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「メディアプランニングにかける時間より、運用が重要」〜ライブモニタリングで変わるマーケティングの働き方〜

ネスレ日本株式会社の媒体統轄室ユニットマネージャーの村岡慎太郎氏は、マーケティング・インテリジェンスのDatorama(デートラマ)を2016年導入。第1段階ではデジタル周りのマーケティング関連データを全てDatoramaで統合、ダッシュボード化して、リアルタイムでマーケティング施策の進捗を確認し、実績に応じて施策の変更から予算の再配分までをスピーディーに実施できるようになりました。導入直後からレビュー時のエクセルレポートを廃し、広告代理店ともDatoramaの画面を共有し、毎日施策を確認し、お互い改善案を検討。もうレポートを「待つ」時間をなくし、当初の目標のCPAの改善、なによりPDCAの高速化を実現しています。
第2段階として、株式会社インテージ(以下、インテージ)の提供するi-SSP®データINTAGE connect®経由でDatoramaに統合。これにより、事例として、リアルタイムでオフラインとオンラインを統合して広告効果の最適化、予算再配分の最適化を実現しました。例えば、テレビCMのリーチ&フリークエンシーを確認し、CMがリーチできていないターゲットがいたら、そこに向けたデジタル施策に予算を重点的に投下する、CMリーチ&フリークエンシーが足りているのにマーケティング効果が目標に達していない場合にはクリエイティブをチェックするなど、デジタルの小回りの良さを生かして、マーケティング全体の最適化を図りました。 村岡氏はこれを「Post Evaluation」から「Live Monitoring」への変化と話し、ライブモニタリングが日常になったことで、従来の常識が色々と変わったとおしゃっています。そこでライブモニタリングのBefore/Afterから今後について、Datoramaの平山様と共に伺いました。

左からインテージ小金、ネスレ日本村岡慎太郎氏、Datorama平山恵子氏

ライブモニタリングで厳密なメディアプラン不要に

小金:「ライブモニタリング」の日常とは、どのようなことをしているのですか?

村岡:1日、朝、昼、夕方の進捗の確認。数字が悪い時はこまめに見ています。毎朝、Datoramaの画面を開いて、自分が担当する商品に関してGoogle Analyticsで獲得件数、メディアの投下量を獲得件数など、各種数字を細かくチェックしています。例えば、ディスプレイ広告の動きが悪いなと思えば、昨対比やクリエイティブ比較などして原因の深掘りしていきます。そして、改善点や質問、提案を朝のうちに広告代理店に連絡し、昼〜夕方にかけて回答を得て、その日のうちに改善策を実施。その結果を翌日確認して、さらに改善点があれば、同じことを繰り返します。もはや日常となっているので、「ライブモニタリング」という特別なことをしている感じはないです。

平山:Datoramaの導入で、施策のPDCAが半日もあれば改善され、その結果を翌日確認になりましたよね。エクセル時代は広告代理店からのレポートが2日かかりだったので、導入後、48時間一気に短縮したとおしゃっていましたが、この高速PDCAの効果はいかがですか?

村岡:施策の実績・改善が迅速に実行できるので、毎月の目標達成の確率は高まりました。
また、チームでの月次ミーティングを廃止しました。毎日数値確認しているので、1ヶ月前の数値を見て確認する作業は無駄ですから。週の実績と翌週の動きを確認すれば十分です。何かあれば、その場で対応できる体制があればこそですね。

平山:ライブモニタリングがルーティン化して1年以上経ちますが、メディアプランに変化はありましたか?

村岡:メディアプランにかける時間が変り、プランニングの考え方が変りました。

小金&平山:どう変化したのですか?媒体統轄室のように、ネスレの各ブランドのマーケティング部から予算を預かりマーケティング施策を運用している部署ならメディアプランは必須のように思えるのですが?

村岡:大きな粒度でのメディアプランを作成していまして、実績が上がる確実なプランと20〜30%は遊びを持たせたプランを作成し、毎日数値を確認しながら調整していきます。キャンペーンを実行してみないと分からない部分があるので、仮のプランを元にリアルタイムで調整しています。Datorama導入以前のPDCAの世界では無理でした。今は毎日データを確認しながら、予算配分をリアルタイムで変更して、最適化していますから、厳密なメディアプランは不要になりました。むしろ、そこに時間をかけないようにと部下にも話しています。コンタクトポイントや新しいメディアの発掘などに時間をかけなさいと。

平山:マーケティング部などから疑問を投げかけられることはないのでしょうか?

村岡:昔はある程度説明は必要でしたが、そこはプランニングに時間をかけない、走ってみて、PDCAを通して調整するという考えを理解してもらっています。自分からはクリエイティブに注力してほしいと頼んでいます。例えば、来月から新しいキャンペーンが始まるといえば、メディアプランに関して色々質問が来ます。でも天気が悪ければ売上が変わるし、不確定要素が多くあり、私たちには予測がつきません。そんな予測がつかないことのために頭を使うより、マーケティングにはクリエイティブに注力してほしいと頼んでいます。本当にプランニングに時間はかけていません。実際に実行しながら改善して行く方がはるかに効率的です。

Datoramaの画面を見ながらミーティングする村岡氏。ダッシュボード上に村岡氏、代理店側の施策改善案、気づきが書かれている。画面=レポートなので、レポートの別途作成が不要

インテージ x Datoramaで実現したライブモニタリング構築支援

TVなどオフラインデータ取得で新しい発想が次々と

小金:デジタル広告と違い、テレビ、チラシ、新聞などのオフライン広告に関してどのようにライブモニタリングされているのですか?

