SEMINAR
2023/7/20

ワークマンから学ぶ、
顧客理解と顧客体験デザイン
~アンバサダー・マーケティングによる
商品開発と情報発信~

2023年5月23日、インテージCXコンサルティング部主催で、CXに関する勉強会「ワークマンから学ぶ、顧客理解と顧客体験デザイン」を実施しました。
当日は小雨が降る中の開催でしたが、60名強の方にご来場いただきました。

当日の構成は、はじめにワークマンの林 知幸部長より、「アンバサダー・マーケティングによる商品開発と情報発信」についてご講演いただきました。その後、法政大学名誉教授の小川先生より、ワークマンのマーケティングについての理論的な枠組みと、マーケティング施策を立案するための活用上のヒントなどを解説していただきました。最後に、参加者から質問を受けてディスカッションという流れでした。

ワークマンの林様のお話は、下記の内容に準じたものとなっています。詳細については、こちらの資料(前・中・後編)を参照ください。

(前編)
https://www.intage.co.jp/lp/service/cxm/cxroom/casestudy/workman01/

(中編)
https://www.intage.co.jp/lp/service/cxm/cxroom/casestudy/workman02/

(後編)
https://www.intage.co.jp/lp/service/cxm/cxroom/casestudy/workman03/

今回は、勉強会の後半で行われた、小川先生によるマーケティング施策についての考察と活用のヒントについてご紹介したいと思います。

ワークマンのアンバサダー・マーケティングにおけるユニークさとは

はじめに、「ワークマンのアンバサダー・マーケティング」におけるユニークさについて、3つのポイントで整理します。

1つ目は、アンバサダーの役割という点で、製品開発と情報拡散の2つのプロセスを分離してマネジメントしていることです。
通常の企業は、製品開発と情報拡散のプロセスをどちらも社内で実行します。しかし、ワークマンは、製品開発の段階では、社外の熱烈なファンをアンバサダーとして巻き込み、情報拡散の段階では、同じく製品アイデアの情報発信についても協力を仰いでいます。このように製品開発と情報拡散の2つのプロセスで異なった役割のアンバサダーをマネジメントすることで、外部の知恵を活用する仕組みは、過去に例がないと思われます。

2つ目は、新製品の開発と既存品の改良に貢献できそうな、コアな生活者をデータから発見する手法を確立したことです。
通常のマーケティング(特にリサーチ分野)では、大規模なサンプルを集めてきます。大量データの平均値(標準的な傾向値)から物事(マーケティングの方向性)を判断します。しかし、ワークマンのやり方は、大規模調査によるのではなく、POSデータ上で「n=1」の外れ値を発見するところから始まります。
そして、見つけてきたユニークな「外れ値」に関係のありそうな情報を、ソーシャルメディアなどで探しながら、「目視」で適任のアンバサダーを見極めます。
このように、データの外れ値に着目してアンバサダーを見つけ出し、その方を起点に製品開発をスタートさせます。このような大がかりな仕組みは、今までなかったように思われます。
何かクリエイティブな発想を得ようと考えたら、平均値ではなく、ユニークな外れ値を探し出すことから始めることが重要であることがうかがえます。

3つ目は、特定の分野で「芸の達人」であるアンバサダーを、上手にマネジメントするノウハウを獲得し、グループで運用する手続きを確立したことです。
例えば、先日ワークマンの社外取締役に就任されたYouTuberの「サリー」さんは、キャンプブログなどでアンバサダーとして活動しています。サリーさんがキャンプの達人であるように、アンバサダーは皆、何かの「芸の達人」といえます。熱狂的なファンの中からこういった人物を探し出し、社内の製品開発や情報拡散の活動に参画してもらうことは、ある種タレントをマネジメントする仕組みと似ています。卓越したアイデアとスキルを持ったアンバサダーたちのマネジメント・システムを確立できたのは、日本初ではないかと思われます。

顧客価値の考え方に基づくマーケティングの革新性

続いて、ワークマンのマーケティングの革新性について、顧客価値の考え方を用いて整理します。
製品・サービスに対して顧客が感じる価値は、「顧客価値(V)」と呼ばれます。
「顧客価値の方程式」は、分子が「ベネフィット(B)」で、分母が「コスト(C)」で表現されます。つまりベネフィットの束をコストで割ったものが、顧客が製品やサービスに見出す価値となります。

分子のベネフィットを大きく分けると、機能的/情緒的/社会的/快楽的価値となります。一方で、分母のコストは、実際に支払った「金額(P)」に加えて、製品やサービスを手に入れるために費やす「時間(T)」や、購買や消費のための「努力(E)」に分けられます。費やす時間があるだけではなく、実際に購買する・消費するといった行動が伴わなければならないからです。

ワークマンの革新性は、もともと「機能的価値」を重視していたところに、キャンプ用や登山用の製品といったアウトドア体験で得られる喜び、すなわち「快楽的価値」を付け加えているところです。同じ機能の作業服であっても、付加的な要素として快楽的価値があるので、ベネフィット(分子)はプラスになります。
さらに、実際にアウトドア体験をするため、通常はコストになる「活動に費やす時間」や「購買・消費のための努力」が、単なるマイナスではなくなります。体験で得られる喜びをイメージしながら、実際の活動を検討したり、購買そのものを楽しむといったプラスの要素も兼ね備えているからです。

ワークマンの成功の要因を整理すると、ベネフィットに快楽的価値を付け加えた点と、コストである「時間」や「購買・消費の努力」にプラスの要素が含まれる点にあるのではないかと考えます。

ワークマンのマーケティング戦略

最後に、ワークマンのマーケティングの流れについて整理します。

はじめに事業領域の選択についてです。ワークマンは、当初の業者向け作業着という事業から、一般向けのアウトドア用品にビジネスドメインを拡張しました。
市場の細分化という観点からは、作業服を必要とする作業員という狭いターゲットから、機能性衣料を求める顧客に層を広げていく戦略に転換しました。
製品・サービスのポジショニングについては、価格と機能を重視しながらも、デザインや情緒的な特徴を重視する製品提案に舵を切っています。

そしてマーケティング・ミックスの4Pについては、それぞれ以下のように整理ができます。

何を売るか?(Product): 機能性に加えて情緒性も重視し、便利さや使い勝手の良さを追求した製品を一般向けに開発。
いくらで売るか?(Price):低価格でありながら高機能を訴求。
どこで売るか?(Place):郊外のロードサイド中心に店舗を構えていた中で、ワークマンプラスやワークマン女子を筆頭に、ショッピングモールへ出店。
どのように知らせるか?(Promotion):従来はマスメディアを活用していたが、現在はマスメディアを全く活用しておらず。アンバサダーと協力しながらパーソナルメディア(SNS)中心に展開。

ここまでが小川先生による解説となります。

改めてワークマンのアンバサダー・マーケティングは、顧客理解の観点で非常にユニークに思われます。POSデータから外れ値を見つけ、その製品が実際に使用されるシーンを起点にアンバサダーを巻き込んだ製品開発や情報拡散を行い、より広い顧客層に対して価値ある顧客体験を提供しています。
アンバサダー・マーケティングも含めて、ワークマンの今後の取り組みも引き続き目が離せません。

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