

2025年のインバウンド(訪日外国人数)は、JNTO(日本政府観光局)推計値によると4268万人と、初めて4000万人を突破し過去最高を更新した。2026年の訪日需要については先行きへの懸念もあったが、JNTOのデータを確認すると、2026年1月~4月では昨年と訪日客の国籍・地域の分布は変わったが、訪日者数は大きな変化は見られない状況で推移している。
実際に街中でもインバウンドを見かける光景は日常の様子となっている。
では、直近訪日したインバウンドは「どんな人か」、「なぜ日本で買うのか」、さらに今後のインバウンドの購買を作るにはどのようなポイントを押さえる必要があるか、訪日から1年以内の旅行者に対する大規模調査(7か国・地域:1204サンプル)の調査結果をもとに読み解いていく。
約1年前の2025年4月の「インバウンド「モノ消費 × コト消費」への進化」から、調査国・地域を拡大し(4→7か国・地域)、さらに「次の購買をどのように創出する」といった視点を加えている。ぜひ確認して欲しい。

まずは、調査時点から過去1年以内に訪日した最新インバウンドはどのような人か、マーケティングの基礎となる「滞在日数」「支出額」「訪日回数」に関して確認をしていく。
まずは日本での滞在日数について確認したい。韓国からのインバウンドは短期滞在者が多く、7日未満の滞在が91.5%を占める。平均訪問都道府県も2.8にとどまっており、特定都道府県に絞って訪れる「ショートトリップ型」の特徴が見られる。こうした背景には、地方都市を含めた航空便の充実も影響していると考えられる。
一方、米国からの訪日客は長期滞在の傾向が強く、10日以上の滞在者が74.5%を占めた。平均4.3の都道府県を回遊しており、日本各地を広く巡る「周遊型」が多そうだ。
図表1

次に、訪日時の支出額(※)と、支出割合を見ていきたい。
支出額No.1は、訪日日数の長い米国であり、同行者分を含む旅行単位での平均支出額は111.7万円となった。その内訳は、旅行期間が長い影響もあり宿泊費が39万円(34.9%)を占めている。
次に支出額が多いのは、ベトナム平均77.5万円、中国平均66.7万円となった。
支出の内訳を確認すると、「買い物(お土産を含む)」の割合が多いのは、台湾33.6%(12万円)、香港31.9%(13.4万円)となった。金額では米国が26.9万円、中国が18.2万円を日本での買い物に消費していることが分かる。
一方、最も支出額が低いのは韓国の27.4万円で、買い物代も8.0万円と最小である。前段でも触れたとおり、韓国からの旅行者は、豪華な消費よりも手軽に訪日を楽しむ「ショートトリップ型」のスタイルが定着していると推測される。
図表2

引き続き、訪日回数に関して確認を行っていく。
10回以上の訪日経験を持つ「ヘビーリピーター」の割合を見ると、韓国が32.6%、台湾が37.6%と3割を超え、香港に至っては45.9%と半数近くに達している。
一方で遠距離である米国では、23.1%が「初めての訪日」であり、新鮮な視点で日本を訪れる層が一定のボリュームを占めている。
また、近隣のアジア圏であるにもかかわらず、中国(50.3%)やベトナム(47.6%)では、「初めて」および「2回目」の訪問者からなるライト層が約半数を占めているのが特徴的である。
図表3

このデータから、インバウンドへの戦略を検討する時に、訪日回数を意識した国・地域別のアプローチが可能となる。
例えば、香港や台湾などのヘビーリピーター層に対しては、まだ知られていない「地方の魅力」の発信や、こだわりに応える高付加価値な物販施策が有効となる。一方で、米国や中国、ベトナムなどの初回・ライト層に対しては、王道の観光ルートの利便性向上や、定番のお土産・サービスの安心感を伝える認知拡大など、それぞれのフェーズに合わせたきめ細やかなマーケティング施策を検討していく必要がありそうだ。
つまり、インバウンド施策では“国別・地域別”だけでなく、“訪日経験の深さ”で顧客を捉え直すことが重要だ。
インバウンド支出の約2〜3割を占める「買い物」の詳細を見ていく。図表4は、訪日時に購入した商品カテゴリの国別・地域別TOP5である。
回答者計では1位「食品」(68.0%)、2位「医薬品/サプリメント」(64.1%)、3位「菓子」(62.6%)となり、「化粧品」、「アパレル(服)」と続く。
各国ともこれら主要品目が上位を占める点は共通しているが、細部には国ごとの特徴が出ている。例えば、米国ではサンプルサイズは限られているものの、「キャラクターグッズ(64.1%)」が3位にランクインしているほか、韓国の「お酒」、香港では「アクセサリー」が5位に入っている。王道品目を網羅しつつ、国別・地域別の特有ニーズを捉えた品揃えが求められそうである。
図表4

