最新の商品/サービスから見えてくるシニア市場の多様性と進化

この記事では、「世界で見つけた!マーケティング新潮流」シリーズとして、グローバルでのトレンドやイノベーションを紹介するリサーチ&アドバイザリー・ファーム Stylus (stylus.com)の記事の中から、「今」より1歩、2歩先の生活者やマーケティングを読み解く記事を厳選してお届けします。

今回のテーマは、シニア(高齢者)市場。世界保健機関の定義によると、65歳以上の人口が、総人口に対して7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」とのことですが、日本は65歳以上が約27%を占める超高齢社会です(UN, World Population Prospects: The 2015 Revision)。

医療やテクノロジーの劇的な進化は、シニアの行動や意識、ニーズに大きな変化をもたらしたと考えられます。程度の差こそあれ、体力の衰えや人とつながる機会の減少、自由時間の増加といった共通点はありつつ、健康度、経済的な余裕、趣味嗜好などひとくくりにはできないシニア市場。様々な企業がその可能性に注目する巨大市場でもあります。

今回は、シニアの「健康」に焦点を当て、シニアの多様なニーズに対応して、どのような商品やサービスが生まれているのか、世界の最新事例をご紹介します。Stylusが見つけたシニア向け商品やサービス群から、想像以上に多様なシニアの姿が見えてきます。

変わるシニアの「健康意識」

2030年までに、世界人口における60歳以上の割合は18%(15億人)まで増加するとされています(Euromonitor, 2015)。この世界的規模の高齢化時代、シニアにとっての「健康」とは何を意味するのでしょうか。もはや、かつてのように衰えへの対抗策や身体的な健康だけでは、シニアの健康は語れません。現代のシニアの健康においては、自立、学びや可能性の追求、社会的共生など精神的・感情的・社会的にも満たされていることも重視されます。

こういった新たなシニアの健康ニーズに応えて、様々なビジネス/サービスや、従来の「シニア」のイメージとはかけ離れたアクティビティやテクノロジーをベースとした商品などが生まれています。現代のシニアが心身の健やかさをどのように追求しているのか、また、企業は彼らのニーズにどう応えているのか、事例を交えてご紹介します。

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アクティブに年齢を重ねる、高齢化「先進国」のシニアたち

世界規模での高齢化社会への進行をきっかけに見直されつつある、高齢期における「健康」の役割。シニアが健康で、労働力となり、社会と関わっていることは、経済的に豊かで安定した社会を築くために不可欠です。既に高齢化が進んでいる国々では、シニアの心身の健康を維持し促進するために、どのようなビジネスやサービスが展開されているのでしょうか。

※以下、高齢化率は【UN, World Population Prospects: The 2015 Revision】による

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シニア向けワークアウト・プログラムも多様に

シニア層が健康的に年齢を重ねるためのワークアウト・プログラムも、身体の状態や嗜好、ニーズに合わせて、多様な選択肢が提供されるようになりました。高強度の運動から、マインドフルネスを取り入れた脂肪をゆっくり燃焼させるタイプの運動まで、シニア向けのワークアウトは、アクティブな70歳以上の人々の多様な要望に応えています。運動の強度には幅があるものの、筋力の低下、骨粗しょう症、腹部の脂肪、心拍数の減少に重点的に取り組むレッスンは、健康的に年齢を重ねたい人々の人気を集めています。

  • 強度の高いワークアウト:70代で7つのマラソンを走ったイギリス人探検家のRanulph Fiennes氏、100歳近い高齢でありながらヨガ行者として活動する、ニューヨークのTäo Porchon-Lynch氏とインドのV Nannamal氏など、すこぶる元気なシニアたちはまるで壮健さを誇示しているかのようです。
    PHIIT Londonのようなスタジオは、高強度のワークアウトを求めるシニアに向けて、筋力トレーニングと有酸素運動のバランスが取れた負荷の強い筋力トレーニングを提供しています。強度の高いワークアウトは、脳の衰えを遅らせることが明らかになっています。876人を7年間追跡した研究では、中~高強度の有酸素運動を行った被験者が、強度の低いワークアウトを行った被験者に比べ、高い認識能力を示すことが判明しました。また、高強度インターバル筋力トレーニング(HIIT)がパーキンソン病患者にとって有効であることを裏づけるデータも増えています。

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    • ダンスで健康に:流行を取り入れたエネルギッシュなダンスアクティビティ(リズミカルなサウンドトラックに合わせて行うものが主流)の人気も高まっています。技巧性、遊び心、マインドフルネスの要素を組み合わせ、脳を活性化するダンスが、認知症患者の認知力を向上させることが知られているのです。
      60歳以上の人々にとって、バーレスクの魅惑的なムードが元気を保つ秘訣になっているケースもあり、体に対する自信が高齢期においても重要であることを示しています。(「大人の遊び場」や公園でのエクササイズが世界で広まるきっかけを生んだ)アジアでは、K-POP好きのシンガポールのシニアたちが、ボリウッドやヒップホップの乗りのいい曲に合わせて踊るダンスレッスンに通っています。一体感のあるグループダンスは、韓国などから広まり、今では世界中の都市で急速に広がっています。

