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“緊急事態宣言×国際的スポーツイベント×気象” 特殊な社会要因が多かったこの夏の商品需要~気象コンサルが解説!市場ホットトピック⑥

この【気象コンサルが解説!市場ホットトピック】は、一般財団法人 日本気象協会 松本 健人氏が、気象データとインテージのデータを分析して、気象と消費の関係や、気温予測に基づいた商品需要などについて解説するコラムです。
第6回では、国際的スポーツイベントが行われたこの夏の商品需要を振り返るとともに、今後1ヶ月の需要を予測します。
※この記事は、日本気象協会の「eco×ロジ」プロジェクトサイトの記事を一部編集して掲載したものです。

気象データ×統計から“真の社会的要因”を解析

今年の夏は、関東甲信で7月16日、東海・近畿で7月17日に梅雨明けが発表され、いずれも前年よりも2週間以上早い梅雨明けとなりました(※速報値)。低温傾向が続いていた2019年、2020年の7月は気温の低いが多かったですが、今年は暑さの到来が早かったと言えます。

一方、新型コロナウイルスの感染再拡大に伴って、7月12日には東京都に4回目の緊急事態宣言が発出されました(沖縄県は継続。その後各地域に拡大)。デルタ変異株の猛威によって全国の陽性者数は連日過去最高を記録して、人々は行動の抑制を余儀なくされました。
更にこの期間には、57年ぶりに東京で国際的スポーツイベントが開催されました。視聴率50%超を記録した開会式を皮切りに、人気競技を中心に高視聴率を連発。ステイホーム観戦を楽しんだ方も多いのではないでしょうか。ステイホームが家庭内消費にも影響したと考えられます。

売上に対する気象の影響度の高い商材は、売上データやイベント情報だけでは購買行動の変化が定量的に分析できません。日本気象協会では、気象データを使って売上を統計モデルでシミュレーションし、気象による変動要因の大きさを推定することで、真の社会的要因の大きさを推定する取り組みを行っています。

前年からの変化のうち気象の影響を可視化

今回は、前年との気温差が大きくなった、東京の梅雨明け直後からお盆休み前にかけての期間に着目して、前年より売上が伸びた商材を見てみます。
前年のこの時期の気象を振り返ると、全国的に梅雨明けが平年よりも遅れ、多くの夏商材は苦戦しました。一方、今年の該当期間は、全国の平均気温が前年よりも1.6℃高くなりました。このため、いわゆる夏商材については気象要因がプラスに働きました。「今年が平年よりも大幅に暑かった」わけではなく、「記録的な低温だった前年よりも気温が大幅に高かった」ことがポイントです。
また、社会要因とは、気温では説明できない何らかの売上変化要因を指し、C(社会要因)=A(売上前年比)-B(気温要因)で推定しています。

売上分析に進みます。たとえば上の図で、外出時に利用する「日焼け・日焼け止め」に注目すると、前年比135%の伸びとなっています。内訳を見てみると、気温要因が+30pt、社会的要因は残りの+4ptと分析されます。社会的要因というよりも、変動の多くが概ね気温によって説明できる、ということがわかります。「制汗剤(前年比117%)」も売上変化の3分の2以上(12pt)を気象要因が占めています。

一方で、一部の清涼飲料は前年比110~130%前後の伸びとなっていますが、気象だけではこの伸びを説明できません。「スポーツドリンク」は前年比129%のうち気象で説明できるのは14pt、「炭酸飲料」は前年比122%のうち9ptと、売上変化のうちの半分未満です。特に「コーラ」は前年比114%のうち、気温の影響は3ptにとどまっており、社会要因として、「ステイホーム観戦」「イベントによる広告露出効果」などが考えられます。同じ清涼飲料でも、「果汁飲料(前年比116%)」は、売上変化の大半(15pt)を気象で説明できるのと対照的ですね。

「社会要因」の中にも、「ステイホーム観戦」、「外出減少」、「イベントによる露出効果」など、“押し上げ要因”や“押し下げ要因”が混在しており、分析は容易ではありません。ただし、気象のインパクトが大きい夏商材においては、今年ならではの特殊な要因と毎年異なる影響を受ける気象要因を分けて可視化することが、来年以降の販売戦略立案の手助けになるのではないでしょうか。

ところで、「冬商材」にあたるため気象要因としてはマイナスとなっていますが、「解熱鎮痛剤」、「外用鎮痛&消炎剤」は前年超の売上となっています。「ワクチン接種後の痛み」を伴う社会的要因との関係性が推察できます。

向こう一ヶ月の気温要因による売上予測

この先、気象要因による需要はどのように推移するでしょうか。
今年は9月後半にかけて東日本と西日本を中心に気温が前年よりも高めに推移すると予想されます。前年と比較すると、先ほど紹介したような暑さによって売上が伸びる商品は、気温要因がプラスとなる一方、立ち上り時期となる「シチュー」や「鍋補完剤」は売上の減少が予想されています。9月の天候は台風によって大きく変化することもありますが、現時点での見込みとしてぜひ参考にしてください。(実際は、新型コロナウイルスの流行による行動変容の影響等が加わる点にご注意ください。)

過去の売上を振り返る際に、「すべてが緊急事態宣言によるものだ」、「スポーツイベントだけが原因だ」などと決めつけてしまっては、正確に要因を分析できません。「要因は一つではない」という視点から、気象データのような外部要因も含めた様々な因子を統計的に分析することが大事です。なお、日本気象協会では、売上と気象データだけではなく、人々の行動データや経済指標、商品の価格などを組み合わせて、多くの季節商材の売上分析や需要予測モデル構築を行っています。

また、モデル構築済みのサービスとして、「お天気マーケット予報」を提供しています。気象と社会的要因による需要の変化をリアルタイムに監視しながら、気象予測に基づき約260カテゴリにおける15週先までの需要予測を行っています。


お天気マーケット予報
https://www.intage.co.jp/service/platform/sriplus/jwa-market/


著者プロフィール

 一般財団法人 日本気象協会 コンサルタント 松本 健人(まつもと けんと)プロフィール画像
一般財団法人 日本気象協会 コンサルタント 松本 健人(まつもと けんと)
一般財団法人 日本気象協会 社会・防災事業部 気象デジタルサービス課 コンサルタント
技術士(経営工学部門-生産・物流マネジメント)
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学(都市計画史)専攻修了。
防災系アプリケーションの開発・運用に携わった後、2015年に商品需要予測プロジェクトに加わる。これまで20社以上の食品・日用品企業の売上データ解析・顧客課題解決(在庫最適化・商談支援等)に取り組む。現在は製造業チームリーダーとして、気象データのビジネス利用の更なる拡大を進めている。

一般財団法人 日本気象協会 社会・防災事業部 気象デジタルサービス課 コンサルタント
技術士(経営工学部門-生産・物流マネジメント)
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学(都市計画史)専攻修了。
防災系アプリケーションの開発・運用に携わった後、2015年に商品需要予測プロジェクトに加わる。これまで20社以上の食品・日用品企業の売上データ解析・顧客課題解決(在庫最適化・商談支援等)に取り組む。現在は製造業チームリーダーとして、気象データのビジネス利用の更なる拡大を進めている。

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