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Z世代の“キャンセル”実態〜若者の今を読み解く〜

本コラムでは巻末に無料ダウンロードレポ―トのご案内があります。ぜひ最後までご覧ください。

はじめに

近年、「風呂キャンセル」「学校キャンセル」といった言葉がSNSを中心に広がり、若年層の新たな行動様式として注目されている。これらは単なる面倒ごとを避ける「怠惰」の表れなのだろうか?
こうしたいわゆる「キャンセル界隈」の中でも、今回は食生活に注目した「食事キャンセル」という行動を明らかにすることを目的とした調査を実施した。食事は本来、健康や生活リズムを支える基盤であり、従来は「抜くべきではないもの」とされてきた。それにもかかわらず、若者はなぜ食事をキャンセルするのか。その実態と背景を読み解き、Z世代の価値観と日常の選択行動に迫る。

<食事キャンセルの定義>
普段の1日の食事回数よりも食事回数が減ってしまうこと

1. 「キャンセル」が映し出す若者の現在地

15歳から40代の男女を対象に行ったアンケート調査から「○○キャンセル」という言葉は、Z世代の間で広く浸透していることが明らかになった。高校生から20代にかけては6割以上が認知(非常によく知っている+ある程度知っている)している(図表1)。

図表1

「○○キャンセル界隈」という言葉の年代別認知率

調査では「〇〇キャンセル」から連想される言葉も自由回答で聴取した。ワードクラウドに集計した結果が図表2である。「風呂」や食に関する「ご飯」「朝食」といった日常的な行動がキャンセル対象として連想されている。(図表2)

図表2

○○キャンセルと聞いて連想される言葉

この現象を単なる“怠惰”と捉えてよいのだろうか。そこで男女17-29歳の学生を対象として、別途インタビュー調査を行ったところ、食事や風呂よりも「友人との時間」「SNSを見てリラックスする時間」「勉強や趣味の時間」など、自分の価値基準に準じた行動を優先していることがわかった。その結果として、「時間が足りず食事や入浴の優先順位が下がる」といった発言が確認された。
また、「他に優先したいことがある」といった理由で食事をキャンセルするケースも見られ、生活の中で何に時間を使うかという判断が強く影響していることがうかがえる。

こうした発言を踏まえると、「キャンセル」は必ずしも無計画なサボりではなく、限られた時間の中で何を優先するかを選んだ結果として生じていると考えられる。Z世代も規則正しい生活や三食の重要性を理解していないわけではない。むしろ、その重要性を理解しつつも、友人との時間、SNSでリラックスする時間、勉強や趣味の時間などを優先した結果、食事や入浴の優先順位が下がることがある。そのときに生じる罪悪感や後ろめたさを、「キャンセル」という軽やかな言葉で受け止め直しているのではないだろうか。

2. データで見る食事キャンセルの実態

では、実際にどの程度の若者が食事をキャンセルしているのだろうか。
調査によると、「食事キャンセルを週1回以上行う」と回答した人は全体の約34%にのぼる。さらに、18~24歳に限ると、その割合は約41%と、他の年代と比較して高い水準である。(図表3)
この結果から、食事を抜く行為は、若者、特に24歳以下の年代にとって一定の頻度で行われる“日常的な選択”であるといえる。

図表3

食事キャンセルの年代別頻度

一方で食事回数のデータを見ると、いずれの年代においても「1日 3食」をとる人は過半数を占めている。その中でも高校生はその割合が最も高く、約70%に達する。ところが、年齢が上がるにつれてこの割合は徐々に低下し、25〜29歳では56.1%と最も低くなる。(図表4)
この結果から、高校生までは家庭を中心とした生活の中で規則正しく「1日3食」をとる習慣が維持されていると考えられる。

図表4

1日3食摂る層と食事キャンセルの年代間比較

こうした食事キャンセルと食事回数のデータからライフステージの変化と食事週刊の変遷が見えてくる。進学や就職といったライフイベントを契機に食事のリズムが乱れやすくなる18〜24歳では、3食を前提とした意識は残りつつも、それを実行できず「食事キャンセル」が発生しやすくなる。その後、25〜29歳になると生活が安定し、自身のリズムに適応した食事パターンが確立される。この段階では、「1日3食」にこだわらず、例えば「1日2食」といったスタイルが常態化することで、そもそも食事をキャンセルするという概念自体が生じにくくなる。
以上より、食事キャンセルは単なる一時的な行動ではなく、ライフステージの変化に伴う生活スタイルの一部として組み込まれていく現象であることが示唆される。

3. なぜ食事はキャンセルされるのか

では、なぜ食事はキャンセルされるのだろうか。食事キャンセルの理由として、最も多く挙げられるのは「忙しい」「お腹がすかない」である。特に18歳以上ではどの年代も、「忙しくて時間がなくて食べられない」という回答が最も多く、生活の忙しさが影響していることがうかがえる。

