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日本のEV導入における課題とは?~EV先進国中国の事例と日本の生活者意識から考える~

※この記事は、日刊自動車新聞の“インテージ生活者インサイト”コーナーにインテージのアナリスト三浦太郎・前田直人が寄稿した連載を再構成したものです。

世界各国で電気自動車(以降、EVと表記)の開発が進んでいます。昨今では、一定の割合で新エネルギー車の販売を義務付ける、※1NEV(New Energy Vehicle)クレジットを課す国も出てきました。もちろん日本でも新エネルギー車の導入促進は政府が掲げる課題となっています。

この記事では、インテージの海外調査の知見と日本国内の自主企画調査結果をもとに、NEV先進国である中国の現状と課題をレポート、さらに日本での普及に向けての課題と求められる要素について考察します。

EVをリードする中国自動車市場の現在

はじめに中国におけるNEVの近年の販売実績を見てみます。(図表1)

図表1
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中国では、ハイブリッド車(HV)を新エネルギー車として分類しないため、EVとプラグインハイブリッド(以降、PHVと表記)の2つが主力になります。2015年から振り返るとPHVは4倍以上、EVにいたっては8倍以上の伸びを示しており、中国でEVの普及が進んでいることがわかります。
なお、2019年7月の中国公安部発表によると、EVとPHVを合わせた新エネルギー車の保有割合は、保有されている車の台数の1.4%となっています。他方、日本では0.2%程度にとどまっています。

こうした成長の背景には、中国政府の手厚い優遇政策があります。中国政府は世界に先駆けてEV先進国を目指すべく、EVの普及啓発に力を入れてきました。エネルギー満タンの車が走行可能な距離である「航続距離」に応じて購入者に手厚い補助金を交付し、ガソリン車に設定されている大都市での走行制限もEVに対しては緩和しました。地域によってはEV専用の駐車場を設置するなど、各所で利便性を高めるための施策を講じています。また、大都市ではガソリン車のナンバープレートの発給が制限されているのに対し、EVには独自のナンバープレートを設定して発給するなど、生活者にとっては購入の敷居が大きく下がることになりました。

中国におけるEV普及の立役者となったのは中国のローカルブランドです。広州のBYDはいち早くPHVやEVを発売し、市場を先導しました。また近年では北京汽車のEUシリーズや、吉利の帝豪シリーズ、栄威のRXシリーズなど、主要なローカルブランド大手がこぞってセダンやSUVタイプのEVを発売しており、EV販売ランキングの上位を占めています。

ただ、ここで注目したいのは各地に根差した中国ローカルブランドの動きです。
例えば、広西チワン族自治州の柳州に本部を置くローカルブランド・宝駿はEVの開発に際し、現地で徹底した調査を行った結果、小型のEVを開発し、家庭用の二台目として位置づけることにしました。また、宝駿は、単に小型のEVを開発するだけでなく、現地政府とも連携して充電スポットの拡充を進めたり、自社開発のEVが駐車しやすいようにサイズを工夫した駐車場を設置するなど、政府と企業の連携でEVの普及を進めました。これは中国で「柳州モデル」と呼ばれ、EV普及のモデルケースとなっています。
このように「街づくり」の要素を兼ね備えたEV普及策は、今後も中国各地で広がっていくだろうと言われています。

一方、中国ローカルブランド以外でもテスラのようなラグジュアリ系や、日系メーカー各社も中国でのEV開発に乗り出してきており、今後の競争は、し烈になることが予想されます。

中国におけるEV普及の課題とは?

