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生活者の無意識に迫って解き明かした「美味しいコーヒー」の本質

日本コカ・コーラ株式会社 経営戦略本部ナレッジ&インサイツ
シニアマネージャー 市場潤一氏

生活者はどうしてコンビニのコーヒーを美味しいと思うのか?カップ自販機コーヒーの再活性化を図る中、日本コカ・コーラはインテージと共に、これまで言語化が困難だった課題に対していくつかのイノベイティブな発見を導き出しました。このナレッジは、コカ・コーラ全社で高く評価されるとともに、ESOMAR Asia Pacific(*)におけるベストプレゼン賞受賞などの快挙を成し遂げました。

一連の取り組みについて、プロジェクトの中心人物である日本コカ・コーラの市場潤一氏にお話を伺いました。

(*) ESOMAR Asia Pacific グローバルの市場調査団体であるESOMARが主催するアジア・パシフィック地域でのリージョナル・カンファランス

日本コカ・コーラ株式会社
経営戦略本部ナレッジ&インサイツ
シニアマネージャー 市場潤一氏

カップ自販機の課題、インテージのソリューションとの出会い

まずはプロジェクトの背景にあった、御社のビジネス課題についてお聞かせください。

2013年頃に、大手コンビニによるカウンター販売方式のコーヒーが市場を席巻しました。またそれ以前からコンビニやスーパードラッグストアでのコーヒーの購入機会も年々増加していました。それらによって我々の既存ビジネスは大きく影響を受けました。その一つとしてカップ・コーヒーの再活性化が課題となりました。

カップ自販機のコーヒーは、煎れたてのレギュラー・コーヒーですよね。

コンビニ・コーヒーと同じように煎れたてです。ですが、コンビニ・コーヒーに負けているという以前に、生活者はカップ自販機というものに対してあまりいい印象を持っていないことが、売れない原因の一つだと思われました。正直にいうと、私自身も一消費者としてその感覚は理解できました。けれど「なぜ生活者はカップ自販機よりコンビニの方を美味しいと思うのか」という部分はわかるようでわからなかったのです。

わかっていても、 “なぜ”そうなのかは説明できなかったということですか。

そうですね。そこで調査をしようとしたのですが、そもそも何をどうやって調べるべきなのかがいまひとつわかりませんでした。いま思えば、多くの人が何となくそうだと思っていることって、うまく調べられないんですよね。「なぜカップ自販機で買わないのですか」と訊かれても、明確には答えられない。

たしかに、はっきりとした言葉を探すのは難しいように思えます。

そこで、このようにまだビジネスクエスチョンにもなっていなかった漠然とした疑問を、インテージの田中さんに相談しました。手法やプロセスについていくつもの提案をいただいたうちの1つが「高感度差異抽出法(SDM)」でした。(図表1)

図表1

活用してみて、どのように感じられましたか。

先ほども言いましたが、当たり前と思っていることって言葉にしにくいんです。多くのお客さんは何となく美味しそうだから買っているだけで、その理由を論理的にスラスラと言語化できるわけではありません。そこを、言語から入るのではなく、(カードを分類するという)直感的な行動から回答を引き出し、そこから無意識で曖昧模糊とした論理を読み解いていく……という手法は、なかなか素晴らしいと思いました。

SDMから読み解いた、生活者が無意識に感じる「美味しいコーヒー」の要素

そうですか。ではSDMから読み解いた、「美味しいコーヒー」の要素とはどのようなものだったのでしょう。

一番重要なことは、その場で煎れているとお客さんが“実感できる”ことでした。コーヒーを煎れているプロセスを見て、聞いて、香りを感じる。言い換えると、見えない箱の中から、ピーと鳴って出てくるのが、それまでのカップ自販機でした。そうするとお客さんは「中で何をやっているの?」というネガティブな気持ちを持ってしまう、ということにも気付きました。同じ意味で、マシンが“自販機っぽくない”ことも大切です。四角い自販機って、なんとなく工業製品が入っているような気がするんですね。その場で煎れていても、そう思われる。

それから、コーヒーを煎れるプロセスに自分も“参加する”ということも求められます。カップを自分で置く、氷を入れる、砂糖とミルクを入れるといった作業です。多分、これはコーヒーに限らず、例えば食品でも出来合いのものを買うよりも、途中まで出来ているところに自分で手を加えると、より美味しく感じられるのに近いのだと思います。そして最後のひとつは、カップ自販機の“サイズ”でした。大きすぎると胡散臭さや不信感などマイナスな想像に繋がってしまうんです。

