マーケティング用語集
マーケティングリサーチ
企業のあらゆるマーケティング課題に対して、有効な意思決定をサポートするための科学的な調査・分析のこと。
企業のマーケティング活動においては、以下のようなさまざまなマーケティング課題が発生する。
- 自社の商品やサービスは、どんな人をターゲットとすべきなのか?
- 自社の商品やサービスは、利用者に満足されているのか?
- 新商品の価格はいくらにすべきなのか?
- 自社商品と競合商品ではブランドイメージはどう違うのか?
- 実施したキャンペーンやイベントの効果はどの程度あったのか?
このようにマーケティング課題は、およそ企業の事業活動全体に及ぶといっても過言ではなく、それらを解決する手助けとなるマーケティングリサーチは企業にとって非常に重要なものであると言える。
マーケティングリサーチを生活者側の視点で見ると、生活者はマーケティングリサーチを通して自らの声を企業に届けることになる。それによって生活者は、よい商品やサービスを享受し、さらには生活をより良いものにする、ということに繋がる。すなわち、マーケティングリサーチは企業のマーケティング課題を解決するための手段にどどまらず、企業と生活者をつなぐ架け橋でもある。
ここでは、主なマーケティングリサーチの手法から、マーケティングリサーチの企画~調査票作成・実査~分析の流れとポイントを解説。
パネル調査とアドホック調査
マーケティングリサーチは、調査の継続性によって以下の2つに分類できる。
◆パネル調査(継続調査、定点調査)
同じ調査対象者から、同じ項目の情報(データ)を継続的に収集する調査を「パネル調査」という。パネルとは「枠」を意味し、パネル調査は、母集団(調査対象の条件にあてはまるすべての個人や世帯などの集まり)から抽出したサンプルを「枠」に入れるかのように固定し、同じ情報を収集し続けることを意味する。
代表的なパネル調査には、以下が挙げられる。
<消費者パネル調査>
同じ調査対象者(消費者)にバーコードスキャナーを貸与し、購入した商品を記録し続けてもらう調査。「いつ」「どこで」「だれが」「何を」「いくらで」「いくつ」買ったのかといったデータを収集・分析することで、消費者の購買行動を詳細に捉え、消費者ニーズ分析やセグメンテーション、施策実施後の評価などに活用することができる。
また、上記の消費者パネルと同じ調査対象者から、テレビやWEBなどのメディア接触記録を収集することで、メディア接触と購買の関係性を明らかにすることも可能となっている。
関連サービス:SCI®(全国消費者パネル調査)
<小売店パネル調査>
同じ調査対象店舗からPOSデータ(商品の販売データ)を収集し続ける調査。「いつ」「どこで」「どのような店舗(業態)で」「何が」「いくらで」販売されたのかといったデータを収集・分析することで、店頭での販売実態を捉え、市場規模やシェア動向の監査や、店頭プロモーションの施策立案などに活用することができる。
関連サービス:SRI+®(全国小売店パネル調査)
◆アドホック調査(カスタム調査、単発調査)
マーケティング課題に応じて、調査対象者、聴取内容などの調査設計を都度カスタマイズして行う調査を「アドホック調査」という。パネル調査がどちらかというと生活者の「行動」を捉えるのに対し、アドホック調査は、パネル調査では捉えきれない生活者の「意識」を捉える目的で行われる。
定量調査と定性調査
アドホック調査はさらに、収集・分析するデータの種類によって、「定量調査」と「定性調査」に分類される。
○定量調査
「量(金額や数量など)」や「割合(パーセンテージ)」のように数字で表現されるデータを「定量データ」といい、これを収集・分析する調査を「定量調査」という。主に、市場実態を把握すること、仮説を検証することを目的に行われ、例えば商品開発のプロセスにおいては、カテゴリーユーザーの実態把握、商品コンセプトのアイデアスクリーニング、価格の妥当性、パッケージの評価など、あらゆるステップで実施される。
「定量データ」は、一般的にはアンケート調査によって収集され、広い地域から多くのデータを得ることが可能。
○定性調査
定量データのように数値化できないデータを「定性データ」といい、これを収集・分析する調査を「定性調査」という。主に、「どう感じたのか?」や「なぜそのような行動をとるのか?」など、定量調査では見えにくい、生活者の心の動きや、行動の理由を探ることを目的に行われる。
「定性データ」は、調査対象者とインタビュアーの1対1で行われるデプスインタビューや、複数の調査対象者が参加して行われるグループインタビューによって収集される。調査対象者の生の声で本音が聞きやすく、企業の担当者が想定していなかった新しい発見や、調査対象者自身も自覚していなかった深層心理が発見できることもある。
主なマーケティングリサーチの手法
次に、具体的なマーケティングリサーチの手法について、代表的なものを解説していく。
<定量調査>
○インターネット調査
調査対象者にインターネット上の調査フォームで回答してもらうアンケート調査。コストが安く、短期間で調査が完了し、比較的手軽に実施できるメリットがある。