政府の支援策や、地方の自動車メーカーの積極的な開発・普及策などを受けて発展してきた中国のEV市場。一方で課題が生まれています。

前述の通り、中国におけるEVは手厚い政府の優遇政策によって大きく伸びてきました。しかし2019年6月、中国政府は補助金の大幅な削減を行いました。具体的には航続距離が250km以下のEVに対しては補助金を打ち切るなど、「量から質への転換を図る」ものだと言われています。急速に販売が伸びてきたEVですが、これをきっかけとして販売台数が落ち込んだだけでなく、補助金を頼りにしていたメーカーは価格の見直しを迫られるなど、大きな方針転換が必要になっています。

一方、生活者の立場から見たとき、補助金の削減以外にも、購入を阻害するいくつかの要因が存在します。
ひとつは航続距離と充電スポットの普及の問題です。大都市を中心に充電スポットの数は増えていますが、長距離ドライブを楽しんだり、正月の長距離帰省をする場合にはどうしてもネックになります。

もうひとつは最近続発している発火事故です(中国では「自燃」といいます)。中国メーカーだけでなく、欧州大手メーカーでも「自燃」しており、購買意欲に影響を与えています。最近では、中国で代表的なローカルメーカーである長城汽車のEVブランド欧拉(ORA)が「自燃」し、中国大手ポータル・百度(バイドゥ)の頻出検索ワードにも登場するほど注目を浴びました。原因は充電中に起こった過充電で、バッテリーの冷却も水冷式ではなく空冷式であったことから、うまく充電をコントロールできなかったと報道され、中国国民の批判を浴びました。

シェアリングサービスにおけるEVの取り扱いも隠れたポイントでしょう。中国では各地にシェアリングサービスが普及してきていますが、その主役はEVです。しかしシェアリングで使われるEVはとにかく状態が悪く、汚い室内や外観も破損していることが多く、「汚いEV」のイメージができあがりつつあります(写真1)。中国にはEVは「今後のトレンドになる」と考える生活者が多いだけに、こうしたイメージの悪化はマイナスポイントでしょう。

(写真1)中国で有名なカーシェア:室内は散らかっており、外装も一部破損している

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この風景には既視感があります。中国市場を席巻したバイクシェアです。QRコードで解錠し、どこでも乗り捨て可能な自転車は、その利便性の高さから中国の街並みを変えるほどに成長し、様々なブランドが林立しました。しかし、利用客のマナーの悪さから道路環境を悪化させ、最終的には放置する場所を固定したり、立ち入りを禁止するエリアが設定されるようになりました。その結果、利便性が低下し、ごく一部で細々と乗り継がれるだけの規模まで縮小しました。EVを用いたカーシェアは乗り捨てを前提にしていませんが、EVが粗末に扱われていけば、大きなイメージダウンを招くでしょう。

中国では、いよいよ助成金頼みの「官製市場」から、本格的な普及を考える段階に入ってきました。そのためには、充電スポットの普及や「自燃」しない高品質の製品開発など、物理的な側面と心理的な側面の両方に訴えかける施策が必要になるでしょう。前述の宝駿の「柳州モデル」にみられるような、地域密着型の開発はひとつの解になるかもしれません。

日本におけるEV車への期待と不安

ここからは、日本でのEV車の普及について、生活者への意識調査の結果をもとに考察していきます。

EVと言えば、2010年頃より日産『リーフ』、三菱『i-MiEV』が販売を牽引してきましたが、保有されている乗用車約6100万台のうち、EVは約9万台と、全体にしめる割合は小さくなっています(平成30年版 自動車検査登録情報協会『わが国の自動車保有動向』)。一方でCASE(※2)をキーワードに各社の開発は加速。ポルシェ『タイカン』、メルセデス・ベンツ『EQC』に代表されるように高級車メーカーにおいて特に活発です。

ではEVを、生活者はどのように捉えているのでしょうか。インテージが9月に行った全国1万人(新車を購入し、現在保有している人)を対象とした調査結果から見ていきます。まずは動力源タイプごとの購入意向です(図表2)。

図表2
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ガソリン車、ハイブリッド車が多数派であることが改めて理解できます。一方で、EV車の購入検討意向がある人は、「積極的に購入を検討する」「購入を検討する」を合わせて約12%とまだまだ低いことがわかります。

EVのポジティブな側面はどのように捉えられているのでしょうか(図表3)。

図表3
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見えてくるのは「環境に優しい」「補助金・減税が多く受けられる」といった環境対応に関連した項目の評価の高さと、「走行時の静寂性」「災害時の非常電源」といった、バッテリー、モーターならではの特徴の高評価です。

