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case03 前編

「SRI一橋大学消費者購買単価指数」によって見える物価の真実(前編)~SRI単価指数と公式物価指数(CPI)との違いは?SRI単価指数の特徴と社会的意義

一橋大学経済研究所経済社会リスク研究機構、全国スーパーマーケット協会と株式会社インテージとの共同プロジェクト「流通・消費・経済指標開発プロジェクト」の一環として作成している「SRI一橋大学消費者購買単価指数(以下SRI単価指数)」。プロジェクトを牽引していただいている一橋大学のマクロ経済学者である阿部 修人教授は、インテージのSRI®(*1)やSCI®(*2)を非常に価値が高いデータであると評価し、先生の研究には欠かせないと話してくださいました。また、SRI単価指数は日本銀行や証券会社のアナリストにも、とても注目されているとも。
阿部教授に伺ったプロジェクトに至るまでの経緯、プロジェクトの意義とゴールについて、2回に分けてご紹介します。

前編では、総務省が出している公式の消費者物価指数(CPI)と、「流通・消費・経済指標開発プロジェクト」の一環として作成しているSRI単価指数との違いを解説し、SRI単価指数の特徴とその社会的意義を紹介します。

一橋大学 阿部 修人教授

先生の研究テーマにとって、SRIおよび「流通・消費・経済指標開発プロジェクト」はどのような点で関係しているのでしょうか。

ここ10年くらいの私の研究テーマは、広くはマクロ経済学で、中でも家計消費と物価に関する研究を中心に行っています。マクロ経済学は広大な分野で、家計消費と物価に絞っても非常に多くの分析がなされていますが、私は個々の個人・家計や商品レベルのデータに基づいて経済理論を検証することに関心をもち分析をしています。
家計消費に関しては、家計レベルのデータに基づく分析が1950年代から行われていますが、物価に関して、商品レベルのデータに基づく分析はここ20年近くでようやく開始された、比較的新しい分野です。経済理論の多くは個人・商品・企業のレベルの行動科学として構築されているので、そのレベルと直接対応するデータを用いて分析することで、より高精度の検証が可能になると考えています。

インテージのSRIはまさにこの研究をするために、最適なデータであると考えています。そして、「流通・消費・経済指標開発プロジェクト」は、大規模な、個々の商品の取引データに基づく分析の集成で、まさに、私の研究テーマに直結しており、とても重要なものになっています。

現状の課題とはどのようなものだとお考えなのでしょうか。

「物価」は政治上でも特に注目され、国会でも頻繁に議論されている指標の一つですが、その「物価」を考えるときに、現在公に使えるデータだけでは経済全体が理解することが出来ないということが、私は課題だと思っています。マクロな視点ではGDPデフレーターであるとか、総務省が出している公式の消費者物価指数(CPI)で見ることはできるのですが、その背後にある細かな動きが分からない。より細かな単位での価格の変動を見ることによって、背後にある動きが分かるようになるということです。

このような研究は10年くらい前から始まっているのですが、粗いマクロの動きと細かな商品レベルの動きを統合できるかが、今の学会全体の中心課題の一つとなっています。「流通・消費・経済指標開発プロジェクト」は、まさにその課題に対する取り組みとしてとても有意義なプロジェクトだと思っています。

商品レベルの細かいデータなら、まさにSRIデータですね。その特徴がどのように役に立つのでしょうか。

例えばですが、CPIには特売のデータが含まれていません。また、品目ごとに原則1銘柄を対象として集計しています。ですが、日本は商品の入れ替わりがすごく激しい。代表的な商品でも味違いがあったり、容量違いがあったり、様々な商品が出ては消えるのですが、それが物価に与える影響は無視できないのではないかと考えています。ですから、なるべく多くの新商品のデータがすぐに反映されていなければならない。

