価値観が多様化した今日、「共感力」がブランド価値構築のキーに

この記事では、「世界で見つけた!マーケティング新潮流」シリーズとして、グローバルでのトレンドやイノベーションを紹介するリサーチ&アドバイザリー・ファーム Stylus (stylus.com)の記事の中から、「今」より1歩、2歩先の生活者やマーケティングを読み解く記事を厳選してお届けします。


2017年のCannes Lionsではマーケティングの自動化が注目を浴びる一方で(参考記事)、「オートメーション化やアウトソーシングができないスキル」(広告代理店IsobarのCEO Jean Lin氏の発言)として、魅力的なコンテンツづくりと共に、「共感力」が強調されていました。AIの普及やマーケティングのオートメーション化に伴い「人間らしさ」の価値が増す中、このように「人間らしさ」の拠り所を「共感力」に求める声も聞かれます。「共感力」が重視されるようになった背景と、「共感力」に基づいたマーケティングの取り組みをご紹介します。

デジタル化時代、支持されるブランドの価値構築のキーとなるのは「共感力」

今日では、生活者の価値観は多様化・細分化していると言われます。20-30年前と比べて年齢によるライフステージの規定は流動的になり、伝統的な性年代等の属性によるセグメントではなく、興味・関心や目的意識、習慣・習性などによるセグメントが有効であると言われています。また、ジェンダーにまつわる固定観念を助長するとして広告が批判を浴びたり、ブランドとしてLGBTを支援する動きが見られたりするなど、ブランドにも多様化する価値観への対応が求められるようになりました。

一方で、多様な価値観・意見に対して人々が必ずしも寛容になっているわけでもないともいう見方もあります。その原因の1つとして挙げられるのが、デジタル化が進んだことによる「エコー・チェンバー現象」です。過去の検索・閲覧履歴に基づいてアルゴリズムが提示する情報を選別することにより、自分の物の見方・考え方がますます強化・増幅され、異なる考え方や意見に不寛容になる傾向があると問題視されています。アメリカのコンテンツ・マーケティング会社SkywordのTom Gerace社長は、「価値観が細分化し、対面でのコミュニケーション能力が低下したことで、お互いへの気遣い、人付き合いを望む気持ち、自分とは違う相手への理解が薄れてきました」とコメントしています。

そんな中、多様化する価値観を受容し理解するための「資源」として、「共感力」が注目されています。「共感力」とは「想像力を働かせて相手の立場に立つこと」です。ハイネケンUKのマーケティングディレクターCindy Tervoort氏は次のように共感力の重要性を説きます。「テクノロジーやソーシャル・メディアがエコー・チェンバー化する中、人とのつながりは排他的なものになってきています。だからこそ、自らの盲点を認め、壁を打ち破って、互いの共通点を見つけ、世界を広げることがこれまで以上に重要なのです。」

生活者の「あるがままの姿」を賛美し、自分らしくあることを応援する

本サイトの「ビッグデータ時代、差別化のカギは「生活者からの信頼獲得」でもご紹介したように、今日の生活者に向けては、ブランドの価値・メッセージを一律に押し付けるのではなく、多様な視点でメッセージを伝えることで個々の生活者への理解や共感を示すことが重要となります。ユニリーバのブランドAxeは2016年1月、かつての、Axeの香りによって抗いがたい性的魅力を手に入れ女性を誘惑するという「一面的な男性らしさの表現」から、男性のアイデンティティの多様性を理解し受け容れる方向へとマーケティング方針の大転換を行いました。上記の記事でもご紹介しているように、Axeの「Find Your Magic」のキャンペーンでは、伝統的な「男らしさ」から逸脱した行動や性質も含めて自分らしくあることを応援しています。

また、2017年のCannes Lionsでは、L’Orealが、人は誰でも日々自分には価値があると感じるべきだと考える同社の姿勢を強調するために、スローガンを「Because you’re worth it(あなたにはその価値があるから)」から「Because we are all worth it(私たちみんなにはその価値があるから)」に変更すると発表し、注目を集めました。

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マイノリティの視点も取り入れた、インクルージョンの推進

「共感力」の時代、今まで広告やメディアで描かれることが少なかったマイノリティの視点も反映することが欠かせないと言われています。アメリカの美容ブランドAvonのデジタル長Rafaella Gobara氏は「人々が、自分の意見を聞いてもらえていると感じることが重要なのです。それは、似たような人たちだけで集まって席に座っているだけで成し遂げられることではありません」と言います。

Avonは、2016年にブラジルに進出した際に、このポリシーを実践しました。ブラジルのマーケティング・コンサルティング会社Think Evaの共同創立者Maira Liguori氏によれば、「Beauty for a Purpose(大義のための美容を)」と名付けられたこのキャンペーンは「ブラジルでの現実」に合わせて企画されました。「美について、もっと幅広い考え方を採用したのです」として、これまで描かれることの少なかった「障がいを持った女性、黒人の女性たちについても描きました。美というものを1つのタイプに当てはめることはできないと考えたからです」と言いました。Avonのキャンペーン動画は、最初の30日間で8600万回再生され、190万のリアクションがありました。TVコマーシャルを用いないキャンペーンとしては、4年間で最高の結果となりました。

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ブランド自身の「不完全さ」「透明性」を通して、生活者の「リアル」に寄り添う

ブランドが生活者への共感を示すことも重要ですが、生活者からブランドへの共感を得ることも同様に重要です。今日の生活者の共感を得るには、生活者の「あるがまま」の姿を応援するだけではなく、ブランド自身の「不完全さ」「透明性」を正直に示すことが必要だと言われています。Digennar社のストラテジー・ディレクターMegan Moore氏は、「ブランドが完璧さを描いているのを見ると、若い人たちは嘘っぽいと思うものです」と言います。若い世代が不完全性や脆さ・弱さをあるがままの姿として受け容れている今日、生活者の「リアル」を反映していない作り込まれた理想像は、ブランドと生活者の間に距離を生むことになります。

例えば、ウェブサービス・プロバイダーのHootsuiteは、ユーザーからのクレームのツイートを、アップデートのお知らせに使用しています。「おかしいかもしれないけど、我々がユーザーの声を聴いて、問題に対応していることを表すにはよい方法だと思ったんだ」とHootsuiteのEMEA代表のAdrian Cockle氏は言います。
また、ポジティブな情報だけではなく改善が必要な点についても情報を届けることで、ブランドは透明性を高めることが可能になります。イギリスの自然派スキンケアブランドのLiz Earleは、ウェブサイト上で環境への取り組みを強調しつつ、まだ改善の余地があることを明示しています。自社が目指しているのは完璧ではなく進歩だとして「私たちが完璧ではないと分かっています。でも、努力すればするほど、より良くなるのです」と述べています。

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こういった取り組みは、実際に、ビジネスにもポジティブなインパクトをもたらしています。イギリスのコンサルティング会社The Empathy Businessは「共感力が成長や生産性、従業員1人あたりの収益にプラス効果をもたらす」と主張しています。近い将来、勝ち組となるブランドは、最も生活者の声を聴き、共感力を成長のエンジンとして活用するブランドとなるでしょう。

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