購買ビッグデータから見える顧客の買物志向~生活者視点の商品DNA活用~

小売業における顧客理解と商品DNA

どんなビジネス活動においても、活動の起点は「顧客」になります。経営の神様と称されるピーター・ドラッカーも「企業の目的と使命を定義するとき、出発点はひとつしかない。顧客である。顧客を満足させることが企業の使命であり、目的である。」 といい、現代マーケティングの第一人者フィリップ・コトラーも「マーケティングとは、利益に結びつく顧客を見出し、維持し、育てる科学であり、技能である。」と述べています。つまり、企業が顧客を深く理解し、良好な関係を構築・維持することがビジネスの成否を分ける重要なカギとなります。

昨年、ダイヤモンド・チェーンストア誌とダイヤモンド・ドラッグストア誌が主要な小売業40社(スーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンター)に対し「顧客のファンづくり」に関するアンケートを実施しました。その結果によると、小売業の83%が「顧客のファンへの育成」に対し、何らかの取り組みを行っており(図表1)、さらに、取り組みを行っている企業のうち78%は顧客との関係性を構築するため、購買データ活用の重要性を感じている(図表2)と回答しています。

【図表1】「ファン」や「ロイヤルカスタマー」づくりへの取り組みは?
出典:ダイヤモンド・ドラッグストア 

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【図表2】「ファン」「ロイヤルカスタマー」の購買データ分析は?
出典:ダイヤモンド・ドラッグストア 

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この結果からは、日本の人口減少や店舗数の飽和などを背景に、これまでの様に新規出店といった規模拡大による成長が見込めない時代において、限られた顧客のお財布のシェアを獲得するためには一層の顧客理解が必要だ、と小売業各社が感じていることがわかります。そうした背景からか、ドラッグストアは食料品、コンビニエンスストアは生鮮・惣菜、実店舗を持たないAmazonさえも生鮮の取扱を始めるなど、業態の垣根が低くなり、顧客獲得の競争が激化しています。この競争を生き抜くために、日々蓄積される顧客との接点情報である購買データを活用し、競合他社に先駆けて顧客との関係性を構築しようとする動きは当然の流れだといえます。

顧客と良好な関係を構築するには、顧客を理解し、異なるニーズを見抜く必要があります。では、どうすれば購買データ(特にID-POSデータ)から顧客を深く理解することができるでしょうか。
読者のみなさまの中にも、1度くらいはお店で他人の買い物カゴを覗いて、その人のヒトトナリを想像した経験を持っている方もいるのではないでしょうか。
買っているモノからヒトトナリを知る1つの例としてダンハンビー社と、イギリスの小売業テスコ社が行った取り組みがあります。それは、予め個々の商品に「健康」「低価格」といった特徴を付与し、顧客の購入履歴から買物志向を推測するというもので、「健康的な特徴を持つ商品を多く買う人は、健康志向の人である」という考え方を形にしています。商品に付与した特徴を人の遺伝子であるDNAに見立てて「商品DNA」と呼ぶこの取り組みは、いまや小売業に従事する人以外も耳にしたことがあるというほど一般化してきています。

商品DNA作成の2つのアプローチ

商品DNAの作成方法は大きく2つあります。
1つ目は、小売業が自社の目的や商品知識を用いて、商品1つ1つに特徴付けを行うという小売起点の方法で、ダンハンビー社などが採用しています。売れ筋の商品に対し、「健康に良い」「お買得」「調理を簡単にする」といった特性が該当する場合は「1」、該当しない場合は「0」を分析者や商品管理者が手作業で付与するというものです(図表3)。

【図表3】小売起点の商品DNA

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もう一つは、生活者へのアンケートを用いて付与する生活者起点の方法です。
まず、「健康に気を使っている」「コストパフォーマンスを重視している」「調理は面倒だと思う」といった買物に関連するライフスタイルのアンケートを事前に生活者に対して行います。その回答結果から生活者一人ひとりに、買物に関連する価値観・意識(買物価値観)をスコア化し付与します。次に、アンケートから明らかにした買物価値観を持つ人が各商品をどれだけ支持(購入)しているかを計算します。この支持の度合を商品の特徴として付与します。この場合は大小比較可能なスコアで表すことが可能です(図表4)。
またこの方法では、人の判断ではなく機械的に付与されるため、手間やブレを抑えてDNAを付与することができるという点がメリットとしてあります。

