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case03 後編

「SRI一橋大学消費者購買単価指数」によって見える物価の真実(後編)~SRI単価指数に採用されたインテージSRIデータの優位性

一橋大学経済研究所経済社会リスク研究機構、全国スーパーマーケット協会と株式会社インテージとの共同プロジェクト「流通・消費・経済指標開発プロジェクト」の一環として作成している「SRI一橋大学消費者購買単価指数(以下SRI単価指数)」。プロジェクトを牽引していただいている一橋大学のマクロ経済学者である阿部 修人教授にお話を伺いました。前編でご紹介したSRI単価指数の特徴とその社会的意義のお話に続き、後編では物価指数を作成するにあたってインテージのSRI®(*1)を選んだ理由について伺っています。

「流通・消費・経済指標開発プロジェクト」はどのように始まったのでしょうか。

―2013年に、当時の新日本スーパーマーケット協会の長瀬直人氏から、インテージ社との共同プロジェクトの打診がありました。SRIデータであれば、従来のデータでは不可能だった新しい物価指数の構築が可能であり、その社会的意義が強いことを、幾重にもなる長瀬氏およびインテージ社との打ち合わせで確認し、プロジェクトが始まりました。

インテージのSRIを利用するにあたり、SRIのことはご存知だったのでしょうか。

―インテージのパネルデータとは、プロジェクトが始まる前に出会っていました。

日本には、世界的に見ても大規模なPOSデータが存在していること、そして日本の物価やマクロ経済に対する関心が世界的に高まっていることを背景に、2006年くらいから様々なPOSデータを探していました。POSデータを収集、提供している会社がいくつかあって、品目を限定してPOSデータを比較的安価に提供してくれるなど、私たち学者にとって買いやすいサービスもあったので、いくつかの会社のデータを使ったことがありました。ですが、いずれのサービスも店舗の数が数百店くらいと少なく、日本を代表するデータとはいい難いものでした。

そしてSRIに出会い、日本ではインテージ社の存在が圧倒的であることを知りました。メーカーのマーケティング担当の方とお話をする機会があった時に、メーカーが自社の予測出荷量といったマーケティングデータと突合できるのはインテージのデータだけだとおっしゃっていたんです。それを聞いてインテージのデータがサービスとして代表性があることを知り、日本の経済を研究するマクロ経済学としては説得力のある信頼できるデータだと思いました。

SRIデータを何に使用されたのでしょうか。

―当時、私はイトーヨーカドーやイオンといった大規模店舗が新規出店した時に、その周辺の店舗の価格がどうなるかという研究をしていました。その分析をするためには、エリアごとの個店のデータが必要ですが、そのデータがあるのはインテージしかありませんでした。そこでインテージ社にデータを購入したいとお願いに行ったのですが、SRIはすごく高かったので、歯ブラシやシャンプーなど6~7品目くらいに品目を絞ってデータを購入して研究をしました。GIS(地理情報システム)を使ってデータのセットを作ってもらって研究をすることができたのですが、それがとても素晴らしい完璧なデータでした。

大規模店舗が出店すると、競争が激しくなるために周囲の店舗の価格が下がることが、SRIのデータを使用することではっきりわかりました。この分析結果は論文として発表し、ロンドンなど各国の研究会や学会で報告させていただき多くの反響がありました。雑誌に掲載した論文は、最近引用される機会が増え、今年に入ってからもアメリカのトップジャーナルの一つである、American Economic Journal: Applied Microeconomicsに引用されています。

これがSRIを用いた学術研究の最初で、私とSRIの出会いです。

その後、SCI®(*2)を利用した研究をされて、マクロ経済学における新たな潮流を作られたと伺いました。どのような研究をなさったのでしょうか。

―インテージのデータのすばらしさをその機会に知った私は、2009年に学術振興会から若手研究者としては最高額となる5年間の科学研究費をいただくことになり、その研究費でインテージのデータを使用した研究をすることにしました。その研究計画書、および当時の一橋大学の田近副学長の推薦証を手に、インテージ社に乗り込み、SCIのデータ全部を購入したいとお願いに行きました。普通に販売価格を積み上げて見積もったら数百億になろうかというお願いを、百万単位の金でください、とお願いに行ったわけです。

