世界の最新動向に見る、小売の未来(後編)

この記事では、「世界で見つけた!マーケティング新潮流」シリーズとして、グローバルでのトレンドやイノベーションを紹介するリサーチ&アドバイザリー・ファーム Stylus (stylus.com)の記事の中から、「今」より1歩、2歩先の生活者やマーケティングを読み解く記事を厳選してお届けします。 ※本記事は、Stylusの日本代表を務める廣田周作氏によるインテージでの講演をもとに作成しました。

「小売の未来」(前編)では、ライブコマースや感情解析に基づいた会話を行うチャットボット、さまざまな「瞬間」に潜むニーズに対応するサービスといった、生活者の「今、ここ」にあるニーズに応えるサービスや、「新品」「購買」「所有」にこだわらない新たな時代に対応した中古市場やシェアリング、サブスクリプションといったサービスをご紹介しました。

「小売の未来」(後編)では、IoTの進化が生活にもたらす変革とその中での小売の役割、また、「リアル店舗」ならではの「場」を活用したさまざまな取り組みについてご紹介します。

IoTでつながる小売と生活者

「小売の未来」において、IoTの進化は大きな変革をもたらすと予想されています。今までの業界の垣根を超えて、生活全体をサポートするサービスが出現するでしょう。イギリスのAIエキスパートで、テクノロジー会社Us AIの創立者でもあるPete Trainor氏は、2030年までには1世帯あたり100個くらいのコネクティッド・デバイスを所有するようになると予想しています。

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2017年のConsumer Electronics Show (CES)で、フランスの酒造メーカー、Pernod Ricardは「コネクティッド・カクテル・ライブラリー」を発表しました。このサービスではスピリッツの入ったディスペンサーのセットが届けられます。ディスペンサーはシステムと連携し、どのスピリッツをどれだけ使ったかをモニターしていて、今家に残っているスピリッツでどんなカクテルを作れるかなどレシピを教えてくれたりします。今後は、近所のスーパーマーケットと提携して、なくなりそうになったスピリッツを補充したりといったサービスの提供にもつながりそうです。

AIを使ってのレコメンデーション・サービスも注目されています。イギリスを拠点とするMuchoは、AIを使ってレシピをレコメンドしてくれるアプリで、Amazon EchoやGoogle HomeといったAIアシスタントとの連携が計画されています。Muchoのある生活は、こんなふうにイメージされています。出勤前に、Amazon Alexaに「今日の夕食、何にしたらいいかな?」と聞くと、AIによる予測と冷蔵庫にある在庫に基づき、メニューが提案されます。そして、食材が注文され、帰宅までに届けられます。さらに、スマートフォンの位置情報により帰宅時間も予測され、家に着くころにはコネクティッド・オーブンが、そのメニューを調理するのに最適な温度に予熱されています。そして、AIアシスタントが教えてくれるレシピどおりに作れば、夕食が完成、というわけです。スーパーマーケットなど食品を取り扱う小売は、アプリと提携して注文に対応する形を取ることもできますし、自社のアプリにMuchoを組み込むことも可能とされています。

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また、今後は、自動車とAIアシスタントの連携も注目されます。コネクティッド・カーは、音声で操作するAIアシスタントとつながることで、IoTのインターフェイスとして中心的な存在になりつつあります。Fordは既に車内のダッシュボードにAmazonのAlexaの技術を統合しています。例えばドライバーがコーヒーを飲みたいと思ったら、Fordと提携しているスターバックスのコーヒーを音声で注文し、最寄のスターバックスで受け取ることが可能になっています。

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「リアル店舗」ならではの「場」の活用

今後、リアル店舗も進化を遂げていくことになるでしょう。リアル店舗は「体験」の場へと付加価値を高めていくことが重要となると見られています。

イギリスのSandboxが2017年にロンドンに半年間オープンしたポップアップストアは話題のテック製品をキュレートし、テクノロジーのアーリー・アダプターたちが新製品を体験したり、誰かと一緒に作業をしてみたいといったニーズに応える環境を作りました。さらに、毎月新たにお披露目される新製品がいつまで展示されているか保証されない状況を作ることで、アーリー・アダプターたちのFOMO(Fear of Missing Out、見逃してしまうことへの恐れ)に訴えかける仕組みとなっています。

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イベントなどを通して、人々のウェルネスに貢献する場を作るといったことも、未来のリアル店舗を考える上で1つのキーとなりそうです。ロンドンではVirgin Groupが週末にウェルネスイベントを実施して大変な人気を博していますが、同様にウェルネスをテーマとしたイベントは世界中で注目を集めています。カナダ発祥のヨガウェアブランド、ルルレモンも「コミュニティクラス」を開催、ヨガ教室や、クラブミュージックが鳴る中でのボクササイズなど、店舗で心身のウェルネスの向上に貢献する取り組みを行っています。

また、デジタル化に伴い支店の閉鎖が進む銀行の動きにも注目です。スコットランドの銀行ClydesdaleがロンドンにオープンしたStudio Bは、インタラクティブなfintechのショールームとなっています。さらに、夕方にセミナーや婚活イベントを開催するなど夕方以降の時間に支店をどう活用するかも含め、リアル店舗の新たな役割を模索しています。

「教育」をしていかないと商品の良さが伝わらない時代に入り、リアル店舗を教育の場として活用する取り組みも注目されています。ASICSのベルリン店には理学療法士やトレーナーが常駐しています。来店客は彼らによるトレーニングを受けつつ、新しいウェアやシューズの提案もしてもらうことができます。こういった取り組みは、従来型のブランド・プロモーションから、新たにブランド・エデュケーションの時代に入ったことを示す1つの事例と言えるでしょう。

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一方で、リアル店舗をエンターテインメント化したのがNikeです。実験的な店舗NikeLabでは、雨や霧、竜巻などさまざまな気象のシミュレーションがインスタレーションで展示されています。来店客がインスタレーションに近づくとミニ竜巻が生まれ、手を伸ばすと渦が手の周りに移動し、センサーが起動してストロボの雷と「雨」が投影される、というように、来店客の記憶に残る体験を作り出しています。

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最後に、人々がコンビニに「行く」のではなく、コンビニに「来てもらう」という発想の転換で新たなリアル店舗の形を提案した、スウェーデンのコーヒー・カート業者Wheelysと、中国の合肥工業大学、リテール・テック企業Himalafyによる取り組みをご紹介します。太陽光で動く自動運転のマイクロ・ショップMoby Martは、ちょうどUberで自動車を呼び出すようにアプリをタップすれば、家の前までやってきてくれます。来店客はアプリを鍵としてMoby Martのドアを開け、買いたい商品をスキャンし、店を出るときに課金される仕組みになっています。現在ベータ版のプロトタイプとして運用中のため人間が動かしている状態ですが、今後はAIと空間認識可能な視覚センサーを用いて自動操縦できるようになる予定です。

本記事では、テクノロジーの進化や、新品を「買わない」「持たない」時代に生まれた新たなビジネスモデル、「店」のアイデンティティを模索する中で挑戦されているさまざまな取り組みを「小売の未来」としてご紹介しました。しかし、変わっていくのは小売と生活者の関係だけではありません。日用品も含めたサブスクリプション・サービスの利用が一般的になり、AIアシスタントが今晩の夕食の面倒まで見てくれるという未来では、「ブランド」が持つ意味、マーケティングの在り方も大きく変わってくるでしょう。Intage知るGalleryでは、今後も、変わり続ける小売と生活者、ブランドと生活者の関係に注目し、世界の最新動向をご紹介してまいります。

※「小売の未来」(前編)はこちら

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