バーチャル・リアリティの現在と進化

この記事では、「世界で見つけた!マーケティング新潮流」シリーズとして、グローバルでのトレンドやイノベーションを紹介するリサーチ&アドバイザリー・ファーム Stylus (stylus.com)の記事の中から、「今」より1歩、2歩先の生活者やマーケティングを読み解く記事を厳選してお届けします。

特にゲームの分野で注目を集めるバーチャル・リアリティ(VR)。日本では、ソニーが「プレイステーション(PS)VR」を発売、品切れが続くほど人気を集めた2016年が「VR元年」と言われています。もともとゲームをはじめ、エンターテインメント分野で注目されていたVRですが、ここ数年で格段に技術が進歩し、適用分野も拡大しています。拡がるVRの活用と、最新動向について、Stylusの記事からご紹介します。

【目次】

 

拡大するVRの用途

これまでにも何度か本格普及への期待が高まりながら、期待どおりの市場拡大には至らなかったVR。しかし、いよいよ大きな飛躍を遂げるのではという予測が複数示されています。例えばIT専門調査会社のIDC Japan株式会社の発表によれば、世界でのAR/ VR関連の支出額(ハードウェア、ソフトウェア、関連サービスの合計)は、2017年の91.2億ドル(1ドル=110円で約10兆円)から2018年には178億ドル(約20兆円)に成長するとのことです。更に、2021年には1,593億ドル(約175兆円)に達するであろうと予測。コンシューマー向け市場だけでなく、ビジネスユースも含めた市場拡大がこの成長をけん引すると期待されています。

もともとゲームの分野で注目されてきたVRですが、近年は適用分野が拡大しています。特にビジネス向け市場で用途の拡がりが顕著に見られます。例えば、医療分野での外科手術の訓練、生産や物流現場での作業員教育、建設現場での安全教育など、様々な業界での教育・研修への活用がその1つです。

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日本でも、トヨタ自動車や富士通、東急建設といった大手企業が既に開発や実証実験・導入を進めています。また、グローバルの物流企業DHLは、イギリスを拠点とするVR会社Immerseとパートナーを組み、バーチャル・ハブを作りました。Immerseのマーケティング・マネージャーJays Freeborn氏は、「研修を受ける人たちのエンゲージメントを高めたいと思うなら、一歩踏み込んだ取り組みをしなければならない。VR環境で没入感のある世界を作るということは、つまり、ユーザーが学習環境に完全に没入できるようになるということなんだ。それによって、リテンションも劇的に高まる」と言います。

【DHLの研修VR】

小売業でも、ブランドやデザイナーの世界観を表現する手段としてVRを導入する例が見られるようになりました。イギリスのシューズ・アパレルブランドDr. Martensのロンドンの旗艦店では、様々な体験型の仕掛けを取り入れており、工場へのバーチャル・ツアーもその1つです。また、伊勢丹新宿本店では、2016年8月から9月にかけて、秋物のファッションを紹介するイベントの一環として、デザイナーの世界観を表現しつつ洋服を詳細に見られて購入までできるVRショッピング体験を提供しました。

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更に、プロダクトデザインの分野でも、VRの活用は進みつつあります。例えば、イギリスのデザイン・イノベーション・コンサルティング会社Seymourpowellは、自動車のデザインのためのVRツールを開発しました。

【自動車のデザインVR】

また、ナイキは、デルおよびアメリカのAR/ VR関連のスタートアップであるMeta、イギリスのテクノロジー会社Ultrahapticsと提携して、視覚だけでなく触覚も含めてシューズのデザインに活用できるVRツールを開発しています。

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更に、学校教育や非営利組織など、ビジネス以外の分野でも、VRが導入される例も見られるようになりました。例えば、VRを使うことで、教室にいながらにして世界中で校外学習ができたり、動物の解剖や、比較研究ができるようになるなど、今までは難しかった様々な体験ができるようになることが期待されています。

また、チャリティ団体や非営利組織が、人々の問題意識を喚起し、困難な状況にある人に寄り添う気持ちを高めるために、VRを使うという例も見られます。市場調査会社ニールセン社は、360°カメラで撮影した動画は、非営利ブランドのコミュニケーションにおいて「非常に効果的」であると言います。従来のフォーマットの動画を見て寄付をしたいという気持ちになった人が38%だったのに対し、VR動画の場合は、48%にのぼったということです。

【Googleの校外学習VR】

次なる注目株は?