【図表4】生活者起点の商品DNA

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小売業起点の商品DNAは、先ほど述べたダンハンビー社の実例が様々なところで取り上げられて説明されていますが、生活者起点のDNAの実例はあまり見かけられません。ただ、その有用性については「流通情報」(2009)で中央大学の中村教授によって、“顧客の声を表現した商品マスターになっている"、"購買履歴データのみでは見えない、消費者のライフスタイル、価値観をキーとした新しい仮説を抽出することができ、より消費者の志向にフィットした売り場づくりに繋げられる可能性がある。”と述べられています。
そこでインテージでは、保有するリサーチパネルへのアンケート結果と購買ログデータ(SCI)を用いて「生活者起点の方法」で約30万の商品に対して商品DNAを実際に振ってみました。

DNA情報を商品に対して適切に振ることができていれば、顧客が買っている商品のDNA情報からその顧客の買い物志向がわかるはずです。
例えば、「簡便調理」というDNAが強い商品をよく買う顧客は、簡便調理志向が強くて、簡便調理に役立つ冷凍食品を多く買うはず。そこで過去1年間の実際の購買データを用いて簡便調理DNAが高い商品を多く買っていた人(上位20%)をヘビー購入者とし、その後3ヶ月の冷凍食品の購入額を集計してみたところ、あまり買っていなかった人たちと比べて1.4倍冷凍食品を購入していました(図表5)。

【図表5】簡便調理DNA商品ヘビー購入者の冷凍食品購入額
データ:SCI 集計期間:2016年9月~11月 業態:スーパーGenome5.png

もう一つ例を挙げます。「食通」というDNAが強い商品をよく買う顧客は食に対するこだわりが強く、お酒と合わせて食を楽しむ機会が多いことが想像されます。こちらも過去1年間の実際の購買データを用いて食通DNAが高い商品を多く買っていた人(上位20%)をヘビー購入者とし、その後3ヶ月のアルコール類の購入額を集計してみたところ、あまり買っていなかった人たちと比べて1.6倍アルコール類を購入していました(図表6)。

【図表6】食通DNA商品ヘビー購入者のアルコール類購入額
データ:SCI 集計期間:2016年9月~11月 業態:スーパーGenome6.png

このように、顧客が買っている商品のDNA情報からその顧客の買い物価値観を推定した時に「想像通りの買物行動を取っていた」ということから、生活者起点の方法で商品DNAが適切に付与できていたということが確認できます。

購買データからの顧客中心施策の可能性

では、この方法で振られた商品DNAはどのように活かせるのでしょう?
「この商品はどの商品DNAが強い」という商品のデータベースがあれば、小売業各社で蓄積しているID-POSなどの購買データベースに紐づけることで、『この顧客がこの商品DNAのものを好んで買うということは、このような買物価値観を持っているのではないか?』という形で顧客理解に繋がります。さらにその顧客理解を基に、『同じ商品DNAが強いこの商品も好むのではないか?』といった形で顧客に対して買物価値観を踏まえた商品提案をしたり、好みに合った施策を打ったりすることにも繋げられるのです。

以前は、ID-POSのような日々蓄積されるビッグデータを分析するには膨大な処理時間やインフラ整備のコストがかかり、誰でも容易に活用できるというものではありませんでした。しかし、近年AmazonやGoogleが提供しているクラウドサービスを中心に、膨大なデータに対しても複雑な処理や分析が低コストで実現可能になりました。また、スマートフォンの普及、マーケティングオートメーションの登場などにより、個々の顧客に対するアプローチが可能になり、容易にOne to Oneマーケティングを実施できる環境も整いました。

今の時代だからこそ、顧客理解のために購買データを最大限活用することが可能であり、膨大な情報処理によって機械的に振ることができる生活者視点の商品DNAは顧客理解のためにとても有効なツールであると考えられます。


今回の分析は、インテージの購買データ「SCI」(全国消費者パネル調査)の対象者(約5万人)に対して、生活者起点で作成した約30万商品に付与している80の商品DNAから「簡便調理」、「食通」という2つのDNAと、2015年9月~2016年8月(1年)の購買履歴(スーパーマーケットのみに限定)を用いて買物志向をスコアとして付与。その後3か月(2016年9月~2017年11月)の冷凍食品、アルコール類のスーパーマーケットにおける購買金額の集計を行いました。

参考文献:
・ピーター・F・ドラッカー(2001)『マネジメント[エッセンシャル版]: 基本と原則』(上田惇生訳),ダイヤモンド社
・フィリップ・コトラー(2000)『コトラーの戦略的マーケティング』(木村達也 訳),ダイヤモンド社
・「ファンづくりに関するアンケート実態調査」『ダイヤモンド・ドラッグストア』2016年6月号,p41-47ダイヤモンド・フリードマン社
・中村 博ほか(2009)「顧客視点の商品マスター(商品DNA)の可能性」『流通情報』2009年3月p22-p33,公益財団法人流通経済研究所 

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