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社会的課題に定性調査でアプローチ。対象者の実態を炙り出し、新たな洞察を生む

社会的課題に定性調査でアプローチ。対象者の実態を炙り出し、新たな洞察を生む
  • マーケティングリサーチ

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取り組み内容:ふるさと納税利用者への定性インタビュー調査により、消費者の動機の実態を可視化
成果:仮説を支持する結果とはならず、今後の研究の方向性を転換。

マーケティング研究において、消費者と社会の関係、特に社会的課題解決にむけた消費者の関わり方を探求する研究者がいます。 武蔵大学でマーケティングを研究する大平教授は、整理収納アドバイザーから、ふるさと納税、応援消費など幅広いテーマで消費者行動を研究しています。日本の学術界で、この領域は定量調査が主流となっているが、同氏は定性と定量を組み合わせた「混合研究法」を実践している数少ない研究者です。インテージと実施したふるさと納税に関する定性調査を行った経緯で、消費者の本音と定性調査の可能性について、大平氏にお話しを伺いました。

左からインテージ 坪井、武蔵大学 大平氏

――まず、研究テーマについて簡単にお聞かせください。

大平氏 :私は広く、マーケティングの分野で消費者と社会との関係、特に社会的課題の解決にマーケティングがどう関わるのか、消費者がどのように社会的課題の解決を図っているのかということを中心に研究しております。

その一つが意外にも、整理収納に関する研究になります。先日も実はアメリカで研究報告をしてきたのですが、整理収納アドバイザーの方たちが「なぜ整理収納アドバイザーになるのか」という動機に関する研究についてインタビュー調査を中心に行っていました。日本だとあまり興味を持ってもらえないかもしれないですが、海外だと好意的な反応が多くて楽しかったですね。

もう一つの研究がふるさと納税であったり、応援消費に関する研究で、こちらは消費を通じて社会的な課題をどのように解決しているのかということを研究しています。もともとエシカル消費を研究していましたが、この概念の枠もどんどん広がってきて、今では応援消費や「推し活」まで含めた広い領域を対象にしています。

武蔵大学 経済学部 経営学科 博士(商学) 教授 大平 修司氏

――日本の事例を海外でも積極的に発表しているのですか?

はい、先日も1,500人くらいが集まるアメリカの学会で報告をしてきました。海外だとこの領域でも定性調査をする研究者が結構多いんですよ。私の定性調査を入れた研究も、海の向こうで「興味深い研究だ」と反応いただくことも多くて、日本の状況との違いを感じますね。

――今回インテージにご依頼いただいた、ふるさと納税の研究について詳しく教えてください。

ふるさと納税をやっている人の中に、利他的動機、つまり経済的な返礼品どうこうではなくて、「地域を応援するためにふるさと納税を使う」という人たちがどれだけいて、どんな人たちなのか、今後ふるさと納税の効果を増やすためにはどうすればいいのかを研究しようと思っていました。

調査に先立ち、ふるさと納税を通じて地域ブランドを構築している7つほどの自治体にインタビューを行いました。その中で、例えば岩手県の西和賀町はとても興味深かったです。人口6,000人ほどの町で、武蔵大学と同じくらいの人口なんですが「ユキノチカラ」というプロジェクトをやっていて地域ブランディングに成功しています。「雪」というマイナスのものをプラスに変え、新鮮な食べ物の情報を発信しています。ふるさと納税でもこのブランディングによって売り上げを伸ばしているんです。

このように自治体側はストーリーやブランディングを使って努力しているけれど、「果たして消費者はどこまで見ているのか」という疑問もありました。そこで、実際に消費者はどういう動機でふるさと納税をしているのかを、インテージさんにお願いして一緒に調査することにしたんです。

――当初は、利他的な動機を持つ消費者が一定数いるという仮説をお持ちだったのですね。

ええ。これまで私たちの研究グループの個人のネットワークで話を聞くと、そういう人がちらほらいたんですよ。だから、「もっと広く調査をとったら結構いるんじゃないのか」と思って調査をお願いした、という背景がありましたね。

ふるさと納税は、当時総務大臣だった菅義偉氏(秋田県出身) の発案で2008年に始まった制度。「自分はもう東京とかに出ちゃってるけど、なんとかして自分の地元に貢献したい」という思いから生まれた。しかし、現在は返礼品競争が過熱し、お得なショッピングという側面が強まるなど、制度の本来の趣旨とは異なる方向に進んでいるとの指摘もある。

