カンヌライオンズ 2017: AIでオートメーション化された未来に知的財産で挑む

この記事では、「世界で見つけた!マーケティング新潮流」シリーズとして、グローバルでのトレンドやイノベーションを紹介するリサーチ&アドバイザリー・ファーム Stylus (stylus.com)の記事の中から、「今」より1歩、2歩先の生活者やマーケティングを読み解く記事を厳選してお届けします。


このところ毎日のようにニュースを目にするAI。世界的な広告賞が決まる「カンヌライオンズ国際クリエティビティ フェスティバル」でも話題になりました。日本でも電通が、AIコピーライターAICOを開発して活用するなど、広告業界のクリエイティブにも使われだしたAIですが、カンヌライオンズではどのような話題が出てきたのでしょうか?

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今年のカンヌライオンズほど、すべての参加者の頭の中に「ロボット(AI)」があった年はなかったかもしれません。ロボットは人間のマーケターの代わりとなるのでしょうか?だとすると、このアルゴリズム的な未来に対し企業は何に備え、何をうまく利用していけばいいのでしょうか?

かつてない規模で行われている「パーソナライズされた対話」

人工頭脳(AI)は今年のカンヌライオンズでも多くの注目の的となりました。世界的な広告代理店SapientRazorfishの認知経験のエグゼクティブ クリエイティブ ディレクターChristopher Folett氏は、「まもなく、マーケティングの世界においてコンピューティングはほとんど常識となるだろう」と予言しています。

●エンゲージメント モデルの再考が求められている

AIを活用して顧客対応を自動化することは、企業の規模を問わず実現可能になりつつあります。AIが多くの顧客に対して同時に個別対応できるという技術的な変化は、企業がエンゲージメントモデルを考え直す必要があることを意味する、とFollett氏は発言しました。

イギリスの旅行検索・料金比較サイトを運営するSkyscannerのマーケティング部長Sam Poullain氏が「ブランドとの最初の出会いはロボットを通したものが多くなる」と称した今の時代、エンゲージメントモデルを考え直すことは特に重要となります。

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Follett氏は、新しいエンゲージメントモデルの例として、アメリカのケーブルテレビHBOのテレビドラマ「The Young Pope」が行った、AIを使った自動ソーシャル メディア キャンペーンの事例をあげました。IBMのWatsonを使ってつくられた「AiMEN」と言うこのAIは、細かく、個々に合わせた高度な応答をすることができます。AiMENは自然言語分類と語調分析の機能を持ち、インターネット上の対話における言葉の意味と感情のトーンを理解します。そして、Twitter、FacebookといったSNS上の投稿に対し、聖書の39,000節のデータベースから適切なフレーズを引用して自動的に返信します。

例えば、下記の写真のようにヒートアップした内容の投稿がされるとAiMENがそれを鎮めるようなツイートで返信します。このキャンペーンはソーシャル メディアで400万人と繋がり、カンヌライオンズで金賞を獲得しました。
※キャンペーンの概要は、下記のURLで動画でも見られます。(英語)
https://vimeo.com/205243071

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●人間とするような対話で消費者を導く

Pernod Ricardのデジタル責任者、Sille Ostrup氏の発言にもありましたが、チャットボットやAlexaスキル(AlexaはAmazonの音声認識サービス全体を指す総称)、その他のAI によるコンシューマーエンゲージメントは、消費者を狙い通りに導く上で大いに役立つと見られています。

Pernod Ricardは、Amazon Echoのデジタル ボイス アシスタントを利用したカクテルボットをリリースしています。12,000以上のカクテルレシピからユーザーに適したものを教えてくれ、手元に材料がなければ、そのままオンラインで材料も買うことができるというものです。このカクテルボットによって、30%のコンバージョン率を創出しています。

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Ostrup氏は、今後はさらに「ソーシャル・カンバセーショナル・コマース (ソーシャルメディアの対話による商売)」が台頭していき、ボットが消費者の買い物をナビゲーションするようになるのではないか、と見ています。

●ボットに求められる応答のスピードは?

