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新たなセグメントに広がりはじめた電動車市場:2025年PHEVとBEVの購買層比較

インテージが実施している自動車に関する調査「Car-kit®」では、消費者が「どのパワートレインの車を欲しているのか、また実際にどのような車を購入しているのか」について、毎月継続的に聴取しています。インテージでは2024年より、一橋大学経済学部にて環境経済学を専門とされている横尾准教授と共同研究契約を締結し、電動車の市場動向について協働でCar-kitのデータ分析を行ってきました 。

2025年の電動車市場の動向を振り返ってみますと、前半はプラグインハイブリッド自動車(PHEV)が前年並みに底堅く推移したのち、後半にかけて電気自動車(BEV)の新発売やモデルチェンジが重なった一年でした。この動きを踏まえると、「BEVの拡大はPHEVの需要を代替しているのか」、あるいは「両者は異なる購買層に広がっているのか」といった点が重要な論点となります。

本コラムでは、こうした問いに対し、「Car-kit®」の購買データと生活者属性データを用いた分析結果をもとに、2025年のBEV・PHEV市場の実態と今後の広がりについて、一橋大学・横尾准教授にご寄稿いただきます。

1. 2025年はBEVとPHEVのトレンドが対称的に推移

2025年における、日本の電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド自動車(PHEV)の市場はどう広がっていたか振り返ってみましょう。図1は2025年の全国を対象として、BEVとPHEVの新車の乗用車(どちらも軽自動車は除く)の登録台数のトレンドを示しています。年始ではPHEVの新車登録台数がBEVの2倍ほどであった一方、2月以降はBEVと僅差の似た推移を示し、6月以降はその差が埋まり、9月以降はBEVの方が上回った一年でした。

図1 2025年のBEVとPHEVの新規登録台数(普通・小型乗用車)

2025年のBEVとPHEVの新規登録台数(普通・小型乗用車)
注:日本自動車販売協会連合会の統計より横尾研究室が作成
新車統計データ|一般社団法人日本自動車販売協会連合会(公式ホームページ)

こうしてグラフを眺めますと、9月以降はBEV購入者数が増え、その分PHEVの購入が減ったようにも見えます。では、BEV購買層とPHEV購買層は似ているのでしょうか?2025年は秋にホンダが軽自動車のBEVとして「N-ONE e:」を新発売し、トヨタの「bZ4X」と日産の「リーフ」で新型のモデルが発売されるなど市場に新たな選択肢が増えた年でした。では、BEVの新モデルが発売されるとPHEVの購買数が減る関係があるのでしょうか?

これらの疑問に答えるには自動車の購買データと購入した家庭についての詳細なデータの両方が必要となります。新車販売の市場シェアや政府の家計調査だけでは詳しい市場動向を把握してこの疑問に答えることはできません。

一橋大学・横尾研究室では市場調査会社であるインテージと協働し、これらの疑問に答えることを試みています。筆者らはインテージが毎月約70万人から回答を集める、自動車に関する調査「Car-kit®」のデータを活用し、経済学のデータ分析を行いましたのでその成果の一部をご紹介します。なお、分析は途中であり、より正確な推計値が今後更新される可能性があることにご留意ください。

筆者らはまず、Car-kitデータから「2025年にPHEVまたはBEVを購入した生活者」を抽出しました。ここからの分析では普通・小型乗用車に加えて軽自動車も対象としています。さらに、新車だけでなく中古車での購入者も対象としています。これらの生活者だけで1,046サンプルが得られました。

次に、Car-kitデータの中でPHEVとBEVそれぞれの購入数が多い車種を見てみましょう(図2参照)。まず、Car-kitデータ内においてPHEVで購入数が最も多かった3車種はトヨタ「プリウスPHEV」、三菱「アウトランダーPHEV」、トヨタ「アルファードPHEV」でした。同様に、EVで購入数が多かった3車種は日産「サクラ」、日産「リーフ」、トヨタ「bZ4X」でした。このほか、ホンダ「N-ONE e:」、日産「アリア」、テスラ「モデル3」・「モデルY」などが上位に並びました。

図2 2025年に購入された主なPHEV・BEV車種

2025年に購入された主なPHEV・BEV車種

ここで強調しておきたいのが、市場の上位を占めるメーカーの顔ぶれがPHEVとBEVでは異なる点です。PHEVではトヨタと三菱が軸となり、他には輸入車が入ってきます。一方、BEVでは日産が市場の半数近くを占め、次いで、トヨタ、ホンダに加えて、テスラ、BYDなどが続きます。「全方位戦略」をとるトヨタだけはPHEVとBEVの両方で大きな存在感がありますが、他の各社はPHEVやBEVのどちらかに重点を置く戦略を取っているか、あるいは生活者にとってPHEVとBEVのどちらかだけのイメージを持たれていると言えます。

