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「優れた日本製」だけで海外進出の準備はOK?海外進出・参入可否判断のための重要8ポイント~イノベーションの論点②

この【イノベーションの論点】は、ビジョン・オリエンティッド・コンサルティング(VOC※)を標榜し、企業や業界のビジョン創発を支援しているインテージのコンサルタントメンバーが、企業の課題解決に向けた独自の視点やアプローチについて解説するコラムです。第2回はシニアコンサルタントの尹 錦花が海外進出・参入可否を判断するための8つの重要ポイントについて解説します。


前置き

日本の市場は飽和しており、人口は減少傾向。
そんななか、多くの日本企業は海外にその成長機会を模索している。

私は2002年から日本企業の海外ビジネス展開を支援する仕事をしている。
その間の知見や経験から海外進出の一般的な進め方には、おおよそ8つほどの大切なポイントがあることに気づいた。
海外ビジネスに興味を持つ皆様に共有していきたいと思う。

今回は、まず海外市場展開の一般的な進め方、なかでも初めの段階で必要な「参入可否判断」から始めたい。

海外市場展開の一般的な進め方

海外関連の仕事に携わっていると、上記のようなお客様の悩み声に触れることが多い。
消費者の受容性も市場規模も流通構造も知りたいことは盛り沢山だが、現実的にはすべて調査できないのが事実。
コネクションがある流通業者を通じて一旦進出はしたものの、製品のターゲットにアプローチできずに、思うように売れないという話も聞く。
また、ユーザー調査をして製品の受容性は確認しても、現地生活者の好みにあった製品仕様になっていなかったり、コミュニケーションが不充分だったりする。

図表1は、海外市場展開の場合の一般的な進め方である。

図表1

海外市場展開の場合の一般的な進め方のイメージ図

進出検討段階においては、市場性判断および有望商材、有望国の絞り込みが目的である。
そのために、どんな情報を収集・分析すべきか?
人口や経済成長力などのマクロ環境を分析する、業界カテゴリーおよび輸出入などの関連法規制が重要、消費者の受容性も大事、販売パートナーの有無、などと思い浮かべることだろう。次の章ではこのための検討フレームとなる8の視点についてを紹介する。

海外市場への参入可否判断のための8視点

私の経験からまとめると、進出検討段階に必要なのは下記の8視点である。ただし、並べ順には特に意味がない。

● 海外進出を検討するにあたり、参入可否判断のための8視点

業界市場規模は充分に見込めるか、今後も成長が見込めるか、など
競合独占度合が高くないか、成熟市場で出遅れではないか、ローカル系が強すぎて、外資系メーカーの参入が厳しくないか、など
流通インフラ物流や売り場で自社ビジネスモデルが成り立つためのインフラが整備されているか
ユーザーユーザーは対象カテゴリー製品にどんなベネフィットを求めるか、日本とは違う使い方やベネフィットを求めていないか
法規制製品そのものの成分や販売規制はあるか、外資や輸入に対する規制はあるか
商流・パートナー現地の商習慣、流通構造を把握し、自社にとって有利且つ実現可能な商流はどれか
リスク投資レポートなどからカントリーリスクを抑える、先行企業の失敗/撤退事例を抑える
使用環境対象カテゴリーの使用環境、使用習慣、使用文化など

上記の8視点のうち、競合、ユーザー、商流・パートナー、この3つの視点に関しては、ビジネスの成功を決定するキーであるため、進出決定後に深堀分析が必要である。
また、製品を上市するにあたっては、スペックや訴求方法などにおいて、現地のレギュレーションに従う必要があり、該当カテゴリーの法規制も全面的に抑える必要がある。これら項目の深堀については、次回以降に詳述することとし、ここでは、まず上記8つの視点について、進出検討段階において抑える必要最低限の要点について具体的に述べることとする。

業界

業界視点では、市場規模は充分に見込めるか、今後も成長が見込めるか、自社製品が業界のトレンドに乗れるかを確認する。
この時に重要なのはカテゴリー全体だけではなく、自社のリソースで戦えるサブカテゴリー市場を見つける/定義する必要がある。例えば、健康食品の場合は、健康食品市場だけではなく、〇〇向け、○○系の健康食品市場というような定義が必要である。
そのためには、どんな製品が伸びているか、どのチャネルが伸びているか、売れ筋商品はどんな特徴があるか、などを分析して、自社製品がそのトレンドに乗れるか、確認する必要がある。

