はじめに 【レコメンド型チャットボットが導入ブランドに与える影響とそのメカニズムの解明I】

この記事では、2019年の関東学生マーケティング大会でリサーチ賞を受賞した論文を紹介します。

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1. 研究背景

宅配便の再配達依頼や、企業への問い合わせをLINEなどのメッセージングアプリ上で行った経験はあるだろうか。人間が入力するテキストや音声に対して、自動的に返答する会話プログラムのことを、「チャットボット(以下CB)」という。これは、会話という意味の「チャット」と、ロボットという意味の「ボット」を組み合わせた言葉である。ITR[2018]によると、2017年度に11億円だったCBの国内市場規模は、2018年度は倍以上の24億円、さらに2022年には106億円にまで急速に拡大すると予測されている。(図表1)

■図表 1 日本国内におけるCB市場の拡大傾向
CB市場規模推移および予測

(出典:ITR[2018]「ITR MarketView:ビジネスチャット市場2018」を参考に筆者作成)
※2018年度以降は予測値

この成長の背景には、スマートフォンの普及、自然言語処理や音声認識の技術の進歩、FacebookやLINEがCBのプラットフォームとしてソフトウェアの機能を公開したことで、CB導入のハードルが下がったことが挙げられる。さらに、生産年齢人口の減少や、働き方改革による人手不足の解消が社会課題として出現したことも要因である。実際に、ヤマト運輸は再配達依頼を自動で受け付けるシステムに、LINEのCB機能を2016年から活用中である。(図表2)このように現在導入されているCBの多くは、接客や問い合わせ対応など今まで人間によって行われてきたサービスの代替が目的である。

■図表 2 ヤマト運輸LINE公式アカウント 利用画面

ヤマト運輸LINE公式アカウント利用画面イメージ図

(出典:ヤマト運輸LINE公式アカウントをもとに筆者作成)

しかし近年、「新しい価値の創出」を目的としたCBも導入され始めた。
その一例として、株式会社ユニクロが導入しているCBである「UNIQLO IQ」(図表3)が挙げられる。チャット画面に文字を打ち込むと、商品名やおすすめのコーディネートを提案してくれる。UNIQLO IQを導入した目的として、株式会社ユニクロの松山真哉氏は「現在消費者に一番使われているコミュニケーションツールが『LINE』や『Facebookメッセンジャー』といったチャット形式のインタフェースとなっている。そうした背景から、対話をしながらショッピングができるという『新しい購買体験』を提示したかった。」と述べている。

また、東急リバブル株式会社がチームラボ株式会社と共同開発し導入したCBである「Myブルちゃん」も同様に、物件を探している客の行動パターンを分析し、会話形式でおすすめの物件を紹介する機能や、閲覧中の物件の特徴を紹介する機能を搭載している。東急リバブル株式会社によると、「My ブルちゃん」は、「不動産という大きな買い物を『楽しみながら』気軽にお探しいただける」という特徴がある。

■図表 3 UNIQLO IQ利用画面

kantogakusei2019-1_03.jpg

(出典:UNIQLO公式アプリをもとに筆者作成)

我々は、こうした要望を伝えると会話形式でおすすめ商品を提案してくれる機能を搭載したCBを、以後レコメンド型CBと呼ぶ。導入企業の声から、レコメンド型CBは単なる既存サービスの代替ツールとしてではなく、買い物という日常的な行動に新しい「経験価値」を顧客に提供する場として導入され始めてきていることを我々は発見した。実際に、Wang, Baker, Judy, Wagner, and Wakefield[2007]は、CBは「『相談相手の存在』と『即座な対応』を兼ね備えていることから、オンラインの顧客経験を高めることができる」と述べている。

しかし、レコメンド型CBの利用を通して顧客がどのような経験をし、それがCB導入企業にどのような影響を与えているのか、解明されていない。そこで、本研究においては、レコメンド型CBにおける顧客の経験に着目し、レコメンド型CBが導入企業に与える影響とそのメカニズムの解明を目的とする。

2. 研究意義

前節でも述べたように、CBの国内市場は今後も拡大が見込まれている。しかし、「人工知能(AI)&ロボット月次定点調査」(Marketing Research Camp[2018])によると、CBを「利用したことがある」と回答したのは13.5%であった。(図表4)つまり、ほとんどの人がCBを利用した経験がなく、CBの普及が進んでいないことがわかる。

■図表 4 CB利用率(n=1,100)

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(出典:Marketing Research Camp[2018]「人工知能(AI)&ロボット月次定点調査」を参考に筆者作成)

一方、株式会社野村総合研究所[2017]は、CBは2019年度から2020年度にかけて発展期を迎え、2021年度以降は普及期となると予測している。また、Gartner[2018]は、2020年までに、顧客サービスおよびサポート業務の25%が人間ではなく、CBや仮想アシスタントを通じて管理されると述べている。したがって、今後急速に我々の生活に融和していくであろうCBが、消費者にどのような価値を提供し、そして導入することで企業はどのようなメリットを得られるのかを解明することで、適切なレコメンド型CBの活用方法が明らかになるはずである。ここに本研究の研究意義があると言える。

3. 現状分析

(1) チャットボットについて

CBは、「様々な通信チャネル(メッセージングプラットフォーム、モバイルアプリなど)を介して最終消費者と会話するサービスを自動的に提供するコンピュータープログラム」(Roca, Sancho, García, lesanco[2019])と定義されている。

1966年に世界初のCB「ELIZA」が誕生し、以後機械が人間と自然に会話をする技術が進歩してきた。2011年にはiPhone 4Sの新機能として音声エージェント機能「Siri」が導入され、徐々にCBは人々にとって身近なものとなってきた。そして、2015年に女子高生AI「りんな」がLINEを利用したサービスとして登場し、爆発的な人気を得た。「りんな」は、一切のマーケティング活動なしで180万人のユーザーを獲得した。2015年には、クロネコヤマトがLINEでCBを利用した集荷・再配達などの受付を開始し、2016年には横浜市がゴミ分別をCBで案内する実証実験をスタートさせた。作業効率化のために、既存サービスの代替としてCBが用いられるようになったのである。

(2) レコメンド型チャットボットについて

我々は、レコメンド型CBを、「要望を伝えると会話形式でおすすめ商品を提案してくれる機能を搭載したCB」と定義した。第1節でレコメンド型CB導入事例を挙げて述べたように、企業は顧客に新たな価値を提供することを目的として、レコメンド型CBを導入したことがわかった。そこで我々は、レコメンド型CBは業務効率化やコスト削減などを目的とした既存サービスの代替ではなく、新たな価値を創造することが可能なコンテンツとして、今後導入企業が増加していくのではないかと考えた。

4. 問題提起

ここまで現状分析で、レコメンド型CBが、単なる既存サービスの代替ではなく、顧客に新たな価値を提供する場として導入されていることについて述べた。しかし、レコメンド型CBの利用を通して、企業は顧客にどのような価値を提供でき、そしてそれが実際に企業に実務的な効果を及ぼすのか、まだ解明されていない。
本稿では、「ブランドへの態度」という視点からこの課題を解明していく。以上を踏まえ、以下のリサーチ・クエスチョンを提示する。

RQ1.
CBにおける経験は、導入ブランドにどのような効果をもたらすのか。

【続きへ】Ⅱ 既存研究

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