キャッシュレス化が進む層と進まない層 考え方の違いに見える浸透の壁

日本政府が目指すキャッシュレス決済の普及。普及施策の一つとして、2019年10月の消費増税時から2020年6月までの間、キャッシュレス・ポイント還元事業が実施されました。当時、知るGalleryではこの事業をきっかけにどれだけキャッシュレス化が進んだかを「ポイント還元制度でキャッシュレス化はどれだけ進んだ? ~買い物行動ログで追う利用実態~」で追いました。
その後、生活者のキャッシュレス決済行動はどのように変化したのでしょうか。日々のキャッシュレス決済実態を捉えたインテージの消費者パネルSCI Paymentデータを用いて確かめてみました。

【目次】

キャッシュレス決済はどれくらい浸透・定着したか

はじめに、日常の買い物におけるキャッシュレス決済手段の構成がどう変わったかを確認してみましょう(図表1)
※対象が日常の買い物となるため、経済産業省が目安としている”キャッシュレス支払額と家計最終消費支出に占める比率”とは、対象とする消費の範囲や算出方法が共に異なります。

図表1

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ポイント還元制度導入後にキャッシュレス決済比率が上がり、還元制度が終了した後もそのまま定着していることがわかります。

では、どのキャッシュレス決済が手段として定着したのでしょうか。
図表2は(1)現金(金券を含む)、(2)クレジットカード(デビットカードを含む)、(3)電子マネー、(4)コード決済、(5)その他(口座振替など)の利用率の変化です。

図表2

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現金で決済した人の割合は60%以上と依然高い一方で、キャッシュレス・ポイント還元事業が開始してから他のキャッシュレス決済手段の利用率が大きく伸びています。特にコード決済の伸び幅が顕著です。還元事業と並行して、各社独自のキャンペーンを実施したことが奏功したと考えられます。

また、還元事業が終了してポイントによるインセンティブがなくなってもキャッシュレス決済手段の利用率には大きな変化が見られず、キャッシュレス決済が一定根付いたことが読み取れます。背景には、ポイント還元事業をきっかけに一部の生活者が“キャッシュレス決済慣れ” したことや、新型コロナウイルスの拡大にともない“非接触” が好まれる傾向が高まったことが考えられます。いずれにせよ、1 年前と比べて生活者の決済行動は変化したと言えます。

次に、特にキャッシュレス化が進んでいるのはどのような人なのかを見てみましょう。以下の通り、買い物におけるキャッシュレス決済比率(1週間の買い物金額の内、キャッシュレス決済による買い物金額が占める割合)別に、生活者を分類しました。


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この構成が、キャッシュレス・ポイント還元事業『実施前』と『終了後』でどう変わったのか、年代別に比較した結果が図表3です。 

図表3

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どの年代についても2019年から2020年にかけてライト層の割合が減ってヘビー層の割合が増えており、浸透が進んでいることがわかります。
この1年間で特に浸透が進んだのは50代です。還元制度『実施前』と『終了後』の変化が大きく、ライト層の構成比は他の年代と比べて最も低く、ヘビー層の構成比は最も高くなりました。ポイント還元制度が最も効果的に機能したのが50代と言えそうです。

同様に世帯年収別の変化をみたのが図表4です。

図表4

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いずれの世帯年収層でも、ライト層の割合が減りヘビー層の割合が増えています。また、2019 年・2020 年に共通して、世帯年収が上がれば上がるほど、ライト層の割合が減ってヘビー層の割合が増えるという傾向が見られています。
キャッシュレス比率と世帯年収には一定の相関関係が存在していそうです。この理由については、後ほど別のデータも併せて考えてみたいと思います。

キャッシュレス決済を巡る消費者の意識

ポイント還元制度の導入によって引きあがったキャッシュレス比率は、現在もとても緩やかなペースで上昇し続けていますが、どこかで伸び止まってしまうかもしれません。今後もキャッシュレス比率を上げ続けるためには、キャッシュレス決済が使える場面を増やすことや、キャッシュレス決済を使う際の心理的なボトルネックを特定し、解消していく必要があります。
そこで、キャッシュレス決済にまつわる意識を調査し、決済比率にどのような意識が影響しているのかを確認してみました。

SCI Payment対象者に対し、キャッシュレス決済にまつわる28の意識項目について当てはまる度合いを5段階で調査し、その結果を因子分析した結果が図表5です。キャッシュレス決済に関わる考え方は9つの要素に集約されました。