村岡:テレビなどのデータ取得は時間がかかっているので、その時間を短縮することが課題ですね。2ヶ月後には実績レポートが届きますが、その時にはCMも終わってしまっていますので、もっと早く手元にないとライブモニタリングができません。テレビCMならGRPという量的指標とCMの質的なもの、そのどこに境目があるかなど、もっと短期間で確認できるよう試行錯誤しています。インテージのi-SSPデータを活用することで、テレビCMの量的・質的なデータを短時間で確認できるかということを、インテージさんと一緒に複数商品でトライさせていただきました。その結果、テレビCMなどのオフライン広告もライブモニタリングできるなと感じました。

小金:他にはどんなトライをしていらっしゃいますか?

村岡:例えばCMのリーチ&フリークエンシー(以下、R&F)なら、仮にクリエイティブが同じなら、CMの放映時間は15秒、30秒のどちらが良いのかという質問がいつもあります。瞬間的にR&Fもしくは検索率を上昇させるには15秒の方が効果的であるという仮説があれば、15秒広告放映を実行するなど様々な試行錯誤を繰り返しています。が、とにかく実績データが手元に来るのが遅く、タイムリーな効果検証ができないことにもどかしさを感じています。

平山:オフラインではまだタイムリーな検証がしづらいというお話ですが、それでもオンとオフのデータをひとつのダッシュボードで確認できるようになったメリットはございますか?

村岡:オン/オフ横断でデータが可視化されたので、色々変化が起きています。例えば、CM放映中にチラシ、バナー、YouTube動画広告を流す場合、YouTube広告をCMと全く同じタイミングで流すべきか、前後にずらすべきか、全く放映してない時がいいのか?など考えるポイントはいくつもあります。ダッシュボードでデータを可視化したことで、YouTube広告はCM放映中のある一定期間に集中投下した方が検索率が上がることがわかりました。他にも、CMを放映していない期間にYouTube広告を集中投下すると、CMと同様の検索率を得られるなど、今の環境なしには分からなかった気づきが多くあります。自分たちが過去思いつかなかった発想を得られるようになりました。

小金:様々な気づきにより仮説の幅が広くなったということですね。

村岡:色々な仮説を持って、データを見ることができるので、気づきが増えました。最近、発表されたインテージとサイカの業務提携を見て、ぜひ、XICA magellanとデータ連携して、MMMの結果をライブモニタリングしてみたいと思っています。従来、こういうデータは取得自体にかなり時間がかかるのですが、短期間で見られるなら嬉しいですよね。

小金:オフラインでもPDCAのスピード感が重要ですね。

村岡:スピード感と「知ってる・知っていない」が大切です。プランニングの肝は「数値感」なんです。あるメディアで配信する場合、このメディアならXXくらいCVが取れる・取れないを「数値感として知っているか・知らないか」、また自分の中の引き出しがどれだけあるかで、プランの厚みが全く変わります。それによってスピード感も変わります。だから、細かく毎日数字を見るようチームに伝えています。
例えばFacebookで海外配信しようと考えても、数字の感覚はありません。でも、国内配信の数字が頭に入って入れば、通常国内でクリック単価が100円なのに、海外で60円なら「すごく安い」となり、ではその要因はなんだろうとその先を探る思考になります。クリエイティブなのか、配信なのかを検討し、それを国内に生かすこともできます。でも、数字に対する肌感覚がなければ、60円はただの数字です。その差が大きいんです。

平山:その数字の感覚を身につけるのは誰もができることでしょうか?様々なツールがライブモニタリングをサポートしてますが、その数字をどう解釈するかは人にかかってくると思うのですがいかがですか?

村岡:自分自身はいつも数字を見続け、数字が達成できているかどうか、考え続けているので、あらゆる機会を捉えてヒント探しをし、自分の引き出しを増やそうとしています。そうした姿勢が必要かなとは思います。
例えば、海外の方と話した時、韓国ならカカオトーク、中国ならウェイボと言われるけど、利用者は広告を見ていないから、広告に意味はないと聞いたんです。こうした何気ない時に収集した知識が、結果として引き出しになっていきます。

平山:話は少し変わりますが、Post EvaluationからLive Monitoringへと変化しましたが、「ライブモニタリング」という言葉はいつ思い浮かんだのでしょうか?