また、6位以下のランキングに目を向けると、タイ(40.0%)やベトナム(30.9%)で「美顔器」の購入率が突出している点が特徴的である。回答者計(12.2%)を大きく上回るこの結果からは、両国における美容への投資意欲の高さがうかがえる。単に化粧品を買い求めるだけでなく、日本の技術力への強い信頼を背景に「美容家電」が選ばれており、東南アジア向け商品の注目カテゴリと言えそうである。
続いて、インバウンドが日本で商品を購入する「理由」をカテゴリ別に確認する。
図表5からは、商品の性質によって購入動機が大きく「お得感」「日本ならではの価値」の2つに分かれること、そして事前の情報収集による「指名買い」の存在が浮かび上がってきた。
「医薬品」「化粧品」「美顔器・家電」などの実用品は、自国より安い、免税といった「価格面(お得感)」が購入の決め手となっている。
一方、「菓子・食品」「キャラクターグッズ」などの嗜好品では、お土産向き、日本らしさ、限定性といった「日本ならではの価値」が重視されている。
また、医薬品や食品では「旅行前から購入予定だった」が上位に挙がっており、事前に購入商品を決めている実態が分かる。
店頭でのアピールだけでなく、訪日前の『旅マエ』段階からSNS等を活用して認知を形成するマーケティング施策が重要になりそうだ。
つまり、買われている商品を見るだけでなく、“なぜ日本で買うのか”まで分解することで、店頭訴求の方向性が見えてくる。
図表5

こうした訪日時の購入品や理由を踏まえ、次は店頭やパッケージでどのような「訴求文言」が購買のフックになるのかを見ていきたい。
店頭でインバウンド向けに目にするPOPやパッケージの訴求文言案で代表的な15種類を用いて、「どのような表示があると購入したくなりますか?」と尋ねてみた。その結果が図表6である。
インバウンド向け訴求文言で人気となったものは、回答者計では「日本限定」48.6%「日本製」43.4%「免税対象」42.1%が上位を占めるが、国別・地域別に見ると響く言葉は異なる。
台湾・香港では「日本限定」や「期間限定」といった限定訴求が効果的で、リピーターの多い両地域に「今しか買えない特別感」を伝えることが有効である。
一方、タイでは「免税対象」や「最安価格」などのお得訴求に強い反応を示している。
また、ベトナムでは「日本品質」「日本で人気」や「正規品」といった安心感や、日本品質訴求のスコアが高く、本物であることの担保が購買の鍵を握っている。
図表6

最後に、店頭での効果的な訴求によって日本の優れた商品に出会ったインバウンドは、帰国後どのようにリピート購入しているのだろうか。
7か国・地域共に「日本への再訪時」が最も多い結果となったが、帰国後の手段は国ごとに異なる。
中国では「越境EC」43.2%や「日本のEC」35.8%が上位を占め、ベトナムでもECの利用意向が高くなっている。これら2カ国・地域では帰国後もWeb上でつながり続けるEC環境の整備が欠かせない。
一方、台湾や香港では「自国の店舗」での購入が約3割を占めており、日常の生活圏にてリピートできるインフラが整っていることが分かる。
図表7

インバウンドマーケティングを成功させるには、訪日時の売りを作る「店頭施策(旅ナカ)」だけでなく、帰国後のリピートを支える「国別・地域別の販売ルートの整理(旅アト)」までを地続きで設計することが、持続的なファン作りの重要な鍵となりそうである。
堅調に推移するインバウンド市場は、依然として大きなビジネスチャンスに満ち溢れている。今回の調査から、その好機を捉える成否の鍵は、ターゲット国・地域の「訪日回数」や「消費スタイル」に即した緻密なコミュニケーション設計にあることが浮き彫りになった。
ヘビーリピーター層には地方の魅力や高付加価値な体験を、米国や中国、ベトナムなどの初回・ライト層には王道ルートの利便性や定番の安心感を届けるといった、訪日回数別の出し分けが不可欠である。
さらに、実用品(化粧品、サプリ、家電)にはお得感を、嗜好品(食品、お菓子)には日本ならではの価値を訴求する店頭マーケティングはもちろん、旅マエのSNS発信による「指名買い」の喚起、帰国後の「旅アト」を支えるECや現地流通ルートの整備までを地続きで捉える必要がある。
各国の特徴を捉えた「旅マエ・旅ナカ・旅アト」の一気通貫した施策を柔軟に推進することにより、攻めのインバウンド戦略を展開することが可能となる。本データが皆様の次なる戦略の一助となれば幸いである。
※今回の調査で明らかになった詳細なデータやチャートは、無料のダウンロードレポートでご覧いただけます。レポートのみにて提供している項目は以下です。ぜひ、ダウンロードしてご覧ください。
<ダウンロードレポートのみ掲載項目>
【地方へのインバウンド誘致】
・訪問した県/次に訪問したい県
・地方へ行きたくなる条件/行きやくすくなる条件
・インバウンドの困りごと
【体験】
・訪日体験の変化
・日本での「押し活」体験
【購買】
・情報入手ルート(訪日前/訪日中)
・訪日前に決めていた商品(指名買い)
・日本で「お得」と思った商品、サービス
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