With コロナ 緩む不安と緩まないもの

この記事は、インテージが生活者理解の拠点として立ち上げた、生活者研究センターセンター長 田中宏昌による「Withコロナの新しい日常」に関するコラムの第2弾です。

【目次】

  1. はじめに ~ありがとう。としまえん~
  2. 戻りつつある日常~ちぐはぐな風景
  3. 緩む不安と緩まないもの
  4. 「視なおし」による新しい日常と新しい課題
  5. 「体験による実感」がブランドイメージを創る
  6. おわりに

1. はじめに ~ありがとう。としまえん~

2020年8月31日(月)、東京都練馬区にある「としまえん」が静かに閉園を迎えました。1927年に景勝地として開園し、戦時中には軍事施設が置かれ一時的な休園はあったものの、ほどなく再開。その後、94年間に渡り営業を続けてきました。そのとしまえんが多くのファンに惜しまれながら幕を閉じました。

「としまえん」という言葉を目にするとふたつの想い出が浮かんできます。
ひとつ目の想い出は1984年にさかのぼります。当時、付き合っていたクラスメイトとの初めてのデートがとしまえんでした。この年、巨大な海賊船が宙づりになり振り子のように左右に大きく揺れ動くアトラクション「フライングパイレーツ」がデビューし、巷では大きな話題になっていました。
強烈なスピードで天高く後ろ向きに吊り上げられたとき、隣の席から聞こえた「きゃっ!」という声、そして、安全バーをぎゅっと握りしめる小さな手にフライングパイレーツ以上に胸がときめいたことを覚えています。

ふたつ目の想い出はとしまえんの印象深い広告、名コピーの数々です。
「プール冷えてます。(1986年)」「史上最低の遊園地。TOSHIMAEN(1990年)」、「うらやましいぞ!!Jリーグ(1993年)」などなど、今でも忘れられない広告ばかりです。ちなみにデビュー当時のフライングパイレーツの広告コピーは「240名様、昇天。」でした。

そして、最後の新聞広告は2020年8月30日(日)の朝日新聞の全面広告。
名作「あしたのジョー」のラストシーン。ホセ・メンドーサとの戦いでまっ白な灰にまで燃えつきた矢吹丈が静かに椅子に腰かけているイラストを中央に、ただ「Thanks.」という文字が浮かんでいるというものでした。
まさに、「まっ白に燃えつきた」という「としまえん」の想いだったのかもしれません。

本来であれば、多くの人がとしまえんを訪れ、アトラクションや恒例の夏の花火などを楽しみながら閉園までのカウントダウンを迎えるはずでしたが、新型コロナウィルスの影響により、さまざまな自粛の波を受けながら閉園を迎えることになりました。

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※筆者私物

2. 戻りつつある日常~ちぐはぐな風景

5月25日に緊急事態宣言が解除され6月初旬には落ち着きを見せていた新規感染者が6月中旬を過ぎた頃から再び増加傾向に転じました。奇しくも6月19日に県外移動の自粛が解除されたタイミングです。
さらに、世の中が夏休みに向かっていく中、新規感染者数は前回の第一波を越える勢いで増え始め、連日のように「1日当たりの新規感染者数更新」というニュースがそこかしこに踊っていました。そのような中、7月22日には「Go to キャンペーン」が始まりました。 
増え続ける新規感染者に配慮してか、直前になって「Go toキャンペーン」から東京が外れましたが、8月7日、ついに1日における新規感染者が東京では462人、大阪では255人、全国では1,605人と過去最多を記録しました。
東京における新規感染者数が100人を超え、200人を超え、さらには300人を超え、としているうちに不思議なことに「慣れ」のような気持ちが私の胸に去来したことも事実です。
新規感染者は増えているものの、政府は「Go to キャンペーン」を発表しており、「3密回避、ソーシャル・ディスタンス、マスクや手指の消毒などを順守すれば大丈夫」という空気が世間でも広がっているように感じました。
趣味としてロードバイクに乗っており、週末には多摩川のサイクリングロードを長い距離走っています。コロナ禍においても、厳重な外出自粛の時期を除いてサイクリングは続けていましたが、すれ違うランナーや散歩をしている人々のマスクの着用率が減ったことやラジオ体操を終えて談笑するお年寄りたちのディスタンスが以前よりも「密」になった姿にはっきりと新型コロナへの意識の変化を感じることができました。
その変化は「緩み」にも映りました。