当時応対してくださったのは現社長の檜垣さんでした。それまでインテージ社にアプローチしてくる学者は共同プロジェクトの提案が多くて、お金を払ってデータを買いたいという学者は珍しかったらしく、「マクロ経済全体を対象にするもので、特定の商品でなくてできれば全部見たい。プロジェクトに協力をお願いします」と頭を下げたら、かなりビックリされました。檜垣さんが、「学術的な社会貢献に当社も貢献しないといけない」と言ってくれました。そして、晴れてSCIを包括的に利用させていただく契約を結び、五年間にわたり家計消費の分析を行うことが出来ました。そして、この分析結果は多くの論文および著作で利用させていただきました。今では、SCIなどのスキャナーデータを用いた経済分析は珍しくなくなりましたが、そうした流れを作ったものだと自負しております。

SRIデータをプロジェクトで利用して、印象をお聞かせください。

―新たな物価指数をつくるにあたり、日本は商品の入れ替わりがすごく激しく、味違い、容量違いなど様々な商品が出ては消えるので、それが物価に与える影響はすごく大きいと考えています。そのため、なるべく多くの新商品のデータがすぐに反映されていなければならないし、新しい商品と古い商品が入れ替わったことがわかるようなデータが必要です。それをするためには、登録されているJANコードの数が多く、新商品がいち早く反映されなければなりません。

その点、インテージは商品マスターに登録されているJANコードの数が非常に大きい。さらに容量情報など商品固有の情報も多い。インテージデータを使わずに、公開されているJANコードのデータに自分で容量情報を追加しようと試みたこともあったのですが、インテージが労力をかけて作っている商品マスターを、学者がちょこっとやろうと思ったところで出来っこないわけです。そんな経験もあって、他社のデータでは困難なことがインテージのデータならできるということに確信を持ちました。インテージはプライドを持って商品マスターをちゃんと作っていますと言っていたのですが、自分もその恩恵を受けて、実感を持っています。

最後に、インテージの商品マスターチームやSRI、SCIのデータ管理部門に対してメッセージがあればお願いします。

―昨今は猫も杓子もビッグデータとビッグデータブームになっています。いわゆるビッグデータと呼ばれているものにはノイズが山のように入っていることも多くの人が認識していると思うのですが、そのノイズをAIなどで機械的に処理していけばいいんだという議論が目につきます。ノイズだらけのデータから情報らしきものを抽出するためにはそうせざるを得ないというのが実際のところなのですが、もともとのデータがいいに越したことはありません。機械的に処理すればそれなりのデータが出来るから、もとのデータが高品質でなくてもよいという議論には危惧を持っています。ノイズからはノイズしか出てこない。

私はこれまでの分析経験から、SRI、SCIのデータの精度の高さと代表性の高さのすばらしさを実感しています。マンパワーをかけて高品質なデータを作り続けていることの価値はすごく高いんだということは、ぜひ自信を持ってほしいと思っています。

本日はお忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

阿部 修人
(一橋大学経済研究所教授/経済社会リスク研究機構主任)
2000年、Yale University, Department of Economics, Ph.D.
1999年Brookings
研究所研究員を経て2000年一橋大学経済研究所専任講師、2004年同助教授を経て、2011年より現職。その間、日本銀行アドバイザー、University of College London, Visiting Academics等を歴任。専門はマクロ経済学、応用ミクロ実証分析、指数理論。

  • *1 SRI®(全国小売店パネル調査)・・・スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約4,000店舗より収集している小売店販売データです
  • *2 SCI®(全国消費者パネル調査)・・・全国15歳~79歳の男女52,500人の消費者から、継続的に収集している日々の買い物データです。