State of Media ~若い世代のエンゲージメント獲得に成功しているメディアとは?(前編)~

この記事では、「世界で見つけた!マーケティング新潮流」シリーズとして、グローバルでのトレンドやイノベーションを紹介するリサーチ&アドバイザリー・ファーム Stylus (stylus.com)の記事の中から、「今」より1歩、2歩先の生活者やマーケティングを読み解く記事を厳選してお届けします。 ※本記事は、Stylusの日本代表を務める廣田周作氏によるインテージでの講演にstylus.comからの情報を加筆して作成しました。

巷で言われる若者の新聞離れ、テレビ離れ。インターネット、SNSと共に成長した若い世代のメディアとの関わり方が、上の世代と異なるのは必然とも言えるでしょう。

ミレニアル(’81–‘94生まれ)が20代半ば~30代後半となって購買力を持ち、Gen Z(’95–‘09生まれ)が成人を迎えつつある現在。これら若い世代は、インターネットをはじめとしたテクノロジーに親しんで育ち、デジタル、ソーシャル、モバイルを「当たり前」のツールとして使いこなしてきました。特にGen Zは、生まれたときからインターネットがあるデジタルネイティブ第1世代と言われ、その価値観や動向に注目が集まっています。

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そんなGen Zの価値観の重要な前提となっているのが、「みんな違ってみんないい」ということ。Gen Zが「不完全さ」や「傷つきやすさ」に対して寛容であり、むしろ積極的に受容していることは知られつつありますが、その背景には「自分らしくあること」や「自分らしさを受け容れること」に重きを置いているということがあるでしょう。そういった価値観のもと、Gen Zをはじめとする若い世代が支持するメディアは、「これが正しい」「こうあるべき」などと正解、規範を押し付けるのではなく、「人と違う」自分を肯定してくれたり、「自分らしさ」にまつわるテーマについて考えや対話を深めたりするような発信をしているという特徴が見られます。

「(若い人たちは)皆さんのコンテンツを使って、“自分らしさ”を表現できているでしょうか。」これは、2017年に開催された若者向けマーケティングの業界イベントYouth Marketing Strategyで、英語圏のミレニアルから絶大な人気を誇るライフスタイル・サイトRefinery29のマーケティング部門長Tama Riley氏が投げかけた問いです。State of Media(前編)では、「自分らしさ」を実現、表現する手段として、若い世代に信頼・支持されるメディアがどのような役割を果たしているのかについてご紹介します。

「自分らしさ」の表現、実現を応援するコンテンツを

若い世代は、「違いがある」ことが前提となった、ポスト・ダイバーシティ世代であると言われています。音楽・映画・インタラクティブ(テクノロジー)の祭典で、次のトレンドを見つける場としても注目されているSXSWでも、2019年には、もはや当たり前の価値観となったダイバーシティについて声高に訴えることがなくなりました。「1人1人に価値がある」と考えるこの世代の心をつかむには、「私」固有の経験について語っている、と感じてもらうことが必要となるでしょう。

「主流ではない」人々や、従来は表舞台で注目されてこなかった人々に目を向けることも重要です。これまで表立って取り上げられることが少なかった人々のニーズや価値観に応えるプラットフォームや、コミュニティとしてのメディアと連携し、発信をするブランドも見られるようになりました。

例えば、イギリスのオーガニック美容ブランドLushは、イギリスで若いムスリム女性向けのオンラインメディアやECサイトを運営するAmaliahとコラボし、パレスチナで誕生した中東初のイスラム法の女性判事、Kholoud al-Faqih氏を描いたドキュメンタリー映画を上映しました。上映と合わせて、イギリス在住のエンジニアであり、且つアイデンティティやフェミニズムについて著書やメディアで発信しているYassmin Abdel-Magied氏の司会のもと、ムスリム女性だけのパネルディスカッションが行われました。弁護士やシャリア法の評議員からなるパネリストたちは、女性の権利やイスラム世界におけるフェミニズムについて議論しました。

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「ムスリム女性のような“ニッチ”な存在は、“インクルーシブ”とか“ダイバーシティ”とかいうときだけ旬な存在として話題にのぼる。だから、安全と感じられるコミュニティの場があり、疑問に対して声をあげられるというのは特別に大切なことなの。Amaliahなしでは成し遂げられなかったわ」とAmaliahの共同創立者Nafisa Bakkar氏は語りました。

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また、スイスの飲料ブランドSchweppesは、ALT(「オルタナティブ」を表す)という新たなラインの立ち上げの際、Gen Zに支持されるメディアViceと組んでコンテンツを制作しました。Viceと組んだキャンペーンでは、人とは違った分野でパイオニアとなった人々をフィーチャーした「Self Portraits」という動画シリーズを制作しました。その中の1つに、ほとんど男性ばかりのスケートボード界においてトップに上りつめた、オーストラリアの女性スケートボーダーShanae Collins選手を描いた動画があります。このキャンペーンを通して、ALTは「自分らしさ」を表現するだけでなく、臆することなく「自分らしさ」を実現することについても真剣に取り組んでいることをアピールしました。