「緩み」とも映る人々の行動の変化は買い物行動のデータにも表れています。
1週間の総買い物回数の変化を見てみると、緊急事態宣言下では人との接触を避けてスーパーやコンビニなどを敬遠して通販(ネット)にシフトする動きがみられました。しかしながら、7月後半になると緩やかに平時に戻りつつあります。(図表1)
1回あたりの買い物金額についても、緊急事態宣言下ではスーパー、コンビニを中心に「まとめ買い」の傾向がみられましたが、こちらも以前の傾向に戻りつつあります。(図表2)

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外出自粛下における買い物行動に関しては通販(ネット)へのシフトが確認できましたが、昨年と比較してみると、この夏ならではの傾向も浮かび上がってきます。
8月6日、小池都知事が得意とするワンフレーズで「特別な夏~旅行や帰省は自粛を」と呼びかけました。その影響もあってか、お盆休みにおける高速道路の渋滞予想は例年とは異なり、混雑を予想するものは見当たりませんでした。東名高速を管理するNEXCO中日本が発表したお盆期間中の1日の各高速道路の交通量についても、例年の6~7割程度となっていました。渋滞の発生回数についても、10km以上の渋滞は去年の4割程度、30km以上は2割程度と少ないものになっています。※1
帰省や行楽を控えて「特別な夏」を過ごしたことにより、お盆の時期における通販(ネット)の利用は昨年とは異なり、大きな落ち込みもなく推移しています。(図表3)
また、チャネル別×商品分類別に購入金額のみてみると、通販(ネット)においては、「飲料」、「食品」、「雑貨」、「化粧品」のいずれも増加しており、ネットによる多様なジャンルの購入が拡がっていることが想像されます。中でも「食品」は大きく伸長しており、より日常での利用の浸透を物語っています。(図表4)

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3. 緩む不安と緩まないもの

内閣府の「景気ウォッチャー」という指標を見てみると「景気の現状DI」については4月以降、回復傾向にあり、6月から8月にかけても緩やかではありますが回復に向かっています。
一方で「景気の先行きDI」については、4月~6月までは明るい先行きを強く予想していますが、7月には一気に悪化しています。6月中旬から再び増え始めた新型コロナの感染者増の影響と思われます。しかしながら、「景気の先行きID」も8月になると再び持ち直し始めています。8月7日をピークに新規感染者数が減少に転じたことが影響していると考えられます。(図表5)

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回復の背景にあるのは、新型コロナウィルスの感染拡大をはじめとした「不安」の薄れがあります。3月から継続して収集している弊社アンケート結果から「不安」に関するデータをみてみることにしましょう。
8月中旬以降の感染者数の減少に連動して、「感染拡大の不安」も緩やかに減少に向かっています。依然として7割弱の人が「不安」を感じていますが、やや落ち着きを取り戻し始めたようです。また、「家庭の暮らし向きが今よりも悪くなる」と考える人も2割を切って底打ち感が出てきました。飲食店の営業時間の自粛やスポーツ観戦やコンサートなどの自粛要請が少しずつ緩和され、世の中の動きが日常を取り戻しつつある中、「回復の兆し」というものを感じはじめているのかもしれません。
しかしながら、経済の回復につながる生活者の消費意識については「節約意識」が根強く残っており、6割前後を推移しています。コロナ禍において、多くの企業で夏期賞与が大きく減少しました。また、長びく新型コロナの影響で業界業種によっては冬の賞与も大幅削減といった報道も目にします。そうした気配を敏感に感じながらお財布のひもはまだまだ固く結ばれたままのようです。(図表6)

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4.「視なおし」による新しい日常と新しい課題

前回のレポート(2020.8.9リリース)では、長びくコロナ禍において新型コロナウィルスをはじめとした「みえない不安を手触りのある安心・安全に置き換えていく」と記しました。また、「置き換える」を「視なおす」と表現しました。(図表7)

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みえない不安に対して、丁寧に視なおしを進めていくという行為です。視なおしは定着し、やがて新しい日常へと変化していきます。

先の買い物分析において多くの商品分類でネット通販が利用されていることが確認できました。きっかけは、外出自粛、人との接触を極力避けるため、「安心・安全」を求めて利用したのかもしれません。しかしながら、実際の利用によって「安心・安全」だけでなく、買い物に行く時間の節約や重いものを持って帰らなくてもいいといった利便性を実感した人も数多くいたと思われます。はじめは日用品や雑貨の購入だったものが食品などにも購入が拡がっていることは容易に想像できます。