――マーケティング研究などの分野、特に日本の研究現場では、定性調査はあまり行われていないと伺いました。

日本のマーケティングとか消費者行動研究者は、定量分析がほとんどですね。私も論文の査読をやっているんですが、定性分析での論文はほとんど見たことがないですね。なぜかはわからないんですが、なかなか論文として評価されにくいのかもしれませんね。

海外だと定性調査する人は結構多いんです。アメリカの学会では評価されますが、日本で整理収納とか片付けの話をしても、聴衆の反応は海外に比べて良いとは言えませんでした(笑)

――それでも定性調査が必要だと考えられるのはなぜでしょうか。

定量調査、つまりアンケートで点数をつけてもらったりして統計分析するのが一般的なんですが、それだと大きな発見ってないんじゃないかと思っていて。仮説をどうモデルで検証していくのかという話に留まってしまうことも少なくありません。

若い頃は定量調査もやっていましたが、だんだん面白みを感じなくなってしまって(笑)もう10年くらい前から、定性調査で発見したことを海外で報告していく形に移っていますね。

僕の研究スタイルは、量的研究と質的研究を組み合わせる「ミックスド・メソッド(混合研究法)」なんです。定性調査で仮説を構築したり、「なぜ」の深掘りを行い、量でどの程度かを理解する形です。

――インテージにはどの様な経緯で依頼されたのですか?

以前からお世話になっていた方に相談すると「インテージも定性調査をしっかりやれるよ」と言っていただき依頼させていただきました。

株式会社インテージ マーケティングパートナー第2本部 企画営業5部 坪井 寛太

――実際のふるさと納税に関する調査はどのように進められ、結果はいかがでしたか。

まず1,000人規模でスクリーニングアンケートを行い、そこから該当者10名にインタビューしました。結果は、ほとんどいなかったです。1,000人のうち、本当に利他的動機でふるさと納税を利用しているのは3名くらいでしょうか。「ふるさとが頑張っている様子を見て知り、応援したい」とおっしゃる方もいましたが、ごく少数でした。

この結果は、ある意味で「残念な結果」でしたが、大きな発見でもあると思います。日本に寄付文化が根付いているのかというと、ふるさと納税の観点から見ればほぼ根付いていないのが現状だとわかりましたから。

インタビュー調査を調査会社に依頼して行ってもらうのは、 今回が5回目でした。インテージのスクリーニングアンケートのモニターの方々にはしっかりと解答して頂け、モニターの質の高さを伺い知りました。また実際のインタビュー調査でも、どの方も個性があり、真摯に質問に答えてくれる方が多く、調査を依頼した者としては心強く感じました。

――今回の調査結果を受けて、今後の研究はどう展開されますか。

ふるさと納税の利用者は1,000万人ぐらいで、母集団が限られています。しかし、「応援消費」という括りに広げると、対象者はたくさんいると思うんです。今後はそっちの方向で、来年またインテージさんにインタビューとか定性・定量調査をお願いしようかなと思っています。

「誰かのために」という動機は、社会的課題解決のためだけではありません。「人を応援する」というのも十分、社会との結びつきですよね。「推し活」まで含めて、そういう実践をする人の動機を研究で進めていきたいなと考えております。

――研究の視野がさらに広がっていくのですね。

広がっていきますし、どんどんニッチになっているような…(笑)実は整理収納の研究も消費における「使う」プロセスの一部としての研究なんです。きっかけは子どもが散らかしたものを片付けるところから興味を持ちましたね。

日本だと、整理収納は一つの産業としてあるじゃないですか。テレビにも出たり、書店の本棚にコーナーがあったり、整理収納フェスティバルが開催されたり。でも海外だとそうじゃないところもある。そういう日本独特の文化を、欧米の理論に落とし込みながら新しい概念や発見を研究していくのは最近の活動で心掛けていることです。前例・事例がないことが多くて調査結果もないですから、今後も定量・定性ともに最適に組み合わせて研究していきたいと思います。

――本日はありがとうございました。

※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがあります。ご了承ください。

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  1. 業界

    学校・教育

  2. お客様

    武蔵大学

  3. ご担当者様

    大平 修司氏/武蔵大学 経済学部 経営学科 博士(商学) 教授
    一橋大学大学院商学研究科博士後期課程終了。
    諏訪東京理科大学経営情報学部,千葉商科大学商経学部を経て,2022年より現職。
    日本商品学会副会長,企業と社会フォーラム理事,日本商業学会『JSMDレビュー』編集委員。
    主な著書に『消費者と社会的課題:ソーシャル・コンシューマーとしての社会的責任』(千倉書房),『ソーシャル・イノベーションの創出と普及』(NTT出版)。

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