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AI時代でも変わる「意思決定と最適化」ー新しいマーケティングのすすめ(63)ー

皆さま、こんにちは。マーケティングサイエンスラボの本間充です。

デジタルマーケティングやAI活用支援の現場にいると、マーケティングにおける「意思決定」のスピードと質が、企業の競争力を決定づける最大の要因になっていると痛感します。

かつて、マーケティングの意思決定は、経験豊富な担当者の「勘」や「度胸」に頼る部分が大きいものでした。それがインターネットの普及によって、データに基づく論理的なものへと進化しました。そして今、AI技術の進展により、私たちは「人間が意思決定し、最適化する」という前提すら覆る、新しい時代の入り口に立っています。

データサイエンスの知識をお持ちの皆さまであれば、これからお話しする変化が、単なるツールの進化ではなく、マーケティング業務の構造的な変革であることをご理解いただけるはずです。本稿では、AI時代における「意思決定と最適化」の未来図を、インターネット時代の変化と対比しながら紐解いていきます。

1. インターネット時代:「実測データ」が変えた運用の常識

まずは、私たちがこれまで経験してきたインターネット時代の変化を振り返ってみましょう。最大の変化は、広告運用が「枠を買う」から「人を狙う」へ、そして意思決定が「予測」から「実測」へとシフトした点です。

テレビCMの時代、効果測定は視聴率というサンプリングデータに基づく「推計」でした。しかし、Webアクセス解析や運用型広告の登場により、私たちは全数データに基づく「実測値」を手に入れました。

●Webアクセス解析
   ○ユーザーがどの経路で来訪し、どのページを見て、どこで離脱したかを正確に把握
    できる。

●運用型広告(プログラマティック広告)
   ○表示回数(インプレッション)、クリック数、コンバージョン数をリアルタイムで
    計測し、入札価格やターゲットを柔軟に変更できる。

これにより、マーケターの仕事は「PDCAサイクルを高速で回すこと」になりました。データを見て、仮説を立て、施策を実行し、結果を検証する。この「データに基づく意思決定(データドリブン・マーケティング)」は大きな成果を上げましたが、同時に新たな課題も生みました。

それは、「人間の処理能力の限界」です。媒体、ターゲット、クリエイティブ、入札価格……変数が爆発的に増える中で、人間が手動で最適な組み合わせを見つけ出すことは、もはや物理的に不可能になりつつあったのです。

PDCAサイクルを高速で回す、インターネット時代
PDCAサイクルを高速で回す、インターネット時代

2. AIの登場:「自律型マーケティング運用」への進化

今、AIが解決しようとしているのが、この「人間の限界」です。特に注目すべきは、機械学習(特に強化学習など)を用いた「自律型マーケティング運用」の実現です。

これまでのツールは「人間が意思決定するための支援」でした。しかし、自律型AIは「AI自体が意思決定し、実行する」主体となります。

データサイエンスの視点から見れば、これはマーケティングプロセス全体を一つの巨大な「最適化問題」として捉え、AIに解かせるアプローチです。

AIが自律的に行うこと

●予算配分の最適化
   ○Google、Meta、Amazonなど、複数のプラットフォームを横断し、最も成果が見込める
    媒体へリアルタイムに予算を再配分します。

●超高速の入札調整
   ○人間には不可能なミリ秒単位で、ユーザーの属性、時間帯、デバイス、閲覧
    コンテキストなどを考慮し、最適な入札価格を提示します。

●施策の自動切り替え
   ○「AのバナーよりBの動画の方が反応が良い」と判断すれば、人間が承認ボタンを押さず
    とも、自動的に配信比率を変更したり、効果の低い広告を停止したりします。

AIは疲れを知らず、24時間365日、膨大な変数を監視し続け、その時点での「最適解」を導き出し、実行し続けます。これは、人間の運用者が行っていた「調整業務」の大半が自動化されることを意味します。

3. 変化する「意思決定と最適化」の本質

AIが運用を自律的に行うようになると、私たちマーケターの仕事はなくなるのでしょうか? 決してそうではありません。むしろ、より本質的で高度な意思決定が求められるようになります。

AI時代における「意思決定と最適化」の役割分担は、次のように変化します。

1.人間の役割:「目的(What)」の設計

AIは「与えられた目的(目的関数)」を最大化することは得意ですが、「何を目的にすべきか」を決めることはできません。 「今期の最大の目標は、短期的な売上(ROAS)なのか、それとも長期的な顧客生涯価値(LTV)の最大化なのか?」「ブランド毀損のリスクをどこまで許容するか?」 こうした戦略的な「目的」と、それをAIが理解できる「指標(KPI)」に翻訳して定義することが、人間の最も重要な意思決定となります。

2.AIの役割:「手段(How)」の最適化

人間が定めた目的に対して、どの媒体で、誰に、いくらで、何を伝えるかという「手段」の組み合わせを、膨大なデータから学習し、最適化し続けるのがAIの役割です。

つまり、マーケターの仕事は、日々の細かい「運用調整」から、AIという優秀な自律システムを動かすための「戦略設計」へとシフトするのです。

自律型マーケティング運用のイメージ
自律型マーケティング運用のイメージ

AIを使いこなし、創造的な意思決定へ

インターネット時代はデータを「見る」時代でしたが、AI時代はデータをAIに「託す」時代です。

自律型運用の進化は、マーケターを「数字を追いかけるだけの単純作業」から解放してくれます。その空いた時間とリソースで、私たちは何をするべきでしょうか?

それは、AIには思いつかないような斬新なキャンペーン企画、顧客の心を揺さぶるクリエイティブの開発、あるいは全く新しい市場の開拓といった、人間ならではの「創造的な意思決定」です。

AI時代はまだ始まったばかりです。今、インターネット時代の変化の本質を理解し、「AIに何を任せ、自分は何を担うか」を定義できたマーケターだけが、次の時代をリードすることができます。

さあ、日々のルーチンワークはAIに任せて、マーケティング本来の面白さである「戦略」と「創造」のフィールドへ、一歩踏み出していきましょう。皆さまの次なる挑戦を、心から応援しております。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。u003cbr /u003e2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。u003cbr /u003e2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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