世界の最新動向に見る、小売の未来(前編)

この記事では、「世界で見つけた!マーケティング新潮流」シリーズとして、グローバルでのトレンドやイノベーションを紹介するリサーチ&アドバイザリー・ファーム Stylus (stylus.com)の記事の中から、「今」より1歩、2歩先の生活者やマーケティングを読み解く記事を厳選してお届けします。 ※本記事は、Stylusの日本代表を務める廣田周作氏によるインテージでの講演をもとに作成しました。

スマートフォンが普及し、ECサイトやフリマアプリを利用した買い物が一般的になる中、「店」の在り方を再定義する動きが見られるようになりました。

例えば、Appleが2016年、サンフランシスコにオープンした旗艦店「アップルユニオンスクエア」は、エデュケーション、エンターテインメント、そしてコミュニティを融合させた新しい形の「場」となっています。商品自体はネットで購入されることも多い現在、「Apple Union Square」は、Appleのカスタマーサポートチーム「ジーニアス」に相談したり、日々開かれているセミナーに出てみたり、地元のミュージシャンのライブを聴いたり、と人々が行き交い、集う場所として再定義されました。

「店」の新たなアイデンティティが模索される中、世界ではどのような取り組みが生まれているのでしょうか。「小売の未来」(前編)では、生活者の「今、ここ」にある衝動やニーズに対応したサービスや、「新品」「購買」「所有」にこだわらない時代に対応した新たなビジネスモデルについてご紹介します。

個々の生活者の「今、ここ」にある衝動、ニーズに応える

これからの時代、生活者を購買に向けて動かすのは、過去の購買履歴に基づいたリコメンデーションではなく、彼らの「今、ここ」にある衝動やニーズへの対応となりそうです。

その1つとして注目されるのが、タレントやインフルエンサーとのライブチャットを通して、購買に向けて人を動かすライブコマースです。(※ライブコマースの関連記事はこちら)アジア、特に中国で隆盛を誇っていて、男性の美容ブロガーが紹介した化粧品が爆発的に売れるという例も見られます。日本でも、ライブコマースのアプリ「Live Shop!」が2016年にリリースされ、フリマアプリを運営するメルカリもライブコマースの機能「メルカリチャンネル」を2017年にローンチするなど、ライブコマースへの関心が高まっています。

小売の未来1_1.png

ライブチャットとECサイトの融合とも言える取り組みも見られるようになりました。ラグジュアリーブランドを多数保有するLVMHが提供する24 sevresや、ドイツのEC業者Zalandoが運営するサービスZalonでは、スタイリストやビューティコンサルタントとチャットでコミュニケーションを取り、個人的なアドバイスを受けることが可能です。

小売の未来1_2b.png

また、音声認識技術が進化する中、「声での会話」をブランドの接点として重視する動きも強まっています。例えば、イギリスのウイスキーブランド、Johnnie Walkerは、AmazonのAlexaを介して、ウイスキー飲用者の家呑みをより豊かにする経験を会話スタイルで提供しています。(※関連記事はこちら)AI チャットボットが進化すると、これまでは1人1人の顧客に対してパーソナライズされた「おもてなし」が難しかった業界、例えば銀行などでも、個々の顧客の課題に合わせた対応ができるようになるでしょう。

さらに、AIチャットボットの進化により、顧客の感情を高度に解析し、気分に合わせた会話をすることも可能になりつつあります。これまでのAIチャットボットは、テキストの論理構造に基づき最適な回答を返すというロジックでしたが、現在では心拍変動データを使うなど、感情を高度に解析できるようになってきました。さらに、MITの開発したAlterEgoのように神経筋信号を読み取る仕組みが用いられるようになると、より一層高度な感情や思考に対応が可能となるでしょう。

Affective Computingといわれる、感情を解析するコンピューティングの市場は今後大きな成長が期待されていて、「小売の未来」においても「買う瞬間」の感情を読み取り、カスタマーサポートの運用にフィードバックしていくことが重要になっていくと予想されます。中国のEmotibotは、レジ横にカメラを設置してデータを取得、感情を解析し、なぜ購入に至ったのかを分析して、チャットボットも提供するという、テクノロジーを使った小売業向けのソリューションをワンストップで提供しています。

小売の未来1_3.png

データを使ってさまざまな「瞬間」に潜むニーズに対応しようとする動きにも注目です。イギリスのスーパーマーケットWaitroseが行っている取り組みはその一例です。例えば、仕事を終えて子どもを迎えに行き、夕食のメニューを考え、スーパーマーケットで買い物もしなければならない忙しい夕方。そんなとき、Waitroseは、顧客の購入履歴のデータから冷蔵庫の在庫や趣味嗜好を推測、さらにその日の特売品と組み合わせて、「今日はこれを買ったら?」と提案してくれます。スーパーマーケットには寄らなければなりませんが、最適なものを買えるように働きかけをしてくれる仕組みを作り、ECで買うよりもお店で買った方が早くて簡単という状況を作っています。

