ビッグデータ時代、差別化のカギは「生活者からの信頼獲得」

この記事では、「世界で見つけた!マーケティング新潮流」シリーズとして、グローバルでのトレンドやイノベーションを紹介するリサーチ&アドバイザリー・ファーム Stylus (stylus.com)の記事の中から、「今」より1歩、2歩先の生活者やマーケティングを読み解く記事を厳選してお届けします。


5月30日に改正個人情報保護法が全面的に施行されました。これにより、個人を特定できる情報は、本人の同意なしに第三者に提供できないよう保護が徹底されるようになりました。
一方で、個人を特定できないように加工すれば、本人の同意がなくとも外部に提供できるようになり、ビッグデータの活用がより一層進むと予想されています。ビッグデータ時代、企業によるデータ活用はどうあるべきなのでしょうか。

2016年3月に発表されたEUのレポート「The EU Data Protection Reform and Big Data」は、プライバシーへの懸念が高まる中、ビッグデータを使った新サービスや商品が成功するか否かはどれだけ生活者の信頼を得られるかにかかっていると言及し、データ活用において「生活者からの信頼」が企業にとって差別化ポイントとなることを示唆しています。

また、5/17にロンドンで開催されたイベント「One Question」では、「Can we really trust technology?(我々は、本当にテクノロジーを信頼してよいのか)」をテーマに、広告やメディア、政府やデータサイエンスなど各界のリーダーたちがディスカッションを行っています。
この「One Question」で議論された、データ活用の観点から生活者の信頼を獲得するには何が求められるのかについて、各界のリーダーたちの考えをご紹介します

データの透明性の確保:得られたインサイトを顧客に寄り添う姿勢と共に共有することも重要に

テクノロジーの進化のスピードはあまりに速く、生活者がキャッチアップすることはなかなか大変です。そんな中、収集された自分のデータを誰が何のために使っているのか分からないという状況は、生活者にとって気持ちのよいものではありません。自身のウェブ行動を追跡できないようにするために、わざわざInternet Noiseなどのツールを使ってランダムに無関係なウェブサイトを閲覧し、履歴を攪乱する人もいるほどです。

そこで、生活者の不信感や不安を解消し、信頼を構築するための第一歩として、徹底的な透明性の確保が求められます。自社のデータ・ポリシーを明示することは勿論ですが、集めたデータから得られたインサイトを使うことで、企業がどのように顧客に寄り添っていくことが可能になるのかをオープンに、率直に語ることもその1つです。

デジタル音楽配信サービスSpotifyが「Thanks 2016, It’s been Weird(ありがとう2016年、おかしかったよね)」と名付けて世界14カ国で実施したアウトドア・キャンペーンはその一例です。Spotifyが収集したプレイリストの作成や楽曲配信、ユーザーの所在地といった生のユーザー・データがその国や地域固有のストーリーとして展開され、彼らがユーザー・データからどれだけ深いインサイトを得て、人々の人生・生活や気持ちに寄り添おうとしているのかが分かりやすく示されました。

例えば、アメリカでは「11/8に“ストレス解消”のプレイリストを聞いた5,667人の皆さんへ。役に立ったかな?」(インテージ注:11/8はアメリカ大統領選挙の日)、イギリスでは「Brexitの投票日に”It's The End Of The World As We Know It(知ってのとおり、世界の終わり)”をストリーミングした3,749人の皆さんへ。諦めないで」というメッセージのビルボードが掲げられました。よりピンポイントにニューヨークのシアター・ディストリクトの1ユーザーに宛てて「バレンタイン・デーに“Sorry”を42回聴いたきみへ。何があったの?」というメッセージが掲げられもし、このキャンペーンはSNSで話題となりました

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また、複雑なテクノロジーを用いてどのように何のデータを収集しているのか、それらがどのように活用できるのかを分かりやすく生活者に伝えることも、透明性の確保につながります。カンヌ・ライオンズ2014のダイレクト部門でグランプリを獲得したブリティッシュ・エアウェイズの「The Magic of Flying」はその好例です。