Twitterの副社長EMEAのBruce Daisley氏によると、自動サービスからの応答のスピードは、特にソーシャル プラットフォームにおいて極めて重要で、「カテゴリーにもよるが、5分以内の応答は非常に効果的」とのことでした。Daisley氏は、素早い応答でお客様を明確に案内する自動化の重要な例として、英国のスーパーマーケット、「Tesco」のサービス ボットを挙げています。

ブランド構築は自動化できるか?

「これはブランド構築を自動化するということですか?」とFollett氏はAiMENについて質問しました。この質問の意味、「自動化は私たちの仕事を取り上げるのか?」は、カンヌライオンズで、全ての人々が聞きたかったことかもしれません。

●すべては近い将来自動化される

AIによるクリエティビティの数々の事例は、ロボットがこの業界をまもなく支配して行くであろうことを物語っています。ロゴの作成、スピーチの作成、広告コピーの作成あらゆるクリエイティブ制作にAIが使われています。Logojoyはトロントを拠点としたスタートアップ企業で、そのAIを使ったデザイン プラットフォームによって誰でも4つのステップでロゴを作ることを可能にしました。モントリオールのスタートアップ、Lyrebirdはスピーチの作成にAIを使っています。小さなオーディオ器具でどんな声もまねすることができます。一方、ニューヨークでは、PersadoがAIを使って広告コピーの制作を自動化し、昨年、Goldman Sachsからの3000万ドル投資を獲得しています。

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●オフライン広告も自動化へ

AIを使った自動化はオフラインの世界にも広がっています。今年1月、広告代理店Media Direction Groupのロシア支部はAIを屋外広告に導入しました。ノボシビルスクのデジタル ビルボード用に自動化システムを開発し、匿名化された個人のモバイルデータから得られる「近くにいる人の年齢性別職業などのプロフィール」に合わせて広告の内容を自動的に変えることを可能にしました。個々のビルボードごとにリアルタイムでメディアプランが制作され、特定のオーディエンスにだけ該当する広告を表示しています。

●スポーツ放映もロボットで自動化

クリエイティブエージェンシーであるR/GAの副社長兼グローバル テクノロジー主任であるNick Coronges氏は、リアルタイム パフォーマンス データ会社ShotTracker と自動ビデオ制作会社、Keemotionと協力し、6日間の全米インカレ陸上競技協会の大会の模様を放映する「自動放映ネットワーク」を説明しました。「われわれは2台のKeemotionの無人カメラで大会全体をカバーした。統計の専門家やカメラクルーなしで31の競技が、放映された」とCoronges氏は語りました。

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IP(Intellectual Property/知的財産)でAIに挑む

広告コピーの制作から、デザイン、メディア プランニング、ひいては放送のプロセスまでが自動化される時代に、マーケッター自身はどう備えて行くことができるのでしょうか?キーワードは知的財産です。カンヌでの一週間を通して講演者たちは、消費者のために各企業がつくり出したコンテンツは必ず自分たちの知的財産として確保しておくことを奨めていました。
この知的財産を創出する方法のひとつが独自の技術を持つことです。

●アイデアを商品化する

ロンドンに本社のある有名なエンターテイメント代理店、Sunshineのチーフ クリエイティブ オフィサーであるAl MacCuish氏は、マーケターは、ただ注目を集めるだけのものではなく、より拡張性、持続性のあるアイデアを考えなければいけない、と話しました。「注目を集めるだけの人に報酬を払うべきではない。企業のブランドを発信する上で持続性がある方法か、商品化することができるか、を問うべきだ」と。

ボルボのLifePaint 活動は、問題を解決しつつブランド認知を向上させる商品を実現できた、企業の知的財産の良い事例です。ロンドンを拠点とするリサーチ会社、Kantarの副社長兼チーフグローバル アナリストであるNigel Hollis氏によると、ボルボは、自転車に乗る人が反射させたいものに吹き付けて自己の視認性を高め、車との事故を避けるための反射スプレーLifePaintを67,000個販売したということです。「キャンペーンはそれだけで採算が取れました。」