「情熱」や「こだわり」を通して、自分らしさを定義する

メディアとの関わりを通して「自分らしさ」を定義する際に、自分の大好きなこと、情熱を傾けていることやこだわり、趣味は重要な軸となります。オンライン上で「自分が何者であるか」を示すコンテンツを創ることに長けているBuzzFeedのサイトでは、「●●にしか解けないクイズ」と称して、●●に「平成生まれ」「都民」などの年代や地理的条件、「デザイナー」などの職業から、「旅好き」「韓国通」「~ファン」など情熱を傾けている対象や趣味、こだわりを当てはめて、読者が「自分」に当てはまるクイズや診断を楽しめるコンテンツが用意されています。

また、BuzzFeedから派生したレシピ動画のサイトTastyは、2017年4月にはページビューが10億に達し、親会社以上に成功した存在となっています。BuzzFeedのソーシャル部門の長であるMichelle Kempner氏は、DigidayのLucia Moses氏に対し、Tastyが「食だけでなくアイデンティティを表現する場」ともなったため成功したと語っています。

Tastyが人気を博したことを受け、BuzzFeedはDIYやアウトドア、ペット関連の記事があるNiftyや、旅行好きのためのBring Me、ウェルネス関連にフォーカスしたGoodfulなど、情熱を傾けていることやこだわり、趣味やライフスタイルといった切り口で若い世代が「自分らしさ」を表現できるコンテンツを提供しています。

BuzzFeedのこういったスタイルは、他のブランドにも影響を与えつつあります。例えば、2017年11月にオープンしたBMWの新しいウェブサイトでは、製品を全面に押し出すのではなく、ライフスタイル記事を中心に据え、既存の、さらには潜在的なBMWファンたちの関心や欲求に応えるラインナップとなっています。

自分を「良くしたい」「向上させたい」欲求にも応える

若い世代は、メディアとの関わりを通して、自分らしさを「表現」するだけでなく、自分を「良くする」「向上させる」ことも求めています。自分を「良くする」「向上させる」には、新しいことを学んだり、心身ともによい状態で生活を送ることも含まれます。

YouTubeのヨーロッパ・中東・アフリカ地域のコンテンツ・ソリューションの長Lucy Banks氏は、YouTubeでHow-to動画が人気なのは、若い世代が熱心に「向上」を目指したためだと語りました。Googleは、2017年に「86%の視聴者は、何か新しいことを学びたくてYouTubeを見に来ている」と述べています。

How-to動画は、若い世代にとって、これからも何か新しいことを学びたいときの重要な情報源であり続けそうです。例えば、イギリスで最大規模の育児サイトを運営しているNetmumsの創立者Siobhan Freegard氏は、イギリスのテレビ局ITVの支援を受け、2016年2月、ミレニアル世代の母親向けに、動画ブログサイトChannelMumを立ち上げました。Freegard氏は、「今後、育児情報は動画を通して学ぶことになるでしょう」と述べています。

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また、Stylusの廣田氏は、2018年から2019年にかけて、Pinterest上では「Self-care routine(セルフケア習慣)」という言葉の検索が大きく伸びたと述べています。「嫌なことがあった日に心を回復させるにはどうすればいいのかをみんな探している」と廣田氏は言います。また、「ストレス解消の仕方」「よく眠れる方法」などのHow-to動画も人気とのことです。

若い世代の、社会的・政治的な関心に応えよう

これまで見てきたように、若い世代の間ではダイバーシティは当然の価値観となり、マーケティングの分野でも、これまで社会的弱者やマイノリティとされてきた人々も含めて、すべての人々の価値を認め社会に包含していこうという「インクルーシブ」が近年注目されるようになりました。また、社会や環境とのつながりを考える「サステナビリティ」への関心も高まっています。
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政治や経済も含めた社会における諸問題は、今日の若い世代にとって「自分ゴト」であり、メディアの側も、若い世代の政治・経済・社会への関心に応えようとしています。例えば、Teen Vogueは、2015年に、前述のRefinery29でシニア・ビューティ・エディターを務めていたPhillip Picardi氏をデジタル・エディトリアル・ディレクターに採用、それまで若い世代は関心がないと見なしていた人工中絶の権利やイスラム過激派組織との闘いといった社会的・政治的な課題についても積極的に取り上げるようになりました。その結果、「2年間で(サイトの)トラフィックが226%増えたよ」とPicardi氏はアメリカのメディアFast Companyに語りました。

Picardi氏は2018年にTeen Vogueを去りましたが、現在でもTeen Vogueのサイトには、「Politics」「Identity」のセクションが設けられ、前者には「America’s Workplaces Aren’t Often Safe for LGBTQ Employees(LGBTQの従業員にとって、アメリカの職場は安全でないことも多い)」「Meets the Women Revolutionaries Who Shaped Mexican History(メキシコの歴史をつくった女性革命家たち)」といった記事が、後者には「I Came Out as Bisexual to My Grandmother and Her Reaction Shocked Me(おばあちゃんにバイセクシャルだと打ち明けたら、驚きの反応を示してくれた)」「Troian Bellisario Wants Her Younger Self to Know “You Are Worthy of Being Loved”(Troian Bellisarioは若き日の自分にこう言いたい -あなたには愛される価値があるのよ、と)」といったセクシャリティやメンタルヘルスなどに関わる記事が掲載されています。

不完全さや傷つきやすさ、自分の弱さを認め、受容し、他の誰とも違う自分であることを尊重するGen Zをはじめとする若者たち。社会課題を自分ゴトとして考え、自分らしくありたいと願う彼らが支持し、信頼するのは、一方通行に「正しい」答えを押し付けるのではなく、自分の考え、自分にしっくりくる価値観を見つけることを助けてくれるメディアなのです。

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