テレビCM 効率化に「エリア視点」を

この記事では、テレビCMプランニング改善における“エリア”という視点の有用性を紹介します。ネット広告の台頭により、効果の検証や効率化を求められつつあるテレビCM領域でのデータの活用について、考え方のひとつをまとめました。

【目次】

テレビCMの現状

日本で初めて放映されたテレビCM は、1953 年8月28日、精工舎(現 セイコーホールディングス)のものと言われています(※1)。それから67年、今日に至るまで数多くの企業がテレビCMを放映してきました。皆さんにも、記憶に残るCMや思い出深いCMがあるのではないでしょうか。テレビCMはこれまで、広告の代表格として企業と生活者を結ぶ役割を担ってきました。

その後1996 年の「Yahoo! JAPAN」のバナー広告登場を皮切りにネット広告が急伸し、現在では広告費の半分以上を占めているという企業も珍しくなくなりました。さらに2019年には、遂に、テレビCM広告費をネット広告費が上回りました(※2)。しかしそれでもなお、テレビCM広告費は約1兆8,600億円の市場規模を有し、圧倒的なリーチ力を持つメディアとして多くの企業に活用されています。

テレビCMの普遍的な課題と解決の糸口

テレビCMが抱える大きな課題の一つに、テレビCM予算の効率的な活用が挙げられるでしょう。ネット広告はその特性上、様々なデータが集まり活用できる環境が整備されています。GoogleやYahoo!などの大手プラットフォーマーの技術により自動最適化などのデータ活用が進んでおり、アドテクノロジーを活用したサービスも数多く存在しています。

テレビCMも“広告” という同じくくりの中で効率化を求められていますが、まだまだ道半ばというのが現状です。その要因の一つは“テレビデータの不足” にあります。これまでのテレビデータの多くは東名阪がメインであり、そのエリアにおける効率化は進みつつありましたが、他エリアはデータが不足していたため、取り組みはなかなか進んでいませんでした。テレビ放送域32エリアのうち東名阪を除く29エリアのデータが不足していた、と言い換えれば、状況がリアルに伝わるのではないでしょうか。
その後、データ取得技術の発展と各企業のニーズに呼応する形で全国規模のテレビデータが登場し始め、全エリアでの効率化が現実的なものとなってきたというのが、現在のテレビデータの最新状況です。

「エリア視点」でのテレビデータ活用

それではテレビCMの効率化を目指す上で、どのような視点でデータを活用していけば良いのでしょうか。よくある活用方法の一つとして、効果的な時間帯や枠を把握し、スポットCMのバイイングを改善するという方法があります。たとえば、ある商品のターゲットと似た価値観を持つ人の視聴データで時間帯・枠を分析し、スポットCMの線引きを改善するなどの活用です。

出稿枠の選定におけるデータ活用はあくまで一例ですが、まずはスポットCMの出稿フローがどのようになっているかに立ち返って考えてみたいと思います。
図表1は、CM出稿予算の配分も含めた出稿フローの概略です。

図表1seikatsushadb-8_01.png

(1)テレビCMの出稿予算を設定
(2)予算を各エリアに配分
(3)各エリアに配分された予算をさらに各局に配分
(4)各局の予算内で出稿する枠を選定

広告予算の効率化を図る上で重要な視点は、その改善による効率化余地の大きさです。予算が上流(エリア)から下流(枠)に配分されている点を鑑みると、後々の工程にも影響を与えるエリア配分を見直すことでより効果が見込めるのではないでしょうか。

出稿枠の選定にデータ活用をしている企業があるという話をしましたが、エリア配分においてはどのような意思決定がなされてきたのでしょうか?各社へのヒアリングを通じてわかってきたのは、CM予算のエリア配分はこれまでの傾向や経験を基にしたものであり、いわば「職人芸」的なものであったということです。

もちろん理想は、傾向や経験などの定性的な情報ではなくデータを根拠とした最適なエリア配分です。とはいえ、理想を実現したところで本当に効果が見込めるのかという疑問もあるでしょう。ここからは2商材の全国でのCM放映実績を比較して、データドリブンなエリア配分調整の有用性を検証していきたいと思います。検証にあたっては、インテージの全国各都道府県における個人の番組やCM接触の計測が可能なデータ「Media Gauge® Dynamic Panel」を利用しました。

