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動画配信サービスにはない『テレビらしい』楽しみ方とは?―ライフログデータが示す、メディアの未来#1

近年、インターネット上の動画サービスとテレビの境界が非常に曖昧になっています。TVer等のサービスによるキャッチアップ配信、自らを「インターネットテレビ局」と称するAbemaTVなどがその一例です。このような動画視聴環境の変化は「通信と放送の融合」と呼ばれる大きな流れの中に位置づけられ、法制度の面からも議論されています。この「通信と放送の融合」、そもそもどのような違いがあるものが融合していくということなのでしょうか。
放送の側であるテレビ放送をインターネット通信と比較した際の大きな違いとして、「地域性」、「同時性」といったキーワードがあげられます。この記事ではスマートTVのデータを使って地域性と同時性の視点からテレビの視聴実態を明らかにすることで、インターネット上の動画サービスにはない『テレビらしい』楽しみ方について考えてみます。

 

市区町村単位で見られ方が大きく変化する「地域特化したテレビコンテンツ」

テレビの、放送としての特徴の1つはその地域性です。インターネット上のコンテンツは基本的に世界中のどこからでもアクセスできるのに対し、テレビ放送を受信できるのは、その放送局の電波が届くエリアに限定されています。この放送の地域性により、各地域で受信できる放送局の数には大きな差が生まれています。関東広域、近畿広域、中京広域の3つの広域放送域には5~7つの民放があるのに対し、それ以外のエリアでは1~3つしかないところも多く存在します。この放送の地域性は、地域によって見られる番組が限られてしまうという制約とも捉えられますが、一方で各局が制作した、地域に特化した番組を見ることができるというメリットにもなっています。

実際、地域に特化した番組はその地域の人にどの程度見られるものなのでしょうか。スマートテレビの視聴ログデータ「Media Gauge TV」を用いて市区町村レベルの視聴実態を見てみましょう。

●地域性が高い「アド街ック天国」

特定の地域を特集した番組として4月14日(土)にテレビ東京系列で放送された「アド街ック天国」を取り上げてみます。この回は八王子市が特集され、関東広域計での番組平均接触率は4.4%という結果でした。図1は番組平均接触率で市区町村別に色分けしたデータです。色が濃い市区町村ほど接触率が高いことを意味しています。特集された八王子市では接触率17.1%と、関東広域計の接触率である4.4%の約4倍の接触率でした。さらに周辺のあきる野市(11.8%)や相模原市緑区(10.2%)でも接触率が高くなっています。地域に特化した番組がその地域の人々から非常に高い関心を持たれていることがわかります。

図1 市区町村別の「アド街ック天国八王子特集」接触率media-1-01.png

放送の地域性に伴って、地域ごとに放送局が存在しているということには、各地域の人々の関心に寄り添った番組が制作されやすいというメリットがあります。何気なくつけたテレビの画面で地元のスポーツチームの試合が中継されている、選挙や災害などの際に地元の情報をまず先に得ることができる、といった私たちがテレビを通して当たり前のように経験していることは、放送の地域性にもとづくものと言えます。インターネット上の動画サービスにはない、非常に『テレビらしい』経験と言えるのではないでしょうか。

ちなみに、テレビ東京系列の民放を持たない山梨県ですが、図表1からは「アド街ック天国」の接触率が関東広域の接触率と同程度ということが読みとれますが、これは区域外再放送(CATV等を通し、他の放送エリアの放送局の番組を放送すること)による視聴と考えられます。山梨県を放送域とする民放は2局だけと非常に少ないですが、多くの人がCATVに加入し、隣接するエリアの放送局の番組を区域外再放送で視聴しているという実態がスマートテレビデータからみえてきます。

同時に見るからこそ楽しめるテレビコンテンツは?