関連サービス:ネットリサーチ(オンラインアンケート調査)
○郵送調査
調査票を調査対象者に郵送し、回答記入して返送してもらう形式のアンケート調査。インターネットの普及率が比較的低い高齢層を含め、幅広い属性の人からデータを集めることができる。
関連サービス:郵送調査
○訪問調査
調査員がアンケート用紙を持参して調査対象者の自宅を訪問して行うアンケート調査。訪問調査には、調査員がその場で質問して回答を記入する「面接法」と、一定期間後にあらためて訪問し、調査対象者自身が記入した調査票を回収する「留置き法」がある。
○会場テスト(CLT)
クライアント企業内や外部会議室など、事前に準備された会場に調査対象者を集めて行うアンケート調査。商品の試用条件(調味料であれば、どのくらいの量をかけるか、など)をコントロールした環境で評価をしてもらうことが可能なため、新商品の評価などに利用される。また、放映前の広告クリエイティブの評価など、秘匿性の高いものを扱う場合にも利用される。
関連サービス:会場調査(CLT)
○ホームユーステスト(HUT)
試用品を調査対象者に送付し、一定期間試用してもらった後に、使用感や感想などをアンケートで回答してもらう調査。日用雑貨など、実際に普段の生活で使用する環境で試用・評価してもらうことが可能。
関連サービス:ホーム・ユース・テスト(HUT)
<定性調査>
○デプスインタビュー
インタビュアーと調査対象者が1対1でインタビューを行う調査。調査対象者の心を開き、個人的な体験や心の内を深く聞き込む場合に向いている。
関連サービス:デプスインタビュー
○グループインタビュー(FGI)
数人の調査対象者を集め、座談会形式でインタビューを行う調査です。参加者同士が会話の中で刺激し合うこと(この相互作用を「グループ・ダイナミクス」といいます)で発想を広げたり、議論を深めたりすることが可能。
関連サービス:フォーカス・グループインタビュー(FGI)
マーケティングリサーチの流れ
通常、マーケティングリサーチは、大きく以下のような流れで進められる。
企画 > 調査票作成・実査 > 分析
1)企画
「企画」では、まず、マーケティング課題を抽出することから始まる。
マーケティングリサーチの役割は「マーケティング課題を解決するための意思決定をサポートする」こと。そのため、リサーチを行うことでどのようなマーケティング課題を解決したいのかを明確にすることがファーストステップとなる。
マーケティング課題を明確にすることができたら、次に仮説を構築する。以下はその例。ここで構築した仮説によって、調査項目や得られる調査結果、その後のアクション可否が変わってくる。漠然としたものになっていないか、偏ったものになっていないか、漏れやダブりがないか、注意して仮説を整理。
調査前に「仮説」を構築しておく
例:「リニューアルが失敗した」場合、どのように仮説を立てるか
仮説
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調査項目
|
調査結果
|
---|---|---|
今回のリニューアルの失敗の原因は、CMが原因ではないだろうか
→△漠然としてる |
CM認知度
CM想起内容 CM好意度 |
認知度は高い
タレントは想起されている CMの評価もまずまず →△なのになぜ |
今回のリニューアルの失敗の原因は、CMで起用したタレントに勢いがないからではないだろうか
→△偏っている |
CMで起用したタレント評価
あわせてCM評価 |
タレントの好意度は高い
CMの好意度も高い →△なぜ失敗したのだろう? |
今回のリニューアルの失敗の原因は、CMのトーンがブランドイメージと一致しなかったからではないか
|
CMのトーン・イメージ評価
ブランドイメージ評価 |
現有のブランドイメージが |
仮説の構築ができたら、調査企画を検討します。以下の3つが調査企画のポイントとなりる。
「調査設計」をする際の3つのポイント
マーケティング課題を設定し、仮説を整理したら、以下の3つをセットで検討する。
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1
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どうやって
(調査手法) |
必要な情報はどのような性質か
|
2
|
誰に
(対象者の条件) |
誰に聞くべきか
|
3
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何を
(調査項目/調査票) |
必要な情報は具体的に何か、何を聞きたいか
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調査手法
前述したとおり、マーケティングリサーチには様々な手法があるので、それらの中から適切な手法を選択。調査手法は、必ずしも一つを選択しなければいけないわけではありません。場合によっては、定性調査と定量調査を組み合わせたり、またパネル調査とアドホック調査を組み合わせたりすることも検討。
「定量&定性」どう組み合わせて使うか?
