CASE STUDY
2023/5/19
アンバサダーを起用して
成功したマーケティングとは
(前編)

業態の限界突破し、顧客層を拡大する

2019年9月5日、ワークマンの広報部から、「過酷ファッションショー」という新商品の発表会に招待された。店舗ブランド名が示す通り、ワークマンは、建設土木工事業や農林水産業など、専門業者向けに作業服やユニフォームなどを企画販売しているチェーン店である。2010年ごろまでは、プロ向けの機能性訴求商品を、NBメーカーから調達して販売していた。

ファッションショーの発案者は、創業家ファミリー出身の土屋 哲雄専務である。三井物産から転職してきた土屋氏は、専門業者向けの業態だけでは、1000店舗を超える辺りから出店余地がなくなることを憂慮していた。そこで、小濱英之社長 (当時は商品部海外商品部長)が2010年に着手しはじめていたPB商品のラインを拡充し、同時に「顧客層を拡大すること」を宣言した(土屋 哲雄、2020)。

2016年9月、ワークマンは手始めに「ブロガー向けの商品発表会」を開いて、情報発信に努めるようになった。バイク乗りや、釣り、ハイキング、トレッキング、キャンプで使える新作20点を集めてブログで紹介してもらい、製品の認知度を高めることが狙いである。

新作発表会を開いたきっかけは、2013年に発売された「イージス透湿防水防寒スーツ」だった。2016年ごろ、厳冬期の防寒服として販売されていたブランドを、バイク乗りたちがSNS(ツイッター)で、高機能で低価格(6,800円)のバイクウエアとして紹介していた。

想定外の顧客層と新しい用途の発見は、POSデータの異常値(対前年比で販売量が数倍になる)を分析することで明らかになったことである。自社が想定していなかった用途を発見したことを契機に、「作業服」を売る会社から「機能性ウエア」を販売する会社に、自社のポジショニングを見直すことになった。

翌年(2017年)から、まだ顕在化していない生活者の要望を、製品の用途開発に活かすため、開発者に大幅に権限を委譲することにした。しかし、生活者の知見をワークマンの社員が持っているわけではなかった。そこで、社外(アウトドアライフに知識があるブロガー)にその知恵を求めることにした。

新作発表会の進化プロセス:情報発信に開発機能を付加する

当初は、商品開発に参画するというよりは、ブロガーに新作の情報を提供し、それをSNSで拡散してもらう発表会の形式だった。ただし、ブログで取り上げた商品にオンラインストア経由で注文が入ると、ブロガーに売上の5%を還元するというアフィリエイトプログラムを展開していた(酒井 大輔、2020)。しかし、このインセンティブ付与のやり方は、のちに見直されることになる。

一方で、発表会に集まったブロガーの要望を取り入れ、自社商品を改良してみた。結果的に、翌年に発売した商品は、前年より明らかに売れ行きがよかった。そこで、発表会を春と秋の年2回で定番化し、2018年以降は、「インフルエンサー向けの商品発表会」と名称を変えることになった。

新作発表会に集まったメンバーには、2つの役割が期待された。ひとつは、製品の用途開発に対する意見やアドバイスを提供すること。もうひとつは、新作に反映された改良点や新しい機能を情報発信する役割だった。

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役員待遇営業企画部兼広報部部長
林 知幸

1996年にワークマン入社。スーパーバイズ部、開発部を経て2020年4月より現職。2018年のワークマンプラス、2020年の#ワークマン女子の立ち上げや、多くのメディアに取り上げられ話題となった「過酷ファッションショー」の企画や演出に携わった。現在ではSNS等のオウンドメディアやアンバサダープロジェクトなどのマーケティング戦略や広報・PR戦略を担当。

法政大学名誉教授小川 孔輔 先生

1951年秋田県生まれ。1974年東京大学経済学部卒業。法政大学経営学部教授、経営大学院教授、退職に伴い同大学名誉教授。2000年に日本フローラルマーケティング協会(JFMA)、2006年にMPSジャパンを創立。
専門分野;マーケティング、流通サービス、花産業。
トヨタやローソン等各企業のコンサルティングや講演も行っている。
著書に『マーケティング入門』『ブランド戦略の実際』『マクドナルド失敗の本質』『値づけの思考法』『青いりんごの物語:ロック・フィールドのサラダ革命』ほか多数。