もう一つの、テレビの放送としての特徴として、同時性があります。インターネット上のコンテンツには基本的にいつでも好きなときにアクセスできるのに対し、テレビの場合は番組が放送されたその時点で受信しなければならないという制約があります。この「放送と同時に受信する」という性質を「同時性」と呼ぶことにします。

近年、録画機の利便性の向上やHDD容量の増加により、放送の同時性による制約は緩和されてきています。特にいわゆる「全録機」はテレビの視聴スタイルに大きな変化をもたらしています。自動的に録画された多くの番組の中からその時に見たいものを見るという視聴スタイルにはビデオ・オン・デマンド(VOD)やその他のインターネット上の動画サービスに近いものがあります。

放送と同時に受信して見るリアルタイム視聴と、好きな視聴タイミングで見るタイムシフト視聴、生活者はどのように使い分けているのでしょうか。

●ターゲットの年代、ライフスタイルで分かれるアニメ視聴

Media Gauge TVが取り扱う、インターネットに結線された録画機約58万台のデータ(再生・巻き戻し・早送りなどの視聴者の細かい操作を秒単位の細かさで取得したデータ)を用い、リアルタイムで同時に視聴されやすい番組とタイムシフトで好きなタイミングに視聴されやすい番組の傾向を見てみました。

図2はRT(リアルタイム)接触率を横軸、TS(タイムシフト)接触率を縦軸にとり、アニメ番組をプロットした散布図です。VODなどでの視聴が特に広がっているアニメですが、リアルタイムとタイムシフトでの見られ方にどのような傾向があるのでしょうか。

図2media-1-02.png

データからは、番組ごとに傾向が異なることが分かります。グラフ右上に位置しているのはリアルタイムでもタイムシフトでも人気のある定番アニメです。「ドラえもん」や「ワンピース」など、ある程度幅広い年代の視聴者が楽しめる作品が並んでいます。幅広い視聴者層が自分のライフスタイルに合わせたスタイルで視聴している姿がうかがえます。一方、「ポケモン」や「アンパンマン」など主に子供に向けたメジャー番組は、幅広い年代が楽しんでいる定番アニメよりリアルタイム、タイムシフトともに低くなっています。

また、チャートの左中央には深夜アニメ(※「七つの大罪」は早朝6時30分)が集中しています。RT接触率に対してTS接触率が高く、「毎週深夜まで起きて見るのは辛いが、欠かさず見たいのでタイムシフトで」という視聴スタイルがうかがえます。
さらに、チャートの右下には他の番組から大きく離れた特徴的な2つの番組があります。日曜18時台放送の「サザエさん」と「ちびまる子ちゃん」です。TS接触率はいずれも1.5%未満と非常に低いですが、RT接触率は11.0%、8.5%と非常に高い数値です。「タイムシフトで好きなタイミングで見るよりも、家族団らんの場でみんなで見ることに意義がある」、「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」へのそんな視聴スタイルが想像できます。「グッド・ライフ意識調査から見えてきた日本人の幸せとは?(前編)」で紹介したデータからも、「サザエさん」視聴者が「家族で過ごす時間」を大事にする層であることがわかっています。この家族団らん、まさに『テレビらしさ』が提供している価値と言えるのではないでしょうか。

さらに、同時性を積極的に活かした新しいテレビの楽しみ方も広がっています。データ放送を利用した「めざましじゃんけん」のような各種のプレゼント企画、ハッシュタグを使ってSNSで意見や感想を共有しながら番組を楽しむ視聴スタイルはその一例です。「お茶の間で家族と」、もしくは「多くの視聴者と」、同時に同じコンテンツを視聴できるところが、同時性のもたらす価値と言えます。

この記事では、インターネット通信と比較した際のテレビ放送の特徴である「地域性」と「同時性」について、地域性を活かしたコンテンツの視聴実態や、同時性があるからこその視聴実態を見てきました。いずれも生活者にとってある種の制約でありつつ、インターネットの動画サービスでは置き換えづらい『テレビらしさ』の価値を提供していると言えそうです。
ますます通信と放送が融合していくとき、この『テレビらしさ』がどのように変わっていくのか、もしくは維持されていくのか、今後も注目していきます。

【ライフログデータが示す、メディアの未来シリーズ その他の記事リンク】
#2 テレビのチカラの「新しい測り方」はだれを幸せにするのか?


今回の分析には、Media Gauge TV を使用しています。日本全国を調査対象に、月あたり61万台のスマートテレビと58万台の録画機から収集された視聴ログデータです。(最新の台数情報はこちら)膨大なサンプルサイズで収集されているため、市区町村レベルの分析でも一定のサンプルサイズを確保でき、視聴傾向の詳細なエリア差を把握することができます。

都道府県ごとのエリアマーケティングや、テレビCMのプランニング・バイイングにご活用いただけます。

MediaGaugeTV_banner.png


※この記事はMarkeZine30号に掲載された寄稿記事(『通信と放送の融合時代、「テレビらしさ」の価値とは?』)を再構成したものです。


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