その場で入れていると五感を通して“実感できる”こと、コーヒーを煎れるプロセスに自分も“参加”すること、マシンが“自販機っぽくない”こと、見えない箱の中で何をやっているのかというネガティブな気持ちを持たせないこと、という“美味しいコーヒー”を作る4つの要素がSDMによってわかりました。

非常に興味深いお話ですね。

私も初めて聞いたことばかりで、これは重要な発見だと感じました。モニターから出てきたたくさんの言葉をカテゴライズし、解答を導き出す実際の作業は、田中さんに進めてもらいました。

また、「美味しいコーヒー」を提供するための最適なカップ自販機の形・仕組みを調査するにあたっては、従来型の試作機に代わり、田中さんからバーチャルシェルフという、バーチャル技術を使って店頭の棚を再現する方法があると聞き、更にそれをアレンジしてもらって使用しました。(図表2)

図表2

これはバーチャルの試作機だと伺いましたが、どのようなメリットがあったのでしょう。

通常、自販機の試作機を作るためには何千万円という費用が必要ですし、時間もかかるため、いままでは絞りに絞り込んだ上で作っていました。しかし1/3程度の費用と制作期間で、従来の試作機を使った場合と同じようなクオリティの調査ができるようになりました。このことは大きな利点でした。より多くの試作機をテストできましたし、実際に新しいカップ自販機のアイデアの一部はここから得られました。

お話に出てきたインテージの田中は、このプロジェクトにずっと伴走を続けているのですか。

そうですね。このプロジェクトの立ち上げが2014年で、その最初から、もう3年弱お付き合いいただいています。プロジェクト自体は2年ほどで完結したのですが、その後も今度はESOMARでご協力をいただきました。

世界的に評価されたナレッジ、インテージとはイノベーションの萌芽を育てる関係に

ESOMARへの応募は、プロジェクトの成果が社内で高く評価されたことがきっかけで?

弊社のグローバルで毎年行われている、ナレッジや体験、経験をシェアする会があるのですが、今回のプロジェクトをラーニングの一つとして提出したところ、各国からの多くのラーニングの中で発表する機会が得られたものの一つになりました。

また併行して弊社はESOMARに毎年参加しているのですが、そこにも応募することになりました。とはいえ私一人では荷が重かったため、田中さんをはじめインテージさんの方々にもご協力いただきました。おかげでESOMAR Asia Pacificでベストプレゼン賞を受賞した後に、ESOMARが主催する世界最大のカンファランスのESOMAR Congressに登壇する機会にも恵まれました。たまたま今回のESOMARのテーマが「ディスカバリー(発見)」だったので、タイミングがよかったのかもしれません。

そして弊社グローバルシェアリング(Shared Learning)でも1位に選ばれることができました。

総ナメですね。“美味しいコーヒー”の要素とは、ある意味で普遍的なものですね。

このナレッジは、コーヒーに限らずいろいろなものに応用できるものだと思います。私たちは、生活者の“なぜ”を突き詰めることで、“根源的”な解答を導き出すことができました。これは課題に対し、対症療法ではない根治的な解決に繋がるものだと考えています。

新しいカップ自販機はシースルーであったり香りが出たり、五感を刺激する工夫が盛り込まれていますが、機能ひとつひとつに明確な意味があることがわかりました。

人間って感情で動きますし、コーヒーも最終的には感情で選ばれています。そうした人間の行動に対して無数の調査が行われており、インテージにはたくさんの経験・知見を持った方々がいらっしゃいます。今回のケースは、それが弊社のビジネスチャレンジとうまくかみ合って、いい仕事に結び付いた好例だと思います。

インテージへの希望などありましたらお聞かせください。

マーケティング調査については専門知識や経験がそれほどなくても、メーカーサイドでできることが徐々に増えています。けれど、今回のプロジェクトが成功できたのは、私たちだけではわからない専門的な領域で、インテージの協力があったおかげです。
どこの業界もそうでしょうが、飲料業界は変わり続けないとダメな業界です。止まっていてはどんどん追い抜かれるだけです。次に売れるものを探すためにも、インテージさんとはこれからも一緒にイノベーションの萌芽を発見し、育て、ビジネスクエスチョンを解き明かしていけたらいいなと思います。

日本コカ・コーラ株式会社市場氏と、
株式会社インテージ セールス・アナリスト/マネージャー 田中友紀(写真左)

ありがとうございました。

(2018年1月 日本コカ・コーラ本社内にて)

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