2. 2025年後半のBEV購買層とPHEV購買層は異なる

では、このPHEV購買層とBEV購買層はどのくらい重なっていて、どのような違いがあるのでしょうか?特に、2025年は9月を境にBEV購入が急増したので、その前後での購入者層の変化にも注目して見ていきます。

まず、前提として、PHEVとBEVの違いを確認しておきましょう。どちらも電気自動車系として並べられやすいですが、現状、日本国内で買われているそれぞれのサイズ感は異なります。例えば、図3と4は購入されたPHEVとBEVのボディサイズを示しています。この図から分かるように、PHEVはSUVが過半数を占め、残りは「プリウスPHEV」の5ドアセダンと「アルファードPHEV」のような大きめのミニバン・ワンボックスとなっています。一方、BEVでもSUVが最も大きいシェアを占めますが、日産「サクラ」やホンダ「N-ONE e:」が代表するように、軽自動車が3割以上を占めている点でPHEVと大きく異なります。このサイズ感の違いがこれらを求める購買層の比較の背景となってきます。

図3

2025年に購入されたPHEVのボディタイプ

図4

2025年に購入されたBEVのボディタイプ

次に、購入した家庭の家族構成を比較してみましょう(図5と6)。ここではBEVが増えた9月の前後での比較もしています。PHEVもBEVも2025年8月まで幅広い家族構成の生活者に選ばれていましたが、9月以降のBEV購買層では軽・小型BEVの投入からくる利用用途の変化を背景に、「子供が独立済み」のご家庭が急増しました。

図5 2025年PHEV購買層の家族構成の変化

2025年BEV購買層の世帯所得分布

図6 2025年BEV購買層の家族構成の変化

2025年BEV購買層の世帯所得分布

なお、PHEV購買層とBEV購買層では世帯の所得水準の分布にも違いがあります。PHEVは比較的高所得の世帯が多くなるのに対して、BEVは幅広い所得水準の世帯に購入されていました(図7と8)。また、PHEV購買層は車を1台だけ所有されている方が過半数を占めますが、9月以降にBEVを購入した層では2台持ちの方が増えていました。

図7 2025年PHEV購買層の世帯所得分布

2025年BEV購買層の世帯所得分布

図8 2025年BEV購買層の世帯所得分布

2025年BEV購買層の世帯所得分布

Car-kitデータの分析より、PHEVでもBEVでも約8割が買い替え需要であることが分かっています。そこで、PHEV・BEVそれぞれの購入者がどのような車から電動車へ移行したのかを把握するため、これらの生活者が昨年の買い替え時に手放した「前有車」を分析してみます。
この前有車のボディタイプの比較からもPHEV層とBEV層の違いが見えてきます。昨年PHEVを購入した人はその前有車もまた39.0%がSUV・ジープで、次いでセダンやワンボックスが約4割を占めます(図9)。一方、BEV購買層の前有車で一番多いのは3ドアか5ドアのハッチバックで28.8%を占め、次に軽自動車が2割以上、その後にSUVが続きます(図10)。

図9 2025年にPHEVを購入した生活者の前有車ボディタイプ

PHEV購入者の前有車ボディタイプ

図10 2025年にBEVを購入した生活者の前有車ボディタイプ

BEV購入者の前有車ボディタイプ

さらに、前有車のボディタイプが9月より前とそれ以降でもやや変化が生じていました(図11から14)。

図11

PHEV購入者の前有車ボディタイプ

図12

PHEV購入者の前有車ボディタイプ

図13

BEV購入者の前有車ボディタイプ

図14

BEV購入者の前有車ボディタイプ

また、前有車のメーカーも二つの購買層は異なります。PHEVはトヨタユーザーが4割以上で、次いで三菱ですが(図15)、BEVは日産ユーザーが3割以上となり、トヨタは約2割でホンダユーザーはPHEVよりも多くなりました(図16)。

図15 2025年にPHEVを購入した生活者の前有車メーカー

2025年にPHEVを購入した人の前有車メーカー

図16 2025年にBEVを購入した生活者の前有車メーカー

2025年にBEVを購入した人の前有車メーカー

前有車のメーカーも9月より前とそれ以降で変化が生じていました(図17から20)。このように9月より前のPHEV層とBEV層でもすでに違いがありましたが、9月以降でまたさらに異なる層が入ってきたと考えられます。

