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With コロナ ~ 不安と期待のはざまで ~

この記事は、インテージが生活者理解の拠点として立ち上げた、生活者研究センターのセンター長 田中宏昌による「Withコロナの新しい日常」に関するコラムの第11弾です。

1.はじめに

東京2020 オリンピック・パラリンピックの開催を目前にして感染拡大の第5波が到来しました。感染拡大を受けて2021年7月8日、東京都にとっては4度目となる緊急事態宣言の発令が決定しました。期間は7月12日~8月22日とし、7月23日に開会を迎えて8月8日に閉会を予定するオリンピックをまるまる飲み込み、8月24日に開会を迎えるパラリンピックの直前まで続くことになりました。東京都の緊急事態宣言発令の決定を受けて、同日、東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県では「無観客」による開催が決定しました。

昨年3月に、オリンピック・パラリンピックの1年延期が決定した時、「来年には新型コロナも収束しているはず」という期待がありました。しかしながら、この間、東京都には4度の緊急事態宣言が発令され、ついに無観客開催に至りました。1964年の東京オリンピックの4年後に生まれた私は、その熱狂をフィルムでしか見たことがありませんでした。今回のオリンピックでは自転車の「ロードレース」も競技種目になっており、東京の武蔵野の森公園をスタートし、神奈川、山梨を駆け抜け、静岡県小山町の富士スピードウェイをゴールとしていることから、地元神奈川の沿道から観戦できることを楽しみにしていましたが、こちらも東京2020組織委員会から沿道でも観戦自粛がアナウンスされました。

2021年もすでに7月。東京都において緊急事態宣言あるいはまん延防止法の対象ではなかった日にちを数えてみるとこれまで「28日」しかないことに愕然とします。その一方で、新型コロナワクチンの接種も加速しています。

変異株を含む感染拡大の不安とワクチン接種の加速による収束への期待。
そのはざまで生活者は新しい日常を模索し、創造し続けています。

 図表1

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2.連鎖する不安

内閣府が景況感の把握のために実施している調査に「景気ウォッチャー調査※1」があります。この景気ウォッチャー調査はさまざまな仕事に従事する約2000人に現在と将来における景気の実感を質問し、指数化して発表をしています。
最新の調査結果(6月データ)では、現在の景況感をあらわす「景気の現状DI」は各業界ともに高低はありますが全体的に回復基調となっています。また、将来的な景況感をあらわす「景気の先行きDI」も各業界ともに回復の期待を感じさせる動きになっています。(図表2)。
5月後半から6月にかけては感染拡大の第4波が落ち着きを見せ始め、ワクチン接種が医療関係者や高齢者以外にも広がりを見せたことから、長いトンネルを抜ける収束への期待がこれらの結果に映っているように思います。

図表2

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その後、7月に入ると首都圏を中心に感染拡大が第5波の兆しを見せはじめ、4度目の緊急事態宣言が現実味を帯びてきました。このタイミングにおける生活者のマインドをいつものように定点アンケートで見ていきましょう。

5月中旬からの新規感染者数の減少に伴い、感染不安もまた減少傾向にありました。しかしながら、第5波の予兆を受け、感染不安も下げ止まりとなっています。また、「今後3ヵ月では」と少しだけ先の見通しについて尋ねている今後の家庭の暮らし向きについては、「今より悪くなる」が再び上昇に転じています。先行きに不安と連動し、「節約意識」についてもこれまで同様に6割付近を推移しています。(図表3)

図表3
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日本経済団体連合会(経団連)が発表した「2021年夏季賞与・一時金 大手企業業種別妥結状況(第1回集計:調査対象は東証一部上場、従業員500人以上、主要21業種大手251社)」によると、大手企業における夏のボーナス平均妥結額は前年比7.28%減の84万1,150円となっています。業種別にみると、建設が前年比4.14%減の131万8,655円、電機が前年比1.51%減の91万6,907円、自動車が前年比10.76%減の87万9,626円、食品が前年比2.11%増の89万7,623円となっています。また、製造業は前年比6.52%減の84万2,115円(99社平均)、非製造業は前年比13.46%減の83万2,485円(5社平均)となっており、さまざまな行動自粛を強い続けるコロナインパクトを反映して非製造業の落ち込みが大きくなっています。
昨年の夏のボーナスもすでにコロナの影響下にあり、厳しい数字だったことを考えるとお財布の紐が緩む理由が見当たらないのが現状ではないでしょうか。

「飲食店での食事」や「テーマパークや繁華街・人が集まる場所への外出」、さらには「国内旅行」といった不特定多数の人との接触リスクが心配される場所への外出行動に対する不安も、5月中旬ごろから「感染不安」の減少と連鎖して減少に向かっていました。最新の結果では各項目ともに下げ止まり、外出行動への警戒が再び強まっています。(図表4)
東京オリパラの観戦、夏休みの旅行、帰省など、本来であれば多くのイベントや外出や機会が待っているはずでしたが、今年の夏も「特別な夏」になりそうです。

 図表4

感染拡大の不安は、「収入や家計の不安」、「外食や外出などの不安」と連動する動きをみせています。「感染拡大の不安」と各不安をグラフ上にプロットしてみてみると、「一定のまとまりを持ち、右肩上がり(正の相関)」と視覚的にも高い相関を確認することができます。また、相関係数をみても非常に高いことが確認できました。さらに詳しく見てみると、「飲食店利用」、「繁華街への外出」、「国内旅行」といった「行動にまつわる不安」については非常に高い相関がありますが、「暮らしの先行き」、「節約意識」については、先ほどの「行動にまつわる不安」よりも弱い相関となっています。(図表5)

