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なぜビジネスに「探究」が必要か?―フィールドワークと内省が拓くイノベーション

これからの時代、既存の枠組みを超えた新たな価値やイノベーションを生み出すためには、従来型の効率的なデータ分析や表面的なニーズ調査とは異なる「探究のアプローチ」を取り入れていくことが、一つの有力な手立てとなります。

あらかじめ定義された製品カテゴリーや言葉(名詞)で思考を固めるのではなく、実際の「現場(フィールドワーク)」で拾い上げた小さな違和感やノイズを持ち帰り、自らの感覚や体験と照らし合わせて「内省(リフレクション)」を何度も往還させる。この探究のプロセスを通すことで、日常の観察センサーが研ぎ澄まされ、ビジネスやサービスが立ち返るべき「本質的な問い」やイノベーションの起点が立ち現れてきます。

図表1

ビジネスにおける探求の4ステップ

連載の第1回ではMIMIGURI小田氏と「動詞」に着目する意義、第2回では文芸評論家の三宅香帆氏と「ノイズ」に向き合い問いを立てる重要性を紐解きました。第3回では「秋葉原動詞探究倶楽部」での実践を通じ、違和感を抱えたまま思考を深めるプロセスを共有してきました。

最終回となる本記事では、「なぜ今、ビジネスに探究が必要なのか」というその意義と可能性を、筆者自身が「遊ぶ」という一つの動詞を探究した実践エピソードを通して考察します。身近な子どもの遊び場(公園)の観察から始まった探究が、どのように「現代の顧客体験(CX)の問い直し」へと広がっていったのかをお届けします。

1. 探究の第一歩:現場(フィールドワーク)で「違和感」を捉える

探究活動の出発点は、特別な調査環境ではなく日常のすぐそばにあります。実際の「現場」に足を運び、言葉にならない微細な変化やノイズ、違和感を拾い上げること――すなわちフィールドワークです。

私自身、地域活動や子育ての現場で地元の公園や小学校の校庭に足を運ぶ中で、ある強烈な違和感に襲われました。かつて私たちが幼少期に夢中になり、スリルを感じながら遊んでいた遊具たちが、次々と姿を消しているのです。

箱ブランコは撤去され、スリリングな登り輪っかトンネルや、かつて子どもたちが列を作って乗っていた滑車ロープも使用禁止や撤去となりました。現在の公園に残されているのは、低い滑り台や小さなブランコ、動物の形をした小さなスイング遊具、あるいは柵で囲まれた砂場程度です。さらに公園の至る所には、「一度に乗れるのは3人まで」「20回こいだら交代」「遊具の上に登らない」「大声禁止」「ボール遊び禁止」といったルールやお願いが羅列されています。

もちろん、これは行政や管理担当者、保護者が「子どもの安全を最優先し、事故リスクを回避する」という配慮と苦労のうえで成り立っています。致命的なけがを防ぐリスク管理(ハザード対策)は前提として絶対不可欠です。

しかし、そうした現場を注意深く観察していると、もう一つの側面が見えてきます。親や大人が周囲から常に監視し見張り続けている空間の中で、子どもたちが「何をしたいか?」ではなく「何をしたら怒られないか?」を気にして動く、どこか指示待ちで受け身な空気が漂っていました。

図表2

いまの公園で、起きていること

現場を観察して見えてきたのは、「ゲームや習い事に押されて子どもが外で遊ばなくなった」という表面的な分析ではありません。「安全配慮とリスク排除の追求の裏側で、遊び場が持つ自発性や熱量を育む余白が狭まり、遊び場そのものがつまらなくなっている」というリアルな実態でした。

2. 探究の深まり:内省(リフレクション)によって「自分の感覚」と照らし合わせる

フィールドワークで得た違和感を自らの内側へ持ち帰って問い直すこと。これこそが、探究の第二の要素である「内省(リフレクション)」です。

「自分が子どもだった頃の夢中な感覚はどこから来ていたのだろう?」「空き地で石ころやガラクタを宝物に見立てていた時、そこにはどんな余白があっただろう?」「なぜ自分は今、失敗のない買い物や旅行に物足りなさを感じるのだろう?」――。

