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ビジョン・オリエンティッド・コンサルティング(VOC)とは?〜ブランドと顧客満足(CS)の統合マネジメントを事例として〜イノベーションの論点①

この【イノベーションの論点】は、ビジョン・オリエンティッド・コンサルティング(VOC)を標榜し、企業や業界のビジョン創発を支援しているインテージのコンサルタントメンバーが、企業の課題解決に向けた独自の視点やアプローチについて解説するコラムです。第1回はコンサルティング部の部長である森川秀樹(プリンシパル・コンサルタント)がブランドと顧客満足(CS)の統合マネジメントを例に、ビジョン・オリエンティッドな課題解決アプローチについて解説します。


1.問題提起

かつてないほど高度に発展した経済社会において、生活者の嗜好やニーズはますます多様化・個別化している。一方、AIやIoT等ビジネスの様々なシーンで活用できる技術の進化によって市場への参入障壁は低下し、商品やサービスのコモディティ化が進んでいる。

生活者が真に自分に合ったモノやコトを求めるようになったにも関わらず、企業が努力し提供するものはコモディティ化する。この矛盾の解決策をビジネスのシナリオに転換すべく、企業はあらたなイノベーションの必要性を訴える。

しかし、現実は、現状の延長線上の事業展開に終始し、新たな価値創造の実現を成し遂げるケースは多くはない。なぜ、このようなことが起きるのか。イノベーションの必要性を認識しながらも、実際には既定路線の議論に留まってしまうのはなぜか。

本稿ではこの問題に関心を持ち、または対処の必要性に迫られている経営者、企業の担当者が持つべき着眼点について考えてみたい。

2.ビジョン・オリエンティッドに発想できているか?

ビジョン・オリエンティッドとは、現在の延長線上に組織や事業のあるべき姿を求めるのではなく、組織や事業のあるべき姿、もしくはありたいと思う姿を最初に描いたうえで、そこに至る道筋や対処すべき課題を特定し解決していくという発想やアプローチのことである。バックキャスティングという言葉もあるが、どういうビジョンを持ち、戦略上の最優先課題として何を位置づけるべきかをより強調する点が特徴である。

図1

このアプローチのKSFは、解くべき問題、つまりビジョンをどのように設定するかである。解くべき問題を適切に設定しなければ、その先にイノベーションはうまれない。どのようなビジョンを目指すべきか。これをビジョン仮説と呼ぶ。結局のところ、イノベーションの必要性を認識しながらも、実際には既定路線の議論に留まってしまうのは、秀逸で適切なビジョン仮説を持ち得ていないからである。

3.秀逸で適切なビジョン仮説が道を切り拓く

ビジョンと言うと、企業が掲げる理念など大きなレイヤーをイメージするかもしれない。もちろんそれも含まれるが、本来は事業を構成するファンクションごとにビジョン仮説を創造すべきである。すなわち、その対象はマーケティング・営業、広告・宣伝、商品開発、R&D、オペレーション、人材育成など多岐にわたる。したがって、ビジョン・オリエンティッドの理解と実践は、ほぼすべてのビジネスマンにとって必須である。

では、秀逸で適切なビジョン仮説とはどのようなものか。ビジョン・オリエンティッド・コンサルティングのアプローチでは、秀逸で適切なビジョン仮説を企業とともに創発する。自社の変革に能動的な企業がおもな対象となるが、企業がまだ気づいていない課題や企業自身がなすべきことの提案に重点を置く。

弊社では、自主的な調査研究やアカデミアと連携した取り組みなどを通して、業界や会社機能の先端をゆくビジョン創発に取組んでいる。ここからは、この取り組みの一つであるブランドと顧客満足(CS)の統合マネジメントを例に解説を進める。

4.“ブランドと顧客満足(CS)の統合マネジメント ”ビジョン仮説の一例として

■組織はサイロ化していないか?