ブリティッシュ・エアウェイズの飛行機がピカデリー・サーカスの上空に差し掛かると、ビルの屋上に設置されたスクリーンの映像が自動的に切り替わり、その飛行機を指さす子どもの姿と「見て!バルセロナから飛んできたBA475だよ」と発着地と便名を表示する映像が映し出されます。スクリーンに表示される発着地と便名は、上空を飛ぶ飛行機の位置情報やスピードの情報と連動させることで、「サンフランシスコから飛んできたBA284」「ソウルから飛んできたBA18」というように変わります。

このキャンペーンでは、飛行機の運航に関わる複雑なテクノロジーと、それが可能にする「魔法」について分かりやすく伝えただけではなく、飛行機で旅をするというワクワク感を思い起こさせて人々の心を動かし、ブリティッシュ・エアウェイズの予約サイトへの流入が大幅に増えるなど、大きな成功となりました。

「瞬間のニーズ」への対応と「多様な価値観への共感」により、生活者の気持ちに“寄り添った”ブランド経験を

では、生活者に寄り添い、関係性を深め、ひいては信頼関係を構築する上で、データから得られたインサイトをどのような顧客経験に結び付けていくことが重要となるのでしょうか。「One Question」で議論された中から、2つの方向性をご紹介します。

●生活者に“同期”した顧客経験の提供

生活者は、広告に妨げられたくないと思う一方で、ブランドが生活の質を高める経験を提供してくれることを望んでいます。そのためには、瞬間瞬間のニーズに対応することが求められます。その実現を助けてくれるのが、時間や場所といったコンテクストのデータです。
例えば、Spotifyは、気象情報サービス企業Accuweatherとのコラボにより、ユーザーの地元の天気予報に合わせたプレイリストの提供を始めました。Spotifyのデータ・リサーチャーAnderson氏は「僕たちが調査をした世界中の主要都市のほとんどで、晴れた日には楽しい音楽のストリーミングが増えるんだ」と、天気と聴きたくなる曲には関係性があると語っています。

また、生活者の感情に合わせたプロモーションを展開したマーズの例もあります。2016年5月、マーズは「YOU’RE NOT YOU WHEN YOU ARE HUNGRY(空腹時のきみは本当のきみではない)」というメッセージのもとツイッターのフィードを解析して、「世の中」に怒りの感情が渦巻いているときほどスニッカーズが安く買えるクーポンを発行するというキャンペーンを行いました。「怒り」レベルの情報は10分ごとに更新され、そのときの「怒り」レベルによってスニッカーズの価格が決まります。
生活者はセブンイレブンで使えるクーポンを受け取り、その価格でスニッカーズを買い、空腹を満たして「本当の自分」を取り戻すことができるのです。

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●多様な価値観・ライフスタイルに寄り添う姿勢の明示

今日の生活者は多様な価値観やライフスタイルを持っており、もはや最大公約数的に「大衆」に当てたメッセージによって生活者の信頼を獲得することはできません。ブランドの価値・メッセージを一律に押し付けるのではなく、多様な視点でメッセージを伝えることで個々の生活者への理解や共感を示すことが重要となります。
ユニリーバのAXEは、「Find Your Magic」キャンペーンを通して、男性1人1人が自分にとっての「男らしさ」を見つけることを後押ししています。
最新の活動では、「Is It Okay for Guys To?(男子が~するのってアリ?)」と題し、何が「アリ」なのかをオンライン検索する男性たちの姿を描いています。AXEは、彼らの「男性らしさ」に関するリアルな悩みに寄り添い、「化粧をする」「ピンク色の服を着る」「涙を見せる」「デリケートである」「落ち込む」といった、伝統的に「男らしくない」と考えられてきたような行動や性質も含めて自分らしくあることを応援するメッセージを打ち出しています。更には、このAXEの例のように、ポジティブな感情だけでなくネガティブな感情への共感も、生活者と情緒的な関係を築く上では重要です。

「One Question」では、上記のように、データ活用の透明性を高め、企業がデータから得たインサイトが自分たちの生活をよくしてくれている、自分たちの気持ちに寄り添ってくれると生活者が実感することができることが、信頼構築において重要であることが議論されました。そのためにはコンテクストのデータや感情の検知、それらのデータから得られる深い生活者理解・共感に基づいて豊かな顧客経験を創出することが成功のキーとなりそうです。

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