自問自答を重ねることで、公園の風景は「ビジネスや顧客体験(CX)の縮図」へと意味合いを変えていきます。

現代の多くのビジネスにおいては、確実性・予測可能性を重視し、最適化と効率化を優先する傾向が見られます。不快感やストレス、失敗や遠回り(ノイズ)をゼロに近づけ、レコメンドや口コミで「失敗したくない」生活者を満足させようとします。

しかし、こうした「過剰に管理され、最適化されたCX」の先で、私たち生活者は今、何を感じているでしょうか。失敗や外れくじはないけれど、すべてが予定調和で、心から湧き上がる感動や熱狂がない。洗練されていて期待通りのものは手に入るが、偶然の出会いというスリルがなく、どこか味気ない。

安全配慮やストレス排除は極めて重要ですが、それだけに終始すると体験の自発性や情熱とのトレードオフが生じ、閉塞感や「満たされない虚無感」を生んでしまう。フィールドワークと内省の往還によって、「最適化の行き過ぎと、両立の難しさ(トレードオフ)」というCXの本質的な課題が見えてくるのです。

3. 探究がもたらす果実:新たな視座と「イノベーションの起点」の獲得

現場での違和感と自らの感覚を往還させる探究プロセスを進めていくと、従来の「顧客にニーズを聞いてその通りに作る(マーケットイン)」という発想を超えた、新しいイノベーションの起点が立ち現れてきます。

その具体例として筆者が挙げたい現場が、東京都世田谷区にある「羽根木プレーパーク」でした。

そこには一般的な公園にあるような均一で綺麗な遊具はなく、あるのは凸凹の土や水たまり、放置された廃材や木くず、そして自由に使えるノコギリや金づちといった本物の工具です。手すりも階段もない木造の大きなすべり台は「駆け上がって登る」ための「登り台」と化し、その床下やデッドスペースは大人や親の目が届かない子どもだけの「秘密基地」のような隠れ場所になっていました。

子どもたちは、板切れや材木を使って自分たちで「子ども商店街」の店舗を組み上げたり、地面にシャベルを入れてダイナミックに穴を掘り、泥をすくって水が流れる川を自由に作り出しています。凸凹や起伏に富んだパーク内を、擦り傷や転倒を恐れる様子すらなく縦横無尽に走り回り、高い場所や登りにくい樹木にも自ら身体の使い方を工夫してよじ登っていく。

大人は決して先回りをせず、笑って見守っています。掲示されているのは、「自分の責任で自由に遊ぶ」というモットーと、「ハザード(致命傷につながる危険)は取り除くが、リスク(挑戦や成長の機会となる危険)は残す」という明確な安全思想でした。そこにあったのは、時間を忘れて自ら遊びを生み出し、目の前の挑戦に夢中になっている子どもたちの躍動感です。

図表3

羽根木プレーパーク ー自由が、遊びを生み出す

図表4 安全管理優先型CXと探究・余白型CXの比較

比較項目現代の一般公園(安全管理優先型CX)プレーパーク(探究・余白型CX)
環境設計の思想統制・ルール重視・絶対的安全性不確実性・余白・非管理・適度なリスクの許容
生活者の行動パターン「何をしたらいいか?」という指示待ち「これをやってみたい!」という自発的熱中
提供される体験成果予定調和・安心感・期待どおりの満足自発的挑戦・失敗と成長の経験・深い記憶
ビジネスへの示唆ストレス排除・効率化重視の従来型CX偶然性や余白をあえて組み込んだ創発型CX

この比較から導き出されるのは、ビジネスにおける提供価値の根本的な転換です。一般の公園のように、利用者の「安全にしてほしい」「トラブルを防ぎたい」という表面的な要求(マーケットイン)だけを100%満たすと、結果として、生活者が能動的に夢中になれるような深い体験価値が生まれにくくなってしまいます。

探究によって得られる真の果実とは、表面的な要求を超えて、「受け手や社会にとって、真に意味をなす本質的な価値とは何か?」を設計者自身が深く考え抜き、自分の内側から外へと提案していく「インサイド・アウト」と「ギフト(贈り物)」の視点です。