競合

競合視点では、独占度合が高くないか、多くのブランドがあり、成熟市場で出遅れではないか、ローカル系が強すぎて、外資系メーカーの参入が厳しくないか、という判断をする。
また、主要メーカーの主要ブランド、主要製品の特長を抑える必要がある。売り場などをチェックし、市場がどんな競争構造になっているか、売れ筋商品はどんなものか、自社製品が対象市場で優位であるか、を見極める必要がある。
私の経験から見ると、日本ほど製品が細分化されていて、種類が豊富な国はない。細かい市場ニーズに答えている日本製品とサービスは必ず差別化ポイントがあると考える。
本格的に進出を決めた場合は、競合製品のポジショニング、マーケティング戦略などについて、深堀分析をし、競合の強み弱みを見極めたうえで、自社優位を確保することを勧めたい。

流通インフラ

流通・インフラ視点においては、物流や売り場で自社ビジネスモデルが成り立つためのインフラが整備されているか、を確認する。特に発展途上国に向けてチルド商品、冷凍商品、ビール、など、温度コントコールが必要な商材を展開する場合は、物流や売り場における温度管理システムが整備されておらず、停電することも多いため、特に必要である。
本格的に進出を決めた場合は、競合他社や先行他社の物流戦略から学ぶことを勧めたい。

ユーザー

「市場性は見込めたけど、いざ、販売してみると、商品が売れない。」
その大きな理由の一つがユーザー視点にある。ユーザーが求めるベネフィットを適切に捕まえていないこと、もしくはそれを適切に伝えていないからである。
進出検討段階におけるユーザー視点では、どんな人がどんなシーンでどんな目的で使っているか、を把握し、ユーザーが対象カテゴリー製品に求めるベネフィットについて概ね抑える必要がある。進出検討段階においては、本格的なU&A調査やFGIなどを実施するより、まずは詳しい方のインタビューや現地リサーチャーによる情報収集のほうが、時間的にも費用的にも抑えられる。
本格的に進出を決めた場合は、ユーザーの購買使用実態の量的検証やユーザーのニーズを探り商品コンセプトとコミュニケーション施策につなげるためのインサイト分析をお勧めする。
ユーザー視点でもう一つ補足したいことは、ユーザーが日本や該当カテゴリーの日本製品に対するイメージである。日本製品であることが優位になっているか、その優位性は価格にも反映できるものか、などは進出後の製品仕様を決めるうえで、影響が大きい。

法規制

進出を決めたら詳細のレギュレーションに対応する手続きが必要だが、進出検討段階においても、ハードルが高くないか、最低限の法規制チェックが必要になる。
市場性があり、製品のチャンスもあると判断しても、そもそも自社製品の主な原材料が使えない、輸入販売に関しては規制が高くて、輸入モデルは厳しいなどのことがありうる。
そのため、進出検討段階において法規制の視点では、まず製品そのものの成分や販売規制はあるか、外資や輸入に対する規制はあるか、この2点を抑える必要がある。

商流・パートナー

「市場性は見込めたけど、いざ、販売してみると、商品が売れない。」
そのもう一つの理由が、商流パートナーの視点と関係する。商品の良さは認められたけど、ターゲット層にアプローチできる流通チャネルではなく、コネクションがあり商品を置いてもらえるからという理由だけで、販売店を決めたため、実際の購買につながらないのだ。
進出検討段階においては、まず、現地の商習慣、流通構造を把握し、自社にとって有利且つ実現可能な商流を見極める必要がある。例えば、まず輸出方式の進出か、現地で直接営業ネッワーク作るべきか、現地ネットワーク委託すべきか、などの検討もこの段階で現地の商流を把握して検討すべきである。また例えば、リアルチャネルコストが高すぎる場合は、ECチャネルや地方都市からの参入も検討すべきである。
本格的に進出を決めた場合は、ターゲットにアプローチ可能なチャネルはどこか、そのチャネルをカバーするためのビジネスパートナーは誰か、などの深堀分析が必要となる。