図17

2025年にPHEVを購入した人の前有車メーカー

図18

2025年にPHEVを購入した人の前有車メーカー

図19

2025年にBEVを購入した人の前有車メーカー

図20

2025年にBEVを購入した人の全有車メーカー

もちろん、PHEVとBEVの購買層で共通点もあります。例えば、購買層の年代の分布には大きな違いは見られません。また、上述の通りどちらもSUVユーザーが多いです。ただ、PHEV購買層には見られない「日産やホンダの軽」ユーザーがBEV層にいるなど、両者には特徴的な違いがあると考えてよいでしょう。

3. 国内のBEV市場とPHEV市場は違う層に広がっていく可能性

過去を振り返って「もしも…だったならば」とか「タラレバ」を言うことにあまり意味はないかもしれません。それでもしかし、現代的な経済学ではしばしば「現実では起こらなかった状況(反事実と呼ぶ)」を想像し、データでそれを表現しようと試みています。
もしも、2025年後半にBEVの新モデル投入が無かったならば、日本の電動車市場はどうなっていたでしょうか?ここではこの「タラレバ」のシナリオを「世界線B」とでも呼びましょう。この世界線BではPHEVの販売台数が実際の2025年後半よりも多くなったでしょうか?

BEV新モデルがなかった世界線Bでは「PHEVを購入していたはず」だけれど、現実ではBEVを買った生活者もある程度はいたでしょう。例えば、「中高生のお子さんがいるご家庭で車を2台持っていてSUVを手放して、現実ではBEVに乗り換えた層」に、世界線Bでは「PHEVに買い換えていたかもしれない生活者」がいたと筆者らは考えています。

しかし、Car-kitデータを活用した分析によると、このような生活者はあまり多くはなかった可能性があります。例えば、昨年後半にBEVを買った生活者のうちPHEVを最後まで比較検討していた生活者は1割未満に過ぎませんでした。

今回の分析をまとめると、2025年後半のBEV新モデルの登場を受けて、元々コンパクトな車やBEVを所有していた層がBEVを購入し、BEV市場のすそ野が広がり始めた時期だったと言えます。ここから、今後も現状の軽自動車ユーザーやホンダも含めた幅広いメーカーの愛好者がBEVを購入していく流れが予想できます。一方、PHEVは比較的に所得の高い世帯を中心としてSUVユーザーや「1台持ち」の層を取り込み、トヨタや三菱や輸入車の愛好者を軸に広がっていく可能性があります。

一橋大学・横尾研究室では今後もインテージとの共同研究を継続し、分析を発展させ、より定量的に「どのような層がBEVやPHEVを求めるか?」「それらのセグメントはどの程度重なるか?」「世界線Bではどのような市場になっていたか?」を明らかにすることで、新モデル投入施策の効果検証や電動車市場の展望を行っていきたいと考えています。

備考:
図2から20はCar-kitデータを用いて横尾研究室が作成。

関連サービス

【Car-kit®(自動車パネル)】
株式会社インテージが毎月約70万人から前月の自動車情報を取得しているシンジケートデータです。現有車や次期意向などを聴取する市場動向把握調査と、契約者に対して購入理由や購入時の重視点などを聴取する契約者調査の2部構成で実施しています。
※Cat-kitは株式会社インテージの登録商標です

著者プロフィール

横尾 英史(よこお ひでふみ)プロフィール画像
横尾 英史(よこお ひでふみ)
一橋大学大学院経済学研究科 准教授 
環境経済・政策学会 常務理事
経済産業研究所 リサーチアソシエイト
国立環境研究所 客員研究員

京都大学大学院にて博士号(経済学)を取得し、2023年より現職。
経済学の手法を用いてデータを収集・分析し、市場動向を研究している。環境経済学の専門家として環境政策の提言などにも携わる。
HP:https://www1.econ.hit-u.ac.jp/yokoo/

一橋大学大学院経済学研究科 准教授 
環境経済・政策学会 常務理事
経済産業研究所 リサーチアソシエイト
国立環境研究所 客員研究員

京都大学大学院にて博士号(経済学)を取得し、2023年より現職。
経済学の手法を用いてデータを収集・分析し、市場動向を研究している。環境経済学の専門家として環境政策の提言などにも携わる。
HP:https://www1.econ.hit-u.ac.jp/yokoo/

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