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「未来のモビリティ社会実現」に真のサービスを。トヨタ自動車の生活者を「徹底的に見る」調査への挑戦
- マーケティングリサーチ
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| 取り組み内容:グローバルサウスでのお客様インタビュー・お宅訪問・車内行動観察調査により、生活者の真のニーズと車内での過ごし方を可視化 成果:関係部署から予想を上回る反応を獲得、製品戦略の見直しに直結する洞察を発見 |
自動車業界は「運転して移動するための車」から「移動空間としての最適な価値」へと提供価値を大きく変化させていく必要があります。その中で、トヨタ自動車は「未来のモビリティ社会実現」に会社全体で取り組んでいます。同社の調査部では、従来の定量調査中心から定性調査・観察調査へと手法を転換してきました。真に価値のあるサービスを提供するため、グローバルサウスでのお客様インタビュー・お宅訪問・車内動画による調査に踏み切った同社調査部。生活者の本質的なニーズを深く理解する取り組みについて同社の玉川室長と中島氏にお話を伺いました。

――まず、トヨタ自動車の調査部はどのようなチームなのでしょうか?役割や大事にしていることなどを教えてください。
トヨタ自動車・玉川室長 :調査部は、経営陣や本社各機能に対して、経済や政治環境の分析・自動車市場の予測、競合他社の戦略分析、お客様の商品志向や購買動向の分析等を幅広く実施・提供しています。
特に私たちが大事にしているのは、客観的な視点を提供することです。現地には現地の考えや得た情報があります。でも、もしかしたらその情報は偏っているかもしれない。現場の意見をないがしろにする必要はまったくありませんが、ニュートラルで客観的な情報が求められていると感じています。
私が一番印象に残っている仕事は、ヨーロッパで新しいモデルの導入検討に携わったことですね。現在の販売にもつながっているモデルなので、ヨーロッパにいくとあの活動は間違っていなかったと誇らしく思うこともあります。

――近年の自動車産業の変化を見ると、調査部の重要性が高まっているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
玉川氏 :おっしゃる通りです。これまでの自動車ビジネスは、言葉を狭く言ってしまえば4~5年の間隔でモデルチェンジを繰り返して改良していくことでした。ここについては弊社でも長年の「土地勘」のようなものがあります。しかし、「未来のモビリティ社会」では車が単なる移動手段から社会システムの一部、さらには「移動する個人のプライベート空間」のような存在になっていくでしょう。実際、自動運転などが進んでくるとそうなる未来が見えます。この時に、これまでの土俵で手に入れてきた情報だけでは足りない。つまり、未来に向けて弊社ではわからないことが圧倒的に増えているのが今だと思います。
従来の定量的な情報だけでは、仮説を立てるための情報すら不足しています。これからの車の未来を作っていくために、お客様視点に改めて立ち直すことは調査部の腕の見せ所だと思っています。
――これまでの調査手法では、対応できないという認識があったということですね。
玉川氏 :まさにそうですね。例えば、従来のアンケート調査では設問を用意すると「車の機能を重視して買う人が30%」のような数字が出てきます。しかし、機能といっても全く違った意味で解釈している可能性もあります。また、設問の中に適切な答えがない可能性もあります。
車が「プライベートな部屋」へと変わっていけば、生活者の方々が車選びで大事にすることは、今私たちが持っている選択肢や言葉では炙り出せない。どう過ごしたいのかで変わってきます。もしかしたら生活者の方でも表現できないかもしれない。じゃあもう、リアルを見て・聞いて・深く理解するしかないんです。調査手法をガラッと変える必要があると判断しました。そこで今回、グローバルサウスでのお客様インタビュー・お宅訪問に加え、車内動画による調査を行いました。
実際に、数年前までは定量調査が主だったんです。しかし、最近は定性調査が半分ほどの割合を占めるようになったと思います。今後も私たちが挑戦していることを考えれば、この傾向は続くと思います。グローバルサウスなどこれから理解を深めなければいけない地域はまだまだあり、調査をしてリアルな状況を届ける重要性は続くと思いますね。
――今回のインテージ、動画解析プラットフォーム「Label Note」での取り組みも、その定性調査の一環かと思います。具体的な取り組みを教えていただけますか?

玉川氏 :グローバルサウスの国々において、お客様や世の中の動きをしっかり捉えた上で仮説を立て、どういうアクションや車の装備を考えるかを決める必要がありました。
具体的には、お客様インタビューや家庭訪問に加え、実際に車内での生活者の行動を観察する調査を実施していきました。車内にカメラを設置し、日常的な車の使い方や過ごし方を詳細に記録し、分析するという手法です。これまでの定量調査やインタビューのような定性調査だけではわからないことがわかるのではと期待しました。
動画解析プラットフォーム「LabelNote」についてはこちら
――実際の観察で、どのような発見がありましたか。
中島氏 :グローバルサウスの国とひとくくりにはできず、国によって、また同乗者の有無によって車内における過ごし方が大きく異なるという発見がありました。ある国では車内のコミュニケーションが多く、家族や友人とずっと会話している一方、国によってはそれぞれがスマートフォンを見ている時間が多いなど、国や同乗者による違いがはっきり見えた部分でもありました。
また、車内の多機能な装備の中には実際にはそれほど使われないものもあることもわかりました。
便利だから、欲しいと言われたから、といろんな機能をつけてしまいがちですが、私たちが思った以上にそういった機能は限定的にしか使われていません。もちろん「あったら嬉しい」を積み重ねていくことも大切かと思いますが、もっとお客様に刺さるベネフィット、根幹的な価値を提供していきたいです。

