おわりに 【レコメンド型チャットボットが導入ブランドに与える影響とそのメカニズムの解明Ⅵ】

この記事では、2019年の関東学生マーケティング大会でリサーチ賞を受賞した論文を紹介します。

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1. まとめ

我々は、レコメンド型CBに対し、導入企業の意図である「経験の提供」が実際に成立しているのか、そしてそれは導入企業にどのような効果を与えているのかに疑問を持ち、研究を行った。

Study1では、既存のサービスである「UNIQLO IQ」を用いて調査を実施した。その結果、レコメンド型CBの利用によって、ブランドの推奨意向が上がることが明らかになった。

次にStudy2においては、レコメンド型CBのどのような経験がきっかけとなり、ブランドへの態度に影響を与えるようになるのかを調べた。最初に仮説として構築したモデルは、レコメンド型CBの主要な特徴によって構成された因子が棄却される結果となってしまった。

そこで、讃井他[1987]の研究をもとに、レコメンド型CBにおける経験価値を階層的に並べるモデルを再構築した。その結果、「利便性」や「商品選びのサポート」機能、「コミュニケーション」機能といったレコメンド型CBの基本的な特徴の知覚が一次的な価値となり、その先に「惹かれる」、「すごいと思う」などの情動的経験が並んだ。そしてその更に高次に「一緒に悩みを解決する」といった「共創」経験が並び、それが起因となってブランドそのものへの態度に影響を及ぼすことが分かった。

推奨意向に直接影響を及ぼす要因としては、ブランドへの「好印象」因子や、そのブランドを実際に使っている自分を想起した「利用想定」因子が挙がった。反対に、他のブランドとの「再識別」を表す因子は、推奨意向に負の影響を与えた。そして、他者がそのブランドをどう思うかに対する心理である「内在化」因子は、推奨意向への影響が棄却された。これらはブランド-他者間、あるいは、ブランド-ブランド間の関係に対する心理であり、自分とブランドを直接的に繋いでいる心理ではない。このことから、CBの利用によって上がるブランドの推奨意向には、「自分とチャットボット」という一対一の関係への感情が影響を及ぼすと考察した。

これらの気付きから、レコメンド型CBの利用においては、「CBと共に自分の問題を解決した経験」という心の動きが、ブランドへの好意的な態度につながる大きな要素であることがわかった。

まとめとして、本研究の意義を確認する。本研究には大きく2つの意義があると考えられる。
1つ目は、学術的な意義として、ブランドに与える影響がCBにも適用できることが分かった、ということである。「商品の売り場」「コミュニケーションツール」「人工知能技術」など様々な要素を兼ね備えたレコメンド型CBに対して、あらゆる分野の文献を参考にしながら研究を進めた。そのため、それぞれのフィールドで提唱されていた概念やモデルが、CBにおいても適用される、ということを解明することができた。

2つ目は、実務的な意義として、レコメンド型CBの利用が、ブランドの推奨意向に繋がることを実証し、更に、「共創」の経験がその鍵となることを示せたことである。レコメンド型CBは、その導入企業が「経験の提供」を1つの目的としている。しかし、どのような経験を提供できて、それがどうブランドへ繋がるのか、明らかにされていなかった。ECサイト等以上に、詳細で定性的な顧客データを集めることができる。勿論、既存のCBと同じように、人件費の削減などにも繋がる。本研究によって、このように企業側のメリットを多く抱えたレコメンド型CBを、どのように活用できるか明らかにできたことは、実務的に大きな意義があると考えられる。

最後に、本大会のテーマと本研究の結びつきについて述べる。本大会のテーマは「『わ』になるマーケティング」である。本研究は、2つの「わ」に対応している。

1つ目は、心の「輪」である。レコメンド型CBは、企業-CB-顧客が、対等な立場で輪になって価値を創造し、密接な関係を築ける可能性を秘めた革新的なサービスであることが明らかにされた、

2つ目は、令和の「和」である。これまでは、業務縮小や人件費削減などの、「マイナスから0」への変化を提供するCBが主であった。しかし、レコメンド型CBは、企業と顧客の双方に「0からプラス」へと新しい価値を提供してくれる。AI技術の大きな発展が見込まれる、新時代令和の元年に相応しい研究テーマではないであろうか。

2. 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界を3点提示し、今後の課題とする。
1点目に、我々は今回の調査において、レコメンド型CBの「短期的な」効果しか検証することができなかった。それは、被験者に動画を見せた直後に回答を頼むという調査方法が原因である。確かに、現在レコメンド型CBは未だ開発・導入段階であり、最初の普及のためには、短期的な効果を見ることにも大きな意義があると考えられる。しかし、AIと人間の共存が進んでいく中で、長期的なCBとの交流による影響を考えることも大きな課題である。つまり、今後はレコメンド型CBを長期間愛用することで、ブランドにどのような影響を与えるのかを解明していく必要がある。

2点目に、本研究では、商材を服だけに限定し調査を実施した。博報堂買物研究所[2018]によると、商材は、「関与度(高関与・低関与)」と「自分で選びたいかどうか」の 2 軸によって 4つに分類できる。本研究における商材として選定した服は、「高関与」かつ「自分で選びたい」商材に分類される。しかし、レコメンド型CBは、服以外にも幅広い商材を扱うことが可能なコンテンツである。したがって、関与度や自分で選びたいかなどの要素が異なる他商材において、レコメンド型CBがブランド価値にどのような影響を与えるかについて研究の余地がある。

3点目は、幅広いターゲット間の違いを見ることができなかったことである。本研究のターゲットは20代男女であり、新技術の導入や、パーソナルデータの提供に比較的寛容である。しかし、スマートフォンを操作するだけで、提案を貰えるレコメンド型CBは、店頭に足を運ぶことのできない環境や身体状況にある消費者への需要の可能性があることは想像に容易い。今後は、レコメンド型CBがどのようなターゲットに対して、どのようなニーズがあるのか、詳細に調べていく必要がある。

【続きへ】Ⅶ 謝辞・参考文献

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