ブランドと顧客満足(CS)の統合マネジメントは、企業が複数持ちうるビジョン仮説のうちのひとつである。ブランド力の向上と顧客満足(CS)の向上は、顧客起点のマーケティングを志向する企業にとっては新しくない課題領域であるが、それが故に、多くの企業で現在もそれぞれを担当する部門を別々に有している。そして、その連携は十分とは言えず、連携の必要性すら認識していないこともある。

弊社には、ブランドや顧客満足(CS)に関する数多の相談が寄せられ内容も多岐に渡るが、大雑把に言えば、ブランド担当部門からは、認知・イメージの測定やブランド診断およびその結果をコミュニケーションにどう活用すべきか。CSを所管する部門からは、顧客満足度の測定方法や測定した結果をどう活用すべきかといった仕事が持ち込まれる。もちろん、これらは重要であるしやるべきことである。しかし、図1になぞらえて言えば、フォアキャスティングのアプローチである。その先にイノベーティブな組織や事業が完成している可能性は高くないであろう。そこで必要になるのが、ビジョン・オリエンティッドな発想への転換である。つまり、ビジョン仮説をまずは描く。

■統合が必要な背景/企業にとってのメリット

つぎに述べる理由から、ブランドと顧客満足(CS)は統合的にマネジメントされるべきである。大きくは2つある。ひとつは、組織効率の問題である。この2つの領域の実務に多く携わると、実に多くの重複が存在することに気づく。データの種類や持ち方の重複、社内議論の重複など、ひたすら無駄が多い。統合すれば、時間と予算をかなり効率化できるはずである。

もうひとつは、顧客に提供する価値の高度化である。これは企業戦略上、より重要な問題である。冒頭でも触れたように、企業が提供する多くの商品やサービスはコモディティ化が進んでいる。図2で示したように、それは競争条件が変化したことを意味し、企業はマーケティング活動の目線を変えていくことを要求される。

図2

consul1_2.png

多くの生活者は商品・サービスのそのものや機能価値だけでなく、それらを手にする事で得られる経験やそこから得られる感情を求めるようになった。人々はipodを買うのではなく、音楽のあるジョギング体験を買っている。つまり、これまでの企業・製品発想から生活者中心の発想に切り替え、”経験価値”、すなわち、顧客にとって価値のある経験、さらに言えば記憶や印象に残る経験を提供することが重要になっている。これによって再購入や長期の利用につながることが想定される。

以上を踏まえれば、設定すべきビジョン仮説は必然的に導かれる。つまり、顧客にとって価値のある経験を高めるという統一的な目標を定めるべきである。そこでは、ブランドと顧客満足(CS)という分類はさほど大きな意味をなさない。経験価値の高度化という目標を達成するために、これらは統合的にマネジメントされるべきであるという、マーケティング領域におけるひとつの”ビジョン”を設定するに至る。ブランド調査の最適化、顧客満足度調査の最適化を別々の部門で個別に行っている場合ではない。

■顧客経験の分断をいかに回避するか

くしくも、昨今多くの企業で顧客経験(Customer Experience)が大事だと言われるようになった。専門の組織が立ち上がっている企業もある。顧客を中心に置き、商品やサービスの購入・利用前から、購入・利用後までを一連の流れとして捉え、設計し、マネジメントするというのである。この考え方は正しいと思う。

しかし、このコンセプトを用いて事業を成功に導くには、ブランドと顧客満足(CS)を統合的にマネジメントするという発想(ビジョン仮説)を持たなければうまくいかない。部署を新設し、カスタマージャーニーは作成したが機能しないという例は枚挙にいとまがない。原因は一つではないだろうが、顧客にとって価値のある経験とは何かを、企業として定義できていないことが真因ではないか。定義はしても、そのビジョン達成のために組織の壁を超え、あたかもひとつの有機体のような活動を創出できていないのではないか。顧客の経験は一連のストーリーである。分断されてはならない。したがって、主として経験の前半を扱うブランドと、主として後半を扱う顧客満足(CS)の統合的なマネジメントが必要なのである。

■統合マネジメントを支えるKPI体系と事業運営への接続

それでは、顧客にとって価値のある経験を定義し、そのビジョン達成のために組織の壁を超え、ひとつの有機体のような活動として成立させるためにはどうすればよいか。有力な答えの一つが、KPIの体系化によるアプローチである。

図3は、ブランドと顧客満足(CS)の統合マネジメントを支えるKPI体系の概念図である。顧客の経験価値をどのような要素から構成し、それらがどのように影響するかを指標ベースで表現する。

図3

consul1_3.png

KPI体系は4つの層で構成されるが、上下に隣り合う2つの層がインプットとアウトプットの関係を持つ。

第1階層は、企業活動の最終成果として位置づけられる。大きくは以下の3つの成果が期待される。
・ 情報発信やコミュニケーション、クチコミなどの評判によって新たな顧客が増える「新規獲得」
・ 現在の顧客がこれからも利用し続けてくれる「顧客リテンション」
・ 現在の顧客の利用の回数や幅が拡大する「クロスセル・アップセル」

