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記憶を掘り起こすインタビュー手法で、量的データではみえない生活者の真意を知る

世の中のデジタル化が進む近年、業務データや行動データなどの量的データを分析し、意思決定に活用するケースが多くみられます。しかし、データが示す実態に対し、その背景や理由は多くの場合想像上の仮説で判断することとなります。

マーケティングにおいて多様なターゲットを設定し、そこへ向けて施策を行う際、果たしてビッグデータや量的データだけで正しい意思決定ができるのでしょうか。生活者がなぜそうしたのか、次はどうしたいのか、何を求めているのか、量的データの裏にある、「人の気持ち」を合わせて理解してこそ、正しい意思決定ができるのではないでしょうか。

この記事では、生活者の気持ちをより深く捉える定性調査の新しいリサーチ手法について、分析事例を交えて解説します。

個々人の「背景情報」にフォーカスする重要性と課題

生活者に直接意見を聴取する定性調査は、座談会形式のグループ・インタビューと、1対1形式でのデプス・インタビューが主流となっています。ターゲットを俯瞰して知りたい場合と、1人の人をより深く知りたい場合とで使い分けされますが、近年はデプス・インタビューの割合が増えてきています。

個々人をより深く知るデプス・インタビューは、特にブランドや商品、あるいは商品カテゴリーの価値探索に用いられることが多いです。生活者がどんなニーズ(顕在・潜在含め)を持っていて、ブランドや商品にどんな魅力を感じて購買・使用しているのか、というのは、その人個人のライフスタイルや価値観、生活環境、商品使用理由などの「背景情報」と密接につながっています。つまり、より深い理解を得るためには、個別的な「背景情報」が重要な意味を持つのです。

ただし、この「背景情報」を得るには難しさもあります。インタビューの対象となる生活者は、記憶バイアスの限界のもと、その場で思い出せること、意識に残っていることしか回答できません。そうなると、たとえば商品購買時や初回使用時にどういう状況であったのか、何を考えていたのか、といった情報が取り切れずに終わってしまうケースもあります。

記憶にとらわれない「背景情報」を得る

前述の記憶バイアスを解消するためにインテージでは「レコーディング・インタビュー」という調査を行っています。事前にスマートフォンを使って、特定の商品を利用した“その瞬間” の情景や気持ちを、写真と文字で行動のたびに記録してもらい、その記録を振り返りながらデプス・インタビューを行います(図表1)。

図表1

レコーディング・インタビューの主な流れ

対象者の記憶に左右されなくなると同時に、事前の記録を改めて振り返って語ることで、対象者自身の新たな気づきも導くことができます。この手法を用いると、どのような「背景情報」が得られるのか、調査事例を紹介します。

「レコーディング・インタビュー」分析事例:プレミアム系アルコールの価値探索

近年アルコール市場においてクラフトビールなど、やや高価格帯のいわゆる「プレミアム系商品」の人気が高まっています。これからのマーケティングにおいて、価格勝負ではなく、付加価値をつけてプラスの金額を払ってもらえるような商品開発はますます重要になってきます。そこで、生活者がプレミアム系アルコールに対してどんな価値を感じているのかを、「背景情報」となる飲用実態の深掘りをすることで探ってみました。
事前に行ったレコーディング調査の概要は以下の通りです。

【調査概要】
調査対象:週1回以上、プレミアム系アルコールの指定銘柄を飲用している20代〜50代の男女
レコーディング調査の内容:
テーマ①指定銘柄を飲んでいるときの“その瞬間” の記録
・飲用シーンがわかる写真(お酒と合わせた食事やおつまみなども含む)
・飲用シーンに関するアンケート
「飲用しているシーンの説明」「その商品の好きなところ」「その商品を飲もうと思った理由」
「飲んでどんな気持ちになったか」など
テーマ②「プチ贅沢」の購入実態
・対象者自身が「プチ贅沢」と認識して購入した商品の写真
・プチ贅沢品購入に関するアンケート
「商品の購入場所・価格」「どんなところに惹かれたか」「なぜ購入に至ったか」
「満足度とその理由」など
調査期間:3週間(期間中に各テーマ3回以上記入)

テーマ②で「プチ贅沢」の購入実態を調査したのは、別の角度からもプレミアム系アルコールの価値を探るためです。“プラスの金額を払っても購入したい” という気持ちに類似性があると考え、ほかにどのような商品に対して“プラスの金額を払っても購入したい”と感じるのかを、「背景情報」としてとらえることにしました。

レコーディング調査は、その後のデプス・インタビューに呼集するサンプル数の3倍の人数を対象として実施し、対象者が記入したデータをリアルタイムでみて、文量が豊富であるか、調査テーマにより相応しい内容であるかを確認して、デプス・インタビューの対象者を選定しました。
このようなプロセスを経ることで、通常のインタビューに比べて最適な対象者を多く獲得できる可能性があります。また、記入内容を確認して、精査すべき点を事前に整理できるため、重要な点を聞き漏らす心配も軽減できます。

シーンの深掘りから見える価値の違い

こうして事前に収集した、記憶バイアスに縛られない「背景情報」をもとに、選定した対象者に対してデプス・インタビューを行いました。その中でも特徴的であった、31 歳未婚女性の例を紹介します。