    • 水中で健やかさを追求:アメリカで大流行のアクアポール(水中ポールダンス)は、イギリスの高齢女性の間でも人気になりました。今年、エクササイズ市場全体でにわかに高まった水中エクササイズの人気は、挑戦しがいのあるスポーツを好む高齢者に受け入れられそうです。例えば、Aquaphysical社の水上フィットネスクラスFloatFitは、様々な水上ヴィンヤーサ・ヨガやHIITのセッションを提供しています。
      冒険好きな人には、(『Fit & Well』誌が2017年における最高の水中・水上フィットネス講習のひとつに選出した)ロンドンを拠点とするSwimsanity社が、水中スピニング(固定自転車に乗って体を動かすエクササイズ)のレッスンを提供しています。

  • 気の流れに精神を集中:身体の敏捷さに不安がある高齢者向けには、穏やかな運動もあります。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究は、瞑想やヨガが記憶力を改善し、健康である実感を高められることを示しています。ニュージーランドに本社を置くスポーツジム、Les Mills International社のBodyflowのレッスンは、太極拳、ヨガ、ピラティスを意識的に組み合わせることで、エネルギーのバランスを整える、東西の要素を兼ね備えた神秘的なワークアウトを提供しています。

インターネットやロボットも、シニアの健康に貢献

多様になったシニアの健康ニーズに対応した様々なビジネスやサービスが生まれていますが、一見シニアからは距離があるように思われがちなデジタルやテクノロジーといった分野でも新たな動きが見られます。シニアの心身の健康を維持し、アクティブで社会と関わりのある状態を保つために、デジタルやテクノロジーはどのように貢献してくれるのでしょうか。

    • žオンライン上のアクティブな高齢者:アメリカ、イギリス、ヨーロッパ、カナダ、シンガポール、およびロシアでは、50歳以上の人々のソーシャルメディアの利用率が軒並み高い状況です。これまで高齢者にデジタルな手法でアプローチすることに慎重だった企業にとっては朗報となるでしょう。カナダでは、ベビーブーム世代と高齢者世代を合わせた人々のうち、4分の1がFacebookを利用しています(We Are Social, 2016)。
      FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアやSkypeなどのビデオ通話、オンラインチャットやメッセージアプリなどのソーシャルテクノロジーを利用して他者とつながることにより、孤独感が軽減され、心身の健康状態の向上につながっているとの研究も発表されています(Michigan State University, 2016)。

    • AIコンパニオン:Robobear、Paro、Babyloidといった介護用ロボットは、長い間シニアの介護や精神的なサポートに役立ってきましたが、シニアの健康増進を助けてくれる、人工知能を搭載したロボットも改めて注目されています。
      Yves Béhar氏率いるサンフランシスコを拠点とするスタジオFuseproject社が、イスラエルのハイテク企業Intuition Robotics社と共同開発したElliQは、「感情を理解する能力が高いロボットコンパニオン」です。スマートスピーカーのように音声でユーザーとやり取りをしますが、従来のスマートスピーカーがユーザーに話しかけられるまでは沈黙を保っているのとは違い、能動的にユーザーに話しかけてくるのが特徴的です。
      例えば、「お薬飲んだ?」「あなたが気に入りそうなTED TalkがUpされたけど、見てみる?それともお散歩に行く?」というように、リマインドをしてくれたり、ユーザーに合った活動を促したりしてくれます。更に、「あなたの娘さんからSkypeよ。今話したい?」というように、セットとなっている専属のタブレットを通して家族や友人とつながることも可能です。
      このようにElliQは、シニアが抱える孤独感や社会との関わりの不足といった問題に取り組んでおり、2017年1月に、ロンドンのデザイン・ミュージアムで開催された展覧会「New Old: Designing for Our Future Selves(新しい高齢者:未来の私たち自身のためにデザインする)」で発表されました。

  • ウェアラブルな補助器具:Fuseproject社はデンマークのアーティスト集団Superflexと協力し、Aura Powered Suitを開発しました。これは、軽量の生地でできた衣服で、モーター、センサー、人工知能を組み込んであり、着用する人の胴体、腰、脚を支えてくれます。このスーツは、立ち上がる、座る、長時間立つ動作を、高齢者がより簡単にこなせるよう設計されました。

冒頭でもご紹介したように、日本は超高齢社会です。平均寿命が約80歳まで伸び、2035年には3人に1人が高齢者(65歳以上)になると予測されています。今回ご紹介した商品やサービスは、シニアの心身の健康維持・促進に貢献するという意味で、持続可能な社会を築く上でも重要な役割を担っていると言えるかもしれません。

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