「パネル調査」と、「アドホック調査」をどう組み合わせて使うか?
対象者の条件
対象者の条件は、あいまいなものは避け、できるだけ具体的に設定する必要がある。以下はその例。例えば「ビール飲用者」と一言で言っても、「ビール」にはどの種類が含まれるのか(発泡酒、新ジャンルは含まれるのか)?自宅で飲む人を対象にするのか、自宅外で飲む人を対象にするのか?どのくらいの頻度で飲む人を対象にするのか?など、細かな条件によって対象者が異る。調査の目的と照らし合わせ、適切な条件を設定する。
「対象者条件」を決める場合の注意点
▽対象者条件は、具体的に
×
|
○
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---|---|
ビールをよく飲む人
|
ビール(発泡酒・新ジャンルを含む)を
自宅で、週3回以上飲む人 |
自動車メーカーAのユーザー
|
自動車メーカーAのXXという車種を、
2015年以降に新車で買って、乗っている人 |
対象者の条件とあわせて、サンプルサイズ(データを何人から収集するのか)も検討する。定量調査において、母集団を反映しデータの精度を高めるためには、サンプルサイズは多いに越したことはありませんが、サンプルサイズが大きいほど調査の費用もかかってしまう。そのため、分析に必要なサンプルサイズ(想定している分析軸があれば、各層のサンプルサイズが十分か)を考慮し、費用とのバランスを見ながら決める必要がある。
調査項目 ※定量調査を例に紹介
調査によって把握したいことを調査項目に落とし込む。以下はその例。調査項目は、調査の目的を達成するために抜け漏れなく洗い出さなければいけませんが、調査項目が多すぎると調査対象者の回答負荷を高めてしまい、結果として回答精度の低下につながる。とりあえず聞いておく、は避け、必要な調査項目に絞り込んだ過不足のない調査項目を作る。
2)調査票作成・実査
調査項目が決まったら、設問の順番を検討し、調査票を作成する。設問の順番を検討する際には、以下のことを考慮。
① 回答者が答えやすい構成にすること
ex.比較的回答しやすい設問から聴取する、関連する項目はまとめて聴取する
② 回答者の思考を妨げない構成にすること
ex.過去→現在→未来の順で聴取する、大きなこと→小さなことの順(例…カテゴリ→ブランド)で聴取する
③ バイアスを避ける構成にすること
ex.純粋想起の設問の前に銘柄に関する情報を出さない
3)分析
企画時に定めていた目的を達成するために、収集したデータを分析する。分析の方法は、単純集計やクロス集計といった基本的なものや、複数の変数を統計的に扱う多変量解析など多岐に渡り、何を明らかにしたいのかによって、適切な分析手法を選択。冒頭で紹介したように、マーケティングにおける意思決定をサポートすることがマーケティングリサーチの役割となる。そのため、分析・報告においては、いかに結果を正しく伝えるかも重要なポイントとなる。
市場規模は約2350億円
マーケティングリサーチは近年、注目度と重要度を増している。それは、ビジネスの世界で「エビデンス」や「ソース」、つまりリサーチ結果に基づいた意思決定が重視されるようになったことが背景にある。
事実、マーケティングリサーチの市場規模は、低成長時代にあっても着実に伸びている。マーケティングリサーチの業界団体である「一般社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会」発表の日本の市場調査業界推計を見てみると、2020年はコロナ禍で減少したもののほぼ毎年増加しており、2021年度では2,350億円まで伸びている。