図表5

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今後、ワクチンの接種が進み、日々の新規感染者数が減少していくことが期待されます。感染者数の減少は「感染拡大不安」の減少へと続きます。同時に「行動にまつわる不安」も緩和され、人々の「動き」も回復へ向かうことが予想されます。一方で、「収入や家計の不安」については、雇用の安定や収入の回復・増加など、経済的不安を解消してくれる確かな実感を伴わないかぎり、新型コロナの感染拡大が収束しても直線的な回復へは向かいにくいのでは、と考えます。

3.変わる暮らし・変わる食卓

早いもので2021年も半年が過ぎました。家の中での食事(内食)の状況についてコロナ前と比較しながらその変化や推移を確認してみましょう。

2021年になってから緊急事態宣言やまん延防止法の対象でなかった日にちは「28日」だったことはすでに述べました。これらの発令によって、仕事や学びは在宅やリモートの活用にシフトします。また、買い物やレジャーなどの外出行動が抑制されます。もちろん飲食店の利用機会も減少します。2021年(黄緑色の線)の内食率をみるとコロナ前の2019年(水色の線)と比較して、高い位置で推移していることがわかります。ここでは平日昼食と平日夕食をあげていますが、休日についても同じように以前と比較して、家の中での食事が多い状況が続いています。(図表6)

図表6

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家の中における食事の機会増加はすなわち料理の機会増加と言えます。
前回のこのコラム(Withコロナ Vol.9)で食の「簡便化」について紹介しましたが、弊社の購買履歴データでコロナインパクト後に購入が増えている商品ジャンルを分析してみたところ、「冷食、チルド食品、缶詰・パウチ」などが大きく増加していることが確認できました。また、「調味料」についても和風・洋風をはじめさまざまなタイプが増加しています。(図表7)

図表7

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もともと、共働きの増加や男性における家事への関与増により、料理については「簡便・簡易」に準備できる素材が求められる傾向がありましたが、コロナインパクトによって家の中での食事機会・料理機会が増えたことにより、より一層その傾向は強まっています。その一方で、栄養に偏りが生じないよう、あるいは単調にならないよう日常の食卓について「メニュー」や「バリエーション」を求める傾向もあります。さまざまな調味料が元気なのもそうした生活者の気分の表れかもしれません。

ワクチン接種の広がりとともに「Afterコロナ」に関する話が増えています。
「家の中での食事の機会は以前のように戻るのか?」といった質問もお客様との会話の中で頻繁に登場します。確証的なことはわかりませんが、多くの企業・団体や学校がコロナインパクトを機に在宅やリモートのスタイルを広く深く検討を始めたことは確かです。大手企業が自社ビルを手放し、リモート比率を高めた働き方にシフトし、あわせてオフィススペースを視なおしているというニュースも目にします。

転じれば、家の中で過ごす時間はコロナ前よりも増えることになります。家の中で過ごす時間が増えれば、食事の回数が増えるだけでなく、暮らしそのものに目を向け、視なおし、「質」を問うことも多くなると考えます。「質」は豊かさの希求や効率化をも含みます。

生活者が視なおしを行う中、企業もまた自らが提供する価値を視なおすことによって新しい機会を創造できるのではないでしょうか。提供価値の視なおしには
①   ターゲット:ターゲットそのものを‘新しい機会’の中で視なおしてみる
②   利用目的(提供価値):‘新しい機会’において‘新しい価値’が芽生えていないか視なおしてみる
③   利用シーン(体験):‘新しい機会’において‘新しいシーン’が芽生えていないか視なおしてみる
という3つの視点があると考えています。(図表8)

図表8

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家の中での食事機会が増えたことにより、男性の調理機会も増えているようです。パナソニックは「Bistro」とい調理機器のコミュニケーション・ターゲットを男性にもフォーカスし、インスタなどを利用して男性の料理シーンなどを用いて訴求したことにより見事に売上拡大につなげたという話が記事にもなっていました。デザインも機能性を感じさせつつもスタイリッシュで男性に刺さりそうでしたが、‘新しい機会’の中でターゲットを定め、提供価値や体験を訴求することにより、新しい日常に溶け込ませることがきたのではないか、と考えます。

「元の姿に戻るのでしょうか?」への回答は

「元の姿に戻るのではなく、良い部分は残し、磨き、新しい形に変化して定着へ向かう」というものではないでしょうか。

4.新しい日常

振りかえると昨年夏も「特別な夏」という言葉とともに、さまざまな催しが見送りまたはオンラインによる開催になりました。ご存じの方も多いと思いますが、日本三大盆踊りとして有名な岐阜県郡上市八幡町の「郡上踊り」は7月上旬から9月上旬まで30夜ほど開催されており、8月13日から8月16日の4日間は20時から翌朝まで「徹夜踊り」が繰り広げられます。誰でも踊りの輪の中に入れることから、期間中は全国から30万人もの踊り手が集まると言われています。もう15年ほど昔になりますが、私も郡上踊りにあわせて近くに宿をとり、昼間は市内を流れる吉田川を泳ぎ、川沿いの新橋亭で鮎の塩焼きに舌鼓し、夜はくたくたになるまで郡上踊りを楽しんだものでした。
昨年はこの郡上踊りも「特別な夏」の言葉のもとオンラインでの開催となってしまい、ディスプレイの向こうで唄い踊る郡上踊りの浴衣姿のみなさんの姿をみながら「来年は久しぶりに郡上の街で」と考えながら踊っていました。

しかしながら、今年もまたオンラインでの開催となってしまいました。
来年こそ。

おわり


※1 内閣府 景気ウォッチャー
  https://www5.cao.go.jp/keizai3/2021/0708watcher/menu.html

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生活者研究センター概要

インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。


著者プロフィール

生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)プロフィール画像
生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)
1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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