さらに、新しい商品と古い商品が入れ替わった時にそれらを接続できるものがほしい。例えば牛乳が1,000mlから900mlになったときに根本的に違う商品とみなすのではなく、容量が変更になった商品であるとわかるデータがほしい。それが出来るのがインテージのデータです。

それで、新たな物価指数を作るプロジェクトになったのですね。どのようなゴールを目指したのでしょうか。

プロジェクトのゴールは、この社会に対し、他では得られない情報を提供することで、人々が、経済社会の理解を深めることです。そのために開発したのがSRI単価指数です。

膨大にある情報を1つにまとめて使いやすくするのが指数ですが、1つの物価指数ですべてを表せるわけではありません。公式CPIも1つの指数で、その世界の中ではとてもよくできている指数だと思っています。ただ、それだけでは情報が足りないケースがたくさんあって、1つの指数が経済学者や色んな人々が欲しい情報を網羅しているわけではないんです。

例えば特売の影響が大きい動きを見ようとすると、公式CPIは特売の動きを一切拾うことができないので、特売の動きを反映する指数が必要になります。ただ、特売の動きを反映する指数はそれ以外のサービスの動きを拾うことが出来ないとすると、また違う指数が必要になる。このようにどの指数を使うかという選択肢がたくさんあることが望ましいのですが、これまでは公式CPIしかなくて、その公式CPIではとってこれないような情報は、私たちは見ることができなかったということです。

その点で、インテージのSRIは今までとってこられなかった情報を1つの数値に還元できるのがとてつもない大きなメリットだと思います。明確に定義されたいろいろな指数を提供することで、多方面からいろいろな角度で経済全体を見ることができるようになります。そんなゴールを目指しています。

これは非常に困難なゴールですが、SRI単価指数を業務の一環として毎週チェックするエコノミストは官庁、民間ともに沢山いるとうかがっております。特に、公表当初、日本銀行の総裁や政策審議委員から繰り返し引用されたことは、社会に貢献できたこととして考えています。

プロジェクトでどのような発見があったのか教えていただけませんか。

プロジェクトでわかったことは沢山ありますが、特に注目されたこととしては、日本企業の価格設定行動は、既存商品の価格調整だけでなく、新旧商品入れ替えに伴う容量調整を通したものが多く、特に、消費税改定後にそれが多く見受けられたこと、総務省CPIで採用される代表的な商品とその他の商品では、数か月という単位では価格が連動しておらず、ずれが生じること、それにより、人々の直面する物価が公式統計からずれることがあること、などがあります。

2014年における消費税の改訂のときのことでいうと、SRI単価指数は消費税改訂の直前・直後の影響を全部見られます。消費税改訂の影響を見るときに消費増税対応特売があったとしたら、定番商品から他の商品に消費パターンを変えてしまったことによる価格変化への影響は公式CPIでは見られませんが、SRI単価指数では見ることができるのです。

ありがとうございました。SRI単価指数と公式物価指数(CPI)は、どちらも社会にとって必要なもので、2つの違いがよくわかりました。また、SRI単価指数によって、これまでわからなかった物価の動きが見られるようになったという点で、社会に大きな貢献をしているのですね。

後編は、この指標の作成に、インテージのSRIを使用することになった経緯を紹介します。

阿部 修人
(一橋大学経済研究所教授/経済社会リスク研究機構主任)
2000年、Yale University, Department of Economics, Ph.D.
1999年Brookings
研究所研究員を経て2000年一橋大学経済研究所専任講師、2004年同助教授を経て、2011年より現職。その間、日本銀行アドバイザー、University of College London, Visiting Academics等を歴任。専門はマクロ経済学、応用ミクロ実証分析、指数理論。

  • *1 SRI®(全国小売店パネル調査)・・・スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約4,000店舗より収集している小売店販売データです
  • *2 SCI®(全国消費者パネル調査)・・・全国15歳~79歳の男女52,500人の消費者から、継続的に収集している日々の買い物データです。