第2階層は、企業活動の直接的な結果指標として位置づけられる。ブランドと顧客満足(CS)の統合指標である。今現在、確立された統合指標があるわけではないが、企業が顧客を惹き付ける力と期待値を満たす力の掛け合わせが、事業上の成果を説明するはずである。このスコアが上昇すると第1階層に貢献することが期待される。

第3階層は、さらに中間KPIと活動KPIの2つに分かれる。活動KPIとは、顧客に提供すべき経験価値を指標化したものであり、企業独自の戦略ロジックをデザインするうえでもっとも重要な要素である。中間KPIは企業内での共通認識を持ちやすいように、理解しやすい複数のグループに集約したものである。活動KPI(経験価値)は、文字どおり、「顧客にとって価値のある経験とは何か?」という問いに対する答え(仮説)であり、施策に直結する。この活動KPI(経験価値)は、顧客セグメント別に設定する場合など、企業によっては100を超える数になることもあるため、実際の運用においては中間KPIが使われることもある。

第4階層は、経験価値を実際に顧客に提供していくためのアクションプランへの接続である。これは設定した経験価値の内容に応じて、各担当部署に責任の所在が割り振られる。割り振られはするが、縦割りではない。人体に例えれば、手や足はそれぞれ固有の機能を持つが、全体としてはヒトというひとつの有機体をなすのと似ている。また、顧客の経験は点ではなく連続的であるため、一つの部署で対処することが適切でないことが多い。組織間のクロスファンクショナルな連携が求められることが多く、そのためにもこのようなKPIの見取り図は、企業戦略を有機体のように推進するための羅針盤として重要な役割を果たす。

このように、ブランドと顧客満足(CS)に関するKPIの体系化によって、この2つを統合的にマネジメントすることが可能となる。多くのコンサルティングに携わる中で業種・企業を問わず頻繁に耳にするのが、縦割りで取り組みが進まない、部門ごとにそれぞれ独自のことやっている、部門をまたいだ共通言語がない、といったものである。本稿で述べたことに取組むことで、顧客に提供すべき価値を組織内部の事情で分担することなく一気通貫で実現するための、いわば企業にとっての戦略見取り図を持つに至るのである。

5.最後に

インテージでは、以上に述べたようなビジョン・オリエンティッドなアプローチによるコンサルティングを目指しており、独自の視点や知見を基に、クライアント企業や業界に対し、独自のビジョン仮説を提案し、その実現に向けた実践的なステップの設計・実行を支援している。本稿では、そのビジョン仮説の第一弾としてブランドと顧客満足(CS)の統合マネジメントの必要性とアプローチについて概観した。このテーマ以外にも、つぎのビジョン仮説に取組んでおり、【イノベーションの論点】では、これらについても順次、紹介していく予定である。
・健康軸のビジネス成長
・交通インフラサービスの高度化
・国内外の商品開発支援
・訪日インバウンド戦略立案と再構築

ビジョン・オリエンティッド・コンサルティングの詳細はこちらのページをご覧ください。

著者プロフィール

森川 秀樹 (もりかわ ひでき)プロフィール画像
森川 秀樹 (もりかわ ひでき)
コンサルティング部 部長 プリンシパル・コンサルタント
航空・鉄道、自動車、流通(百貨店、コンビニ、商業施設等)、金融(銀行、保険、クレジット)、通信販売、教育・人材、エネルギー、放送、通信、農業機械、フィットネス、レジャー等の企業に対し、顧客戦略立案・実行支援、マーケティング支援、インナーブランディング(組織活性化)等に対するコンサルティングを多数行う。
インテージ顧客マーケティング共同研究会 (2013〜)主催、JCSI(日本版顧客満足度指数)アカデミックアドバイザリー会議、日本マーケティング学会サービスマーケティング研究会メンバー。

コンサルティング部 部長 プリンシパル・コンサルタント
航空・鉄道、自動車、流通(百貨店、コンビニ、商業施設等)、金融(銀行、保険、クレジット)、通信販売、教育・人材、エネルギー、放送、通信、農業機械、フィットネス、レジャー等の企業に対し、顧客戦略立案・実行支援、マーケティング支援、インナーブランディング(組織活性化)等に対するコンサルティングを多数行う。
インテージ顧客マーケティング共同研究会 (2013〜)主催、JCSI(日本版顧客満足度指数)アカデミックアドバイザリー会議、日本マーケティング学会サービスマーケティング研究会メンバー。

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