それでは、今後、VRはどのような発展を遂げていくのでしょうか。Stylusの記事からは、VRの進化の方向性が幾つか示されています。

●ソーシャル

本サイトの記事「動画の未来、そして次なるインターフェースは?」でVRの「キラー要素はソーシャル」と述べているように、1人きりで楽しむのではなく、複数人で楽しむVRは次なる注目株の1つです。例えば、Facebookは、VRヘッドセットのOculus RiftとVRコントローラーのOculus Touchを使うことで、バーチャル環境の中で、アバターで表示された友人たちと交流することができます。

また、スイスのモーション・キャプチャ技術の会社Artanimとロサンゼルスに拠点を置くスタートアップDreamscape Immersiveは、1度に6人が一緒に楽しめるVR映画を提供しています。このような「皆で一緒に楽しむVR」は、小売やブランド経験の場づくりに応用されることも期待されています。

【Dreamscape Immersiveの6人で楽しめるVR映画】


●マルチセンサリー

視覚・聴覚に留まらず、他の感覚にも働きかける「マルチセンサリー」なバーチャル経験も注目されています。前述のイギリスのテクノロジー会社Ultrahapticsは、VRコントローラーやウェアラブル機器を使わずに、超音波を使って空気中に形状や物質を再現し、人々が「触る」ことのできるキットを開発しました。

また、イギリスのスタートアップeScentが開発したウェアラブルの香りディスペンサーは、VRのヘッドセットと併用することで、ブランド経験やイベントのバーチャル経験を強化してくれると期待されています。この香りディスペンサーにはAI搭載のセンサーが付いていて、装着者の心身の状態やパーソナリティに合わせて、エッセンシャルオイルを装着者の周りにだけ拡散させ、「香りのバブル」を作り出してくれるものです。

更に、まだ学術分野での研究開発段階ではありますが、シンガポールの学生Nimesha Ranasinghe氏は、舌への電気刺激で味を感じさせることができる機器を開発しました。

このように、触覚や嗅覚、味覚など色々な感覚に働きかけることで、バーチャル体験をより豊かに、パワフルにしようという動きが見られます。

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●VR内で購入まで完結

没入感を損なわずにVRを使った買い物経験を楽しんでもらいたいという動きも見られるようになりました。中国のeコマース企業Alibabaは、HTCのヘッドセットと連携したVR版のECサイト「Buy+」をオープンしました。Buy+では、ユーザーが肯いたり、長く一点を見つめたりすることで、VRヘッドセットを外すことなくログインから購入まで行うことが可能になりました。

また、アメリカの旅行会社Expediaは、旅行を計画している人が、予約前にバーチャル上でホテルの部屋やクルーズ船を確認できるサービスを開発中であると発表しました。ホテルの部屋のドアを開けたり、バルコニーに出て景色を眺めたり、といったきめ細やかなレベルで部屋を見ることができるようになるとのことです。続いて、VR環境を離れずに、予約プロセスを完了できる仕組みを追加すると計画されています。

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●脳波や視線など、ノンバーバル・データとの連携

VRヘッドセットに脳波センサーやアイトラッキング・カメラを搭載し、脳波や視線といったノンバーバル・データを活用しようという動きも、見られるようになりました。1月に行われたConsumer Electronics Show (CES)で、カリフォルニアのスタートアップLooxid Labsは、ショッパーの感情を測定することができるVRヘッドセットを発表しました。

本サイトの「2018年のマーケティング・トレンド」で述べたように、昨今ではオンラインや店頭など小売の現場で生活者の感情をすぐアクションにつなげようという取り組みが注目されています。Looxid LabsのVRヘッドセットでも、6つの脳波センサーと2つのアイトラッキング・カメラのデータを用いて、バーチャル店舗や広告、商品を見ているときのショッパーの感情を測定し、反応によって価格やメッセージを変えるというリアルタイムでのアクションを可能にしようとしています。Looxid Labsは、この技術を、広告やカスタマー・サービス、店舗デザイン、商品選定に活用しようとしているということです。

本記事では、従来のゲームや映画といったエンターテインメント分野から拡がりを見せるVRの現在と新たな動向についてご紹介しました。マーケティングの分野でも、ブランドの世界観や小売の場、スポーツや音楽、ファッションといったイベントなど様々な「経験」を大きく変える可能性があると期待されるVRですが、実際の活用はまだこれからという段階です。今後、どのような進化を見せるのか、期待どおりの市場拡大を遂げるのか、引き続き注目していくべきテクノロジーの1つであることは間違いないと言えるでしょう。

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