図表5

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5番目の “支出管理が難しくなる” には、「いくら使ったのかが把握しにくい」「現金だと使いすぎてしまう」といった内容が含まれます。また、7番目の“始める際に感じる負担”としては「アプリを登録することへの負担感」「新たに操作を覚えることへの負担感」などが挙げられます。

これらの意識と決済行動の関係性を見るために、図表3・図表4でも取り上げた個人内キャッシュレス比率(2020年版)の高さ別に、各因子の因子得点の平均値を集計したものが図表6です。

図表6

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各層の波形を比較すると、ライト層とヘビー層とで対照的な動きをしていることがわかります。決済行動とキャッシュレス決済に関する意識には、一定の関係があることが言えそうです。

ヘビー層ほど当てはまり、ライト層ほど当てはまらないのが、「自身の生活との相性がいい」「利便性を感じる」といった意識でした。一方で、ライト層ほど当てはまり、ヘビー層ほど当てはまらないのが、「支出管理が難しくなる」「セキュリティリスクを感じる」といった意識でした。
更なるキャッシュレス化を実現させる上では、ライト層の「利便性」の評価を高め、「支出管理の難しさ」「セキュリティリスクへの懸念」を払拭するというのは、外せない観点なのではないでしょうか。
ちなみに、「お得感」の評価はヘビー層だけが突出して高いという結果でした。ヘビー層はお得にキャッシュレス決済をつかいこなすキャッシュレス巧者といえそうです。

図表5から世帯年収と個人内キャッシュレス比率には相関関係があること、そして図表6から「支出管理の難しさ」に対する評価と個人内キャッシュレス比率にも相関関係があることがわかりました。
世帯年収が低く、使える金額に限りがある場合、支出管理をシビアに行う必要があります。使える金額を定期的に現金化して「あとどれくらいお金が残っているかが即時実感を持ってわかる」状況を作って使った方が、必要以上の出費を抑えることができます。このため、キャッシュレス決済は支出管理が難しい手段という認識となり、使用を避ける理由になっていると考えられます。そうなると、決済事業者がいくら大規模なポイント還元キャンペーンを行っても上記のような層にはサービスは受け入れられない可能性が高いでしょう。ただし、キャッシュレス決済を、“現金による決済” をデジタル化したと捉えると、“一定期間で利用できるお金” にあたる部分をデジタル化し、残金をわかりやすく見せることができれば、受け入れられやすくなるかもしれません。

生活者の決済行動はポイント還元事業をきっかけに約1年で大きく変化しましたが、一律の施策によるキャッシュレス推進は伸び止まりの状態です。今後は浸透していない層に対して、利用を促進しうる施策を行っていくことがカギになります。

今年の1/28に開かれた厚生労働省の労働政策審議会分科会において、「デジタルマネー」を使った賃金の支払いに関して議論がなされました。企業が従業員に給与を支払う際、銀行口座だけでなくスマートフォン決済アプリや電子マネーなども支払先に指定できるにするのが狙いなようです。また、LINE PayとPayPayの統合方針が発表されるなど、キャッシュレスを取り巻く環境は日々変化しています。それらの施策の結果、キャッシュレスは進むのか、知るGalleryでは今後も生活者のキャッシュレス行動を追っていきます。


今回の分析は、SCI PaymentデータSCI Payment対象者に対する自主企画調査をもとに行いました。

【SCI Payment】
SCIのモニターが買い物データを入力する際に、その買物について追加で質問できる調査サービスPlus3を利用したデータです。
 調査地域:全国
 対象者条件:15-79 歳の男女
 標本抽出方法:弊社SCIモニターのうち、15-79 歳の男女
 調査実施時期①:2019年7月19日(金)~2019年8月18日(日)
       ②:2020年2月10日(月)~2021年2月28日(日)
 標本サイズ:①1週間あたりn=3,000
       ②1週間あたりn=4,000

【キャッシュレス決済に関する自主企画調査】
 調査手法 インターネット調査
 調査地域:全国
 対象者条件:15-79 歳の男女
 標本抽出方法:SCI Payment対象者より抽出しアンケート配信
 調査実施時期:2020年10月9日(金)~2020年11月3日(火)
 標本サイズ:n=2,854


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