今回は、2ブランドの全国および各エリアでのアクチュアルGRPとリーチ率について分析を行っていきます。図表2は、2ブランドの全国でのアクチュアルGRPとターゲットにおける3+リーチ率(3回以上リーチした人の割合)を並べたものです。

図表2seikatsushadb-8_02.png

A ブランドは430GRP、B ブランドは460GRPと同程度の出稿量である一方で、ターゲットリーチ率には大きな差があります。リーチ率はAブランドが57.3%であるのに対してBブランドは53.1%となっており、Aブランドが4.2ポイント多くリーチを獲得できていることになります。その結果、具体的な人数の開きはどの程度になるのでしょうか。

今回の分析におけるターゲットは女性20~49歳としており、全国での人口は約2,210万人です。つまり、Aブランドは人口に換算すると約93万人(2,210万人×4.2%)多くCMを届けることができているということとなります。どれだけ良い製品・良いクリエイティブも、まずは情報を“届ける” ことから始まるため、ブランド担当者にとっては悔しい結果なのではないでしょうか。

では、限られた予算内でより効率よくCMを届けるための改善方法はどのようなものでしょうか。その糸口を見つけるために、投下量に対する各エリアでのリーチ率の違いを分析し、図表3に示しました。棒グラフがGRPを、折れ線がリーチ率を表しています。

図表3seikatsushadb-8_03.png

まずは各エリアのGRPの傾斜に着目してみましょう。Aブランドは比較的エリア間の傾斜がなだらかであるのに対して、Bブランドは関東にかなり寄った傾斜になっています。確かに、日本人口の約3割は関東に集中しており、リーチを稼ぐのであれば関東に出稿するのは得策ですが、結果として全国でのリーチはAブランドが上回っていました。その要因はリーチが飽和するサチュレーションにあることが、各エリアのリーチを見ていくことでわかります。

関東エリアにおいてBブランドはAブランドよりも100GRP以上多く出稿していますが、3+リーチ率はほぼ変わりません。基本的に出稿量が多ければ多いほどリーチも伸びていきますが、リーチ効率は少しずつ下がりサチュレーションが起き始めるため、各エリアにおいてどのあたりでそれが起き始めるのかを把握することが重要となります。

Bブランドはサチュレーションポイントを超えた出稿をしたことでリーチ効率が悪くなったため、このような現象が起きています。翻って、東北や九州においてはAブランドの方が出稿量が多く、リーチもBブランドより獲得できています。つまり、Aブランドは各エリアに多すぎず少なすぎない、的確な出稿予算の配分を行ったことで、最終的に全国でより多くのリーチを獲得することができているのです。もちろん、Bに比べて効率的な出稿ができているAすら、実はデータに基づいてエリア配分するとさらに効率化できることもわかっています。つまり「エリア視点」でのデータ活用には、大いに可能性がありそうだと言えます。

より多くの人に商品を届けるために

テレビCMは大規模リーチを狙えるメディアだからこそ、効率化による見返りは大きくなります。全国を俯瞰したテレビデータの活用は、これまで実現できなかった規模での効率化・最適化をもたらすはずです。
この1~2年でテレビ事業支援サービスが格段に増えたことからも、データ活用によるCM効果向上への期待が垣間見えます。データの拡充や技術の発展による出稿金額の最適なエリア配分算出や出稿枠の最適化は現実のものとなりつつあります。さらに売上を最大化させるようなCMプランニングの実現も、遠い未来のことではないはずです。


今回の分析は、弊社が保有するMedia Gauge Dynamic Panelのデータを用いて行いました。

【Media Gauge® Dynamic Panel】
全国の都道府県単位でテレビ視聴を計測でき、ユーザー属性単位でCM 接触からデジタル接触・コンバージョンまでを推定的に紐付けて計測できるデータです。
サンプルサイズは2020年6月時点で85万人規模となっています。
なお、データの利活用における個人情報の扱いには、徹底した注意を払って運用されています。

※1 ムサシノ広告社「テレビCM の歴史」
https://www.musashino-ad.co.jp/column/tvcm_history.html

※2 電通報「『2019年 日本の広告費』解説―インターネット広告費が6年連続2桁成長、テレビメディアを上回る」
https://dentsu-ho.com/articles/7161


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