他方、「本体価格の高さ」「バッテリーの寿命」「充電インフラ」「航続距離」がネガティブに受け止められていました(図表4)。

図表4

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ガソリン車、ハイブリッド車、EVの購入意向を年代ごとに見てみると、ハイブリッド車は年代問わず支持を集めているのに対し、ガソリン車は若年ほど購入意向が高く、EVはその逆となっています(図表5)。

図表5
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一般に20・30代は50・60代よりも可処分所得が少ないため、「本体価格が高い」イメージが強いEVには手が届きづらいと受け止められているようです。

また中国同様、航続距離や充電インフラへの不安は大きい一方で、発火などの安全性への不安は日本においてはさほど大きくないようです。

「もしものためにできるだけ長く」~EV車に求める航続距離

価格やインフラに次いでEV車のネガティブイメージとなっていた航続距離。
図表6はEVの購入意向度合い別に見る、最低限必要とする航続距離です。驚くべきことにEVの購入意向とは関係なく、約5割の人が最低でも301km以上必要であると回答しています。

図表6
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では、それだけの長距離を頻繁に運転するのでしょうか。自家用車で片道100km以上移動する頻度を確認してみます(図表7)。

図表7
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見えてきたのは、300km、400kmといった航続距離を求めていても、利用時にそこまでの距離を必要としないであろう運転者の多さです。もちろん、頻繁に長距離を移動するため相応の航続距離が必要という人もいますが、全体の約5割が301km以上を求める現状は過剰に見えます。

EVのネガティブイメージとして最も大きいことが確認された「本体価格の高さ」。本体価格の少なくない部分をしめるバッテリー価格は、バッテリー最大容量の大小に影響を受けます。過剰な航続距離を生活者が求め、それにメーカーが応え、航続距離至上主義が形成され、結果として本体価格が下がらない、というスパイラルに陥っているのではないでしょうか。

ここで考えなければならないのは、なぜ生活者はそこまでの航続距離を求めるのかです。
第1の理由は充電インフラです。9月の連載で移動実態を把握したように、自動車が生活の中で必需品となっている人々は全国に多数います。郊外や山間部といった地域を運転することも当然視野に入りますが、そういったエリアでの充電インフラはまだ十分ではありません。
第2にエアコン使用による電力消費。特に冬場の暖房使用です。よく知られているようにEVは、ガソリン車のようにエンジンの廃熱利用ができないため暖房時の消費電力は大きくなります。
第3に上り坂への不安。EVユーザーの間では、48か所もの急カーブがあることで有名な「いろは坂」を超えることができるか、といった議論があるように上り坂走行時の消費電力量には敏感になります。加えて、一般にガソリン車では燃費が良くなる高速道路走行時において、EVの消費電力は大きくなるとされています。
最後に、バッテリー寿命と充電頻度も無視できません。バッテリーの消耗は、スマートフォンなどの利用から実体験をもってイメージできることでしょう。航続距離が短いと充電頻度は上がるため利用者としては気になるところです。これらの理由からEVの航続距離は、オーバースペックなものが求められていると考えられます。

その他にも、「急激にバッテリー残量が減少した」などの口コミがユーザーからあるように、そういった内容からネガティブなイメージを受けている部分は否めません。今後インフラ面などの課題が解決されることで、自らの用途にあった最低限必要なバッテリーを搭載したEVがより求められる時代が訪れるかもしれません。


※1 NEV(New Energy Vehicle)
HV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池自動車)を指す。それぞれの詳しい定義は「国をあげて推し進めるEVシフト 買いたいと思っている人はどのくらい?」をご覧ください。

※2 CASE
Connected:コネクティッド、Autonomous:自動運転、Shared/Service:シェア/サービス、Electric:電動化と、今自動車業界で進んでいる動きの頭文字をとった言葉。

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この分析は、自主企画調査の結果をもとに行いました。
調査地域:全国
対象者条件:20~69歳の新車購入者(購入関与者)かつ主運転者
標本抽出方法:弊社「マイティモニター」より抽出しアンケート配信
標本サイズ:n=10,299
調査実施時期: 2019 年9月

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