村岡:スイス本社の幹部が今後は「ライブモニタリング」が重要と話があったらしく、関連部署に、広告メディアで実施していることを聞きたいとヒアリングされました。その中で自分の今やっている活動を話したところ「それはライブモニタリングではないか!」と言われたんです。そこからですね(笑)。本社は言葉はあれど、解は持っておらずなので、本社や他のマーケットからライブモニタリングの実際に関して、自分の方に問い合わせが来ています。グローバルからも大きな興味を寄せられています。

Datorama x Intageのダッシュボードイメージ:i-SSPで取得したテレビのリーチ&フリークエンシーを可視化

目指すはPDCAの範囲の拡張。課題はオフラインのROIの証明

小金:ここまでライブモニタリングの仕組化を進めていらっしゃいますが、現在の課題はありますか?

村岡:オフラインのROIですね。仕組みはあるので、そのROIがまだ完全に証明できていない。テレビが難しいですね。

平山:テレビの特にどこが難しいのでしょうか?

村岡:テレビは反応が直接見えないですが、絶対必要なメディアです。マスにリーチできて効果は高い。テレビに対する信頼感もありますし、オンラインの動画とはリーチ単価による量が違います。それだけの価値があるのですが、テレビの数字は証明しづらいのです。もしかすると、テレビの方々はその価値に気づいていないので、数字で証明する必要性も、広告主が証明を求めていることも気づいていないのかもしれませんね。テレビの方が「この施策でx%のブランド想起があります」と提案されたら、広告主としてはありがたいです。

平山:オフラインのデータ統合に目下取り組んでいらっしゃいますが、今年特に注力していることはありますでしょうか?

村岡:今年注力しているのはブランド想起、アトリビューションですね。
ブランド想起は、認知などアッパーファネルに効果があるメディアを、キャンペーン期間中に抽出して、活用していきたいです。

小金:ブランド想起の数字もモニタリング可能になれば、さらに仮説の引き出しが増えますよね。ブランド想起にも関連しますが、ad verificationもです。

平山:とはいえ、「キットカット」など高認知度の商品をお持ちのネスレさんではブランド想起率を1%あげるのはかなり大変では?

村岡:「キットカット」「ネスカフェ ゴールドブレンド」といったブランド名は高認知度ですが、それぞれの新製品に関してはまだ製品理解の改善の余地がございます。「キットカット 抹茶味」「キットカット 毎日の贅沢」などはまだ製品理解の改善余地がありますので、ブランド想起の施策が大切です。店頭で他社の抹茶味ではなく、「キットカット」の抹茶味を選んで購入していただくには、ブランド想起は欠かせません。それに、先ほどブランド名の認知度は高いと言いましたが、インテージさんの調査で驚愕の事実が判明しました。ある製品で今の10〜20〜30代では、その製品を想起しない方もいます。日本全体の認知度は90%近いのですが、若い人ではこの状況で危機感を持っています。だからこそターゲットによっても異なりますが、ブランド想起が重要であり、今後改善する必要はあります。ここも仕組み化して、どのメディアをどう活用すれば効果があるのか、キャンペーン期間中に検証して、高速PDCAを回していくのが目標です。

平山:高速PDCAに、次々と新たなデータを取り込んでいく形ですね。最後に今後の展望を伺えますか?

村岡:まさに、現在のPDCAの範囲をオンライン・オフライン含め拡充していきたいですね。直近はオフラインをどう組み込み、ルーティンにする仕組み作りを目指しています。それが完成すると、キー局・全国出稿できないが、ローカル局に出稿できる金額感が見えて来ると思います。これができると、また仮説の幅が広がり、引き出しも増えて、新たなアイデアも生まれて来ると考えています。

これが目指すダッシュボードイメージ。マーケティングキャンペーンデータから市場・競合調査データ、売上などを俯瞰。埋め込みCM動画を見ながら、競合の動きから売上の状況、購買ファネルまで見ることができる

2018年4月12日 インテージ本社内にて

村岡 慎太郎
(ネスレ日本株式会社 マーケティング&コミュニケーションズ本部 媒体統括部 媒体統轄室 ユニットマネジャー)

2003年ネスレ日本入社後、コーヒー豆の買い付けに従事。その後、資材・物品サービスのバイヤーを経て、デジタルの重要性を感じ、2012年よりデジタル開発ユニットにて、新規デジタルメディア開発に従事。2015年1月より媒体統轄室に異動。
ネスカフェアンバサダー、キットカット、ネスレ通販などの“オンライン・オフライン”のメディアプランを担当。

平山恵子
(Datorama Japan株式会社 PR/マーケティング・スペシャリスト)

大学院卒業後、ファッション業界で記者としてキャリアをスタートし、ブランドのPR、マーケティングを担当。その後コンサルタント企業で新規事業開発にあたり、先端のアドテクノロジー、マーケティングテクノロジーの世界を知る。外資PR会社を経て、2016年Datorama Japanに入社。JapanのPR・マーケティングに従事。

小金悦美
(株式会社インテージ 特命部長)

大阪大学卒業後、石油会社にてリテールサポート企画に従事。
2001年、株式会社インテージ入社。
主に、化粧品・飲料・食品の大手クライアントのアカウント担当として、市場理解・ターゲット理解、施策の立案、そして評価と幅広い課題に対応。
現在は、特命担当として、サービス開発やアライアンスなどに従事。

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