リスク

進出検討段階においてのリスク視点では、カントリーリスクと先行企業の失敗/撤退事例を抑えるのが重要である。カントリーリスクは、投資リスクレポートなどで確認ができる。想定されるリスクやその対案をもう少し綿密に準備する場合は、先行企業の経験から学ぶことを勧めたい。

使用環境

ここでは、対象カテゴリーの使用環境、使用習慣、使用文化などが、どうなっているかを確認する。例えば、冷凍食品の場合は、電子レンジの保有状況も確認する必要があるし、洗剤の場合、アジア圏では手洗いが多い、などの環境を考慮する必要がある。

まとめ

上述した進出検討段階における必要な8視点と抑えるポイントを下記表にまとめる。

進出判断の8視点抑えるポイント
業界✓ 市場規模は大きいか
✓ 成長性はあるか
✓ どのサブカテゴリーが伸びているか、好調領域はどこか
競合✓ どんなメーカー・ブランドがあるか
✓ どんな製品があるか
流通・インフラ✓ どこで売られているか
✓ 商材の流通販売におけるインフラは整っているか
ユーザー✓ どんな人がどんなシーンでどんな目的で使っているか
法規制✓ 製品そのものの成分や販売規制はあるか
✓ 外資や輸入に対する規制はあるか
商流・パートナー✓ 商習慣、流通構造はどうなっているか
✓ 自社にとって検討可能な商流は何か
リスク✓ 政治や経済的なカントリーリスクはあるか
✓ 外資企業の参入失敗事例、撤退事例
使用環境✓ そもそも当該商材を使う習慣や文化的な環境はどうなっているか

では、上記8視点を分析したうえで、どのように進出可否を判断すべきか。
絶対基準はなく、相対的な基準により、優先順位をつけるやり方を勧めたい。
一般的には2通りのやりかたがある。
① 1-2視点のみではなく、複数視点で総合的に判断する⇒下記イメージ表の縦軸
② 1か国だけではなく、複数国を横比較する⇒下記イメージ表の横軸

相対的な進出可否判断のイメージ表

この表を例とした場合、どの国に進出したらよいだろうか。決まった公式はない。この結果から事業担当者や経営層がどのような判断をするか次第である。
例えば、短期の販売を重視したいのであれば、市場規模が大きく、競争環境も厳しくないC国を優先的に選ぶことになるだろう。一方、長期的な事業性を重視したいのであれば、現在は市場規模がそれほど大きくないけど今後の成長性をも込めるB国に優先的に参入したいと考えるだろう。A国とD国は市場規模、成長性、競争環境など総合的に判断してあまり有望とは言えない。

今後も、海外ビジネス展開におけるプロセスや注意点、海外の国々における市場の特性や話題商品/市場の最新動向の紹介などを予定している。
次回は、中国進出後長年の低迷から拡販に成功したある化粧品ブランドの事例を交えながら、進出後の事業立て直し戦略の話をしたい。お楽しみに。

※ビジョン・オリエンティッド・コンサルティングの詳細はこちらのページをご覧ください。

著者プロフィール

尹 錦花 (イン キンカ)プロフィール画像
尹 錦花 (イン キンカ)
北京大学卒業後来日。早稲田大学大学院国際関係学専攻。
調査会社2社を経て、2005年インテージに入社。
中国語・韓国語・英語・日本語のマルチリンガルを活かし、業種・業態特化せず、海外調査・海外進出支援に関するコンサルティングを多数行う。アジア全般、欧州、南北アメリカ、アフリカ、オセアニア等エリア問わずPJを推進。

北京大学卒業後来日。早稲田大学大学院国際関係学専攻。
調査会社2社を経て、2005年インテージに入社。
中国語・韓国語・英語・日本語のマルチリンガルを活かし、業種・業態特化せず、海外調査・海外進出支援に関するコンサルティングを多数行う。アジア全般、欧州、南北アメリカ、アフリカ、オセアニア等エリア問わずPJを推進。

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