図表2は、彼女が事前にレコーディングしたビール商品の飲用シーンです。ビールA、Bはともにプレミアム系のビールで、同じく夕食時の写真ですが、食卓の様子はかなり違っています。

図表2

31歳女性のレコーディング調査(ビール引用記録)

それぞれどのようなシーンだったかを細かくインタビューしていくと、ビールAの飲用は、以前から楽しみにしていたという、恋人と2人で鍋を囲んだ日の夕食で、料理も手間をかけて作り、気持ちとしてもとても楽しい時間を過ごせたと語っていました。一方、ビールBの飲用は、恋人の帰りが遅い日で、1人で簡単な夕食を済ませたときであり、こちらにはビールAのときのような“楽しさ” は感じていなかったということです。

つまり、ビールBに感じる価値は、「パッケージの高級感」や「味の美味しさ」という機能的な要素にとどまっていたのに対し、ビールAには同様の機能的価値はもちろん、それに加えて「楽しい雰囲気・シーンを演出する」という情緒的な価値まで感じられていた、と言えます。当然、好意度がより高いのはビールA でした。

さらに、彼女の「プチ贅沢」のレコーディングについてもみてみましょう(図表3)。

図表3

31歳女性のレコーディング調査の一例(プチ贅沢記録)

アロママッサージについて記録していて、インタビューでは最初、全身のコリがひどく、それを解消するために定期的に行っている、と語っていました。ですが、この日のことを改めて振り返ってもらうと、マッサージの後に友達とおしゃれをして、いいお店に食事に行く約束があったという話が出てきました。そして、そのような“楽しいイベント” の前に、マッサージというプチ贅沢を重ねることで、より気分が上がりさらに楽しい気持ちが倍増するのだと語っていました。これは、当初は対象者自身も意識していなかった価値観を、レコーディングのデータをもとに精査を繰り返していくことで、導けたものと言えます。

この価値観は、プレミアム系アルコールの消費にもそのまま当てはまっています。図表2-1のシーンはまさに、“恋人と美味しい鍋を囲む” という楽しみにしていたイベントを、さらに気持ち的に盛り上げるために選ぶのが、彼女にとってはビールAだったということです。

「シーンの演出」という情緒的価値の発見

この「シーンの演出」という情緒的価値は、もう1名、42歳未婚男性でも挙がっていました(図表4)。

図表4

42歳男性のレコーディング調査の一例(ビール飲用記録)

彼は建築デザイン系の仕事に携わり、デザインやアートへの造詣が深く、美術館に行ったり美術書やデザイン系の写真集をみることで、刺激を受けたり、新しい価値観に触れたりすることが、日常から離れた“贅沢な時間” と感じる人でした。

アルコールの飲用についても、日常的には、夕食を自炊しながらプレミアム系ではないアルコールを常飲しているが、仕事で疲れたりストレスを感じたりして“贅沢をしたい” と思うときには、夕食後にゆったりと好きなデザイン系の写真集や映画をみながら、常飲しているのとは違うプレミアム系アルコールを飲むことで、気分転換ができ、非日常を味わえるといいます。

選択意識にも違いがあり、常飲する非プレミアム系商品は、中華料理ならビール、というように料理との組み合わせを考えて、酒類のカテゴリで選んでいるのに対し、「シーンの演出」という価値を持つプレミアム系アルコールに関しては、お酒のバックグラウンド(生産国/生産地・製造のこだわり・味の細かな特徴・自身がそのお酒と初めて出会ったときのエピソードなど)のほうが重要で、飲みながらみる映画や写真集の内容と、お酒のバックグラウンドの相性を考えて選んでいる、ということがわかりました。

このように、プレミアム系アルコールに「シーンの演出」という情緒的な価値を感じる2人には、共通点がみられました。それは、銘柄の認知が幅広く、かつそれぞれの製法やこだわり、味の特徴を細かく意識していることです。他のインタビュー対象者よりも、商品やブランドに対する思い入れも深く、好意度もより高く持っていました。

この結果からは、プレミアム系アルコールは、パッケージデザインや美味しさによる「高級感」や「特別感」といった価値の他に、お酒のバックグラウンドとしての尖ったストーリーが「シーンの演出」をしてくれる、という価値も感じられていて、さらに後者の価値を感じるターゲットのほうが、アルコール全般に対する感度が高く、商品との絆も形成しやすい、という可能性がみえてきます。

真意の理解のために必要な定性調査

今回のレコーディング・インタビューにおいては、依頼をして商品使用時の写真、気持ち、状況などを「背景情報」として取得しましたが、購買ログやアクセスログなどの既存の行動データを利用しても、記憶をたどることはできるでしょうし、事前に疑問や仮説を整理しておくことでインサイトを把握しやすくなるでしょう。
ただし、より実像をともなった生活者理解のためには、取得したデータだけに依拠するのではなく、それをもとに生活者の生の声を聞く、定性的なインタビューを組み合わせることが重要です。生活者の無意識に潜む、行動や実態の根底にある「なぜ」を掘り起こすには、個人の「背景情報」を把握した上で、インタビューで精査していくことが欠かせません。

量的データが身近になってきた今だからこそ、定性調査をうまく組み合わせ、正しく真意を理解することが今後、より重要性を増していくでしょう。

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※この記事はMarkeZine47号に掲載された寄稿記事(「量的データではみえない生活者の真意を知る」)を再構成したものです。


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