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●オーディエンス エンゲージメントを高める知的財産

「知的財産はわれわれにとってオーディエンス (エンゲージメント)を創出する原動力です」と、中国の情報通信グループMegahiveの共同創設者、Warren Hui氏は発言しました。彼は地域最大の文化的イベント、中国中央テレビのスプリング フェスティバル ガラ放送の話をしました。Megahiveは若者のオーディエンスを引きつけるために、中国のソーシャルメディア プラットフォームWeiboと提携してイベントや中国の新年の祝いに関してディスカッションするためのオンライン プラットフォームを作りました。

「若い人たちにとって、中国の正月を祝うために実家へ帰ることは最大のトピックスです。山ほど知りたいことがあります。」とHui氏は説明しました。「私たちは若者が周りに聞きにくいことについて話し合える場をつくったのです。私たちはただコンテンツを公開するだけでなく、より多くの知的財産を得られることを狙っています。」

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ブランデッド コンテンツの次なる波

企業の知的財産を創出するもうひとつの方法は、コンテンツへの投資です。カンヌではブランデッド コンテンツはマーケターにとって現時点ではまだ有効な手段であると位置付けられていましたが、オーディエンスのアテンションは世界で今、最も価値のあるものであり、企業はその関心を得るためにメディアやエンターテインメント、ゲーム会社と競争しているのです。

●“マルチ プラットフォーム ストーリーテリング“で一貫性のあるコンテンツを届ける

Vivendi のチーフ マーケティング オフィサーであるLucien Boyer氏は、フランスのエンターテインメントの大手企業が「熊のパディントン」のキャラクターのために英国の映像効果会社Framestoreとの提携によって、どのように10年計画を作り上げて、映画公開後もブランドを成長させ続けたかを語りました。
Framestoreの最高責任者、William Sargent氏は、「複数のプラットフォームをまたいで一貫性のある物語を提供する“知的財産のエコシステム”をいかに作り上げるかだ」、と話しました。個別のプラットフォームに限界があるという状況において、核となるアイデアが変わらない事が重要だとSargent氏は言います。「プラットフォームが変わることでアイデア自体の一貫性が損なわれてしまった時に数々の問題が起きるのです。」

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●ブランデッドコンテンツを伝えるための新たなプラットフォームを見いだす

既存のプラットフォームに限界がある一方で、ストーリーを伝えるための新しいプラットフォームを見つける機会は常にあります。Framestoreは2016年10月、金融サービス企業であるモルガン スタンレーと提携し、ニューヨークのタイムズスクエア本社のLCDスクリーン上に自社の持つ多様な金融データを映し出すことにしました。「20年前には誰もこんな方法をストーリーテリングのプラットフォームとしては考えなかった」とSargent氏は語りました。

●自社ブランドならではのコンテンツフォーマットを見つける

当然ながら、すべての企業がVivendiのような予算や手段を持ち合わせている訳ではありません。「この分野のもっとも進んだ会社は知的財産を確保しようとしている」と世界的なライフスタイル グループ、Vice Mediaのチーフ コマーシャル/クリエイティブ オフィサーであるTom Punch氏は話します。「議論の中心になるのは、知的財産の持続性。何度も繰り返されるクリエイティブに耐えうるアイディアなのかどうか、新しいものを何度も作れるのか、一年通してのプログラミングへ拡張できるのか、なのです。」
Punch氏は、ブランドは独自のコンテンツフォーマットを見つけるべきだと提案しています。「あなたの会社が提供するフォーマットはあなたの会社のビジネスとブランドを反映しているべきです。Viceにとってはドキュメンタリー。MTVにとってはミュージック ビデオ。ミシュランにとってはレストラン ガイドです。」

今回は、カンヌライオンズにおける、AIによる自動化の事例や、それに伴う知的財産の確保、知的財産の創出方法について紹介しました。チャットボットを使ったカスタマーエンゲージメントの自動化はマーケターにとっては大きな可能性を示していると思われます。シンプルで洗練され、ソーシャルメディアのやり取りにスムーズに対応していて、ブランド妥当性をも持ち合わせているAiMEN ボットは、ロボットに真剣に取り組むことで何が達成できるかを示した良い例でした。
一方、AIによる自動化が進んだとしても、ブランドがカスタマーエンゲージメントを得る上で重要なのは知的財産を持っていること。ミシュランのレストランガイドの様に、ブランドが最も映えるフォーマットを見つけるのが有効な方法のようです。

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