プレーパークが提供しているのは、単なる「安全で快適な広場」ではありません。「小さな失敗やリスクを恐れずに挑戦し、自分の力で遊びを作り出す体験こそが、子どもの生きる力やウェルビーイングにつながる」という信念に基づく贈り物(ギフト)です。受け取った直後は「服が汚れる」「危ないかもしれない」と思われるかもしれませんが、時間をかけてその人の人生にとってなくてはならない本質的な価値となって実を結びます。

「顧客が欲しがっているから作る」のではなく、「自らの探究によって見出された、未来にとって本当に価値ある体験を届ける(ギフト)」。このインサイド・アウトの姿勢こそが、新しいイノベーションを切り拓く出発点となります。

図表5

インサイド・アウトとは何か

4. 動詞を探究することで、私たち自身の「日常のセンサー」があらたまる

今回ご紹介した考察は、「遊ぶ」という身近な一つの動詞を起点に、フィールドワークと内省を重ねた結果として立ち上がってきたものです。

連載の過去記事において有識者の方々が語っていたように、「意識の向け方を変えて小さな変化を見つめること」「自分の生活者観を探究し続けること」「本質的に生活者を喜ばせたい想いを引き出すこと」こそが、クリエイティビティの本質です。

あらかじめ決められたフレームワークや過去のデータだけに頼るのではなく、ひとつの動詞から問いを立て、観察し、自分の感覚で捉え直す。それだけで、日常にある観察センサーは大きく研ぎ澄まされ、これまで見落としていた深い兆しや違和感を捉えられるようになっていきます。

5. 結び:答えのない時代に、「問い」を深める探究の場へ

効率化やAIの進化によって「正解」や「予測された未来」が簡単に手に入るようになった現代だからこそ、ビジネスパーソンに求められているのは、安易な答えに飛びつくことではありません。自らの観察センサーを研ぎ澄まし、自分の内側にある違和感や熱量から「独自の問い」を育てていく力です。

「秋葉原動詞探究倶楽部」では、まさに今回ご紹介したような「動詞」を出発点に、単なるトレンド分析やデータ解析では辿り着けない人間探究を行っています。人文知や有識者の視座を交え、異業種の仲間とともに徹底的に対話し、フィールドワークと内省を往還させながら、未来の生活者理解と新たな体験価値の創出を目指す半年間の実践プログラムです。

第3期では、現代社会の大きな潮流となっている動詞「推す」を徹底的に解剖し、10年後の未来における人間の新しい熱量や体験価値を探究していきます。

あらかじめ決められたマニュアルを学ぶのではなく、自らの手で問いを立て、意味をデザインし、社会や生活者にとって真のギフトとなるイノベーションを生み出していく――。あなたも一つの動詞から日常のセンサーを革め、未来の体験価値を共に探究してみませんか?


▼動詞探究倶楽部第3期・エントリー受付中!詳細・資料ダウンロードはこちら
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第1期「続ける」の動詞探究活動をまとめたebookを公開しています。こちらもぜひご覧ください。

著者プロフィール

見山 公一プロフィール画像
見山 公一
株式会社インテージ エクスペリエンス・デザイン本部 CXコンサルティング部
CXコンサルタント

SIer部門にてシステム開発上流やプロマネに従事。コンサルティング部門合流後は、ヘルスケア企業・食品企業等の商品開発、マーケティング戦略支援、近年は特に、サービス業や耐久消費財メーカーのCXマネジメント・CXデザイン・イノベーション創出支援、また未来兆候による発想基盤「ありたい姿データベース」の開発に従事。秋葉原動詞探究倶楽部には第2期から運営に携わる。事業構想修士。

株式会社インテージ エクスペリエンス・デザイン本部 CXコンサルティング部
CXコンサルタント

SIer部門にてシステム開発上流やプロマネに従事。コンサルティング部門合流後は、ヘルスケア企業・食品企業等の商品開発、マーケティング戦略支援、近年は特に、サービス業や耐久消費財メーカーのCXマネジメント・CXデザイン・イノベーション創出支援、また未来兆候による発想基盤「ありたい姿データベース」の開発に従事。秋葉原動詞探究倶楽部には第2期から運営に携わる。事業構想修士。

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