ネット通販隆盛の今、リアル店舗はブランド経験の場に

この記事では、「世界で見つけた!マーケティング新潮流」シリーズとして、グローバルでのトレンドやイノベーションを紹介するリサーチ&アドバイザリー・ファーム Stylus (stylus.com)の記事の中から、「今」より1歩、2歩先の生活者やマーケティングを読み解く記事を厳選してお届けします。


インターネット通販が急増する一方で、宅配業界の人手不足は深刻になり、遂にはヤマト運輸が荷物の総量抑制に踏み切ることが大きなニュースとなりました。インターネット通販で欲しいものを欲しいときに注文できるこの時代、リアル店舗では、リアルな空間だからこそ提供できる価値を追求する動きが見られます。モノを売るだけではない、新たな小売の場。そこで提供されるのは、どんな価値なのでしょうか。

デジタル時代のリアル店舗は、驚きや予期せぬ出会いを生む、記憶に残るブランド経験の場

予期せぬ出会いをもたらす「自由に流れる」スタイルの店舗デザイン

「自由に流れる」スタイルの店舗は、来店客が歩みを緩め、五感でじっくり空間を味わう経験を提供できるようにデザインされています。

例えば、上海のライフスタイル・コンセプト・ストアChuang X Yiは、デザイン・エージェンシーLukstudioのディレクターChristina Luk氏が上海の景観にインスパイアされ、「都市環境の内観と外観が視覚的に対話する場」として作り上げた空間です。来店客は、幾つものポケットのようなスペースと通路が入り混じった店内で、まるで曲がりくねった路地を散歩しているかのような感覚を味わいながら、散りばめられた商品を偶発的に発見する経験を楽しむことができます。

marketing5_1.jpg

 また、ミラノを拠点とするファッション・ブランドOff Whiteのシンガポールの旗艦店は、敢えてミステリアスなレイアウトを取り入れています。コンクリートのファサードの奥にあるエントランスを通ると、店舗とは思えないようながらんとしたコリドーにたどり着きます。壁の両側には、次の部屋へとつながる入口が連なっています。来店客は、好きな入口を選んで、探検を続けていきます。

marketing5_2.jpg

 ●カテゴリーの再定義

従来は、価格帯やブランドごとにスペースが区切られたストア・レイアウトが一般的でした。しかし、新しさを求めるデジタル時代の生活者に向けて、ライフスタイルやアクティビティごとに商品がレイアウトされた、探索型の空間をデザインする動きが加速しています。

例えば、2016年にリニューアル・オープンしたバンコクのデパートSiam Discoveryは、40,000平米の売場のほとんどを実験的なインスタレーションに作り替えました。加えて、テーマごとにキュレートされた13の「ラボ」では、ブランドに関係なく、スタイルやアクティビティごとに商品がディスプレイされています。

marketing5_3.jpg

また、イースト・ロンドンにある書店Libreriaも、今までとは違う書店体験を提供しています。床から天井まで届く木製の本棚に並ぶ本は、従来の「フィクション」「ノンフィクション」といったジャンルごとではなく、「海と空」「魔法が解けた人のための魔法」といったテーマごとに並べられています。携帯電話厳禁の店内では、来店客が注意をそらされることなく、「探検」に集中できるのです。

marketing5_4.jpg

 ●見えざるサービスを受けつつ、生活者自身が経験を「操舵」

インターネットにより、生活者とリテーラーの間の商品知識の格差は縮まっています。今日の生活者にとっては、何か買わなければならないというプレッシャーから解放されたプライベートな空間で見えざる接客を受けながら、自分のペースで探索できることが、より好ましいリテール経験となりえるでしょう。

2016年7月にオープンしたアメリカのスピーカー・ブランドSonosのニューヨークの旗艦店では、防音設備のあるプライベート空間が7部屋用意されています。それぞれ、書斎やリビング、キッチンなど家庭空間を模して造られています。部屋の中では、店内用のタブレットに入っているSonosのアプリを通して、ストリーミングサービスからプレイリストをカスタマイズして楽しむことができます。同時に、店員に声をかけなくても、アプリ上でブランドのカタログを熟読することも可能です。

marketing5_5.jpg

また、2015年、東京にオープンした画材ラボPigment Tokyoも、独自のコンセプトでユニークな経験を提供しています。隈研吾デザインの店内には、日本の伝統画材はじめ世界各地の希少な画材が並んでいますが、値札は一切ついておらず、来店客は自分で商品のことを学ぶよう放っておかれます。店員は全員美術の専門教育を受けていますが、彼らに相談するには、まず店員を捜し出さなければなりません。

marketing5_6.jpg

 ●売るためではなく、ブランド経験のための場としての店舗

「経験経済」が小売業界においても重視されるようになるにつれ、動的で進化し続ける空間の価値は加速度的に高まっています。とりわけ、商品の売買がほぼ、あるいは全く発生しない場の重要性が高まっています。

2016年にオープンしたサムスンのニューヨークの旗艦店、Samsung 837は、没入型の遊びを徹底的に楽しめる場となっています。店内には、パフォーマンス・スペースやバーチャル・リアリティのホットスポット、スマート・テクノロジーを体験できるゾーンがあります。一方で、買って帰るための商品はSamsung 837には置いていません。つまり、売るための場ではなく、遊びをより重視する信念の表れだと言えます。

marketing5_7.jpg

また、前述のスピーカー・ブランドSonosは、ニューヨークでの旗艦店オープンに先立って、2015年にイースト・ロンドンでブランドのハブとなる音楽スタジオをオープンしました。このスタジオでは商品の販売を行われず、「Sonosの音を聴く体験ができる生きたプロトタイプ」として位置づけられています。音響エンジニアが設計したスタジオには、天井と壁に可動式のエレメントが取り付けられ、来店客はムードや音響をコントロールすることができます。

marketing5_8.jpg


転載・引用について

本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。本レポートの内容を転載・引用する場合には、「インテージ調べ」と明記してご利用ください。お問い合わせはこちら

【転載・引用に関する注意事項】
 以下の行為は禁止いたします。
・本レポートの一部または全部を改変すること
・本レポートの一部または全部を販売・出版すること
・出所を明記せずに転載・引用を行うこと
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる可能性がある利用を行うこと

※転載・引用されたことにより、利用者または第三者に損害その他トラブルが発生した場合、当社は一切その責任を負いません。
※この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません。

関連記事