以前は実際に売り場を見て、商品が並んだ棚を見て、あるいはPOPなど店頭のディスプレイや説明書きを見て商品を選んでいたはずが、パソコンやスマートフォンの画面の中での商品選択にシフトしている可能性もあります。より視覚的な印象が購入を左右する可能性もありますし、「商品名」がしっかりと刻み込まれていて、商品検索から選ばれるという場合もあるでしょう。ネットによる購入を前提として、自社の商品がどのように選ばれるのか、選ばれるようになりたいのか、は新しい課題と言えそうです。

ネット通販へのシフトという購入チャネルの変化も「新しい日常」ですが、「買う」という行為、「商品を選択する」という行為のそのものの瞬間が変化していることも「新しい日常」なのだと思います。

また、スーパーなどのリアルな買い物についても、感染防止のために買い物にかける時間をできるかぎり短くするための工夫もなされているようです。買い物に行く前に冷蔵庫や在庫を確認し、必要なものをお買い物リストにまとめる。スーパーではそのメモを頼りに無駄なく動き、手短に買い物を終えるという工夫です。

幸いにもリストの中で「商品名」が書かれている場合もあるかもしれません。「シャンプー」とだけ書かれているかもしれません。生活者のココロの中にどのような記憶を残せるのか、どのように残せばリストに入るのか、は今後のパッケージデザインやブランド戦略の中でより重要な課題となってきそうです。ここには「ブランド・ロイヤリティ」の醸成が今後はより重要になるという課題も潜んでいます。

「みえない不安を手触りのある安心・安全に置き換えていく」、あるいは「視なおし」によって新しい日常へと変化していく、という話をすると「選ばれるモノやコト」という話になりやすいものですが選択の「行為そのもの」が変化することによる影響も大切な視点だと考えます。

5.「体験による実感」がブランドイメージを創る

9月23日の「日経MJ」において、日経リサーチによる最新(2020年度版)の企業ブランド調査の結果が記事になっていました。中でも注目されていたのが、大きくランキングを上げた「ヤマト運輸」でした。昨年の14位から大きくスコアを伸ばし、3位に浮上しています。(1位はキューピー、2位はソニー)
ランクアップの要因としては、コロナ禍における外出自粛でネットによる購入機会が増え、配送時にサービスやスタッフと接する機会が増えたことや、生活インフラとしての価値を再評価されたことを挙げています。欠かせない重要なお仕事、そして、そこで働く人々、という文脈もブランドイメージの向上に効果的なメッセージとなっていると思います。

しかしながら、より強く目に浮かぶのは、コロナ禍において我が家に届く荷物を運んでくださったヤマトのドライバーさんの姿です。酷暑にも関わらずマスクを外すことなく、密を避けるためにエレベーターも使わずに5階まで階段を駆け上がる。遠慮がちに声をかけ、品物によっては接触を避けて玄関の前に荷物を置いていく。受け取りサインについても省略可能でした。

ヤマトさんは新型コロナ感染拡大の極めて初期の段階から「受領印・サインの省略」、「自宅での非対面での受け取り」、「オープン型宅配便ロッカー・PUDOステーション」などの対策を矢継ぎ早に発表し、「安心・安全」に向け、接触を避ける取り組みを迅速に導入していました。
こうした「体験を通じた実感」こそが、人の心にブランドイメージを深く刻み、魅力的なブランドを創るのだと思います。(図表8)

図表8ihr-column2_18.png

6. おわりに

感染拡大の不安や家計の不安が長引く中、「不安」に共振して、お買い物をはじめとした消費行動も変化しています。そして、安心・安全を前提に「視なおし」が進んでいます。そうした環境下において選ばれるために、さらには選ばれ続けるために、わかりやすく実感できる形で「安心・安全」を届けていくことが大切なのだと思います。

お客様の心のお買い物リストにブランド名が刻まれることを目指して。


夏になるたびに目にしたユニークな「としまえん」の広告は、私のココロにゆっくりと降り注ぎ、積み重なって発酵し、豊かなブランドイメージを創っていきました。

すっかり歳をとり、「としまえん」とは縁遠くなってしまったけど、ずっと広告を楽しみにしていました。広告を通じて私に「ほほえみと元気」を贈ってくれていました。
 
あらためて。
こちらこそ。Thanks. としまえん。

※1:2020年お盆期間における高速道路の交通状況(速報)【中日本版】
https://www.c-nexco.co.jp/corporate/pressroom/news_release/4871.html

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生活者研究センター概要

インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。


著者プロフィール

田中 宏昌
生活者研究センター センター長
田中 宏昌(たなか ひろまさ)

1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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