図表5

食事キャンセルの理由

しかし、アンケートでは表層的にしかとらえられないため、解像度を上げるためインタビュー調査でも聴取した。多くの若者が共通して語るのは、「他に優先したいことがある」という点である。例えば、睡眠時間の確保、友人とのやり取り、アルバイトや学業、さらにはSNS視聴など、自分にとって重要だと感じる活動を優先した結果、食事が後回しにされ、食事が抜かれてしまう。
ここで重要なのは、彼らが計画的に食事を抜いているわけではないという点だ。むしろ、「やりたいこと」「やるべきこと」に時間を使った結果として、食事の優先順位が相対的に低下し、結果的にキャンセルされるのである。 つまり、食事を「不要」と判断しているのではなく、「優先度が低い」だけに過ぎない。

4. 「意味」で選ばれる食事:Z世代の価値観

では、Z世代はどのような基準で優先順位を決めているのか。
以下の図表は、インタビュー対象者の1日の食事実態と、食事がキャンセルされる背景にある行動・価値観を整理したものである。
この事例からは、Z世代における「食事キャンセル」が、単なる欠食や生活リズムの乱れとしては捉えきれないことがわかる。回答者は、就寝前には友人とのメッセージのやり取りやSNS・ゲーム・動画視聴を行い、起床後も朝食より身支度や友人への返信を優先している。朝食は、空腹を満たすための短時間の行為として扱われやすく、時間に余裕がない場合には優先順位が下がる。一方で、昼食や夕食は、テレビを見ながら一人でゆっくり過ごす時間、あるいは友人と会話しながら過ごす時間として語られており、空腹を満たすための食事以上の価値を持っている。

図表6

インタビューの個票

ここで重要なのは、キャンセルされるのが「食事」そのものではなく、「意味づけの弱い食事」であるという点だ。自分を整える、誰かとつながる、好きなものを楽しむといった意味を持つ時間は維持されやすく、反対に、空腹を満たすだけの時間は他の行動に置き換えられやすい。
すなわち、Z世代は「どのような意味を持つ食事か」が選択の基準になっており、意味を持つ食事はキャンセルされにくい。

5. キャンセル時代の商品サービス設計

こうした実態は、企業のマーケティングや商品サービス設計に重要な示唆を与える。
従来のように「健康のために三食きちんと食べよう」といったメッセージだけでは、若年層には十分に響かない可能性が高い。なぜなら、彼らの意思決定は「正しさ」ではなく「意味」に基づいているからである。

ここで重要なのは、食事キャンセルを否定しないことである。若年層は、規則正しい生活を送ることの大切さは理解しつつも、自分にとって意味がある出来事を優先する中でやむを得ずキャンセルしてしまっているのである。その選択で生じる罪悪感や後ろめたさを「キャンセル」という言葉でポジティブに受け止め直している。
だからこそ、企業が提供すべきなのは「食事」そのものではなく、「その時間がもたらす意味」であり、食事の優先順位を上げるための提案である。
例えば、単に「朝食は食べよう」ではなく、「身支度しながら、体の中も一緒に整えよう」と生活導線に組み込む提案や「授業前のちょっとしたスキマに友達と分け合って食べよう」と誰かと共有する楽しさなど、食事をコミュニケーションの機会とすることで、食事の優先順位を上げることにつながるのではないだろうか。「食事を売らず、意味を売る」という発想が、これからのマーケティングや商品サービス設計において重要になるだろう。

Z世代の「キャンセル」という行動は、単なる面倒ごとを避ける「怠惰」ではなく、その背景には自分なりの基準が存在し、限られた生活時間を再構築しようとする合理的な姿勢があることが明らかになった。若者の“今”を理解するためには、何をしているかではなく、「何をあえてやらないのか」に目を向けることで若者の価値観の理解に繋がるかもしれない。


今回の分析は、以下のデータを用いて行いました。
調査概要 
<定量調査>
調査地域:日本全国
対象者条件:15-49歳男女
標本抽出方法:弊社モニターより抽出し、アンケート配信
標本サイズ:2,754s
調査実施期間:2025年10月17日~10月21日
<定性調査>
調査地域:京浜一都三県
対象者条件:男女17-29歳の学生で自分で日々の食事を選択している方
標本抽出方法:まねきねこ会員から抽出
標本サイズ:8s
調査実施期間:2025年11月4日、11月6日

著者プロフィール

小田 虎之介プロフィール画像
小田 虎之介
2021年にインテージに新卒で入社。
Webアンケート調査のフィールド業務に4年間従事。
現在はCR(カスタムリサーチ)のサービス開発を担当。

2021年にインテージに新卒で入社。
Webアンケート調査のフィールド業務に4年間従事。
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