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インテージフォーラム 2018 開催報告:X01

生活者の共通理解がマーケティングを進化させる
~流通・メーカー・メディアを横断した 顧客戦略のデジタルシフト~

株式会社ローソン
経営戦略本部 次世代CVS統括部 兼 商品戦略本部 マネージャー
小林 敏郎 氏

公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会(JAA) デジタルメディア委員長
/資生堂ジャパン株式会社 メディア統括部長
小出 誠 氏

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 次世代ブランド戦略室 統括
羽片 一人 氏

株式会社インテージ 取締役 CMO
村上 清幸

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“お客様の共通理解”とデジタルマーケティングの活用がテーマの本セッション。冒頭、挨拶に立ったインテージの村上は、テーマの背景にある課題について「同じ一人の生活者を、メーカー、流通、メディアそれぞれが、バラバラの視点で見ている。そして、従来的な“性年代”属性だけで顧客を判断するということから、なかなか抜け出せずにいる」と語った。

ローソンが「大盛りではない唐揚げ弁当」を開発した理由とは?

最初に登壇したローソンの小林氏は、「会社から30代、40代男性向けの弁当を作ってくれ、と言われたらどうしますか?」と会場に問いかけた。そして会場の反応を見ながら、このような性年代の分類だけでは、商品開発における有効な示唆は得られないことを説明。ローソンはこうした問題を解決するため、インテージの「Genometrics®」を使用し、顧客の属性を9セグメントに分類したという。

セグメントは、自分に対する関心が高い若いOLを中心とする「ご褒美女子」や、体形を気にする30~40代の男性サラリーマンを中心とする「脱メタボワーカー」、新商品への感度が高い若手サラリーマンを中心とする「直感買いワーカー」、さらに、「食欲旺盛ワーカー」、「時短効率ママ」、「家庭的手料理ママ」、「節約パパ・ママ」、「保守堅実シニア」、「上質プレシニア」というように、それぞれの価値観をもとに分類されている。

小林氏は次いで、これらセグメントをもとに、30代~40代男性向けの唐揚げ弁当を開発した過程を解説した。
まず、「好きな弁当」についてのアンケートを実施した結果、唐揚げ弁当の人気が高いことが判明。また、食事に求めるものとしては、他のセグメントには「大盛り」という回答が多くみられた一方で、30代~40代の「脱メタボワーカー」からは、「国産素材」などといった健康志向の回答が上位に。
こうした結果をもとに同社は2017年暮れ、従来のようには大盛りにせず、素材にこだわった「からあげ弁当」を発売。弁当カテゴリーの数値改善に大きく寄与したという。

ちなみに同社はこの9つのセグメント化によって、従来は明確化しにくかった「ローソン」、「ローソンストア100 」、「ナチュラルローソン」の客層の差についても、可視化に成功している。

流通とメーカーの商談のため、テレビCMとデジタル広告の「共通指標」を開発

次いでマイクを取ったJAA/資生堂ジャパンの小出氏は、「性年代を中心とした商品開発だけでは立ち行かなくなっているのは化粧品メーカーも一緒」と述べ、自社がデジタルマーケティングを活用して生活者理解をしたうえで、戦略的なコミュニケーションを行なっている点を強調した。例えば、前シーズンの購入実績や、広告へのリーチ回数、こういった情報をもとに、ターゲットに対し異なるメッセージを届けるといった、パーソナライズしたコミュニケーションが行えるようになっている。

同氏は深い生活者理解が可能となった背景として、デジタルシフトによるデータ取得と活用を挙げる。
その一例として、テレビの視聴データの進化に言及。かつては、視聴データといえば「F1(20歳~34歳の女性)の視聴率が何%、世帯視聴率が何%」といった内容だったが、現在はこれに加えて視聴者のライフスタイル、価値観、他メディアの接触状況、さらに実際にテレビの前にいるかどうかといった情報、また視聴時の表情までが取得できるようになっており、より精緻なお客様理解を可能としている。