小売の未来1_4.png

新品を「買わない」「持たない」時代の新たなビジネスモデル

「小売の未来」を考えるとき、従来型の、企業が新しい商品を販売し、生活者がそれを買い、所有して、消費や使用するといったスタイルからの転換にも注目です。

生活者が「新しい商品」、さらには「新品」にこだわらなくなったということも新たな潮流の1つと言えるでしょう。オークションサイトやフリマアプリなど生活者どうしで中古品の売買をすることが一般的になりつつある中、そういった動きに応えるブランド側の取り組みも始まっています。その象徴的な例として、Apple、Samsungが挙げられます。新しいモデルが出たら、旧モデルを下取りしてメンテナンスを施し、「公認」の中古デバイスとして自社のサイト内で販売をしています。

小売の未来1_5.png

同様の動きは、ファッションブランドでも見られます。エコ意識の高いプレミアムブランドであるアメリカのEileen FisherやスウェーデンのFilippa Kは、自社の管理下に中古ショップを置いて人気を博しています。フリマアプリやオークションサイトで自社ブランドの中古品が売買されるのであれば、いっそのこと自社で下取りし、イメージ戦略も含めたブランド管理を行いつつ利益も得ていこうという発想の転換が見られるようになりました。

小売の未来1_6.png

シェアリングも注目すべき成長市場です。最近は、そもそも販売の時点からシェアできる仕組みを組み込んだ商品も登場しています。中国の自動車メーカーLynk & Coの電気自動車はその一例です。車両に搭載されたプラットフォーム上で、貸したい人と借りたい人のマッチングや決済などを完結することができます。貸し手にレンタル料が入るとともに、メーカーにも手数料が入る仕組みです。カーシェアリングが普及すると、メーカーにとって新車販売は厳しくなることが予想されます。そこで、貸し借りの経済にしっかり入り込むために、シェアするためのサービスをそもそも組み込んでおこうという取り組みが始まっているのです。

個人が所有する商品を貸し借りするプラットフォームも生まれています。アメリカのスタートアップOmniが運営するプラットフォームでは、例えばある人が自転車を貸し出したいと思ったら、Omniのコンシェルジェが自転車を回収に来て、写真を撮り、UPしてくれます。ユーザーは自分で設定した価格で借り手を探すことができ、Omni側は月額の手数料を受け取ります。現在、Omniでは10万以上の商品の貸し借りが可能とのことです。


小売の未来1_7d.png

また、「サブスクリプション」と呼ばれる定額サービスも盛んになってきています。日本でも話題になっているベビー服のサブスクリプション。デンマークのベビー服ブランドViggaでは月額制で、赤ちゃんの成長に合わせたサイズの服を受け取り、着せて、返却し、また次の服を受け取る、というサイクルでサービスを提供しています。高級アパレルや家具もサブスクリプション・サービスで提供される今日、新しい商品を買う意味が問い直されています。

小売の未来1_8.png

一方、新しい商品を買ってもらうために、企業もさまざまな努力をしています。返品無料のお試し期間をこれまでの常識と比べて非常に長く設定するようになったのはその一例です。アメリカの寝具ブランドCasperでは、100晩まで返品無料でお試しすることができます。アメリカのオーディオブランドSonosやドイツのEC業者Zalandoも同様に、100日間のお試し期間を設定しています。

小売の未来1_9.png

このように、レンタルやサブスクリプションが普及する中で、「ブランド」の在り方も問われるようになるでしょう。ブランド問わずサブスクリプションで届くものであれば何でも構わない、となるものと、反対に、このブランドでなくてはならない、と選ばれるものとに二極化されるかもしれません。そのときに、後者として残るのは、自分に合ったもの、パーソナライズされたものとなる可能性があります。「パーソナライズ」を考えるとき、膨大な履歴データを持つECが圧倒的に優位な立場に立つことになりそうです。「パーソナライズ」にどう対応していくかが、ブランドにとっては今後キーとなるでしょう。

※「小売の未来(後編)」はこちら

転載・引用について

本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。本レポートの内容を転載・引用する場合には、「インテージ調べ」と明記してご利用ください。お問い合わせはこちら

【転載・引用に関する注意事項】
 以下の行為は禁止いたします。
・本レポートの一部または全部を改変すること
・本レポートの一部または全部を販売・出版すること
・出所を明記せずに転載・引用を行うこと
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる可能性がある利用を行うこと

※転載・引用されたことにより、利用者または第三者に損害その他トラブルが発生した場合、当社は一切その責任を負いません。
※この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません。

関連記事