■マニピュレーション・チェックに用いた質問

仮想のシナリオを踏まえて、以下の質問に答えてください。

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(4)分析結果

仮説3は、ライトユーザーが正当性を獲得しているときにおける羨望の単純主効果が有意であること、またライトユーザーが正当性を獲得しているときにおいて羨望がある時にない時よりもヘビーユーザーの反発が高くなることが示されれば、仮説が支持されたとみなされる。

分析の結果、正当性に関する主効果は1%水準で有意であった(F(1,123)=26.36, p=0.00)。羨望に関する主効果は5%水準で有意であった(F(1,123)=3.97, 0.05)。一方で交互効果は非有意であった(F(1,123)=0.02, p=0.89)。さらに、ライトユーザーの正当性がある時における羨望の単純主効果は非有意であった(羨望なし:M=1.48, 羨望あり:M=2.11, t(123)=1.46, p=0.15)。グラフは図8に示される通りである。

■図8 実験2の分析結果

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実験2の結果から、ライトユーザーが正当性を獲得していたとしてもヘビーユーザーはライトユーザーに羨望を抱くと反発をすることが分かった。つまり、ライトユーザーは正当性を獲得していたとしても、ヘビーユーザーが羨ましいと感じる行動をすると反発されることが分かった。

4. 考察

実験1の分析結果より、「正当性」は仮説の通り主効果が確認された。したがって仮説1は支持された。すなわち、ライトユーザーが正当性を獲得しているときそうでないときよりも、ヘビーユーザーはライトユーザーに対して反発しにくくなることが明らかになった。これは仮説1で述べた通りライトユーザーがコミュニティ内に存在する規範や価値を理解し正当性を獲得することで、ヘビーユーザーの反発が抑えられたものと考えられる。

一方で、ライトユーザーが正当性を獲得していない時における親密性の単純主効果は非有意だった。したがって仮説2は棄却された。親密である相手に対しては寛容になりやすいとされていたため、ライトユーザーが正当性を獲得していなかったとしてもヘビーユーザーと親しい間柄では反発は弱まると考えていた。しかし結果から、たとえ親しい間柄でも正当性の獲得が重視され、正当性を獲得しなければ反発されてしまうことが見出された。

次に実験2の分析結果より、正当性、羨望の主効果は共に有意だったものの、交互効果と単純主効果は非有意であった。したがって仮説3は棄却された。ヘビーユーザーがライトユーザーに対してうらやましいと思う気持ちは正当性獲得の影響を大幅に弱めるとは考えられない。しかし、ライトユーザーへの羨望はライトユーザーが正当性を獲得しているか否かにかかわらず、ヘビーユーザーの反発を生むものであることが考えられる。

【続きへ】Ⅵ Study2

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