さらに小出氏は、こうした事例を踏まえ、流通とメーカーの間にある、コミュニケーションの認識のズレにも言及した。流通はテレビ広告の露出量を重視する傾向がある。しかしメーカーはデジタルメディア対策を強化しており、商品のテレビ露出量は減少している。こうしたギャップを埋めるため、JAAでは、流通とメーカーの商談用に「テレビ・デジタルの共通指標」を開発したという。小出氏は「これによって、テレビCMとデジタル広告を同じ俎上で話せるようになった」と成果を語る。

ローソンの顧客のセグメントをメーカーに開放

こうした小出氏の話を受けてローソンの小林氏は、“生活者の共通認識”を流通とメーカーとの間に作る取り組みを解説した。同社は前述の9つのセグメントの情報を取引先メーカーにも開放しており、さらにBIツールを通し、どのセグメントにどの商品が売れているのかを共有しているという。
小林氏は実際の事例として、同社が発売した「プレミアム生クリームケーキ」の購買データをスライドで示し、「ご褒美女子」と「直感買いワーカー」から多く購入されている状況を解説。「生クリームは尖った商品なので、ピンポイントに訴求したが、きちんと狙った人が買ってくれていることがわかった。このようにローソンの顧客、商品の売れ方について共通認識を深めながら、一緒に商品を作っていきたいと考えている」と述べた。

「ご褒美女子」と「脱メタボワーカー」対象の広告クリエイティブ実験

次に、サイバーエージェントの羽片氏は、ローソンのセグメントに対して行なった、デジタル広告の最適化実験について報告した。
実験はある飲料商品について、「ご褒美女子」および「脱メタボワーカー」の2つのセグメントに対し、異なる広告クリエイティブを制作・配信し、従来の性年代ターゲットとCTRなどを比較検証するもの(*)。
それぞれ配信したクリエイティブの内容は以下の通りである。

・「ご褒美女子」→“自分へのご褒美”を訴求 VS 「性年代ターゲット」→飲料のフレーバーを訴求
・「脱メタボワーカー」→“カロリーゼロ”訴求 VS 「性年代ターゲット」→女性のビジュアルでリラックスを訴求

結果は、「ご褒美女子」については性年代ターゲットと比較してクリック数が増加したが、「脱メタボワーカー」は従来的クリエイティブに負ける結果に。(いずれもオーディエンス×クリエイティブの場合)

こうした結果を見て羽片氏は、クリエイティブの精緻化についてまだ課題があるとしながらも、「今までのマーケティングは、とにかく広くリーチしてファネルを落としていくものだったが、デジタルでは実際の購入者がわかるので、より可能性の高いところから狙っていくことで、売上げを最大化していける」と今後の希望を語った。また、「インターネットのテクノロジーの力はどんどんオフラインに出ていっている。“(リアルで)売上が上がるデジタル”が実現できることを、感覚値として強く持てるようになってきた」という。

(*)広告クリエイティブ制作にはインテージの「生活者360°Viewer」、配信にはドコモ・インサイトマーケティングの「di-PiNK」を使用。

みんなで情熱とスピードを持ってPDCAを回していくべき

続けてセッション参加者それぞれが、マーケティングの未来に向けたメッセージを述べた。

小林氏は、「商品に一番愛情を注いでいるのは商品を作っている人だ」と述べ、「一番情熱を持っている人が自分で仮説を立てて分析して、自分でPDCAを回せるようにするべき」と語った。

小出氏は、「生活者の共通理解は、流通、メディア、メーカーともにこれからどんどん進めていかなければならないテーマである」と語り、「デジタルに詳しい人だけがやるのではなく、みんなで取り組む姿勢が大事」と提言した。

羽片氏は、「私たちは流通様とメーカー様の間に入り、ともにお客様を理解するための施策に取り組んでいる」と自社の現状を述べたうえで、「カジュアルにいろいろなことにチャレンジしていって、スピード感を持ってPDCAを回せた会社が生き残っていくのだと思う」と語った。

最後にインテージの村上は、「私たちは皆様に伴走しながら、協調・共創領域として、一緒に各種のデータを繋げていきます。そして新たな文脈やインサイトの発見を通して、価値を生み出す共創領域に貢献していきたい」と期待を述べ、セッションは終了した。