――動画による調査ならではの発見だったように思えます。確かに車の中でもコミュニケーションを取りやすくいたいというのは従来の車の概念だと出てこなさそうです。
玉川氏: その通りです。当初、参加者がカメラを意識して自然な行動を見せてくれるのか心配していたところでした。それは杞憂でしたね。実際には化粧をしたり、非常にリラックスした様子の姿が記録されていました。本当の生活の一部を見ることができたと思います。
――かなり見応えのある映像がおさまっていそうです。調査結果は社内でどのような反響でしたか。
玉川氏 :関係部署からの反応は予想を大きく上回るものでした。こうした形で、生活者の本当にリアルな営みを見ることがこれまでできていなかったため、「こういうことなのか」と驚きの声が大きく聞かれましたね。これまで関係が濃くなかった部署までも関心を示してくれました。
社内での報告では、資料だけでなく実際の動画も見せながらレポートしました。「出張で街中を意識して見るだけでは、わからないことがわかってきた」とおっしゃっていただいたりしました。今回の調査では、実際に動画も見てもらえるので報告のしやすさもよかったですし、説得力が違うんだと思います。
――実際に、今回の目的である「新たな仮説を作る」ことへの影響はいかがでしたか。
玉川氏 :これまで前提としていた仮説や方向性について、改めて整理しなおしたり情報を付け加えてより精度を高めたいという声が関係部署から上がってきています。この反応は私たち調査部としては理想的な反応と言えます。
もしかしたら、調査結果を提供したところで「わかったわかった」で終わってしまい何の意思決定にもインパクトを残せないかもしれませんからね。今回は摩擦なく、結果を受け入れて検討の材料として活用してもらっています。お客様の実態の解像度が低かった中で、フィクションも誰かの意志も入っていないリアルな情報を動画というフォーマットで提供できたことは大きかったと思います。
――ありがとうございます。御社にとって動画を利用したリアルな生活者理解を進めるための調査をご一緒できて光栄に思います。インテージに対して当初期待していたことはなんですか?
玉川氏 :やっぱりまずはクオリティを担保した調査を実施していただくことでした。そのためには調査対象の人数を用意していただくことと、コンプライアンスや安全性の担保は絶対条件でした。車内のプライベートな空間を撮影するわけですから、何かある可能性もあります。
中島氏 :調査対象のリクルーティングも難しかったと思います。グローバルサウスの中で、さらに車種や使用頻度なども細かく条件を設定して、全体の設計を行っていただきました。インテージ様には現地法人があり、協力いただいてしっかり対応いただいた認識です。
中島氏 :また、インテージ様は他の業界も含めた調査のノウハウを持っているかと思います。私たちも違う業界の事例や調査手法を参考にしていきたいのでそこの部分では頼っていきたいですね。自動車業界とくくってしまい、他は関係ないと思ってしまうと、今回のように業界の変化に対応できなくなってしまいます。生活者を知るためにどんなことができるのか、アンテナを広げておく責任があると思います。
――御社として転換点にどう取り組んでいきたいのかがよくわかりました。御社ほどの会社がこれまでの知見に固執するわけでなく、「わからないことを認める」ことに感銘を受けました。
玉川氏 :そうですね。実は、この数年で社内の文化も変わってきており、お客様視点の重要性についてより真摯に受け止める環境が強まったと感じています。
これは様々な課題を会社で乗り越えていく中で、改めてお客様視点を見失ってはいけないという共通の学びがあるからだと思います。これからも確実に不確実性の高い世界、業界の状況が続くと思います。そうした中で、私たちが知らない領域について企画を立てることも増えていくでしょう。会社がどんどんチャレンジできるよう、生活者のリアルな状況を届ける重要性はますます高まると考えています。お客様視点を見失わないような文化を浸透していくのも調査部のできることかもしれません。
長年調査の仕事をやってきましたが、成功事例を振り返ると、必ずお客様をしっかりと見ていたということが共通しています。原点に常に立ち戻って、必ずお客様をみていく。今回のような調査手法により、生活者起点のリサーチを実践し、真に価値のある製品・サービスを提供していく。それが私たちの使命ですね。
私たち調査部にとっては社内の関係部署はお客様でもあります。どういった情報を求めているのか、彼らがより仕事をしやすくするためにサポートはできないのかなどを突き詰めて考えていかないといけないというのは今回のプロジェクトで改めて考えさせられました。
――本日はありがとうございました。

※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがあります。ご了承ください。
この事例について、
ご興味のある方はお気軽にご相談ください
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業界
自動車
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お客様
トヨタ自動車株式会社
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ご担当者様
トヨタ自動車株式会社 調査部 企画調査室長 玉川 圭治氏
1992年トヨタ自動車入社。
入社以降は経理部、調査部、欧州統括会社への出向を経て
現在は調査部で会社の戦略・企画に資する情報収集・分析業務を担当
トヨタ自動車株式会社 調査部 企画調査室 第1戦略グループ グループ長 中島 一人氏
電機メーカーを経て2022年トヨタ自動車に入社。
現在はグローバルでのお客様の商品志向や購買動向の分析、競合他社の戦略分析等の調査を推進。